「働き方改革推進支援助成金」は、生産性の向上や労働環境の改善を図った中小企業の事業主に対して、取り組みに要した費用の一部を助成する制度です。
ただし助成金を受給するには、数多くの要件を満たし、必要な取り組みを計画的に行う必要があります。なかでも注意すべきなのが、就業規則等の規定です。
取り組みを万全に行っても、必要な規定がされていなくては助成金の対象となりません。規定がされていても、記載内容に不足があり不支給となるケースもあるのです。
この記事では、働き方改革推進支援助成金の申請に必要な就業規則の整備について説明します。
目次
働き方改革推進支援助成金とは
働き方改革推進支援助成金は、その名のとおり国が進める「働き方改革」を推進すべく、企業が生産性を向上させ、労働環境を向上させることを目指して設けられた助成金制度です。
受給には、対象となる要件を満たし、期日までに支給申請を行う必要があります。
働き方改革推進支援助成金の3つのコースについて、詳しくはこちらの記事で解説しています。
もっとも活用されているのは労働時間短縮・年休促進支援コース
働き方改革推進支援助成金(2022年度)には、次の3つのコースが設けられています。
- 1)労働時間短縮・年休促進支援コース
- 2)労働時間適正管理推進コース
- 3)勤務間インターバル導入コース
この中でもっとも活用されているのは、労働時間短縮・年休促進支援コースです。
2020年4月から、中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。労働時間短縮・年休促進支援コースは、これを受け、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の促進に取り組む事業主を対象にしています。
支給対象となる事業主
支給対象となる事業主の要件は、具体的には次の4点です。
- 1)中小企業の事業主であること
- 2)労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 3)交付申請時点で、指定の成果目標にかかる要件を満たしていること
- 4)年5日の年休取得に向けた就業規則等を整備していること
助成金の受給には、成果目標を設定し、達成に向けて取り組む必要があります。
成果目標の設定
「成果目標」には、次の4つのうち1つ以上を設定します。成果目標とする内容は、当然のことながら申請前時点で達成できていないものに限ります。
- 1)次の内容での36協定の締結・届け出
- (ア) 時間外と休日の労働時間を減らす
- (イ) 時間外と休日の労働時間数を、月60時間以下、または月60時間超80時間以下とする
- 2)年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入
- 3)時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入
- 4)次の特別休暇を1つ以上、新たに導入
- 病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇
以上に加え、時間当たりの賃金額を3%以上引き上げることを成果目標に追加し、達成した場合には助成額の加算も受けられます。
助成金の支給対象となる取り組み
上の項で設定した「成果目標」の達成に向けて、次のような取り組みを行う必要があります 。
- 研修(労働管理担当者向け/従業員向け)
- コンサルティング(外部の専門家によるもの)
- 就業規則や労使協定等の作成・変更
- ソフトウエア・機器等の導入
これらの取り組みにかかった費用(対象経費)に対して、助成が受けられます。
助成金の支給額
取り組みにかかった経費が支給の対象となりますが、すべての費用が助成金として支給されるわけではありません。支給されるのは、次のいずれか低い方の金額です。
- 成果目標の上限額と賃金加算額の合計額
- 対象経費の合計額×4分の3(一部条件によっては5分の4)
成果目標の上限額は、それぞれ次のように決められています。
成果目標 | 取り組み | 助成金の上限額 |
1)時間外・休日労働時間数 | 月80時間超→60時間以下 | 150万円 |
月80時間超→80時間以下 | 50万円 | |
月60時間超→60時間以下 | 100万円 | |
2)計画年休 | 年休の計画的付与の規定 | 50万円 |
3)時間単位の年休 | 時間単位の年休の導入 | 25万円 |
4)新規の特別休暇 | 特別休暇の導入 | 25万円 |
賃金加算額は、引き上げ率と人数によって次のように異なります。
引き上げ率/人数 | 3%以上 | 5%以上 |
---|---|---|
1~3人 | 15万円 | 24万円 |
4~6人 | 30万円 | 48万円 |
7~10人 | 50万円 | 80万円 |
11~30人 | 5万円 /1人 | 8万円 /1人 |
上限は30人までとなっています。
労働時間短縮・年休促進支援コースの申請にかかる就業規則の注意点
就業規則は会社内の労使のルールを定めるもので、労働法に則っていれば独自の規定も作成できます。
ただし、助成金の受給には、新たに定めるべき規定や、もともと規定されているべき内容があります。また、規定してあるというだけでなく、規定の導入時期などにも注意が必要です。
年次有給休暇の時季指定について
助成金の交付申請の時点で、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法などを就業規則で定めている必要があります。
時季指定とは、年10日以上の有休が付与される従業員に対し、その有休のうち5日について会社が時季を指定し、確実な取得を促すものです。
これは労働基準法第39条7項に基づくもので、就業規則の絶対的必要記載事項にあたります。どのコースで申請するにも記載は必須であり、ない場合は助成金を受給できません。
年次有給休暇の計画的付与について
助成金の成果目標として年次有給休暇の計画的付与を新たに制度化する場合には、それについて就業規則等に記載する必要があります。
原則として、助成金の受給には、計画的付与の制度について申請前に導入されていない、つまり就業規則等に記載されていないことが条件となっています。
しかし、年次有給休暇の計画的付与についてすでに就業規則に記載がある、たとえば「労使協定により年次有給休暇をあらかじめ指定して取得させることがある」などの文言があるものの、労使協定を締結しておらず実際は運用されていない、といったケースもあるでしょう。その場合には、「年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること」を成果目標とすることができます。
ただしこの場合、運用実態について労働局から確認が入る可能性があります。
時間単位の年次有給休暇制度について
成果目標として、時間単位での年次有給休暇制度の導入を選択する場合は、それについて就業規則等に新たに規定を作成、明記する必要があります。
これも、原則として申請前に就業規則等への記載がされていないことが受給の要件の1つです。
ただし、前項の計画的付与と同様、就業規則に「労使協定により時間単位での有休を取得させることがある」などとしつつ、実際には協定が締結されていない場合には、記載があっても成果目標とすることができます。
記載がなければ交付申請後に明文化する必要があり、そのタイミングにも注意が必要です。
特別休暇制度について
成果目標として、病気休暇やボランティア休暇など、新たな特別休暇制度の導入を選ぶ場合には、それについて就業規則等に新たな記載が必要です。
この項目も、交付申請の時点ですでに就業規則に記載されている場合には支給の対象外となります。交付申請後に規定し、記載する必要があります。明文化するタイミングにも注意が必要です。
このように、まず就業規則で絶対的記載事項とされているものは、助成金申請をする・しないにかかわらず記載しておかなくてはなりません。
助成金の受給に取り組みが必要とされているものは、交付申請の時点では原則として未記載の状態である必要があります。
さらに、記載内容に不足や誤解を生む表現がないかなど、細かな文言にも配慮して作成することが必要です。
ネット上で見つかるひな形を手本に作成した場合、助成金の受給要件を満たせないおそれもあります。社会保険労務士など専門家に作成や監修を依頼することをおすすめします。
助成金の申請時の流れと注意点
働き方改革推進支援助成金の申請は、まず成果目標を設定して「交付申請書」を管轄の労働局に提出し、交付が決定したのちに取り組みを実施、支給申請を行います。
交付申請は2022年11月30日が締め切り、取り組みは2023年1月31日まで、申請期限は、取り組み予定期間の終了日から30日後または2月10日のいずれか早い日となっています。
ただし締め切りは早まる可能性があります。早めの着手をおすすめします。
申請について詳しくはこちらの記事で紹介しています。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
働き方改革推進支援助成金を受けるには、就業規則等も整備しておく必要があります。
就業規則には、助成金の支給申請以前に必要な絶対的記載事項があります。どのコースで申請するにも絶対的記載事項は不可欠です。
また、有休の計画的付与など、成果目標を何にするかによって、事前の記載があっては原則不支給となるものもあるので注意が必要です。
このように、就業規則1つ取っても助成金の取り組みと申請にはさまざまなノウハウが欠かせません。忙しくて手に負えない場合や、現行の就業規則で問題がないかどうか不安という方は、この機会にぜひ助成金のプロである社会保険労務士の活用をご検討ください。
私たちBricks&UKには助成金申請の実績が豊富にあり、就業規則の整備や助成金のスムーズな申請へのお手伝いが可能です。まずはお気軽にご相談ください。
監修者からのコメント 年次有給休暇の計画的付与や時間単位の年次有給休暇制度に関して、厚生労働省のモデル就業規則などを参考に作成していた場合、実際には運用していなくてもすでに文言が入っているからとあきらめていませんか? 就業規則に文言があっても実際には運用されていない場合、労働局に交付申請をする際に申立書(労働局によって異なる可能性あり)を添付することで、成果目標と認められます。 そもそも就業規則に文言があるか分からない、どのように追加すれば良いかなど、お気軽にお問い合わせください。