助成金のよくある失敗事例【基礎編】

2021.08.23

助成金の失敗事例基礎編

雇用関係を安定させたい事業主にとって賢く利用したい資金の1つに「助成金」があります。法律を遵守して一定要件を満たすことで受給できる返済不要の国からの資金です。

要件を満たして必要な書類や帳票を準備し、正しく申請すれば受給できるものですが、実はその申請が複雑でうまくいかなかったという声も多く聞かれます。

助成金申請の失敗にはどのような事例があるのか、どうすれば失敗しないのか、資金を得ることができるのか、ポイントを絞って見ていきましょう。

助成金とは?

健全な経営を考えている事業主の方なら、誰もが従業員の雇用を安定させたいと考えているでしょう。しかし経営が社会経済などに左右されることも多く、なかなか思うようにいかない現実もあります。

国(厚生労働省)はこのような事業主をサポートする仕組みとして、助成金制度を設けています。雇用関係の問題を解決するためにも、助成金を有効に活用したいものです。

助成金と補助金の違い

助成金と補助金の違い

助成金を理解する上でまず混乱するポイントの1つが、補助金との違いです。助成金も補助金も「国から支給される返済不要の資金」であるという共通点があります。ただし内容は異なります。

助成金は、まず労働関係の法律を遵守しているという前提の元で、一定の受給要件を満たせば高い確率で受給できる資金のことです。その多くは厚生労働省が管轄しています。

一方、補助金は国が推進する取り組みを行う企業に支給される資金で、その多くが経済産業省の管轄です。助成金よりも限られた期間で募集がなされます。受給には審査で選ばれる必要があり、応募条件を満たしても受け取れるとは限りません。

この記事では、よく使われている助成金について紹介していきます。

トライアル雇用助成金

就職が困難な求職者を一定期間、試験的に雇った場合に受給できる助成金です。安定雇用を希望していながら就職や転職を繰り返している人や障害者など、求職者の特色別にコースが設けられています。

この助成金の受給には、求人をハローワーク経由で募集し、助成金の申請を予定していると告げておく必要があります。また、現在は新型コロナウイルス感染症の影響による離職者を対象にしたコースもあります。

キャリアアップ助成金

この助成金はパートや契約社員、派遣社員などの有期契約労働者の処遇を改善することによって受給できます。よく利用されている正社員化コースのほか、賃金規程等改定コースなど処遇改善の内容別にいくつかのコースがあります。

正社員に転換させたい人材がいるケースや、パート全体の賃金を引き上げたいと考えている場合などに利用できます。

両立支援等助成金

育児、介護などと仕事を両立させたい従業員に対し、仕事と家庭の両立のために便宜を図ることで受給できる助成金です。出生時両立支援コース、介護離職防止支援コースなど、内容別にいくつかのコースがあります。

また、育児休業の取得を希望する男性社員がいる、家族の介護で仕事を休むことが多い社員がいる、といったケースにも活用できます。また、現在は、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事を休まざるを得ない社員を対象にしたコースも設定されています。

雇用調整助成金

事業主が休業手当を従業員に支払った場合に、その一部を助成する制度です。景気変動や自然災害など、さまざまな経済的理由により従業員を休業させたり出向させたりした場合あるいは職業訓練を受けさせた場合に申請することができます。

これらの助成金についてさらに詳しく要件や申請方法を知りたいという方はこちらの記事を参考にしてください。

助成金のよくある失敗事例

助成金は多くの企業で活用されていますが、支給の要件や申請に必要な書類がケースごとに細かく異なることなどから失敗、つまり申請に通らず不支給となったり再度申請し直す必要が出てきたりすることも。この章では、5つのよくある失敗事例を紹介していきます。

1 法令で定められた帳票類を整備していなかった

帳票ファイル

助成金の受給には、必要書類を提出することが条件となっています。申請時には助成金ごとに定められた申請書類を作成する必要があるほか、法令で定められた帳票類を整理し、必要に応じて添付する必要があります。

法令で定められた帳票類とは、労働契約書や出勤簿(タイムカード)、就業規則などのことです。たとえば創業間もない会社で就業規則がまだ整備されていない、あるいは就業規則はあるが支給に必要な内容の規定がされていない、といった場合には受給ができません。

2 従業員を解雇してしまった

解雇予告通知書

助成金の申請時に問題になるケースで多いのは、解雇に関するものです。この場合の「解雇」は雇用保険制度の定義上で考えます。事業主の都合による離職、つまり解雇や退職勧奨に該当する行為があった場合、助成金を受給することはできません。

従業員の雇い入れに関する助成金には、「該当する従業員を雇い入れる日の前日から起算して6ヵ月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主都合の解雇をしていない」という支給要件があります。解雇や退職勧奨などがあった場合には、助成金の申請はできません。

ただし雇用調整助成金については解雇等をしていても支給対象となる場合もあります。詳しくはこちらの記事で説明しています。

3 申請期限を過ぎてしまった

申請締め切り

助成金には申請期限があります。申請期日を守ることは受給要件の1つとしても定義されており、要件を満たしていても期限を1日でも過ぎると受給できません。

申請期間が意外と短いものもあるため、気がついたら期限を過ぎてしまっていた、という失敗も多く聞かれます。

たとえばキャリアアップ助成金「正社員化コース」では、賃金6カ月の支給日が申請の基準です。給与日が土日祝日に該当すれば、口座への振り込みが前倒しになる会社も多いでしょう。その場合には申請期限も前倒しになることに注意が必要です。

助成金によっては計画届の提出や交付申請などを期日までに行う必要もあります。また書類に不備があると再提出しなくてはならないので、余裕をもって申請しておきたいところです。

4 支給要件を勘違いした

支給要件の勘違い

助成金の申請の失敗には、支給要件についての勘違いも多くあります。それぞれの助成金には違った支給要件が設定されており、他の助成金の支給要件と同じだと思い込んだり、要件の解釈を勘違いしたりしてしまうと支給対象となりません。

たとえば65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、定年の引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備など、高年齢者の無期雇用のための施策を取り入れた事業主に対する助成金です。

その要件の1つに「1年以上継続して雇用している60歳以上の雇用保険被保険者がいる」という要件があります。これを「定年以降に採用された60歳以上の従業員でも良い」と勘違いしてしまうと、要件を満たさず助成金の申請ができません。

5 各書類に整合性がなかった

整合性の確認

助成金の中でも、雇用型の助成金は、申請自体は難しくありませんが各書類や帳票で内容の整合性が取れていることが必要です。

整合性がない場合、労働環境に問題があると疑われる恐れもあります。申請が通らないこともよくあるので注意しましょう。

たとえば就業規則に規定されている手当については、雇用契約書にも明記されているべきです。両者が一致することによって内容の整合性が実現しますが、この部分が一致しない、不備がある、という状態だと実態が確認できず、申請しても受理されません。

失敗の原因は?

失敗の原因は何か

助成金の申請に失敗してしまうのはなぜなのでしょうか。その原因となる主な3つの点についてポイントを押さえておきましょう。

書類の不備

書類に不備があると、助成金の支給審査には通りません。たとえば「申請に必要な書類を理解できていない」「労務管理が適正でなく、日常の各種記録のチェックが不十分である」となどの原因で不備が生じます。

申請に必要な書類については、自社が申請する助成金の支給要件を詳細まで確認しておかなくてはなりません。また、受給のための要件として、事業主には次の3点も義務付けられています。

  • 助成金の受給に必要な書類を整備すること
  • 受給の手続きにあたり労働局に提出すること
  • 保管をし、提出を求められた場合には速やかに応じること

労務管理については、明らかな担当者が決まっていない、担当者が他の業務との兼業のため労務管理に割ける時間が取れない、などそれぞれの事情もあるでしょう。そのため、タイムカードの確認がされておらず実態に即していなかったり、出勤簿に記載漏れがあってもそのままにしてしまったり、ということが起きてしまいがちです。

そういった管理が不十分の状態では、各種の記録に矛盾点が生じてしまうケースが数多くあります。

従業員の解雇

経営が悪化した場合、他に生き残る手段がないとしてやむなく希望退職者を募ったり、退職勧奨をしたりいう選択に迫られることもあります。しかし助成金には「従業員の解雇等がないこと」を支給の要件とするものも多いです。

しかしたとえば自社で助成金が申請できること、助成金の対象となることを知らずに人員整理をしてしまったらどうなるでしょう。その後に助成金の存在を知って申請しようとしても要件を満たさないとして不支給となったり、助成率が下げられたりしてしまいます。

たとえ相応の企業努力の上、やむなくとった措置であったとしても、助成金の受給には「解雇等があったかどうか」の事実のみが問われてしまうのです。

申請期限

各種助成金の申請には、それぞれに決められた申請期限があります。要件をすべて満たしていても、その期限を過ぎると申請はできません。

複数の助成金を併用して受給しようとしている場合は特に、それぞれの助成金の申請期限がいつなのかを把握していないと申請ができなくなってしまいます。

また、郵送での申請の場合、書類は期日必着で、当日の消印有効ではありません。また、書類に不備があった場合には返却されることもあり、再提出に間に合わなくなってしまうことも失敗の原因の1つとなっています。

失敗事例を成功事例に変えるために

失敗と成功の分岐点

上記を踏まえて、助成金の申請を失敗でなく成功にするために必要な2つのポイントを解説していきます。

法令で定められた帳票類を整備すること

助成金の申請については、法令で定められた帳票類を正しく整備しておく必要があります。必要な書類には、就業規則、雇用契約書(労働条件通知書)、タイムカード(出勤簿)、資金台帳などがあります。いずれも正しく作成し、保管すべき期限まで適切に管理しておくことが重要です。

帳票や書類の整備は、健全な労務管理のためにも重要です。定期的に確認する仕組みを整えるなどしておきましょう。

また、各帳票・書類にはそれぞれ必ず記載すべき事項があります。しかしたとえば雇用契約書には、昇給や賞与、退職金に関する事項の記載が漏れているケースがしばしば見受けられます。

就業規則についても、たとえばキャリアアップ助成金の正社員化コースなら正社員への転換ルールなど、助成金によって記載が必須となる内容が規定されていなければ支給対象となりません。

保管・管理には、場所を決めて紛失等がないように把握し、いつでも確認できるようにしておきましょう。それぞれに決められた保管期限にも注意が必要です。

支給要件をしっかり確認すること

助成金を受給するためには、各助成金によって異なる支給要件を満たす必要があります。この支給要件は、事業主や対象となる従業員、対象となる取り組みや時期など、多種多様に細かく定められています。

そのため、自社が申請しようとする助成金の支給要件がどうなっているかをくまなく確認して、必要な措置を行い、書類を整えなくてはなりません。

さらにこの支給要件は、制度が年度をまたいで継続されたとしても変更になることがあります。また、現在のコロナ禍のように社会情勢が刻々と変化する状況下では、途中で要件が緩和されたり、追加されたりすることもあります。

たとえば、多くの中小企業で活用されている「働き方改革推進支援助成金」では、自己取引(類似の取引も含む)による不正を防止するため、「申請事業主、申請代理人、提出代行者または事務代行者(これらの者の関連企業を含む)」を事業の受注者とした場合や相見積もり先となった場合には、令和3年から助成金不支給となることが決まりました。

助成金については、日頃から政府や厚生労働省が出している情報をチェックすることが成功への秘訣です。助成金についての情報を随時確認する余裕がない、といった場合には、社会保険労務士のサポートを受けるのも1つの方法です。

失敗事例をもう少し知りたい、という方はぜひこちらの記事も読んでみてください。

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

助成金の申請成功イメージ

雇用環境の健全化と安定化のため、受給できる助成金は受給しておきたいものです。助成金は、帳票類をそろえて申請を正しく行いさえすれば、返済する必要のない資金です。

とはいえ、中には助成金の受給に失敗してしまう例も起きています。これには日頃からの労務管理状況が問われるものだったり、受給要件や必要書類についての確認不足だったりとさまざまな原因があります。

本業に支障をきたすことなく適切な労務管理を行い、必要な書類を整え、正しく確実に助成金を申請するには、専門家である社会保険労務士への依頼がおすすめです。経験豊富な当社Bricks&UKの社会保険労務士に、ぜひ一度ご相談ください。

監修者からのコメント 助成金は補助金と異なり、要件を満たして必要な書類や帳票を準備し、正しく申請すれば必ず受給できるものです。 初めて申請する場合、要件や書類の一覧を見ても難しく感じるかもしれません。分からないことは、ハローワークや労働局の窓口に質問すれば、丁寧に教えてもらえます。 しかし、そんな時間が取れない、という経営者様もいらっしゃるかと存じます。 弊社Bricks&UKでは、申請経験豊富な社会保険労務士が助成金の申請をサポートいたします。 お気軽にお問い合わせください。

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