【中小企業の生産性向上を支援!】業務改善助成金について解説

2021.03.30

業務改善イメージ

少子高齢化やニーズの多様化に伴い、今や避けては通れない働き方改革。しかし業務効率の改善や生産性の向上に積極的に取り組むには、企業に大きな経済的負担がかかります。

そこで活用したい助成金が「業務改善助成金」です。

業務改善助成金は、中小企業や小規模企業が事業場内での最低賃金を引き上げたうえ、生産性の向上に取り組んだ場合、かかった費用を一部助成するというものです。

この記事では、この業務改善助成金制度の概要はもちろん、活用の事例や手続きの流れなどをお伝えしていきます。

業務改善助成金とは

業務改善助成金に詳しい人

業務改善助成金は、正式には中小企業最低賃金引き上げ支援対策費補助金といいます。

事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、かつ設備投資などを行った事業主に対して、その設備投資などに要した金額の一部が助成される仕組みです。

ちなみに「事業場」とは、同じところで関連する仕事を組織的に行う場所のことを言い、会社とも事業所とも異なります。

業務改善助成金制度の趣旨は、対象事業者に設備等費用の一部を助成することにより、賃金引き上げの負担を軽減し、最低賃金の引き上げに向けた環境の整備を図ることです。

では業務改善助成金の種類や支給対象、支給要件と支給金額について順に見ていきましょう。

25円・60円・90円コースの申請締切および令和3年2月1日新設のコース

適用助成金の前と後

業務改善助成金は、最低賃金の引き上げ額ごとにいくつかのコースに分かれています。たとえば引き上げ額が20円以上の場合は、20円コースといいます。

令和3年1月29日までの申請には、25円・30円・60円・90円の4つのコースがありましたが、30円以外のコースの申請受付は、令和3年1月29日までで終了しました。

令和3年2月1日からは、20円コースが新設され、30円コースの受付が始まっています。これら2つのコースは、助成対象事業場や助成率は同じですが、賃金を引き上げる労働者の数によって助成の上限額がそれぞれ異なります。なお、助成の対象となる事業は、令和4年3月31日までに完了していなくてはなりません。

支給対象

助成金対象のイメージ

支給対象の事業場は、日本国内に設置している中小企業で、次の2つの要件を満たすことが必要です。なお、今年度より以前に業務改善助成金を活用したことのある事業場も申請することができます。

  • 事業場内の最低賃金と地域別最低賃金の差が30円以内である
  • 従業員規模が100人以下である

また、支給対象になる中小企業事業者とは、次のいずれかに該当する(資本金額・出資総額または常時使用労働者数のどちらかの要件を満たす)事業者のことです。

業種 資本金額・出資総額 常時使用労働者数
卸売・サービス・小売業以外 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
小売業 5000万円以下 50人以下

支給要件

業務改善助成金の支給要件チェックイメージ

業務改善助成金の支給には、次の支給要件をすべて満たすことが必要です。

  • 賃金引上計画を策定する
  • 引き上げ後の額で賃金を支払う
  • 生産性向上に役立つ機器・設備等を導入して業務を改善、かかった費用を支払う
  • 解雇、賃金の引き下げなど、不交付となる事由がない

事業場内最低賃金を一定額以上引き上げることについては、実施するだけでなく、就業規則等で規定することが必要です。ここでいう事業場内最低賃金とは、対象事業場内で雇入れ後3カ月を経過した労働者の賃金のうち、最も低い時間給のことです。

設備投資等に支払った費用については、生産性向上のためのものだけが対象となります。経費の削減や職場環境の改善、通常の事業活動に必要な費用などは除外されます。

なお、経費は合計10万円以上でないと対象となりません。

不交付事由に該当すると、助成金は支給されません。主な不交付事由は次のような内容です。

  • 申請書提出日の前日から3カ月前の日から支払い請求日の前日または賃金引き上げ後6カ月を経過した日のいずれか遅い日までの間に、労働者の解雇退職勧奨賃金の引き下げを行った

  • 申請日提出日の前日から1年前の日から支払い請求日の前日または賃金引き上げ後6カ月を経過した日のいずれか遅い日までの間に、労働関係法令の違反が明らかとなった

  • 事業者(役員等を含む)が暴力団などの関係者である

  • 申請した日を含む年度または前年度以前に、労働保険料を滞納した連続の期間がある

  • 申請時または支払い請求時にすでに倒産などをした状態である

  • 不正受給が発覚、かつ事業主等の公表に同意していない

支給金額

業務改善助成金の支給額の計算イメージ

業務改善助成金の助成額(支給金額)は、生産性向上のための機器・設備等の導入にあたり事業者が支払った費用に、助成率を乗じた金額です。千円未満の単位は切り捨てられます。

助成率は、事業場内最低賃金が900円以上と900円未満の場合、および生産性要件を満たした場合と満たしていない場合とで異なります。

事業場内最低賃金 原則 事業場内最低賃金 原則 生産性要件を満たした場合
900円未満 5分の4 10分の9
900円以上 4分の3 5分の4

事業場内の最低賃金が900円未満の場合は、地域別の最低賃金も900円未満でなくてはなりません。

なお、生産性要件とは、企業の決算書から算出した労働者1人あたりの付加価値のことをいいます。申請時直近の決算書類と3年度前の決算書類の生産性を比較して、伸び率が一定水準を超えている場合に加算されます。

助成の上限額は、コースと賃金を引き上げる労働者の数によって異なります。

コース区分 引き上げ額 賃上げする労働者数 助成上限額
20円コース 20円以上 1人 20万円
2人~3人 30万円
4人~6人 50万円
7人以上 70万円
30円コース 30円以上 1人 30万円
2人~3人 50万円
4人~6人 70万円
7人以上 100万円

業務改善助成金を活用し導入した設備等の事例

業務改善助成金の活用例

では、実際に業務改善助成金を活用した生産性向上に資する設備等の導入事例(厚生労働省公表事例参照)を業種別に紹介します。

卸売業・小売業

助成対象の小売業イメージ

卸売業・小売業の場合の導入事例には次のようなものがあります。

導入設備 生産性向上の効果
POSレジシステム、自動釣銭機 精算業務が自動化され時間短縮したことにより、顧客の回転率が向上した
フォークリフト、運搬用冷凍車 1回に大量の運搬が可能になり、作業時間が短縮した
ミキサー、焙煎機、食品裁断機 仕込み時間・調理時間が短縮され、1回の製造可能量が増え効率が上がった
食品卸売システム、会計・仕入・
販売システム、顧客管理システム等
作業時間の短縮、人員の削減、効率アップにつながった
受発注機能付きホームページ ホームページ上で受発注業務が可能になり、人員が別の業務に専念できるようになった
経営コンサルタント 経営コンサルタントの指導により、業務フローが見直され、顧客の回転率が向上した
人材育成・教育訓練 従業員に対し人材育成・教育訓練を実施することにより、作業効率が上がった

宿泊業・飲食サービス業

ホテル・旅館や飲食店などでは、次のような事例がありました。

助成金対象の飲食業イメージ
導入設備 生産性向上の効果
食器洗浄機、全自動鉄板洗い機 食器洗浄にかかる時間が短縮したことにより、作業効率が向上した
スチームコンベクションオーブン、食材スライサー、業務用製氷機 仕込み時間・調理時間が短縮され、1回の製造可能量が増え効率が上がった
管理システム、オーダーシステム、給与システム等 経営情報を一元管理するシステムの導入により、管理業務の効率化と顧客サービスの強化につながった
業務用冷凍庫(冷蔵庫)、温蔵庫等 ホテル、飲食店で仕込み時間・調理時間が短縮され、1回の製造可能量が増え効率が上がった
改修等によるレイアウト変更 飲食店のレイアウト変更で作業場の動線がよくなり、作業効率が上がった
人材育成 従業員に対しIT研修を実施することにより、スキルアップして作業効率が上がった

医療・福祉業

助成金の対象となる医療用ベッド導入のイメージ

医療や福祉の業界でも、次のような設備・機器の導入による生産性向上の例があります。

導入設備 生産性向上の効果
引き上げリフト付き(スロープ付き、
大人数送迎可能)福祉車両
車椅子のまま乗降が可能になり、効率的な人員配置や送迎人員の削減、送迎時間の短縮につながった
(清掃機能付き)歯科用チェアユニット 自動洗浄機能などにより給水管などの洗浄時間が短縮され、作業効率が向上した
施術・医療用(調節機能付き)電動式ベッド、ウォーターベッド型マッサージ器 ベッドの高さ調節などが可能になり、1人で作業を行え、作業効率が上がった
除雪機 除雪作業の負担が軽減され、除雪作業時間が短縮し、本来の介護業務に専念できた
受発注機能付きシステム、
診療予約管理システム等
システムの導入により、作業効率が上がり人員削減にもつながった
見守り支援システム グループホームにおける巡回業務が削減され、従業員1人当たりの作業量が減少し、生産性が向上し、サービス向上につながった

どの事例も、従業員にとって何が大きな業務負担となっているかを洗い出し、解決に導いた結果だということがうかがえます。

業務改善助成金の支給申請から入金まで

業務改善計画を立てる人たち

業務改善助成金の支給申請から入金まで手続きの流れも知っておきましょう。

  • 1)助成金交付申請書の提出
  • 2)助成金交付決定通知
  • 3)業務改善計画と賃金引上計画の実施
  • 4)事業実績報告書の提出
  • 5)助成金の額の確定通知
  • 6)助成金の支払い

各項目について、順に説明します。

(1)助成金交付申請書の提出

助成金申請にかかる書類の作成

助成金の申請は、各都道府県の労働局に行います。交付申請書には、設備投資などに関する「業務改善計画」と事業場内の賃金引き上げに関する「賃金引上計画」の内容を盛り込んだ「事業実施計画書」などを添付します。

(2)助成金交付決定の通知

助成金支給決定通知のイメージ

交付申請の内容について、都道府県労働局が審査を行います。内容が適正であれば、助成金の交付決定の通知がなされます。

(3)業務改善計画と賃金引上計画の実施

業務改善策実施のイメージ

助成金交付の決定通知を受けてはじめて、助成対象事業を実施します。

助成対象事業とは、業務改善計画に基づいた設備投資等や賃金引上計画に基づいた事業場内最低賃金の引き上げなどのことです。

助成金交付決定通知前に設備投資などを実施してしまうと助成対象外となるので注意してください。

(4)事業実績報告書の提出

事業実績に関する資料イメージ

助成対象事業の実施が完了したら、事業実績報告書を都道府県労働局に提出します。

事業実績報告書には、設備投資等の対象事業の実施状況や賃金引き上げ状況の内容を盛り込みます。

(5)助成金の額の確定通知

事業実績報告書を提出したら、都道府県労働局の審査を経て、支給の有無と助成金額が確定します。そのあと事業主に助成金額の確定通知がなされます。

(6)助成金の支払い

助成金額の確定通知が届いたら、支払請求書を提出し、指定した金融機関の口座に助成金が振り込まれます。

助成金の支払いを確認するイメージ

業務改善助成金を申請する際の注意点

業務改善助成金申請の注意ポイント

業務改善助成金に関しては、注意しておくべきこともあります。

  • 交付申請書を都道府県労働局に提出する前に設備投資等や事業場内最低賃金の引き上げを実施すると、助成金の対象外となる

  • 交付決定通知前に行った設備投資も、助成金の対象外である

  • 事業場内最低賃金の引き上げは、交付申請書の提出後から事業完了期日までの時点で実施してもかまわない

手続きの流れの中で、設備投資をいつ行うかによって、不支給となってしまう可能性があるため注意が必要です。

もちろんこれ以外にも、支給要件を満たすかどうかなど細かく気を付けるべきことがあります。申請期限も厳守しなければなりません。

また、要件やコースの変更が行われることも多々あるので常に助成金の最新情報をチェックしていく必要があるのです。

しかし、日々の事業経営を行いながら助成金についてそのような細かな対応をすることは困難な方がほとんどでしょう。

そんなときに役に立つのが、助成金の専門家である社会保険労務士です。社労士に依頼すれば、助成金申請に関するアドバイスが受けられ、申請がスムーズに進められます。

まとめ

助成金制度について調べる人

業務改善助成金は、生産性を上げるために設備投資などを行い、そのうえで従業員の最低賃金を引き上げた事業者が助成金を受けられる制度です。

設備投資などにより生産性が向上する上、その費用負担が結果的に軽減されるほか、従業員の満足度にもつながることが期待されます。この機会に活用を検討してみてはいかがでしょうか。

手続きが面倒、時間が取れない、という方は、社会保険労務士のサポートを利用することをおすすめします。

監修者からのコメント この助成金のポイントは、交付決定通知後に設備投資を行うところです。手順を間違えると不支給になってしまいますので、注意が必要です。 当社Bricks&UKの社会保険労務士は、専門知識はもちろん最新情報も常に把握し、皆様に合った助成金の提案や申請のサポートをいたします。 ぜひ一度ご相談ください。

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