2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制の適用が始まりました。さらに2025年はいわゆる団塊の世代が75歳以上となるため、いわゆるベテラン層が多く引退することが予想されます。
若手人材の雇用や確保、労働環境の改善は必須ですが、手間も費用もかかり、なかなか進められないという企業も多いことでしょう。
この記事では、そんな建設事業主の方におすすめしたい、厚生労働省の助成金を紹介します。助成金の制度は毎年改正などが行われているため、申請には最新情報の把握が必要です。ぜひ参考にしてください。
目次
まずは知っておきたい「助成金」と「補助金」の違い
国から企業にお金が支給される制度には、主に「助成金」と「補助金」があります。共通しているのは、どちらも返済が不要な給付金であるということですが、大きな違いもあります。
助成金と補助金の大きな違いは、支給の対象と受給の難易度です。
補助金の受給にはまず応募企業の中から「採択」される必要がありますが、助成金は要件を満たせば受給できるので、難易度的には助成金の方が受けやすいしくみです。
助成金の対象は雇用の安定・労働環境の改善など
「助成金」は、厚労省が主催する、雇用関連の助成金を指すのが一般的です。労働環境を改善するなどした場合に、助成が受けられます。
主なものに「キャリアアップ助成金」「雇用調整助成金」などがあります。
補助金の対象は事業再構築や生産性向上など
「補助金」は、経産省が主催する、事業の再構築や生産性向上に取り組む企業への補助を指すのが一般的。設備投資を行った場合などに助成が受けられます。
よく知られているのは「事業再構築補助金」「IT導入補助金」「ものづくり補助金」などです。
この記事では、厚労省による助成金のうち、特に建築業におすすめの制度を紹介します。
建設業に助成金活用をおすすめする理由
建設業の助成金活用をおすすめするのには、次の2つの背景があります。
- 2024年問題(時間外労働の上限規制の適用開始)
- 2025年問題(団塊世代の退職によるさらなる人手不足)
それぞれ簡単に説明します。
建設業の2024年問題
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。
これにより、時間外労働は原則として月45時間以内に制限され、60時間を超える場合には50%の割増賃金を支払わなくてはなりません。
建設業の2025年問題
2025年には、いわゆる団塊の世代と呼ばれる層が後期高齢者となり、「一人親方」などとして働く多くの人の引退が予想されます。
建設業に従事する人の約3割が55歳以上(国土交通省・令和3年「最近の建設業をめぐる状況について」より)という現状から、多くの高齢者が引退すると見られ、さらなる人手不足は避けられません。
必須の取り組みで助成金が受けられる
そんな中で必須となるのが、労務管理や業務効率化、新たな人材確保などのための取り組みです。しかし、体制の整備や専門家への依頼などには費用もかかります。
そのため、国は建設業向けの助成金を複数設け、それぞれの状況に合ったものを活用できるようにしています。
必要な取り組みで負担したコストが軽減されるという、お得な制度です。
建設業が助成金を活用するメリット
建設業の事業主が助成金を活用することで、会社と従業員の双方に次のようなメリットがあります。
- 労働環境の改善による、従業員の不満や離職の防止
- 訓練でのスキルアップなどによる、生産性の向上
- 企業の魅力アップによる、より良い人材の確保
- 環境改善などにかかったコストの一部回収
それぞれ見ていきましょう。
従業員の不満や離職の防止
建設業の人材不足の原因は、少子高齢化もさることながら、長時間労働など労働環境の悪さが大きいなウェイトを占めていると考えられます。
環境を改善すれば、従業員の不満の解消につながり、離職の防止につながります。
生産性の向上
建設業では、キャリアアップの体制が整っていないケースも多く見受けられます。
教育体制を整えれば、意欲のある従業員のキャリアアップを後押しできます。個々のスキルが高くなれば、作業効率のアップ、ひいては生産性の向上につながります。
より良い人材の確保
今後ますます、多様な働き方ができることは当然と考えられるようになるでしょう。
労働条件のよい企業には、求職者も多く集まるので、より良い人材を確保できる可能性も高まります。
コストの一部回収
労働環境の改善・整備や労務管理・業務の効率化、新たな人材の確保など、取り組みにはあらゆる費用がかかります。
助成金は、それらの必要経費の負担を軽減するための制度です。
建設業で活用できる主な助成金一覧
建設業向けの助成金、ぜひ活用したい助成金には、次のようなものがあります。
制度名 | コース名 |
---|---|
トライアル雇用助成金 | 若年・女性建設労働者トライアルコース |
人材確保等支援助成金 | ・若年層及び女性に魅力ある環境づくり事業コース(建設分野) ・作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) |
人材開発支援助成金 | ・建設労働者認定訓練コース ・建設労働者技能実習コース |
働き方改革推進支援助成金 | 労働時間短縮・年休促進支援コース |
それぞれの制度について、概要を見ていきましょう。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金は、就職が困難とされる労働者を試験的に雇い入れた事業主を支援する助成金です。建設業向けには、「若年・女性労働者トライアルコース」があり、主に次の要件を満たした中小建設事業主が助成されます。
- 「一般トライアルコース」または「障害者トライアルコース」の支給決定を受ける
- 建設工事現場での現場作業について35歳未満または女性の試験的雇用を実施する
助成額は、若年・女性労働者の雇い入れに1人につき、最大12万円(最大4万円/月×最大3カ月間)。金額は就労日数などによって決まります。
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金では、建設事業主を対象にした2つのコースが設けられています。
- 若年層及び女性に魅力ある環境づくり事業コース(建設分野)
- 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
若年層及び女性に魅力ある環境づくり事業コース(建設分野)
このコースは、建設分野において、若者や女性に魅力ある職場づくりへの取り組み事業を行い、若年齢者や女性の労働者の確保・定着を図った建設事業主あるいは建設事業主団体に対し、助成金が支給されます。
対象となる職場づくりの取り組みとは、次のようなものです。
- 建設現場の見学会やインターンシップの実施
- 建設工事関連の公的資格の取得に向けた講習会や研修の実施
- 安全衛生管理計画の作成
- 優秀な従業員、女性従業員への表彰制度の導入
- 雇用管理研修または職長研修の実施
助成額は次のとおり、助成の上限は200万円です。
助成種別 | 助成率 | 研修等の受講時 (1人あたり) |
---|---|---|
経費等助成 | 支給対象経費の5分の3 (20分の9)(※1) | 8,550円/日 (※2) |
賃金向上助成 | 支給対象経費の20分の3 | ― |
※2:1日3時間以上受講した日のみ対象、最大6日分
賃金向上助成は、経費等助成の支給が決定した上で、基本給(毎月決まって支払われる賃金)の支払いを訓練修了日翌日から1年以内に5%増加させた場合にのみ受けられます。
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)では、移動可能な更衣室やトイレ、シャワー室といった女性作業員専用の設備を整備することが助成の主な要件です。貸借して、自社が施工管理する建設工事現場に設置する必要があります。
助成額は次のとおりです。
助成種別 | 助成率 |
---|---|
経費助成 | 支給対象経費の 5分の3 |
賃金向上助成 | 支給対象経費の 20分の3 |
賃金向上助成は、経費助成の支給が決定した上で、基本給(毎月決まって支払われる賃金)の支払いを訓練修了日翌日から1年以内に5%増加させた場合にのみ受けられます。
支給の上限は、1事業年度の経費助成と賃金向上助成を合わせて90万円です。
このコースには、女性用施設の設置のほか、石川・岩手・宮城・福島各県の工事現場における作業員宿舎や賃貸住宅などの貸借を助成するコースもあります。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員に対し教育訓練を実施した場合などに助成が受けられる制度です。訓練内容に応じて複数のコースが設けられていますが、中でも次の2つのコースは、対象が中小規模の建設事業主に限定されています。
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
実施する訓練が国の基準にもとづいて行われる認定職業訓練や指導員訓練であれば、認定訓練コースの対象となります。それ以外の訓練で要件を満たせば、技能実習コースの対象となります。
それぞれについて見ていきましょう。
建設労働者認定訓練コース
このコースは、都道府県からの助成を受け、建設関連の認定職業訓練または指導員訓練を実施した事業主が支給の対象です。助成対象(経費助成、賃金助成)によって異なる要件があります。
経費助成の要件は、主に次の2つです。
- 認定訓練助成事業費補助金または広域団体認定訓練助成金の交付を受けること
- 建設関連の認定職業訓練または指導員訓練を実施すること
賃金助成の要件は、主に次の2つです。
- 人材開発支援助成金「人材育成支援コース」の支給決定を受ける
- 期間中、通常以上の額の賃金を支払う
助成額は次のとおりです。
助成種別 | 助成率・助成額(1人あたり) |
---|---|
経費助成 | 助成対象経費の 6分の1 |
賃金助成 | 3,800円/日 (+1,000円/日) |
助成対象経費とは、認定訓練助成事業費補助金または広域認定訓練助成金による助成の対象となった経費の額をいいます。
表のカッコ内の額は、「賃金向上助成」による加算金額です。基本給(毎月決まって支払われる賃金)の支払いを訓練修了日翌日から1年以内に5%増加させた場合にのみ受けられます。
支給の上限額は、1事業年度につき1000万円です。
建設労働者技能実習コース
このコースは、建設業務に関する実習や検定試験の事前講習などのうち、1日1時間以上、6カ月以内など指定の要件を満たす訓練を行った中小建設事業主が支給の対象となっています。
主な要件は次の通りです。
- 所定労働時間内に訓練を受けさせること
- 通常以上の額の賃金を支払うこと
やむを得ず所定労働時間外や休日などに受講させた場合には、割増した額以上の賃金を支払う必要があります。
【経費助成の助成率】
経費助成については次のとおり、人数や年齢などにより助成率が異なります。
助成の対象 | 助成率 |
---|---|
雇用保険被保険者数 20人以下 |
支給対象費用の 4分の3 |
雇用保険被保険者数 21人以上 |
35歳未満の労働者:10分の7 |
35歳以上の労働者:20分の9
|
|
中小建設事業主以外による女性建設労働者への技能実習(※) |
支給対象費用の 5分の3
|
※自社が実施する訓練に限る
さらに、中小建設事業主には、次の要件を満たした場合に「賃金向上助成」「資格等手当助成」の割増助成が受けられます。
助成区分 | 要件 |
---|---|
賃金要件 | 基本給(毎月決まって支払われる賃金)を、訓練修了日翌日から1年以内に5%増加 |
資格等手当要件 | ・職務に関連する資格等手当の支払いについて就業規則等に記載 ・訓練修了日翌日から1年以内に手当の支払い ・賃金を3%以上増加 |
加算額は、支給対象費用の20分の3の額であり、1人2万円が上限です。
経費助成の上限額は、1つの技能実習につき1人10万円です。
【賃金助成の助成額】
賃金助成については、助成額と加算額が次のように設定されています。
対象区分 | 助成額(1人あたり) | 賃金向上助成 ・資格等手当助成 |
---|---|---|
雇用保険被保険者数20人以下 | 8,550円 /日 (9,405円/日) | 2,000円/日 |
雇用保険被保険者数21人以上 | 7,600円/日 (8,360円/日) | 1,750円/日 |
通学制で1日3時間以上の受講日が対象ですが、上限は20日分です。
経費助成と賃金助成、各種加算を合わせた上限額は、1事業所・1事業年度につき500万円です。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、これまでの制度のように建設業に特化したものではありませんが、労働環境の改善が急務な建設業でぜひ活用したい助成金の1つ。中でもおすすめなのが、「労働時間短縮・年休促進支援コース」です。
労働時間短縮・年休促進コースでは、時間外労働の削減や特別休暇を新たに導入するなどの成果目標を選び、就業規則等の変更や労務管理用ソフトウェアの導入などの取り組みを行った場合に助成が受けられます。
取り組みに要した経費の一部が、成果目標の達成率に応じて支給されます。上限額は、月の時間外労働を80時間から60時間に改正した場合には200万円、年休の計画的付与について就業規則等に新たに規定した場合には25万円など。
賃金の引き上げを成果目標に加えた場合、引き上げ率に応じて最大480万円(11~30人の賃金を5%以上引き上げた場合)の加算もあります。
ただしこの助成金は、申請の受付が2024年11月29日必着となっています。
助成金の申請方法
助成金を申請する方法は、助成金の種類やコースによって異なります。そのため、申請を考えたときはまず一番に、厚労省のリーフレットや支給要綱を確認する必要があります。
共通する部分の大まかな流れは、次のとおりです。
- 助成対象者や対象の取り組みなど、支給要件を確認する
- 取り組みの計画書を作成し、労働局に提出する
- 訓練や賃金引き上げなどを計画に沿って実行する
- 取り組み終了後、必要書類を揃えて支給申請を行う
多くの場合、要件とされる取り組みの2週間~2カ月前などに、前もって計画書を作成し、労働局に届け出なくてはなりません。
その後、計画どおりに取り組みを行い、必要書類を揃えて支給申請を行います。就業規則等の改正が必要な場合は、タイミングにも注意が必要です。
また、賃金要件などによる加算を受けるには、その数カ月後に改めて申請をする必要があります。
中には、別の助成金の支給決定を条件としたコースもあるため、どのような流れで進めていくべきかを最初に決めてから始めます。
建設業関連の助成金申請の注意点
助成金と補助金の違いで、受給しやすいのが助成金だとお伝えしました。しかし、支給要件を満たし、必要書類を揃え、期日を守らなければ受給はできません。特に注意したいのは次のようなポイントです。
助成の対象をよく確認する
助成金の支給対象も、助成金の種類やコースによって大きく異なります。まずは支給の対象が誰なのかを、しっかりと確認しておきましょう。該当しなければ不支給となってしまいます。
厚労省による助成金の対象となるのは、親族でない従業員を複数人雇い、雇用保険に加入させている事業主です。一人親方や、親族のみで経営しているケースは対象となりません。
また、対象となる労働者についても、助成金の種類によっては雇用形態や雇入れ期間などが限定されている場合があります。
計画書提出や支給申請の期限は厳守する
それぞれの助成金で決められた届出や申請の期限は、必ず守りましょう。1日でも遅れてしまうと受付不可であり、受給できなくなってしまいます。
あらかじめ支給要綱を十分に確認し、綿密なスケジュールを立てておく必要があります。
また、締切のギリギリに提出するのも避けるのがおすすめです。書類に不備があって差し戻しとなるケースもあれば、予算の都合で早くに受付が締め切られるケースもあります。
書類の保管期限に気を付ける
助成金の申請には各種書類の提出が必須ですが、提出して終わりではないことにも注意が必要です。近年は助成金の不正受給も増えているため、支給後に調査が入ることがあります。
そのために、支給決定から5年間は書類を保存すること、調査に入られた場合には調査に協力することも、支給要件の1つになっているのです。
保存すべき書類がないといった理由でも、場合によっては支給の取消となる恐れがあります。
就業規則等の記載方にも注意する
助成金の受給には、たとえば時間外労働の削減や賃金の引き上げ、年休の計画的付与や有給での訓練実施など、取り組み事項にかかる就業規則の規程内容も重要なポイントとなります。
些細な言い回し1つでも、記載が不十分で要件を満たさない、というケースも起こり得ます。もともと記載が必要な事項が入っていなかったり、現実に即した規定になっていなかったりすれば、そこから見直す必要もあります。
就業規則の細かな規定内容を1から見直すには、労務関連の専門知識が必須です。助成金の要件を満たすことも考えるとやはり、専門家である社会保険労務士のサポートを受けることをおすすめします。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
建設業の人手不足という喫緊の問題を解決するのに必要とされているのが、労働者の処遇の改善や職場環境の整備です。そのためにぜひ活用していただきたいのが、雇用関連の助成金です。
社会保険労務士と相談しながら準備を行えば、必要な改善も助成金の申請も、無駄な動きをすることなくスムーズに申請できます。
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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント 建設業界全体で雇用環境改善により労働者不足を解消しようとする動きがみられます。 設備投資や技能実習受講など取り組みにかかる費用に対して、経費助成や賃金助成を受けることが可能です。
助成金申請には、法律で定められた労働者名簿や就業規則といった書類の提出が必要となる場合がございます。 書類作成や申請サポートについてもご相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。