雇調金の不正受給が発覚する理由とは?

2021.08.13

助成金の不正受給の発覚

経営が苦しいとき、従業員の休業手当などを補填してくれるのが雇用調整助成金(雇調金)です。

しかしこの雇調金の制度を悪用した不正受給が問題となっています。中には悪質な業者にだまされ、知らないうちに不正に加担してしまったケースもあるのです。

この記事では、不正受給の具体的なケースや発覚経路、不正受給に巻き込まれないための対策について紹介します。

雇調金の不正受給とは

不正受給とはどんなものか

不正受給とは「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けまたは受けようとすること」を指します。

ポイントは、助成金を受け取る前でも不正受給になりうるということです。申請した段階で事実と異なる申告などの不正がわかれば、その時点で不正受給と見なされてしまいます。

具体的な不正の内容は「書類を偽造した」「報告すべき事実を隠した」などさまざまです。まずは典型的なパターンを3つ、見ていきましょう。

なお、この記事で紹介している例は、特定の事業所をモデルとしたものではありません。

①本当は働いていた期間を「休業」と申請

不正受給1つ目の例

まず紹介するのは、本当は働いている従業員を「休業中」と偽って申請したケースです。

【不正受給の例 その1】

社員全員を休業させた状態で雇調金を申請した。その後業務を再開し、ほとんどの社員が業務を再開。しかし、いまだに社員全員が休業していると偽って雇調金を受給し続けた。

上記のケースでは、休業している従業員数に変更があったことを隠して、助成金を多く受給しています。休業人数の水増しはれっきとした不正であり、悪質なケースでは刑事告発もあり得ます。

雇調金を申請するときは実態を正しく把握し、事実を申告してください。内容に変更があって申請方法に疑問点が生じた場合には、労働局に問い合わせる、専門家に相談するといった対処をしましょう。

②グループ会社の店に転籍した従業員を「休業」として申請

不正受給2つ目の例

退職した社員を「休業」と偽って届け出たケースもあります。

【不正受給の例 その2】

ある社員をグループ会社に転籍出向(自社を退職した上で別の会社に移籍)させた。しかしその転籍を労働局に報告せず、自社の社員が休業していると偽って雇調金を受給した。

このケースでは、雇調金の対象にならない「従業員でない人物」を休業中の従業員として報告しています。不正受給の事例には、退職した社員や実在しない社員の名前を使って休業手当を申告するケースも多いのです。

今回紹介したケースは明らかな虚偽申告ですが、実際に在籍している従業員が雇調金の対象外となる場合もあります。意図せず不正申告してしまうことにならないよう、事前に確認しておきましょう。

次のような人は雇調金の対象となりません。

  • 退職予定者
  • 日雇労働被保険者
  • 労働の意思がない人
  • 労働できない状態の人

労働の意思がない人とは、ストライキや有休などで仕事を休んだ人や、感染症予防のワクチン接種のために休みを取った人などのことです。

労働できない状態の人とは、感染症にかかった人や病気で休職している人などを指します。

ちなみに退職予定者については、解雇予告された日や退職願を提出した日までは対象になります。また、退職の翌日から別の安定した職業に就職が決定している者も対象になります。

③派遣先で仕事中の従業員を「休業」と申請

不正受給3つ目の例

最後に紹介するのは、取引先に派遣中の従業員を「休業中」と偽ったケースです。

【不正受給の例 その3】

従業員を請負先の会社に派遣して業務をさせていた。従業員が派遣先で通常通り仕事をしているにもかかわらず、「休業中」と偽って雇調金を受給申請した。

自社のシステムエンジニアなどを別の会社に派遣する会社もあるでしょう。しかし、自社にいないからといって休業扱いにすれば、それは虚偽の申告であり、不正受給となってしまいます。

派遣中の従業員を利用した虚偽申告は、実はコロナ禍の前から報告されていました。特に派遣型の情報通信業・サービス業では請負先に社員が出向いて仕事をすることが多く、業務の実態が見えにくいことから悪用されているようです。

たとえ自社に出勤していなくとも、取引先への聴取や電話・メールの履歴から不正が発覚することもあります。「ばれないだろう」と安易に考えず、正しい実態を報告することが大切です。

不正受給が発覚する理由とは

不正がばれるルートは労働局による調査だけではありません。社員や退職者、取引先への聴取から発覚するケースも多く、どのような手段で不正を行ったとしても発覚するリスクは伴います。

ここからは、不正受給がどのような経緯で明るみに出るのか、その経緯を詳しく見ていきましょう。

1.労働局からのアポなし訪問

労働局のアポなし訪問

助成金の申請に不正がないか、労働局の職員が抜き打ちで調査に来ることがあります。出勤簿や給与の支払履歴などはもちろん、オフィスの解錠時間やメールの履歴・従業員用の弁当注文数に至るまで、あらゆる情報がチェックされます。

特に令和2年以降はコロナ禍の特例を悪用した不正が多数報告されているため、調査の目はより厳しくなっています。少しでも矛盾した点が見つかれば、追究は免れないでしょう。

雇調金の支給要件として、事業主には労働局からの調査に協力すべきことが義務付けられています。調への全面協力は法律で決まっており、調査を拒んだ場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられることもあります。厳罰を受けるリスクを負ってまで不正を行うメリットはありません。

2.従業員に直接アンケートや電話が来る

労働局によるアンケート調査

労働局から電話やアンケートで調査が入ることもあります。会社(事業主など)を通さず従業員に直接質問が来ることもあり、事前に口止めしたり口裏を合わせたりすることは難しいでしょう。

電話のほか、郵送や口頭によるヒアリングも行われており、そこから不正の摘発に繋がった事例も報告されています。

3.従業員からの内部告発

従業員による内部告発

全国の労働局では、不正受給に関する窓口を設けており、広くメールや郵送による情報提供を求めています。こうした窓口への通報もまた、主な発覚理由のひとつです。

通報者は不正を行っている会社の従業員だけでなく、元社員や取引先などの場合もあります。不正受給をすれば、身内からも不信感を買うものです。従業員に信用されなくなれば、今後の経営にも支障が出かねません。「うちの社員は誰も何も言わないだろう」と楽観的に考えるのも危険です。

4.不正受給の主導者が別件で逮捕された

別件での不正受給逮捕者

不正受給の事例には、コンサルタントなどの外部業者が不正受給を主導するケースも数多くあります。その業者が別の会社の件で逮捕され、捜査中に別の不正が発覚することもあるのです。

悪質な業者にそそのかされた事業主のほとんどは、自身が不正をしたという認識がありません。「専門家の言うとおりにしただけ」「たくさんお金がもらえると言われただけで、悪意はなかった」と言う人ばかりです。

しかし、たとえ人にだまされて不正受給した場合でも、その罰を受けるのは事業主自身です。知らないうちに不正受給をしないために、ある程度は自身で情報収集をする・複数の業者に相談するなどして、適正な手続きを踏むことを心がけましょう。

5.別の助成金の提出書類との食い違い

資料の食い違いを指摘する人

雇調金以外にも助成金を申請していた場合、その添付書類から不正が発覚することがあります。

例えば、ある会社が別の助成金を受給するために労働局に出勤簿などを提出したとしましょう。その後、雇調金も申請しようと再び出勤簿を提出したけれども、実はその出勤簿の内容が食い違っていることが発覚した、というようなケースです。休業水増しなどの不正を疑われ、より詳しく調査が入ることになります。

例では出勤簿ですが、社員名簿や給与規則など、複数の書類を総合的に見て不正が発覚することもあります。不正をすると必ず帳簿の数字が食い違うため、ばれないように隠ぺいすることは不可能でしょう。

不正受給をしてしまうとどうなるか?

不正受給者の未来

助成金の申請中に不正受給をしようとしていたことが発覚した場合、お金を受け取っていなくても「不正受給」と見なされます。

受給後に不正が発覚した場合には、次のようなペナルティが科されます。

  • 助成金の返還と延滞金・追徴金の支払い
  • 事業主名などの公表
  • 5年間の助成金支給停止
  • 逮捕・有罪判決の可能性

受給した助成金全額の返還はもちろん、不支給決定の翌日から返還金の納付までを年5%の割合で算出した延滞金の支払いが必要となります。

また、返還すべき額の20%相当も合わせて請求されることになるのです。

事業主名などが公表されれば、企業の信頼性も失墜します。今後5年間の助成金受給も許されず、不正受給にメリットはありません。

不正受給をしないための対策について

不正受給の防止対策

不正受給は、何らかの経緯で遅かれ早かれ明らかになるものです。会計帳簿の食い違いや従業員の不信感などによって組織の運営に綻びが生じるからです。たとえすぐに発覚しなくとも、ニュースなどで不正受給の話題が出るたびに心配し、神経をすり減らすことになるかもしれません。

不正受給が発覚し、罰金や社名公開などのペナルティを受ければ、信頼性の失墜は避けられません。取引先との信頼関係が崩れれば、事業の存続も危うくなるでしょう。特に次の2点には気を付けてください。

「みんなやっているから」は×

魔の手

中には、悪質な業者から嘘の補助金申請をそそのかされるケースもあります。その際、「ほかの会社さんでもみんなやっている」などと言われることもあるでしょう。しかし「みんなやっているから」という安易な考えで虚偽申告を行うことは、絶対に避けるべきです。

「楽にお金が手に入る」というような話は疑ってかかるべきで、少しでもおかしいと感じたらきっぱりと断りましょう。社会保険労務士や労働局に相談するほか、情報収集を行い、正しい知識をつけておけば、そういった事態に巻き込まれるリスクを回避できます。

誤って申請することも×

申請間違いのバツ印

要件を満たしていないなど、本来は受給できないのに誤った申請をし、受給できてしまうケースもあります。特に令和2年4月からは申請書類・審査方法が簡略化されたため、対象となるものと勘違いしてしまうケースもあるのです。

たとえ悪意や故意でなくても、間違った申請でお金を受け取れば不正受給です。申請する際は最新の注意を払いましょう。それには助成金についての基本的な要件のほか、最新情報も把握しておく必要があります。

しかし「本業で多忙な中、助成金制度について熟知するなど無理」という方も多いでしょう。社会保険労務士などの専門家にサポートを依頼するのがおすすめです。

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

助成金受け取りの希望イメージ

この記事では、雇用調整助成金の不正受給の事例について紹介しました。

不正受給は何らかの経路で必ず発覚します。発覚し、公表されれば社会的な信頼失墜は免れません。不正の内容によっては罰金を科されることもあるでしょう。事業の経営に大きな痛手となる不正受給に、メリットはありません。

中には、故意や悪気でなく誤った知識から不正受給をしてしまうケースもあります。悪意や故意かどうかにかかわらず、受給が適正でなければ不正受給です。ですので、特に初めて雇調金を申請する場合には、信頼できる専門家の手を借りることをおすすめします。

当社Bricks&UKでは、経験豊富な社会保険労務士が助成金の申請代行・相談サービスを行っています。助成金の申請をお考えなら、ぜひお気軽にご相談ください。

監修者からのコメント 本来給与とみなされない手当も対象となると勘違いし雇用調整助成金の休業手当として請求したり、書類の作成者との連携ミスで実際の休業日以上の日数分を申請してしまったりと、知らず知らずのうちに不正受給となっているケースも存在します。 間違えて受給してしまった場合、早めに自主返納すれば不正受給にはなりません。 助成金申請でお困りのことがありましたら、弊社まで遠慮なくご相談ください。

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