人材開発支援助成金「人材育成支援コース」申請の流れと注意点を解説

2024.06.17

人材開発支援助成金の人材育成支援コース

従業員に教育訓練を施すには、コストがかかります。必要性を感じていても「実施は難しい」という事業主の方も多いのではないでしょうか。

訓練に要した費用の一部や、訓練期間中に支払った賃金の一部について助成が受けられるのが「人材開発支援助成金」です。中でも「人材育成支援コース」は、雇用形態を問わず、幅広い訓練が助成の対象となっています。

この記事では、人材開発支援金の「人材育成支援コース」について、支給されるための要件や申請の流れ、注意点を解説します。

人材開発支援助成金とは

人材開発支援助成金は、従業員に仕事に関連する専門知識や技能を習得させる訓練を行った事業主を対象とする助成金です。訓練費用や期間中の賃金への助成、訓練のための休暇付与制度の新設などによる助成もあります。

令和6年4月現在、運用されているのは次のコースです。

  • 人材育成支援コース
  • 教育訓練休暇等付与コース
  • 人への投資促進コース
  • 事業展開等リスキリング支援コース
  • 建設労働者認定訓練コース
  • 建設労働者技能実習コース

この記事では、「人材育成支援コース」について解説します。

人材育成支援コースとは

人材育成コースは、人材開発支援助成金にもともと設けられていた3つのコース(特定訓練コース、一般訓練コース、特別育成訓練コース)が1つに統合されたものです。

1つのコースに統合されたものの、助成は次の3種に分かれています。

  • 人材育成訓練
  • 認定実習併用職業訓練
  • 有期実習型訓練

1事業主・1事業年度につき最大1000万円を受給できる可能性があり、令和5年4月(計画書提出分)から運用されています。

コースが統合されたことのメリット

統合されたことにより、コースごとに必要だった申請の手続きが不要となっています。また、従前のコースと比べ、次の点でより活用しやすくなっています。

必要な訓練時間の短縮

従前の制度では、OFF-JTの訓練時間が20時間以上でないと助成対象とならないコースがありました。しかし人材育成支援コースでは、訓練種別を問わず10時間以上の訓練で申請が可能になっています。

非正規雇用の除外なし

従前の制度では、有期雇用を対象としたコースは3つのうち1つでした。しかし人材育成支援コースでは、いずれの訓練も有期雇用契約の労働者を対象に含むものとなっています。

助成率・助成額の一部引き上げ

統合前の一般訓練コースでは、中小企業に対する経費助成率が30%、賃金助成額は380円/時でした。統合後の人材育成支援コースでは、経費助成率が45%、賃金助成額は760円/時とそれぞれ引き上げされています。

「賃金要件」と「資格等手当要件」

以前のコースには、売上アップなど「生産性要件」による加算がありましたが、生産性による加算は廃止となりました。しかし、代わりに別の割増助成が設けられています。

賃金の引き上げを行い、次の「賃金要件」あるいは「資格等手当要件」を満たした場合には、加算が受けられます。

加算種別要件
賃金要件訓練終了後の翌日から1年以内に、基本給(毎月決まって支払われる賃金)を5%以上増加
資格等手当要件就業規則等に資格等手当の支払いを規定し、訓練終了後の翌日から1年以内に手当を支払い、賃金を3%以上増加

いずれも、対象者すべての賃金を増加させる必要があります。また、加算分は後日改めて支給申請を行う必要があります。

人材育成支援コースの主な要件と助成額

人材育成支援コースは、前述のとおり訓練によって3つの種類に分かれています。

訓練種別訓練の主な目的・手段等
人材育成訓練・職務知識や技能を習得させる訓練
・10時間以上のOFF-JT
認定実習併用職業訓練・中核人材を育てる訓練
・厚労省の認定を受けた訓練
・OJTとOFF-JTの組み合わせ
有期実習型訓練・正社員化を目的とする訓練
・OJTとOFF-JTの組み合わせ

人材育成コースの助成には、要した費用の一部を助成する「経費助成」と、支払った賃金額に対する「賃金助成」、OJTを実施した場合の「OJT実施助成」(人材育成訓練を除く)があります。

「人材育成訓練」の要件と助成内容

人材育成訓練の要件と助成内容

「人材育成訓練」では、仕事に関係する専門知識や技能を習得させるためのOFF-JT訓練に対して助成金が支給されます。

主な要件

人材育成訓練の受給には、次のような要件があります。

  • 職務に関連した知識・技術を習得する訓練であること
  • OFF-JTによる訓練であること
  • 実質的な訓練時間が10時間以上であること
  • 対象者の訓練受講時間が上記時間の8割以上であること

OFF-JTであればよく、事業内訓練か事業外訓練は問われません。

助成額・助成率

人材育成訓練では、経費に対する助成と賃金に対する助成があります。

経費に対する助成率は、対象者の雇用形態により異なります。

経費助成助成率賃金要件・資格等手当要件を満たす場合
雇用保険被保険者
(正規雇用)
45%
(30%)
60%
(45%)
有期契約労働者等60%75%
正規雇用への転換70%100%
※カッコ内は中小企業以外の場合

賃金助成は雇用形態を問わず一律です。

賃金助成助成額
(1人あたり)
賃金要件・資格等手当要件を満たす場合
雇用形態等を問わず760円/時
(380円)
960円
(480円)
※カッコ内は中小企業以外の場合

eラーニングや通信制の訓練、育休中の訓練などについては、経費助成のみが対象となります。

「認定実習併用職業訓練」の要件と助成内容

人材開発支援助成金の認定実習併用職業訓練

「認定実習併用職業訓練」では、厚生労働大臣の認定を受けた実践的な訓練が対象となります。

主な要件

認定実習併用職業訓練による受給には、主に次のような要件があります。

  • 厚生労働大臣の認定を受けた訓練であること
  • 対象労働者が15歳以上45歳未満であること
  • OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練であること
  • OFF-JTの受講時間が実訓練時間の8割以上であること
  • OJTの受講時間がOJTの実訓練時間の8割以上であること

厚生労働大臣の認定を受けるには、「訓練対象者が15歳~45歳」「総訓練時間数のうちOJTの割合が2割以上8割以下」などの要件があります。また、訓練後にはジョブ・カードにより職業能力の評価を実施することも必須です。

すでに雇用保険被保険者となっている人だけでなく、新たに雇い入れた人(雇い入れから3カ月以内に訓練開始)も対象です。

助成額・助成率

認定実習併用職業訓練の助成内容は次のとおりです。

助成の種類助成率・ 助成額
(1人あたり)
賃金要件・資格等手当要件を満たす場合
経費助成45%
(30%)
60%
(45%)
賃金助成760円
(380円)
960円
(480円)
OJT実施助成20万円
(11万円)
25万円
(14万円)
※カッコ内は中小企業以外の場合

eラーニングや通信制の訓練、育休中の訓練などについては、経費助成のみが対象となります。

「有期実習型訓練」の要件と助成内容

人材育成支援コース「有期実習型訓練」

有期実習型訓練は、有期契約労働者等を正規雇用に転換する目的で訓練を行った場合に助成の対象となります。

主な要件

有期実習型訓練には、職務に関連した知識・技術を習得する訓練であることのほか、主に次のような要件があります。

  • OJTとOFF-JTを効果的に組み合わせた訓練であること
  • OFF-JTの実訓練時間が10時間以上であること
  • 訓練実施期間が2カ月以上であること
  • 総訓練時間が6カ月あたり425時間以上であること
  • OJTの割合が総訓練時間の1割以上9割以下であること
  • 正社員化を前提に雇われた者でないこと

また、有期実習型訓練では、訓練前にキャリアコンサルティングを受け、必要性を認められなくてはなりません。訓練終了後には、ジョブ・カードによる職業能力の評価を行う必要もあります。

助成額・助成率

有期実習型訓練の助成額は、経費助成・賃金助成に加え、OJTの実施にかかる助成もあります。

助成の種類助成率・ 助成額
(1人あたり)
賃金要件・資格等手当要件を満たす場合
経費助成有期雇用:60%
正社員化:70%
有期雇用:75%
正社員化:100%
賃金助成760円
(380円)
960円
(480円)
OJT実施助成10万円
(9万円)
13万円
(12万円)
※カッコ内は中小企業以外の場合

eラーニングや通信制の訓練、育休中の訓練などについては、経費助成のみが対象となります。

有期実習型訓練では、対象者を新しく雇う場合は「基本型」、すでに雇用している従業員を対象とする場合には「キャリアアップ型」での申請となります。申請方法の違いはありますが、助成内容に違いはありません。

人材育成支援コースを申請する流れ

人材育成支援コースの申請の流れ

人材育成支援コースの申請は、次のように進めていきます。

  1. 職業能力開発推進者の選出
  2. (認定実習併用職業訓練のみ)厚労大臣による認定
  3. 訓練計画の作成・届出
  4. (有期実習型訓練のみ)キャリアコンサルティング
  5. 訓練の実施
  6. 職業能力の評価
  7. 支給申請書の提出
  8. 支給決定
  9. 割増助成分の申請

それぞれ説明します。

1.職業能力開発推進者の選出

まずは、「職業能力開発推進者」を1人以上選びます。この推進者が中心となり、職業能力開発の取り組みを進めていきます。具体的には、事業内職業能力開発計画の作成や、能力開発に関する相談・指導などを行います。

労務・人事担当部署の役職者などから選出するのが一般的です。

2.訓練計画の作成・届出

職業能力開発推進者を中心として、事業内職業能力開発計画を作ります。計画は、計画届や他の必要書類とともに、訓練開始日の1カ月前までに労働局に提出します。

たとえば訓練開始日が9/30の場合、計画届の提出期限は8/30です。
有期実習型訓練のキャリアアップ型の場合、計画の届出前にキャリアコンサルティングを行います。

3.(有期実習型訓練のみ)キャリアコンサルティング

有期実習型訓練では、訓練の実施前にジョブ・カード作成アドバイザーなどによるキャリアコンサルティング(面接)を受けます。

面接のタイミングは、対象者によって次のように異なります。

種別面接のタイミング
「基本型」
(新規雇用の従業員)
訓練実施計画届の提出後、訓練を始める前
「キャリアアップ型」
(既雇用の従業員)
訓練計画の作成後、労働局への提出前

面接の内容は、訓練カリキュラムに照らして、訓練の必要性があるかどうか、助成対象となるかどうかなどを確認するものです。

4.(認定実習併用職業訓練のみ)厚生労働大臣による認定

認定実習併用職業訓練の場合、訓練が「実習併用職業訓練」であるという厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。訓練開始日の30日前までに、労働局かハローワークに提出します。

この認定申請については、確認に時間がかかるとの理由から、早期の申請が呼びかけられています。申請は1~3月に集中するため、その時期は特に注意が必要です。

ただ、大臣認定がされたからといって、人材開発支援助成金の支給が決定するわけではありません。他の要件を満たさなければ不支給となります。

5.訓練の実施

計画に沿って訓練を行います。支給申請に必要な書類も確認し、経費については領収書なども保管します。

当初の計画から変更する場合には、計画の変更届が必要になります。

6.職業能力の評価

認定実習併用職業訓練と有期実習型訓練の場合は、訓練の終了後に、ジョブ・カードによる職業能力の評価を行う必要もあります。

評価には、ジョブ・カード様式3-3-1-1「職業能力証明(訓練成果・実務成果)シート(企業実習・OJT用)」を用います。

7.支給申請書の提出

訓練が終了したら、終了日の翌日から2カ月以内に必要書類を揃えて申請しなくてはなりません。必要書類は訓練により異なりますが、主に次のようなものです。

  • 人材開発支援助成金 支給申請書(様式第4号)
  • 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
  • 支払い方法・受取人住所届(通帳の写し等を添付)
  • 賃金助成およびOJT実施助成の内訳(様式第5号)
  • 経費助成の内訳(様式第6号)
  • OFF-JT実施状況報告書(様式第8-1号)
  • 支給申請承諾書(事業外訓練実施者)(様式第12号)

このほか、添付書類として次のような書類も提出します。

・経費の振込通知書・領収書など
・賃金台帳又は給料明細書(写)
・雇用契約書又は労働条件通知書(写)
 ※計画届提出時から雇用契約内容に変更があった場合
・就業規則、賃金規定、シフト表など(写)
・出勤簿、タイムカードなど(写)

訓練内容などによっては、これ以外の書類も必要となります。

8.支給決定

提出した書類をもとに、労働局で審査が行われます。支給が決定すれば、「支給決定通知書」が届きます。要件を満たしていなかったり、不正受給と見なされたりした場合には、「不支給決定通知書」で知らされます。

人材開発支援金の審査については、確認事項が多いため、他の助成金よりも時間がかかるとされています。それを踏まえた資金繰りを行うことも必要です。

人材育成支援コースの注意点

人材開発支援助成金の人材育成支援コースの申請の注意点

人材育成支援コースの申請には、事前に支給要件をよく確認し、取り組み内容や提出書類に漏れがないよう注意しなくてはなりません。中でも特に、次の点に注意が必要です。

  • 訓練費用は支給申請より前の支払いが必須
  • 有期実習型訓練は手続きの流れに要注意
  • 計画の変更には「計画変更届」の提出が必須
  • 変更届に提出期限があることにも注意

それぞれ説明します。

訓練費用は支給申請より前の支払いが必須

訓練費用の支払い確認

助成金は、実際に払った費用に対して支給されるものです。そのため、支給申請より前に必要な費用の支払いを済ませなくてはなりません。

しかも、訓練に要した全額の支払いが完了している必要があります。クレジットカード払いの場合など、実際の支払いがまだされていなければ対象外となります。

また、経費の一部を従業員に負担させた場合にも受給できないので注意が必要です。

有期実習型訓練は手続きの流れに要注意

人材育成支援コースの有期実習型訓練で行われるキャリア・コンサルティング

有期実習型訓練では、「基本型」も「キャリアアップ型」もジョブ・カード作成アドバイザーによるキャリアコンサルティングを受ける必要があります。

ただし、申請の流れで説明したとおり、基本型とキャリアアップ型では面接のタイミングが異なります。基本型は実施計画書の提出後ですが、キャリアアップ型は計画書の提出前に面接を受けます。

そのため、基本型・キャリアアップ型の両方を申請する場合には、訓練実施計画届を別々に作成しなくてはなりません。

計画の変更には「計画変更届」の提出が必須

計画変更届の提出

助成金の受給には、提出した計画に沿った訓練を行う必要があり、計画を変更した場合には、変更届を提出しなくてはなりません。
変更届が必要となるのは、主に次のような事柄の変更です。

  • 訓練内容(対象職務、訓練科目など)
  • 訓練実施予定日時・期間・総時間数
  • 訓練の実施場所・実施方法
  • OFF-JTの訓練講師やOJTの訓練指導者
  • OFF-JTを実施する教育訓練機関
  • 訓練コースの名称
  • 受講予定人数の増加
  • 訓練終了後の正規雇用転換などについての基準

変更届を出さないと、変更部分については支給対象外となってしまいます。訓練時間や受講者数・氏名、実施場所などの変更は、必ず事前に届け出る必要があります。

変更届にも提出期限があることに要注意

計画変更届の提出期限

計画変更届の提出にも、期限があります。やむを得ない理由でない限り、変更前の訓練実施予定日または変更後の訓練実施日の「いずれか早い方の前日まで」が期限となっています。

たとえば8/1に実施予定の訓練があるとして、実施日を8/15に変更する場合は7/31までに、7/20に変更する場合は7/19までに変更届を出さなければなりません。

対象者のケガや天災などやむを得ない場合は、変更後の訓練実施日の翌日から7日以内が変更届の提出期限です。

助成金の申請はBricks&UKにおまかせ

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人材開発支援助成金の中の複数のコースが統合された「人材育成支援コース」は、従業員の業務に必要な知識と技能を習得させ、その費用を全額負担した事業主が受給できる助成金です。

行う訓練の種類や内容、対象とする従業員の雇用形態などによって異なる3種類の助成があります。事前にキャリアコンサルティングや厚生労働大臣の認定が必要なケースもあるため、支給には要件などをしっかりと把握しなくてはなりません。

当サイトを運営する「Bricks&UK」は、助成金の申請実績も豊富な社会保険労務士事務所です。貴社に合った助成金のご提案や、受給の可否に直結する就業規則の整備などからお役に立てます。ぜひお気軽にご相談ください。

監修者からのコメント 人材育成支援コースは多くの会社で活用されている助成金の一つです。 申請の際に「事業内職業能力開発計画」を作成して提出するのが特徴で、初めてこの計画を作成する場合はどのように作成すればよいのか戸惑うことがあるかもしれません。 弊社では事業内職業能力開発計画の申請サポートも行っております。ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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