キャリアアップ助成金とは?コース別に解説します

2021.04.01

2023.04.24

キャリアアップが適った女性

キャリアアップ助成金とは、正社員以外のいわゆる非正規雇用労働者等に対し、待遇の改善を行う企業のための助成金です。取り組み内容によって異なる、いくつかのコースがあります。

その中で最もポピュラーなものが正社員化コースです。これは、非正規雇用労働者を正規雇用労働者へ転換させた場合に受給できるものです。受給にはいくつかの要件がありますが、受給額が比較的高く申請方法もシンプルなため、数多くの企業で活用されています。

キャリアアップ助成金の概要

助成金の概要

キャリアアップ助成金とは、正規雇用労働者以外の非正規雇用労働者(パート、契約社員、派遣社員など)のキャリアアップを促進し、正社員化を図ることを目的とする制度です。

この助成金の最大の目的は、正規雇用労働者を増やすことです。そして、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との処遇格差の是正も目的としています。そのため、この助成金のどのコースにおいても、就業規則にその点に関する規定を盛り込んでおく必要があります。

キャリアアップ助成金をコースごとに解説

助成金を解説する人

正社員化コース

正社員化コースは、その名のとおり非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換させた場合に受給できる助成金です。

具体的には、

  • 6カ月以上非正規雇用労働者として働く従業員を、
  • 正規雇用労働者に転換させ、
  • 正規雇用労働者として継続して6カ月以上雇用し、
  • 当該労働者に対して6カ月分の賃金を支払った場合

に支給の対象となります。

また、非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換後6カ月間の賃金の総額を、転換前より3%以上増やすことも必要です。

受給の手続きは、正規雇用への転換後に6カ月分の賃金を支給した翌日から起算して2カ月以内に申請する必要があります。受給額は、有期雇用を正規雇用とした場合で57万円です。

健康診断制度コース

※健康診断制度コースは令和4年3月31日をもって終了しました

健康診断イメージ

このコースは、非正規雇用労働者等に対し、法定項目以上(法定外)の健康診断を受けさせることを就業規則に新たに規定し、のべ4人以上に実施することで助成が受けられます。

この「のべ」のとらえ方が少しわかりにくいのですが、たとえば対象労働者が4名いた場合は、一度に4名に受診させることで要件を満たします。

対象者が1名しかいない場合、健康診断は通常1年に1回なので要件を満たすのに4年、対象者が2名の場合は2年かかるということです。受給金額は38万円です。

賃金規定等改定コース

賃金の増額改定イメージ

非正規雇用労働者に関する賃金規定を作成している事業主のうち、すべての非正規雇用労働者、または雇用形態別や職種別など一部の非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定した場合に支給されます。

助成額は、企業規模によって3万円代から6万円代まで設定されています。また、職務評価を実施することでも別途加算されます。

これらの取り組みをすべて実施すれば受給額は大きくなりますが、中小・零細企業にとって賃金規定の作成や職務評価の実施はなかなか困難です。

さらには、対象となる非正規雇用労働者は改定前3カ月、改定後6カ月以上継続して雇用されている必要があります。基本給を3%増加した場合には、その賃金水準を維持しなければならないことから、この助成金を得るために新たに非正規雇用労働者の賃金規定を作成するのは現実的でないと言えるでしょう。

賃金規定等共通化コース

助成金の支給対象となる公平な措置イメージ

このコースは、就業規則または労働協約にもとづき、非正規雇用労働者に対して正規雇用労働者と共通の職務に応じた賃金規定を新たに作成・運用した事業主に助成金が支給される制度です。受給額は中小企業の場合、60万円です。

このコースでは、正社員の賃金規定をすでに導入済み、あるいは有期雇用を対象として新たに設ける賃金規定と同時に導入している必要があります。

対象となる非正規雇用労働者は、改定前の3カ月、および改定後の賃金規定を適用した期間が6カ月以上ある状態で雇用されている必要があります。

賃金規定がない場合は新規作成も視野に

現時点で賃金規定が存在していない企業でも、新たに作成することには助成金以外にもメリットがあります。

賃金規定は、職務の難易度に応じて等級を定め、その等級に応じて賃金が決まるものです。多くの企業では、人事評価制度とリンクさせています。

従業員数が多く、職務が細分化されている中堅・大企業で運用されていることが多いのですが、1人ひとりの職務範囲が明確でなく従業員数も少ない中小企業の場合は、運用が難しい側面もあります。

しかし、従業員の処遇を客観的な形で決めるには、賃金規定の作成は効率的なステップです。特に、今後従業員の増員を視野に入れているなら、早い段階で制度を整えておく必要があります。

賞与・退職金制度導入コース

諸手当の共通制度で喜ぶ非正規雇用労働者

この制度は、就業規則または労働協約の規定により、非正規雇用労働者に対し賞与・退職金制度を新たに設けた企業を対象としています。

対象となる手当には、次のようなものがあります。

  • 賞与(6カ月相当分として5万円以上)
  • 退職金
    (1カ月分相当として3,000円以上を6カ月分または6カ月分相当として18,000円以上積み立て)

受給額は賞与または退職金どちらかを導入した場合は40万円、両方導入した場合は56 万8000 円と多くはありませんが、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇格差是正に取り組む企業には、実施しやすいものと言えます。

このコースも、共通化前3カ月、および共通化後6カ月の雇用実績が必要です。

選択的適用拡大導入時処遇改善コース

※選択的適用拡大導入時処遇改善コースは令和4年3月31日をもって終了しました

社会保険加入イメージ

このコースは、社会保険の適用拡大を実施する事業主を対象としています。非正規雇用労働者に社会保険の制度の概要やメリットを説明した上、新たに社会保険に加入させた場合に助成金が支給されます。

対象の労働者は、適用拡大を実施した日の前日から起算して3カ月以上雇用していて、かつ過去2年以内に社会保険に未加入だった人です。

支給額は19万円ですが、2%以上の賃上げを実施することにより、対象労働者1人につき19,000円~132,000円の助成額の加算を受けることができます。

社会保険への新規加入が条件となるため、タイミングが合わなければ難しい制度ですが、非正規雇用労働者の社会保険加入を検討している企業であれば検討してみてはいかがでしょうか。

短時間労働者労働時間延長コース

労働時間イメージ

これは、短時間労働者の週の所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に加入させた場合に受給することができるコースです。

受給額は1人につき23万7000円で、最大45名まで対象となります。

延長した時間が1時間以上3時間未満でも、労働者の手取り収入が減少しないよう同時に基本給を増額し、新たに社会保険に加入させた場合は、1人あたり5万8000円から11万7000円までの助成があります。金額は、延長した労働時間によって異なります。

キャリアアップ助成金は、取り組むタイミングが合えばメリットが大きいものですので、ぜひ活用することをおすすめします。

とはいえ、改善した処遇は継続する必要もありますし、助成金を受給するために安易に就業規則や労働協約を変更する、賃上げを行うといったことはおすすめできません。

助成金の受給に必要な「キャリアアップ計画」

キャリアアップ計画を立てる人

キャリアアップ計画とは

待遇改善などの取り組みを実施して助成金を受けるには、まずキャリアアップ計画を策定しなくてはなりません。

キャリアアップ計画とは、非正規雇用労働者のキャリアアップをどのように進めていくか、大まかな取り組みのイメージを決めるものです。

キャリアアップ助成金のすべては、まずこの計画書を提出することから始まります。

キャリアアップ計画の内容

キャリアアップ計画は、決められた様式に沿って記入します(キャリアアップ計画書)。記載する内容は次のとおりです。

キャリアアップ計画書への記入イメージ
  • キャリアアップ管理者情報(氏名・役職・配置日)
  • キャリアアップ管理者の業務内容
  • キャリアアップ計画期間
  • 計画期間中に講じる措置(対象コース)と予定時期
  • 対象者
  • 目標
  • 目標達成のために講じる措置
  • キャリアアップ計画の全体の流れ

計画期間は、3年から5年の間で設定します。取り組みはその期間内に実施する必要があります。

キャリアアップ計画の目標を記入する欄には、たとえば対象者を正規雇用労働者などに転換することを書くとしましょう。

その達成のために講じる措置には、教育訓練でのスキルアップや面接、試験などを行うことなどが考えられます。

全体の流れには、制度の導入や社内での周知、対象者への説明なども含めた取り組みの流れを記入します。

キャリアアップ計画様式(キャリアアップ助成金)|厚生労働省

キャリアアップ助成金【正社員化コース】の要件と留意事項

助成金の要件チェック

それでは、申請件数や受給額の最も多い正社員化コースについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

対象事業主と対象労働者

助成金の対象となる事業主

正社員化コースで対象となる事業主は、契約社員やアルバイトといった非正規雇用労働者を、正規雇用に転換した事業主です。前提として、雇用保険の適用事業所の事業主である必要があります。

対象となる労働者は、雇用保険の被保険者で、当該の事業主に継続して6カ月以上雇用されている非正規雇用労働者です。

支給要件と申請時期

正社員コースの助成金の受給には、非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換させるだけでなく、賃金を3%以上増額しなくてはなりません。

3%以上の増額に値するかどうかは、転換前6カ月間の賃金と転換後6カ月間の賃金の総額で比較されます。

労働契約を非正規雇用から正規雇用に転換して6カ月分の賃金を支払い継続で雇用すれば、その翌日から2カ月以内に支給申請を行うことができます。

受給に関する留意事項

支給申請を行うには、非正規雇用労働者として6カ月、正規雇用労働者として6カ月の雇用で計1年を経る必要があります。支給申請後、受給までにはさらに数カ月を要します。

そのため、新たに雇用した非正規雇用の従業員を正規雇用に転換する予定があるとしても、雇用から受給までには1年以上の時間がかかります。

また、事業所内において過去6カ月以内に会社都合の退職者(いわゆる解雇者)を出している場合は不支給となるので注意してください。

支給額と生産性要件による加算

キャリアアップ助成金の加算イメージ

支給される助成金は、非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換の場合で、1人あたり57万円です。

なお、正社員化コースを含むすべてのキャリアアップ助成金において、生産性が向上したと認められた場合には受給額が増える仕組みがありましたが、令和5年3月31日をもってこの仕組みはキャリアアップ助成金では対象外となりました。

キャリアアップ助成金【正社員化コース】申請の流れ

キャリアアップ助成金の申請手順

キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、次のような流れで申請します。

  • 1)キャリアアップ計画書を作成、都道府県労働局に提出
  • 2)就業規則に正規雇用転換についての規定を追加
  • 3)非正規労働者等を正規雇用に転換(取り組みの実施)
  • 4)転換後6カ月分の賃金を支払う(転換後は賃金を3%以上増額)
  • 5)その翌日から数えて2カ月以内に支給申請

前述のようにまずはキャリアアップ計画書を作成・提出し、その後に計画にもとづいて各助成金コースに合った措置を行います。

取り組み実績を作ったら書類をそろえて申請しますが、期間内に支給申請しなくてはなりません。

助成金の不正受給などを防ぐため、支給の審査は厳密に行われます。要件や支給申請の期限などを確実に守らないと、受給できないおそれもあります。

自社内ですべての準備や手続きを行うのは手間や時間がかかりますし、確実に助成金が受け取れるとは限らないのが難しいところでしょう。

キャリアアップ助成金申請の注意点

キャリアアップ助成金申請についての注意喚起

申請時の注意点について、少し詳しく説明していきます。

矛盾点や事実との相違がないようにする

たとえば、制度や取り組みについては矛盾点や事実との相違がないことが重要です。

審査の過程では、就業規則、雇用契約書(または労働条件通知書)、タイムカードなどの資料の提出が必要です。

労働法の遵守も必須

就業規則と雇用契約書には、労働時間、休憩・休日など労働基準法で定められた規定を確実に盛り込んでいなければなりません。

勤務実態についてはタイムカードなどで確認されます。給与に計算誤りがあった、最低賃金を下回っている、残業代を支払っていなかった、などの実態が判明すれば、未払い分の賃金を追加で支払うこととなるでしょう。

該当する手当としない手当に注意

助成金の支給可否

また、正規雇用転換時の賃金アップについても細かく審査されます。一般的に、賃金には基本給だけでなくさまざまな手当が含まれているものです。

しかし、助成金の支給要件となる3%以上の賃金増額には、通勤手当や住宅手当といった実費を補填するもの、状況によって毎月変動する歩合給や時間外労働手当などは算定に含めることができません。

助成金受給可否の判断は困難

そのため、助成金の対象となるかどうかついては判断が難しいのです。受給の可否や申請の準備から手続きまでの手間や時間を考えると、日々の事業に携わりながら行うのは困難だという人も多いでしょう。

助成金の申請には、専門家である社会保険労務士のサポートを受けるのが得策です。時間や手間を省けるだけでなく、受給成功率を上げられる可能性があります。

助成金が不支給となる事例

具体的にどんな事例で不支給となるのかも知っておきましょう。

歩合給は賃金増額の計算対象とならない

助成金が不支給になった例として、歩合給の性質のある手当を増額させて申請した事業所が、支給の対象外となったケースがあります。

正規雇用労働者に転換した後、給与を増額して支払った6カ月の間に賃金が若干低下した月があったのです。

先にも触れましたが、キャリアアップ助成金の支給対象となる賃金の増額については、基本給など恒常的に支払われる賃金が計算の対象となります。業績や成果により上下する歩合給などは対象となりません。トータルで3%以上の昇給となっていても同じことです。

労働基準法に反した労働契約は不可

給与計算や勤怠管理などを税理士に依頼している会社も多いですが、税理士は税金や会計の専門家であって、賃金や労働法規の専門家ではありません。

税理士が作成した賃金台帳だから問題ないだろう、と申請しようとしたところ、労働時間が異常に長い、時間外給与を支払っていないなどの実態が明らかになったケースもあります。

固定残業代制の誤った運用も不可

また、固定残業代の制度を誤って運用しているケースも問題です。月に数万円の固定残業代を支払っているから問題ないと考えていたものの、実際の労働時間で計算した残業代が固定の額を上回っていた、という事例も多いのです。

一度申請書類を提出してしまうと、よほどのことがない限り修正はできません。事前に点検し、不備のない書類を作成するには、人事労務のエキスパートである社会保険労務士に依頼するのが最も賢い選択だと言えます。

悪質なコンサル会社に注意

助成金申請についての注意喚起

近年、「経営コンサルタント」やマーケティング会社を名乗る人物や業者が、事業主に誤った助成金の申請をすすめる、いわゆる不正受給を指南する事例が発生しており、問題となっています。

着手金やコンサル料などの名目で業者に高額な料金を支払ってしまうだけでなく、自社が不正受給の責任を問われ、社会的信用を失ってしまうという大きなリスクがあります。

また、「厚生労働省から委託を受けた」と装って対象可否の診断や査定などをすすめるケースもあり、政府からも注意喚起がなされています。

本来、社会保険労務士でない民間のコンサルティング会社が助成金制度を提案したり、申請を代行して料金を受け取ったりすることは社会保険労務士法違反です。

社会保険労務士の資格がなければ、労働法や助成金制度についての情報や知識が不確かな可能性も高いです。そういった業者に任せてしまうと、本来は受給できるのに要件を満たさないと判断されてしまうおそれもあるのです。

まとめ

助成金申請についてのポジティブイメージ

助成金には、キャリアアップ助成金だけでなくさまざまな種類が存在します。助成金の種類によって対象や要件、必要書類なども異なりますし、さらに社会情勢によって制度内容が変わることも珍しくありません。

キャリアアップ助成金の申請については、当社Bricks&UKでもサポートを行っております。実績も豊富ですので、安心してお任せください。

監修者からのコメント キャリアアップ助成金(正社員化コース)の正規雇用労働者、非正規雇用労働者の定義が令和4年10月から変更になりました。 就業規則の試用期間や昇給の記載内容に注意が必要です。 当社Bricks&UKでは、助成金の申請に詳しい専門家が常に最新の情報を持ち、要件の変化にも対応してクライアントの皆様をご支援しております。 ぜひ一度ご相談ください。

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