![建設業におすすめの助成金](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_493441007-800x600.jpeg)
現在日本では、労働者が働きやすい環境を整えて生産性の向上を図る「働き方改革」が進められています。
建設業においても、2024年度から時間外労働に対する規制が始まります。長期にわたるプロジェクトが多い建設業では、早めに対処しなくてはなりません。
5年の猶予期間があったとはいえ、人手不足が続くなか時間外労働を削減するのは難しく、対応には多大なコストもかかります。そこで、2023年度から働き方改革推進支援助成金に「適用猶予業種等対応コース」が新設されました。
助成金の活用には、制度の正確な把握と早めの準備が欠かせません。この記事で、どのような制度なのかを確認しておきましょう。
目次
時間外労働の上限規制の適用猶予期間が2024年3月末で終了
![建築業などの時間外労働の上限規制の猶予期間が2024年3月で終了](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_468458439-1024x614.jpeg)
働き方改革に伴う時間外労働の上限規制は、すでに2019年4月から実施されています。しかし建設業界はその他一部の業種とともに5年間、適用が猶予されていました。
この5年間の適用猶予期間が2024年3月末で終了し、2024年4月からは建築業なども時間外労働の上限規制を受けることとなります。
まずは規制の内容や適用の流れについて説明します。
時間外労働の上限規制とは
![建設業に適用されている上限規制の適用猶予措置](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_136600355-1024x681.jpeg)
従業員の時間外労働にはいわゆる「残業代」を支払う義務があります。とはいえ、残業代を払ったとしても制限なく働かせることはできません。
法で定める時間外労働の上限は、原則「月45時間以内・年間360時間以内」です。これは労働基準法に定められています。
臨時的な特別の事情があり特別条項を付ける場合にも、次のような条件があります。
- 時間外労働は年に720時間以内
- 休日労働との合計で月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内
- 月45時間の限度を超えていいのは年6カ月まで
- 労使間の合意がある
たとえば、「年に720時間以内」という条件は満たしても、休日労働と合わせて100時間以上となった月があれば法令違反です。また、2カ月平均~6カ月平均の各月で80時間以内に収めなくてはなりません。
違反した者(使用者)には6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
そもそも、特別の事情がなくとも時間外労働をさせるには労使協定(36協定)の取り決めと労基署への届出が必須です。そうでなければ時間外労働をさせることはできません。
上限規制の適用猶予措置とは
![建設業の時間外労働の上限規制の適用猶予措置とは](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_45365132-1024x683.jpeg)
時間外労働の上限規制は、2019年4月から大企業に適用、1年の猶予期間を経た2020年4月には中小企業にも適用されています。
しかし建設業などについては5年間の猶予期間が与えられ、2024年3月末までは規制を受けないこととされました。
建設業に5年の猶予が与えられたのは、深刻な人手不足が長期化する中、長時間労働は常態化しており、改善にはより多くの時間がかかるものと判断されたからです。
適用猶予期間が2024年3月末で終わる事業・業務
![建設業の時間外労働の上限規制猶予期間](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_280185409-1024x768.jpeg)
2019年の施行から5年の猶予期間が与えられていたのは、建設業を含め次のような業種・事業です。
- 工作物の建設の事業
- 自動車運転の業務
- 医業に従事する医師
- 鹿児島県および沖縄県の製糖業
いずれも、長時間労働が慣例となっている・業務の特性として避けられないなどの課題がある業種・事業です。時間外労働の上限規制の適用猶予期間は、2024年3月末に終了します。
とはいえ、4月以降はすべて他と同じように規制されるというわけではなく、次のように一部特例も認められています。
工作物の建設の事業
![上限規制の猶予業種](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_72187945-1024x683.jpeg)
2024年4月から、災害時の復旧・復興のための事業以外はすべて、上限規制が適用されます。
災害時の復旧・復興の場合のみ、「時間外労働と休日労働の合計で月100時間未満」、「2~6カ月いずれも平均80時間以内」の規制は適用されません。
自動車運転の業務
![時間外労働の上限規制猶予の対象職種](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_216631713-1024x561.jpeg)
タクシーや長距離トラックなど、自動車を運転する仕事では、特別条項付き36協定を結べば、時間外労働の年間の上限が年960時間(通常は720時間)とされます。
また、時間外労働と休日労働の合計月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の規制は対象外です。月45時間を超える時間外労働を年6カ月までとする規定も適用されません。
医業に従事する医師
![時間外労働の上限規制猶予業種](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_129133746-1024x683.jpeg)
特別条項付き36協定があることを前提に、医師については原則、年960時間未満かつ月100時間未満という上限規制が適用されます。
ただし、地域医療提供体制を確保する目的や集中的に診療を行うことにより技能向上に努める必要がある場合など、長時間労働がやむを得ないと見なされる一部の医師については、上限が年1,860時間となります。
また、医師についても、時間外労働と休日労働の合計100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の規制は適用されません。月45時間を超える時間外労働を年6カ月までとする規定も対象外です。
鹿児島県と沖縄県の砂糖製造業
![働き方改革助成金の適用猶予となっていた製糖業](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_336640047-1024x683.jpeg)
鹿児島県や沖縄県で砂糖を製造する業者については、5年の適用期間中も一部の規制は適用されていました。
しかし2024年4月からは、すべての上限規制が適用となります。
働き方改革推進支援助成金「適用猶予業種等対応コース」新設の背景と概要
![働き方改革推進支援助成金「適用猶予業種等対応コース」](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_373934523-1024x683.jpeg)
働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)は、2023年度から新設される助成金です。コースの名前にもあるように、働き方改革の適用猶予の対象業種を対象としています。
2019年に大企業からスタートした時間外労働の上限規制に関し、適用猶予となっている5年間が2024年3月をもって終了。そのため、適用猶予となっていた建設業などにも、働き方改革への具体的な取り組みが必須となります。
しかし、長年にわたって当たり前に行われてきた長時間労働を改善するには、業界や企業全体の意識改革から始める必要があります。労働者の負担を減らして労働時間を削減するには、管理する側の業務量も増えると考えられます。双方に機械化やIT化などを行う必要もあるでしょう。
このコースでは、働き方改革に関する業種別の成果目標が設けられており、目標達成のために要した取り組み費用の一部を助成します。また、成果目標の達成状況によって、最大250万円が支給されます。
詳しい要件や支給額については、次の章で解説していきます。
働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)の申請要件・受給額
働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)の申請にあたり、必要な条件や助成額を確認しておきましょう。
適用猶予業種等対応コースの対象となる企業
![適用猶予業種等対応コースの対象となる企業](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_498162909-1024x576.jpeg)
このコースの対象となるのは、2024年4月から上限規制の猶予がなくなる「建設業」「自動車運転業務」「医師」「鹿児島と沖縄の製糖業」の小規模事業者や中小企業です。
次のような場合に、この助成金が活用できます。
- 36協定において、時間外労働の上限が月60時間を超えている
- 週休2日制を導入していない
- 労働時間の短縮を検討するも、費用がネックとなっている
従業員の労働時間短縮を実現しつつ、生産性の向上に向けても取り組む企業が助成対象です。
![](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2021/07/bn-1024x291.jpg)
助成対象となる取り組み
![適用猶予業種等対応コースの対象となる取り組み](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_471601280-1024x683.jpeg)
このコースの助成対象となるのは、労働時間短縮のための次のような取り組みです。
- 就業規則・36協定等の作成・変更
- 従業員に向けた研修の実施(業務研修を含む)
- 外部専門家によるコンサルティングの実施
- 労務管理のための機器の導入・更新
- 労働能率を上げるための設備・機器の導入・更新
- 人材確保のための取り組み
時間外労働の上限規制を守るためには、労働者一人ひとりの勤務実態を把握しなくてはなりません。勤怠や賃金台帳など労務管理も徹底する必要があります。
労働時間の削減には、36協定はもちろんのこと、就業規則の条文から見直す必要もあるでしょう。法律に強い外部専門家の手を借りるのが得策です。
取り組みの具体例
![適用猶予業種等対応コースの対象となる取り組みの具体例](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_549147344-1024x683.jpeg)
具体的には、次のような取り組みが挙げられます。
・業務効率化のための勤務体系構築のため、専門家に相談した
・就業規則の改正のため、社会保険労務士に依頼した
・労務管理担当者に対し、研修を行った
・勤怠管理をIT化し、効率化と明確化を図った
・オンラインでスケジュールの把握・管理ができるようにした
・採用試験(SPI)の作成を外部業者に委託した
・自動測量システムを導入して時短を図った
導入・更新する設備や機器などの具体例
助成の対象となる導入設備・機器とは、次のようなものです。
![適用猶予業種等対応コースの対象となる導入機器の具体例](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_420924437-1024x699.jpeg)
・軽トラック
・後方超小旋回ショベル
・ミニ油圧ショベル
・ミニホイールロータ
・ホイストクレーン
・自律型の溶接ロボットや掘削機
・監視用のドローン、webカメラ
・除雪車
・斜面対応可能な小型草刈り機
・ステンレス製の型枠
・型枠自動洗浄機
・最新型の建築工事用見積もりシステム
・最新型のボーリグマシン
・塗装機械
システムやソフトウェアでは次のようなものが挙げられます。
![適用猶予業種等対応コースの対象となる導入システムの具体例](https://joseikin-tips.com/wp-content/uploads/2023/03/AdobeStock_441975488-1024x660.jpeg)
・勤怠管理システム
・給与計算ソフトウェア
・出退勤用の指紋認証システム
・タイムレコーダー
・施工管理システム・アプリ
・オンライン会議システム
・CADシステム
・顧客管理システム
ただし、いずれも「生産性を上げ、労働時間を短縮する」ことに直結する必要があります。
たとえば、事務所内に新たにエアコンを設置するのは業務の快適化(不快感の軽減)が目的と見なされ、対象外です。時短でなく通常の業務に必要なもの、たとえばシステムの単なる更新なども対象となりません。
成果目標
このコースでは、業種ごとの成果目標が設定されています。建設業の成果目標は次の2項目です。
- 36協定の見直し(月の労働時間の上限見直し)
- 週休2日制の導入
36協定の見直しでは、月の労働時間の上限を何時間から何時間に引き下げたかによって、助成金の支給上限額が150万円あるいは200万円、250万円と異なります。
また、週休2日制については、月4週につき休みを4日~8日まで1日増加するごとに25万円の支給が受けられます。
助成金額
取り組みに対する助成金額は、かかった費用のうち対象経費の「4分の3」に相当する金額です。ただし、次の要件をいずれも満たす場合は、助成率が「5分の4」に引き上げられます。
- 常時使用する従業員数が30名以下である
- 取り組みに要した設備・機器等の経費が30万円を超えた
また、上限額については、36協定の見直し内容により次のように異なります。
36協定の見直し内容 | 上限額 | |
---|---|---|
現状 | 見直し後 | |
月80時間超 | 月60時間以下 | 250万円 |
月80時間超 | 月60~80時間 | 150万円 |
月60~80時間 | 月60時間以下 | 200万円 |
すでに労働時間の上限が60時間以下となっている場合には支給の対象外です。
また、週休2日制の導入については、付与する休みの日数に応じた次の額が支給されます。
月の休日数 | 助成額 |
---|---|
4週4休から4週8休まで | 1日増加ごとに25万円 |
つまり、4週4休から4週5休とすれば支給額は25万円、4週4休から4週8休とすれば100万円が受け取れます。
働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)の申請時のポイント
適用猶予業種等対応コースを申請する際には、次の3つのポイントを必ずおさえておきましょう。
特別条項付き36協定の届出が必須
そもそも、法定労働時間は1日8時間、1週間に40時間までです。これ以上の時間外労働をさせるには、労使間で36協定を結ぶ必要があります。
そして、残業時間の上限は月45時間・年360時間というのが原則です。これを上回るには、特別条項付きの36協定を締結しなくてはなりません。
助成金の支給は、取り組み前と後の状況を比べる必要もあります。そのため、令和5年4月1日の時点で有効な36協定を労働局に届け出ていなくてはなりません。
また、建設業については月の労働時間の上限が60時間を超えている場合に助成金の支給対象となることにも注意してください。
就業規則の内容にも見直しが必要
助成金の申請を考えるなら、就業規則の見直しもしてください。会社設立時に作成したままだったり、長いあいだ変更していなかったりする場合、現在の法令に則していないおそれがあります。
就業規則の内容は、助成金の受給対象となる取り組みに則していると同時に、各種労働法も遵守していなくては不支給となってしまいます。
この機会に就業規則を見直し、自社の状況により合う内容にすることをおすすめします。
支給申請は早めの提出がおすすめ
助成金には、あらかじめ国の予算が決められています。そのため、助成金の申請件数や支給額によっては、決められた締切以前であっても申請受付がストップされます。
このコースは新設ですが、これまでさまざまな助成金において期限前、たとえば10月ぐらいで申請が締め切られる事態となっています。
この助成金は、対象となる業種は限られるものの、必要とする事業主は多いと考えられます。早めの申請をおすすめします。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
2024年4月より法規制の適用猶予がなくなり、時間外労働の削減等を余儀なくされる建設業界。今回新設される働き方改革推進支援助成金の適用猶予業種等対応コースでは、生産性の向上に努め、労働時間の削減を果たした中小企業などに助成金が支給されます。
就業規則の整備・改正や、従業員らへの研修の実施、時短のためのITシステムやソフトウェアの導入など、時間外労働の削減には費用がかかります。助成金の活用を検討してみてください。
ただ、助成金の受給には、要件などが細かく決められています。提出書類なども多く、自社だけで手続きを完結するのはかなり難しいでしょう。
当サイトを運営する社会保険労務士事務所Bricks&UKは、雇用に関する助成金申請に数多くの実績を誇ります。申請に必要な要件やポイントを把握しているため、スムーズな助成金申請が可能です。
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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
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監修者からのコメント 建設業界では長時間労働の常態化や深刻な人手不足により、時間外労働の削減が難しい状況が続いています。 しかしながら、2024年4月からは法律の改正により時間外労働の上限規制が適用されますので、今からできることを少しずつ進めておく必要があります。 業務の棚卸しを行い、機械やシステムに置き換えられるものはないか、工程や管理方法の見直しで時間短縮ができることはないか、今一度チェックをしてみましょう。もし助成金の活用ができれば、よりコストを抑えて労働時間短縮を実現することができます。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。