従業員の仕事と家庭の両立をサポートする企業に支給される「両立支援助成金」に、令和6年4月、新たなコース「柔軟な働き方選択制度等支援コース」が設けられました。
このコースは、育児のための柔軟な働き方が可能な制度を、従業員が選べるよう2つ以上導入した企業に対して支給される助成金です。制度を導入するだけではなく、制度の利用を促す取り組みを行った上、従業員が制度を利用した場合に助成金が支給されます。
この記事では、「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の支給要件や支給額、申請までの流れをわかりやすく説明、確実な受給のためのポイントも解説します。
目次
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金は、仕事と育児や介護を両立させる従業員を支援する事業主を対象とする助成金です。厚労省が管轄する雇用関連の助成金の1つで、雇用保険の適用事業主、被保険者であることが受給の前提条件です。
現行の全6コースの概要
両立支援等助成金には、対象の異なる複数のコースがあり、年度ごとなどに改正されてきました。現在は次の6つのコースが存在しています。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 育休中等業務代替支援コース
- 柔軟な働き方選択制度等支援コース
- 不妊治療両立支援コース
この記事で解説するのは、この中の「柔軟な働き方選択制度等支援コース」です。
新コース設置の背景
令和7年4月1日より、育児・介護休業法が改正されます。その中で、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現する2つ以上の制度を設けること、従業員が選んで利用できるようにすることなどが企業に義務付けられることになりました。
従前の「育児休業等支援コース」には、「職場復帰後支援」という助成が令和5年度まで存在しました。しかしこの助成の対象は、育休後の職場復帰後の6カ月以内で、子の看護休暇制度やベビーシッターなどの費用補助制度を設けることでした。
法改正を踏まえ、対象となる子の年齢を3歳以上とし、より幅広い制度を選択肢にしたのが「柔軟な働き方選択制度等支援コース」です。「職場復帰後支援」に代わる形で令和6年4月から運用が始まっています。
育児休業等支援コース(職場復帰後支援)については、柔軟な働き方選択制度等支援コースの新設に伴い、令和5(2023)年度限りで廃止されました。
次の章から、支給の要件などについて詳しく見ていきましょう。
柔軟な働き方選択制度等支援コースとは
子育て世代においては、子どもが小さいうちは短時間勤務などをするものの、成長すればフルタイムで働く人が多くなっています。
そういった状況を踏まえ、3歳から小学校に上がるまでの育児期間に、従業員が働き方を選べる制度を設けた事業主を助成するのが「柔軟な働き方選択制度支援コース」です。中小企業の事業主のみが対象です。
助成金の主な支給要件
「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の支給を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 1)柔軟な働き方選択制度等を2つ以上導入し、労働協約か就業規則に規定している
- 2)「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」により、当該制度の円滑な利用やキャリア形成の支援を行う方針を社内周知している
- 3)制度利用者と面談、結果を「面談シート」に記録した上で、対象者ごとに「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」を作成する
- 4)対象者が制度1つを選び、利用開始から6カ月間以内に一定の利用基準を満たす
- 5)制度利用期間中と支給申請日の時点で、対象者が雇用保険の被保険者である
- 6)対象者の育休開始前に、育休制度などを労働協約または就業規則に定めている
- 7)次世代育成支援対策推進法の「一般事業主行動計画」を策定し、労働局に届け出ている
制度を定めるだけではなく、対象となる従業員が実際に利用しやすいよう、社内周知や個別プランの作成を行うことが重要です。
1~3までは、4の利用開始までに行っていなくてはなりません。
「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」とは、育児を行う従業員が柔軟な働き方ができる制度の利用やその後のキャリア形成を円滑にするために作成する計画を言います。
プランは、事業主が対象従業員一人ひとりについて作成することが必要です。社内通知は、プランの周知ではなく、それによる支援の実施方針を周知する必要があります。
対象となる「柔軟な働き方選択制度等」とは
では、要件となっている「柔軟な働き方選択制度等」とはどのような制度を指すのかを見ておきましょう。
制度名 | 制度の特徴など |
---|---|
①(ⅰ)フレックスタイム制度 | ・従業員の申し出により使える ・清算期間の所定労働時間は短縮しない |
①(ⅱ)時差出勤制度 | ・始業か就業の時刻を1時間以上繰り上げ・繰り下げ ・1日の所定労働時間は変更なし |
②育児のためのテレワーク等 | 以下すべてを満たすこと 1)週か月の半分以上で利用可能 2)所定労働時間は変更なし 3)時間単位で実施可能 4)事業主が認める場合はサテライトオフィスなどでも実施可能 |
③短時間勤務制度 | ・1日の所定労働時間を平均1時間以上短縮、かつ月の所定労働時間も短縮 ・所定労働時間を、1日5時間や7時間、週休3日などで選択可 ・始業・終業時刻が特定できる ・始業・終業時刻の決定方法を就業規則等に定めている |
④保育サービスの手配と費用補助 | ・従業員の子にベビーシッター等を手配し、費用の全部か一部を会社が補助 ・所定労働時間の変更はなし ・保育所等の恒常的サービスは対象外 |
⑤(ⅰ)子の養育を容易にするための休暇制度 | 以下すべてを満たすこと 1)有休である 2)年10日以上付与される 3)時間単位(分単位でも)かつ中抜けの形で取得できる 4)所定労働時間の変更なし 5)年休や子の看護休暇とは別で取得できる |
⑤(ⅱ)法を上回る子の看護休暇制度 | 以下すべてを満たすこと 1)有休である 2)年10日以上付与される 3)時間単位(分単位でも)かつ中抜けの形で取得できる 4)所定労働時間の変更なし 5)年休とは別で取得できる |
上記①~⑤のうち2つ以上を、「3歳以上・小学校就学前までの子」を持つ従業員が利用できる制度として設ける必要があります。
①と⑤については、(i)と(ii)の2つを導入しても、1つの制度の導入と見なされます。また、3歳未満の子についても、この制度の対象とする旨を就業規則等に規定していれば対象となります。
ただし、③の短時間勤務制度については、現行の法令で義務化されているため、助成の対象とはなりません。
支給対象となる制度の利用基準とは
「柔軟な働き方選択制度等」については、対象となる従業員が制度を1つ選び、利用開始6カ月以内に一定の利用基準を満たすことも要件となっています。
ここではその利用基準を見ておきましょう。
制度名 | 必要な利用実績の基準など |
---|---|
①(ⅰ)フレックスタイム制度 | ・所定労働日ベースで合計20日間以上 ※育児のためと確認できない日は数えない ※プラン策定時点ですでにフレックスタイム制の適用者は対象外 |
①(ⅱ)時差出勤制度 | ・1時間以上の繰り上げ・繰り下げ実績が、所定労働日べースで合計20日間以上 ・繰り上げの場合、終業時刻より30分以上後の退勤でない ・繰り下げの場合、始業時刻より30分以上早い出勤でない ※利用開始前の1カ月に同制度を利用している場合は対象外 |
②育児のためのテレワーク等 | ・所定労働日ベースで合計20日間以上 ・20日間の勤務実態が日報などで確認できること ※育児のためと確認できない日は数えない ※利用開始前の1カ月に、5回以上または所定労働日数の2割以上のテレワーク等があると対象外 |
③短時間勤務制度 | ・所定労働日ベースで合計20日間以上 ・短縮後の勤務時間と異なる日について、勤務開始より早く出勤/遅く退勤していないこと(いずれも30分を超えると対象外) ・制度利用期間中の時給(手当や賞与含む)換算額が、制度利用前より下回っていないこと ・利用開始の1カ月前に同一の子について同制度を利用していないこと ※1日の所定労働時間を短縮しても、週か月の労働時間が短縮されていない場合は対象外 ※短時間勤務の利用で無期雇用から別の雇用形態になった場合は対象外 |
④保育サービスの手配と費用補助 | 次のどちらかを行うこと 1)従業員が負担した料金の5割相当かつ3万円以上を事業主が負担 2)10万円以上を事業主が負担 |
⑤(ⅰ)子の養育を容易にするための休暇制度 | ・20時間以上の利用 ・同一事業主に雇用される配偶者が取得した同一の休暇時間は合算可能(人数は1人と数える) |
⑤(ⅱ)法を上回る子の看護休暇制度 |
対象となる子が複数いる場合、制度の利用実績は合算できますが、制度の利用者数は1人として数えます。
支給額と情報公表による加算額
このコースの支給額は、導入した制度の数によって次のように異なります。制度の導入後、対象者が利用実績を残すことで加算が受けられます。
導入した制度の数 | 支給額(利用者1名あたり) |
---|---|
2つの制度を導入 | 20万円 |
3つ以上の制度を導入 | 25万円 |
上限は1年度につきのべ5名です。ここでいう1年度は、事業年度でなく4/1~3/31の期間を指します。
また、自社の育休取得状況について、次の情報を厚労省のウェブサイト「両立支援のひろば」にて公表した場合には、上記の助成金に2万円の加算が受けられます。ただし1回限りです。
- 男性従業員の育休等の取得割合
- 女性従業員の育休の取得割合
- 従業員の男女別の育休の平均取得日数
自社の公式サイトなどで公表しても、助成の対象とはならないので注意が必要です。
助成金の申請手続きとその流れ
「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の申請は、制度利用開始日から6カ月間の「制度利用期間」の翌日から2カ月以内に行わなくてはなりません。
申請までの手続きは、次のような流れで行います。
- 1)助成対象となる制度を2つ以上導入する
- 2)制度内容や利用方法などについて就業規則に規定する
- 3)「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」のための面談を行う
- 4)同プランを作成する
- 5)プランに基づく円滑な制度利用の支援を行う
- 6)制度開始から6カ月以内に従業員が制度を利用する
- 7)支給申請に必要な書類を揃える
- 8)都道府県の労働局に支給申請を行う
柔軟な働き方選択制度等についての規定は、対象者による制度利用開始日の前日までに定めておく必要があります。
就業規則については、常時雇用の従業員が10人未満で就業規則の作成・届出をしていない場合も、制度の明文化と従業員への周知が必要です。
申請は、本店所在地の都道府県の労働局に持参もしくは郵送で行います。郵送の場合は、配達記録が残る簡易書留などを使い、期限内必着で送ります。
申請に必要となる書類
申請時に提出が必要となるのは、次のような書類です。
書類名 | 概要 |
---|---|
1)支給申請書 | ・両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース)支給申請書 【選】様式第1号①② |
2)支給要件確認申立書 | 共通様式第1号 |
3)対象制度利用者に係る面談シート | 【選】様式第2号 |
4)対象制度利用者に係る育児に係る柔軟な働き方支援プラン | 【選】様式第3号 |
5)育児に係る柔軟な働き方支援プランにより、円滑な制度の利用と利用後のキャリア形成を支援する方針を周知したこととその日付が確認できる書類 | 社内報やイントラネットの掲示板等の画面印刷、実施要項、就業規則など |
6)労働協約または就業規則、関連する労使協定 | ・育休や育児のための短時間勤務制度、柔軟な働き方選択制度等の規定が確認できるもの ・従業員10人未満で就業規則の作成・届出なしの場合は、制度の明文化と周知がわかる書類 |
7)対象制度利用者の制度利用申出書 | ・制度利用期間6カ月間に複数回利用した場合はすべての分 |
8)対象制度利用者の①出勤簿またはタイムカードと②賃金台帳など | ・制度利用開始前1カ月と制度利用期間中の就業実績がわかる書類 ・フレックスタイム制や時差出勤制度、テレワーク、短時間勤務制度の利用は出退勤時刻の確認ができるもの |
9)母子手帳、この健康保険証、住民票など | ・対象制度利用者に子がいることと、子の出生日が確認できるもの |
10)対象制度利用者の雇用契約書または労働条件通知書および会社カレンダー、シフト表など | 対象者の制度利用期間中の所定労働日と所定労働時間が確認できるもの |
11)次世代法に基づく一般事業主行動計画策定届 | ※プラチナくるみん認定事業主は提出不要 |
<育児のためのテレワーク等の利用時> 12)テレワーク等の申出書と実施報告書 |
・実施報告書がない場合はそれに準じた書類 |
<短時間勤務制度の利用時> 13)制度利用期間中の時間あたりの基本給の水準が制度利用前を下回っていないと確認できる書類 |
・短時間勤務制度利用前後の賃金台帳 |
<保育サービスの手配および費用補助制度の利用時> 14)保育サービスの利用実績がわかる書類および会社が費用の一部または全部を補助したとわかる書類 |
・サービス利用の申出書・手配依頼書、領収書など |
<子を養育するための有休制度の利用時> 15)休暇制度の取得申出にかかる書類およびその取得実績が確認できる書類 |
・休暇取得者の①出勤簿またはタイムカードと②賃金台帳など ・配偶者の利用実績と合算して申請する場合は、合算部分の全員分 |
<過去に申請したことのある事業主> 16)提出を省略する書類についての確認書 |
【選】様式第5号 ※2人目以降の申請で内容に変更がなければ上記5.6.9と11は省略可能 |
<雇用関連の助成金申請が初の場合> 17)支払方法・受取人住所届および支払口座が確認できる通帳の写し |
・助成金の受け取り方法・振込口座の指定 |
<情報公表の加算を受ける場合> 18-1)育児休業等に関する情報公表加算の支給申請書 |
・両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制制度等支援コース(育児休業等に関する情報公表加算))支給申請書 【選】様式第4号 |
<情報公表の加算を受ける場合> 18-2)一般事業主行動計画公表サイトの企業情報の公表画面等 |
・育休の利用状況についての情報すべてが公表されているとわかるページの印刷 |
上記5~15については、写しを提出します。
確実な受給のために気を付けるべきポイント
「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の受給には、ここまで紹介した要件などのすべてを満たす必要があります。さらに、次のようなポイントにも注意が必要です。
雇用形態などの不合理な変更は支給対象外
制度の利用基準となる6カ月間の間に、対象となる従業員の雇用形態や給与体系の不合理な変更があった場合には、助成金の支給は受けられません。
たとえば、明確な理由なく有期雇用に変換する、業績の急激な悪化など合理的な理由なく給与を減額するなどした場合、支給対象外となります。
複数の制度利用による実績の合算は不可
制度の利用実績は、1つの制度で定められた基準を満たす必要があります。
1人の従業員が複数の異なる制度を利用した場合でも、合算して「合計20時間」などとすることはできません。
申請手続きを代行できる専門家は社労士のみ
助成金の申請手続きは、煩雑で手間も時間もかかることから、専門家に代行依頼をするのが一般的です。書類の作成であれば行政書士に、と思われがちですが、行政書士は助成金の申請を代行できません。
両立支援等助成金など雇用に関する助成金についての書類の提出代行や事務代理は、法律上、社会保険労務士のみが請け負えることになっています。
助成金の申請はBricks&UKへ
両立支援等助成金の「柔軟な働き方選択制度等支援コース」は、時差出勤や子の養育のための休暇制度など、従業員が柔軟に働ける制度を2つ以上設けることで助成金が受けられるコースです。
従業員の仕事と家庭の両立は、企業にとっても重要な課題です。幅広い支援制度を設けることが、優秀な人材の流出防止・求職者へのアピ-ルなどにつながり、労使双方にメリットをもたらします。
環境の整備には、助成金が支給される今がチャンスでもあります。当サイトを運営するBricks&UKでは、多くの事業主様の助成金の受給をサポートしています。ご検討の際はぜひお気軽にご相談ください。
就業規則を無料で診断します
労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント 少子高齢化を背景に、子育てと仕事の両立はますます重要性を増しています。
両立して仕事を続けるために新しい働き方を模索している労働者もいるかもしれません。労働者の雇用を守り、また企業にとっては労働力を確保していくことは必須の課題です。 助成金を活用し、従業員が柔軟に働ける制度の導入をこれを機に考え、働きやすい職場づくりを進めていきましょう。
弊社Bricks&UKでは、育児介護休業規程の改定支援から助成金申請までのフルサポートを行っております。 ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。