どんな企業にも欠かせないのが、人材の育成です。職務に合った専門的な人材教育を実施した事業主に支給される「人材開発支援助成金」は、2022年4月に大幅な改正が行われ、多様な研修形態にも適用されるようになりました。
この記事では、人材開発支援助成金に新たに加わった「人への投資促進コース」の「定額制訓練」について解説します。
目次
コロナ禍により多様化した人材教育方法
コロナ禍は、企業の教育訓練の方法をも変化させました。以前は社外での研修や外部講師を自社に招いての研修を行っていた企業がオンライン研修を取り入れるケースもあれば、休業期間中に新たな従業員教育の方法としてオンライン研修を採用したケースもあります。
また、最近はサブスクリプション型と呼ばれる、一定期間内の利用の権利を購入するタイプの研修サービスを利用する企業も増えてきました。
サブスクリプション型研修サービスの最大のメリットは、期間内であれば好きな時間に何度でも受講が可能なことです。いわゆる受け放題のサービスなので、利用回数が多いほど得をすることになります。
一方、たいして受講しなくても定額料金を支払う必要があったり、長期間になれば都度払いより高額になる可能性があったりというデメリットもあります。
人材開発支援助成金「人への投資促進コース(定額制訓練)」とは?
人材開発支援助成金「人への投資促進コース」には、「高度デジタル人材の育成訓練」や「IT分野未経験者の即戦力化のための訓練」をはじめ5つのメニューが用意されています。
その中の一つの「定額制訓練」は、サブスクリプション型の研修サービスを利用して従業員が教育訓練を受ける場合に助成される制度です。
この人材開発支援助成金「人への投資促進コース(定額制訓練)」について、助成金の受給要件と支給額について見ていきましょう。
人への投資促進コース「定額制訓練」の支給要件
助成金を受給するには、まず実施する訓練についての計画を立て、それに沿って訓練を実施する必要があります。訓練は次の要件をすべて満たすものが対象です。
- 職務に関連した定額制サービスの教育訓練である
- 従業員に受講を義務付け、労働時間内に実施するものである
- OFF-JTであり、事業外訓練でもある
- 支給申請時点で、全対象者の合計受講時間数が10時間以上である
対象となる定額制サービスは、一定額で決められた期間内に複数の訓練を受講できるeラーニング、または同時双方向型で行われる通信訓練です。職務に関する専門知識や技能の習得ができるものでなくてはなりません。
事業外訓練とは、公共の職業能力開発施設や、学校教育法に基づく教育機関、その他各種学校や他の事業主団体などが企画・主催する訓練です。
合計受講時間数については、計画時に提出する対象従業員の一覧に記載がある人かつ、受講を1時間以上した人のみがカウントできます。
また、この他にも事業主についての要件や対象従業員についての要件、経費の要件などさまざまな要件があり、すべてを満たす必要があります。
支給対象とならない訓練
次のような訓練は対象外となるので注意してください。
- 職務に直結しない知識や技能を習得するもの
- 接遇やマナーなど、職業や職種に関わらず必要であるもの
- 趣味・教養を身につけるためのもの
- 学会や研究発表会など、実施目的が訓練に直結しないもの
- 法令等で義務付けられた講習で、事業に不可欠となるもの
- 知識や技術の習得が目的ではないもの
- 講習の受講が必須でない資格試験や適性検査など
ただし、職業や職種に関わらず必要な知識であっても、デジタル化やDX化、カーボンニュートラル化の促進に必要な知識や技能を習得させる場合や、「新入社員」や「中堅社員」「管理者」といった各層で入社時や昇給時などに行う必要がある訓練は対象となります。
訓練内容だけでなく、実施方法にも除外があります。従業員が自発的に受講するものや、インターネット上などで公開されておらず特定の事業主のみが対象となるようなもの、自社で企画・主催する研修などは支給の対象外です。
人への投資促進コース「定額制訓練」の支給額
この助成金では、定額制訓練にかかった経費のみが助成の対象です。賃金に対する助成などはありません。
受講にかかった基本料金や初期設定費用、アカウント料など直接的な費用に対して、下表の助成率をかけた金額が支給されます。
企業規模 | 経費助成率 | |
---|---|---|
通常 | 生産性要件を満たした場合の割増率 | |
中小企業 | 60% | 15% |
大企業 | 45% | 15% |
生産性要件を満たした場合は、表にある割増分の額を追加で後日申請して受給します。
訓練に直結しない、たとえばタブレットやルーターのレンタル費用などは助成対象外です。また、経費はすべて、支給申請日までに自社で支払済でなくてはなりません。
人への投資促進コース「定額制訓練」の支給申請の流れ
定額制訓練についての助成金の申請は、次の流れで行います。
1. 計画届の提出 → 2. 訓練実施 → 3. 支給申請 → 4. 助成金の受給 |
それぞれ具体的に説明していきます。
1. 計画届の提出
定額制サービスを契約する前に、まずは訓練に関する計画を作成し、労働局に提出します。計画の提出は、訓練サービスの契約期間初日から起算して1カ月前までに、次の書類を揃えて行わなくてはなりません。
書類名 | 様式 |
---|---|
訓練実施計画届 | 様式第1号 |
年間職業能力訓練開発 | 様式第3-1号 |
定額制訓練に関する対象者一覧 | 様式第4-2号 |
事前確認書 | 様式第11号 |
事業所確認票 | 様式第17-1号 |
これらの様式は厚労省HPよりダウンロードできます。「定額制訓練に関する事業所確認票」は、複数の事業所の分をまとめて申請する場合のみ必要となるものです。
人材開発支援助成金(人への投資促進コースなど)の申請様式ダウンロード|厚生労働省公式サイト
さらに添付書類として、次の書類も用意します。
書類名 | 備考 |
---|---|
定額制サービスによる教育訓練であることの証明となる書類 | 受講案内など |
受講料の額を確認できる書類 | 講座内容記載のパンフレットなど |
OFF-JTの実施内容などを確認できる書類 | 対象者に事前配布した案内・カリキュラム表、講座で使用するテキストなど |
事業外訓練であると確認できる書類 | 当該訓練の契約書や申込書の写しなど |
LMSの機能があると確認できる書類 ※eラーニングのみ | 受講案内など |
全社常時雇用従業員数がわかる書類 ※中小企業のみ | 次のいずれか ・事業所確認票(様式第17-1号) ・会社案内・パンフレットなど |
OFF-JTの実施内容の確認書類については、訓練を実施する事業者などの概要と実施目的、講座一覧と講座内容がわかるものが必須です。
また、主たる適用事業所が他の適用事業所に係る書類も含めて管轄労働局長に提出する場合には、「定額制訓練に関する事業所確認票」(様式第 17-2 号)が求められます。
これ以外にも労働局長が必要と判断した書類の提出が求められる場合もあります。
2. 教育訓練の実施
提出した計画届に沿って、従業員に対し訓練を実施します。なお、計画届が労働局長に認証されてから何らかの変更をする場合には、事前に「訓練実施計画変更届」を提出しなくてはなりません。
変更届については、最後の章でも注意点として解説しています。
3. 支給申請
訓練が終わったら、必要書類を揃えて訓練期間最終日の翌日から2カ月以内に、管轄の労働局長に支給申請を行います。必要書類のうち次表のものは、様式を厚労省公式サイトからダウンロード可能です。
書類名 | 様式 |
---|---|
支給申請書 | 様式第5号 |
支給要件確認申立書 | 共通要領様式第1号 |
定額制訓練の経費助成の内訳 | 様式第7-4号 |
定額制訓練実施結果報告書 | 様式第8-4号 |
支払方法・受取人住所届 | ※助成金の申請が初の場合のみ必要。口座番号が確認できる通帳の写し等も要添付 |
支給申請承認書 ※訓練実施機関による記入が必要 |
様式第12号 |
さらに、次のような書類も必要です。
必要書類 | 備考 |
---|---|
教育訓練に要した経費すべてを負担済であることの確認書類 | 領収書または振込通知書 ※領収書の場合は総勘定元帳または現金出納帳などのコピーも必要 |
受講料や教材費の支払いが確認できる書類 | ・同上のもの ・受講料の案内 ・請求書と請求内訳書の写し |
「対象者一覧」記載の受講予定者による受講を証明する書類 | 講座の修了証など |
受講者の教育訓練の実施状況がわかる書類 | LMS情報や添削課題のコピーなど |
訓練対象者が雇用保険の被保険者である事実と職務内容が確認できる書類 | 雇用契約書のコピーなど |
場合によっては、これ以外の書類の提出を求められることもあります。
4. 助成金の受給
審査の結果、申請内容が適正と認められれば、支給決定通知書が事業主に交付されます。
人への投資促進コース「定額制訓練」支給申請時の注意点
支給申請の際は、特に次の2つの点に注意してください。
計画の変更には「変更届」の提出が必須
この助成金の助成対象となるのは、当初に提出する計画届に記載された訓練内容のみです。そのため、実施する訓練や対象者、その人数などを変更・追加する場合には、「訓練実施計画変更届」を提出しなくてはなりません。
変更届の提出がない場合、変更した部分は助成の対象外となってしまいます。また、変更届にも提出期限があります。どのような変更を行うかによって期限が異なることにも注意してください。
生産性要件を満たした場合は追加申請が必要
生産性要件を満たした場合には、支給額の割増が受けられます。ただし、割増分の受給には、後日改めて支給申請をしなくてはなりません。日が空きますが労働局からの連絡などはないため、自社で把握し、忘れずに申請する必要があります。
人への投資コースでは、生産性を訓練開始年度の前年と3年後の数値で比較します。そのため、割増分の支給申請は、訓練開始前年度より「3年後」の会計年度の末日から5カ月以内にしなくてはなりません。
たとえば訓練開始が令和4年の6月で、会計年度が4月1日~3月31日の場合、前年度(令和3年度)から3年度後にあたる令和6年度の会計年度末日の翌日(4月1日)から5カ月以内に申請します。
助成金の有効活用で有意義な人材教育を
人材開発支援助成金の人への投資促進コースは、令和4年の改正で「定額制訓練」、いわゆるサブスクリプション型の研修サービスを使った教育訓練も助成の対象となりました。
ただし、教育訓練はあくまで職務に直結するものでなくてはならず、内容によっては実施しても対象外となる可能性があります。また、不届の計画変更部分は対象外となる、必要書類が多岐にわたるなど、申請には手間も知識も必要です。
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監修者からのコメント 定額制訓練(サブスクリプション)への助成は、令和4年度に新たに追加された人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」のメニューの中の1つとして始まりました。 これまでは「対面」による訓練が原則とされてきましたが、eラーニングや通信制など在宅勤務者の訓練受講も対象とされるようになり、より一層活用しやすくなっています。 訓練計画時に提出する書類も最小限に抑えられていますので、申請にもそれほど時間がかかりません。 サブスクリプション型の研修サービスを導入予定でしたら、お気軽にお問い合わせください。