キャリアアップ助成金正社員化コース、令和4年10月以降の注意点

2023.03.28

キャリアアップ助成金令和4年10月からの改正点

非正規雇用労働者を正社員化した事業主が対象の「キャリアアップ助成金 正社員化コース」は、活用する企業が多い人気の助成金の1つです。

従業員1人を有期雇用から正社員化した場合には最大57万円、派遣社員を直接雇用の正社員とすれば最大85.5万円が受給できます。

助成金の制度は幾度も改正が行われており、このキャリアアップ助成金正社員化コースについても、令和4年10月以降、支給要件などが変更となっています。

この記事では、令和4年10月以降のキャリアアップ助成金正社員化コースについて、変更前との違いや注意すべき点を解説します。

キャリアアップ助成金正社員化コースとは

キャリアアップ助成金の正社員コースとは

キャリアアップ助成金は、有期雇用や短時間労働など、いわゆる非正規雇用の労働者に対し、そのキャリアアップを推進し、処遇改善を行った事業主を助成するものです。

正社員化コースは、文字どおり従業員を非正規雇用から正規雇用に転換した場合に支給されます。社員がなかなか定着しない、人手が足りないなどで困っている場合にぜひ活用したい助成金です。

助成金の支給額は、正規雇用に転換する前の雇用形態が有期雇用だったか無期雇用だったかなどにより異なります。支給対象となる事業主や従業員の要件、支給額などについては、こちらの記事で解説しています。

【!】この助成金に設けられていた生産性の向上による支給金額の加算については、令和5年3月31日をもって廃止されます。
事業主の皆さまへ(生産性要件の廃止について)|厚生労働省

令和4年10月1日改正以降の正社員化コース

令和4年10月以降、正社員コースにも複数の改正がありました。何がどう変わったのか、5つのポイントを順に解説します。

正規雇用労働者の定義の変更

キャリアアップ助成金の正規雇用労働者の定義変更

転換後に「正規雇用労働者」と認められる条件について、次の2つの変更がありました。

  • 賞与か退職金いずれかの制度かつ昇給の適用が必要
  • 正規雇用の試用期間中である者の転換は対象外

それぞれについて解説します。

賞与あるいは退職金、および昇給の適用

キャリアアップ助成金の正社員化コースの正社員要件

以前の制度では、正規雇用労働者とは「同一事業所内の正規雇用労働者を対象とした就業規則が適用される労働者」という表現のみでした。

改正によって、さらに「賞与または退職金」の制度と「昇給」の両方があることも、正規雇用労働者としての要件に加わりました。

賞与については、原則として支給することを明確にしなくてはなりません。昇給については、見送りや降給などの可能性がある場合、「必要と判断した場合」などといった不明瞭な理由でなく、客観的な基準を示す規定があれば支給対象となります。

正規雇用前提でも試用期間中は対象外

以前は、正規雇用を前提とした試用期間中の場合、正社員と同じ待遇がされていない場合のみ、正規雇用労働者とは見なされないこととなっていました。

しかしこの改正で、試用期間中の待遇に関係なく、正社員前提の試用期間中の場合はすべて正規雇用とは見なされず、無期雇用の労働者と見なされます。

そのため、正規雇用に転換したといっても転換後に一定の試用期間を設けた場合、「有期雇用→正規雇用」の転換でなく「無期雇用→正規雇用」の転換と見なされ、支給額が前者のケースより低くなることに注意が必要です。

対象となる労働者にかかる要件も変更

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

正社員化コースの対象は、非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換に限られます。この「非正規雇用労働者」と判断される要件も、次の3つのポイントで変更となっています。

  • 正社員と異なる賃金の額や計算方法を定めることが必要
  • 就業規則等に「正社員」「契約社員」「パート」を区別した規定がある
  • 契約期間の規定がなければ「無期雇用労働者」の扱いになる

それぞれについて見ていきましょう。

正社員と異なる賃金の額または計算方法

キャリアアップ助成金正社員化コースの変更点

改正以前は、支給の対象とした非正規雇用労働者は、その企業に「6カ月以上雇用されている有期雇用あるいは無期雇用労働者」であることが条件でした。

改正後は、有期あるいは無期雇用かつ、賃金の額やその計算方法について正社員とは異なる就業規則等が適用されている期間が6カ月以上あることが必要です。

たとえば、正社員と契約社員とで基本給の額が異なる、昇給率が異なるなど、正社員と異なる賃金待遇で雇用した期間が6カ月以上ある場合に対象となります。

就業規則等での雇用区分の規定

キャリアアップ助成金正社員化コースの変更点

前項でいう「正社員と異なる賃金の額や計算方法」を適用していることを証明するには、雇用区分も明らかにして規定する必要があります。

たとえば、就業規則等に「適用範囲」などの条文で「契約社員の就業については別に定める」とし、雇用区分別の就業規則等を作れば、正社員とは異なることが明らかです。

もしくは、同一の就業規則内でも「雇用形態」などの条文で「正社員」「契約社員」「パート」などそれぞれの定義を示し、規定を区別することでも支給対象となり得ます。

「有期雇用労働者」には契約期間の規定が必須

キャリアアップ助成金正社員化コースの変更点

有期雇用の従業員を正社員化する場合、その従業員が有期雇用であったかどうかを示すには、就業規則等で契約期間を定める必要があります。

就業規則等に定めていない場合、雇用契約書上で「有期雇用労働者」としていても、この助成金では無期雇用労働者と見なされてしまいます。


このように、改正後はさまざまな点において就業規則等への記載内容が重要となっています。また、記載されているかどうかだけでなく、その通りに運用されているかも審査のポイントです。

助成金の受給を見据えた就業規則変更の注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

キャリアアップ助成金 正社員化コースの受給のカギとなる就業規則。助成金を受けるには、正社員への転換を実施する前に就業規則を見直し、必要であれば内容を変更しておかなくてはなりません。

ここでは、助成金の受給を見据えた就業規則の注意点を解説します。

賞与または退職金制度を記載するときの注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

賞与または退職金制度を設ける場合、正社員に適用されるものであることがわかるように明記し、賞与であれば支給月や回数など、退職金制度であれば支給基準を具体的に規定する必要があります。

また、賞与については、支給することが原則でなくてはなりません。たとえば「業績によっては支給しないことがある」と記載するのはよいですが、「業績によって支給することがある」では助成金の対象となりません。会社の業績で支給の有無が決まる「決算賞与」も対象外です。

退職金の場合は、制度が適用となる従業員の範囲や支給要件、金額の計算方法や支払い方法、支払い時期を記載することが労基法でも義務付けられています。

退職金制度として使われることもある個人型確定拠出年金(iDeCo)は、本人が主体となって加入するため対象となりません。

昇給について記載するときの注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

正社員化コースでは、転換後の昇給も義務付けられました。昇給についても、賞与又は退職金と同じく、正社員であれば適用されることがわかるように、就業規則に明示しておく必要があります。

また、昇給のタイミングや昇給率など具体的な実施基準を設ける必要もあります。たとえば、「昇給時期は毎年7月とする」といった書き方がよいでしょう。

ただし、限定的な書き方にしすぎると経営状況によって苦しくなることも。
そのため条文には、「業績低下その他やむを得ない事由がある場合はこの限りでない」などの但し書きを加えておくのが一般的です。

試用期間についての注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

前の章でも説明したとおり、正社員への転換を行った後に試用期間を設けた場合、その試用期間中は正社員とは見なされません。

そのため、正社員への転換をするかどうかは、試用期間ではなく、非正規で雇用していた間の業務態度や能力などで判断することが推奨されます。

正社員への転換後に試用期間を設ける場合、有期雇用からの転換ではなく無期雇用からの転換となるため、支給額が少なくなります。

また、試用期間の最終日の翌日に転換が実施されたものと見なされるため、賃金の比較もその日を起点とした前後6カ月でなされます。申請期間もずれることになるので注意してください。

非正規雇用労働者の定義についての注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

非正規雇用労働者については、就業規則の中に賃金の額やその計算方法が正規雇用とは異なることを明示する必要があります。

それにはまず、就業規則内での雇用形態の明確な区別や適用範囲の明示が必須です。また、雇用期間も「アルバイトの雇用契約期間は1年以内とし、個別に定める」などのように規定して明記しなければ、有期雇用とは見なされません。

正社員用の就業規則のほかに契約社員やパートなど雇用形態で分けた就業規則を作っておくとよいでしょう。もしくは、同一の就業規則内でも適用範囲を条文で明確にし、雇用形態による賃金額や計算方法の違いが客観的にわかるようにしておく方法もあります。

ちなみに正規・非正規雇用の賃金額や計算方法の違いとは、基本給や各種手当の違い、昇給の有無や給与形態(月給制、年俸制など)の違いでも問題ありません。

変更した就業規則の適用時期についての注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

上の項の非正規雇用労働者については、正社員と異なる賃金体制での6カ月間の雇用も必須です。そのため、正社員化するより6カ月以上前に就業規則等を変更しておかなくてはなりません。

「雇用して6カ月は経ったけれども、支給要件に合った就業規則に変更したのは3カ月前」という場合は、就業規則を変更してから6カ月間の雇用を経て正規雇用への転換をしなくてはなりません。

また、正社員コースを申請するには、転換した従業員に正規雇用労働者としての6カ月分の賃金を支給、その支給日の翌日から2カ月以内が申請期間となります。

キャリアアップ助成金 正社員化コース申請時のポイント

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

最後に、改正されたキャリアアップ助成金の正社員化コースの受給にあたり、申請手続きで注意すべきポイントも見ておきましょう。

対象労働者が要件を満たすことを確認

キャリアアップ助成金正社員化コースのチェックポイント

この記事で紹介した非正規雇用労働者の定義は、令和4年10月1日以降の正社員化に適用されるものです。

該当する場合は、賃金額などが正社員とは異なる区分で6カ月以上雇用された後に正社員化され、同じ事業所内の他の正社員と同じ就業規則の適用がされているか、賞与または退職金の制度も適用されているか、昇給も対象となっているかなど、対象となる要件を確実に満たしていることを確認してください。

1つでも要件を満たしていなければ不支給となってしまいます。

雇用契約書の記載内容にも要注意

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

制度の改正では、就業規則等の内容とその履行に重きが置かれています。しかし、支給審査で見られるのは就業規則だけではありません。

見落としがちなのが、雇用契約書です。就業規則に沿った契約となっているかはもちろん、雇用期間や試用期間の定めなど、不支給とされる条件に当てはまっていないかを確認してください。

変更した就業規則は早めに届出

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

就業規則は、労働基準監督署への届出を持って有効となります。助成金の受給には、有効な就業規則において正社員への転換ルールの記載があることが必須です。

就業規則にその記載がない場合は、正社員への転換ルールについての条件や時期などを明記し、変更したら速やかに労基署への届出をしてください。

ちなみに、届出には就業規則を2部用意します。受理印を受け、1部は監督署、1部は会社が保管します。就業規則の届出義務は10人以上の事業所となっていますので、10人未満の事業所であれば「就業規則申立書(周知の申立書)」で代用することも可能です。

キャリアアップ助成金申請に関するその他の注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点

キャリアアップ助成金正社員化コースの申請には、他にも注意しておきたいことがあります。

支給申請手続きは日にちの余裕をもって行う

支給申請の手続きは、期限より前に余裕をもって行いましょう。書類の不足・不備があった場合、再提出などが必要です。そのために期限を過ぎてしまえば、支給申請はできなくなります。

帳簿は5年間の保管義務を守る必要がある

支給申請に要した書類は確実に保管しておきましょう。申請後5年間は保存しておくことが義務付けられています。

受給したからと言って油断は禁物です。支給後に審査に入られる可能性もあり、その際に書類が破棄などされていれば、場合によっては受給額の返還を求められる恐れもあります。

支給の審査に協力しなければ不支給となる

申請書類の提出後、何らかの疑問があるとして、労働局から期日指定のうえ追加書類の提出を求められたり、書類の修正が必要となったりすることがあります。

助成金の支給要件の中に、審査に協力する旨が含まれています。提出期日を守らなかったりした場合には、不支給の決定が下ることとなります。

いったん提出した申請書類の変更・訂正は不可

一度提出した書類について、申請者側の都合で書類を差し替えたり訂正したりすることはできません。

後から不備などに気づいたり、確認が必要となったりすることのないよう、申請前に必ず確認をしておきましょう。

現在はとくに、労働局も助成金の不正受給には目を光らせています。しっかりと確認のうえ、適正な手続きを取ってください。

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化・処遇改善を実施した事業主に対して支給されるものです。

中でも正社員化コースでは、正社員化を図るとともに特定の訓練を実施した場合に助成が受けられるおすすめの助成金です。

令和4年10月の制度改正では、労働者区分の定義や労働者要件の見直しなどが行われました。申請にあたっては細心の注意が必要であり、就業規則の変更が必要となるケースもあるでしょう。

助成金の申請には、要件を満たすために時間も労力もかかるものです。最新情報や手続きに必要な書類、その書き方などは専門家である社会保険労務士が最もよくわかっています。就業規則の整備の仕方にも細心の注意が必要です。ぜひ一度ご相談ください。

監修者からのコメント 今回のキャリアップ助成金の改正は、令和4年10月1日以降に正社員転換する分から対象となります。すなわち、令和5年4月以降に申請する分から対象となり得ます。 特に正社員転換時の試用期間の適用には注意が必要です。もし試用期間が適用されている場合には、試用期間が明けてから正社員転換したとみなされてしまいます。 その場合、申請期間が変わるだけでなく、昇給金額によっては賃金の3%アップが達成できなくなる可能性があります。 弊社ではキャリアップ助成金の申請代行を行っておりますが、就業規則が令和4年10月1日改正要件を満たしていないケースが多くみられます。 申請する前に、今一度就業規則の内容をチェックしましょう。 ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。

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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。

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