※「特定訓練コース」は、令和5年4月に「人材育成支援コース」に統合されました。
統合後のコース内容については、こちら↓の記事で解説しています。
人材開発支援助成金は、企業が従業員の職業訓練を実施して自社人材の能力開発を支援することに対する、国からの助成金です。
人材開発支援助成金には8つのコースがあります。中でも注目されているのは、生産性を上げる効果の高い訓練を受けさせたことで助成金が受け取れる「特定訓練コース」です。
この記事では、人材開発支援助成金の特定訓練コースについて、2022年度の改正点を踏まえた概要や申請の流れ、押さえておきたいポイントを解説します。
目次
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金は、従業員に職業訓練などを実施し、費用負担をした事業主に対し、国が経費や賃金の一部を助成する制度です。
従業員の業務スキルの向上を図れば、生産性の向上が期待できます。かかった費用も一部が助成されるとなれば、企業にとって大きなメリットと言えます。
8つのコースには、それぞれ異なる対象や要件が定められています。
コース名 | 対象となる訓練・要件 |
---|---|
特定訓練コース | 労働生産性向上訓練や若年人材育成訓練など、6種類の訓練 |
一般訓練コース | 職務に関する専門知識および技能を習得させるための訓練 |
特別育成訓練コース | パートやアルバイトなどの有期契約労働者に対する訓練 |
教育訓練休暇等付与コース | 事業主が新たに教育訓練休暇制度を導入して行った訓練 |
建設労働者認定訓練コース | 自社の建設労働者に有給で認定訓練を受講させること |
建設労働者技能実習コース | 自社の建設労働者に有給で技能実習を受講させること |
障害者職業能力開発コース | 障害者への職業能力開発訓練、訓練のための施設の設備 |
人への投資促進コース | 高度デジタル人材育成の訓練やサブスクリプション型の訓練、労働者の自発的な能力開発のための訓練など |
人への投資促進コースは2022年に新設されたコースです。
人材開発支援助成金の要件などについて詳しくは、こちらの記事で解説しています。
見直しされた特定訓練コース
令和4年度に改正されたのは、特定訓練コース、一般訓練コース、特別育成訓練コースの3コースです。この記事では、注目の特定訓練コースについて解説します。
特定訓練コースとは
特定訓練コースは、生産性の向上や若年層への訓練など、業務への高い効果が期待できる訓練を行った場合に支給の対象となるコースです。具体的には、次の4つの訓練を対象としています。
- 1)労働生産性向上訓練
- 2)若年人材育成訓練
- 3)熟練技能育成・承継訓練
- 4)認定実習併用職業訓練
共通して、1~3の訓練についてはOFF-JTにより実施され、実訓練時間が10時間以上なくてはなりません。4の訓練は、厚生労働大臣の認定を事前に受けたもので、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練に限られます。
1)労働生産性向上訓練
従業員に次の訓練のいずれかを受けさせた場合に対象となります。
・ポリテクセンターや職業能力開発大学校などでの高度職業訓練
・中小企業等経営強化法で認定された事業分野別経営力向上推進機関による訓練
・中小企業大学校が実施する訓練など
・厚労大臣指定の専門実践教育訓練または特定一般教育訓練
・ITSSレベル2となる訓練
・生産性向上人材育成支援センターによる訓練など
・喀痰吸引等研修または特定行為研修
上記に該当する訓練でも、目的などから助成対象外となるものもあります。実施した訓練に対象外のものが含まれる場合は、その部分を除いた時間数が10時間以上必要です。
2)若年人材育成訓練
次のすべてに該当する従業員に対して訓練を行った場合に、申請可能となるコースです。
- 雇用保険の被保険者である
- 当該事業所で被保険者となってから5年未満である
- 35歳未満である
事業内訓練または事業外訓練で実施されるOFF-JTの訓練が対象となります。
3)熟練技能育成・承継訓練
ある程度の技能を習得済みの従業員などに対し、次のような訓練を受けさせた場合に助成の対象となります。
- 熟練技能者の指導力を強化する訓練
- 熟練技能者が技能を承継する訓練
- 都道府県知事が認めた認定職業訓練
熟練技能者とは、特級技能検定などの合格者、あるいは職業訓練指導員、技能大会において優秀な成績を修めた人などのことです。
認定職業訓練とは、職業能力促進法の基準に沿うことを認定された訓練であり、建設関連や金属・機械加工などさまざまな分野のものがあります。
4)認定実習併用職業訓練
訓練の実施計画などを事前に提出して厚生労働大臣の認定を受けた実習併用職業訓練が対象です。
訓練対象者は、15歳以上45歳未満、かつ次の1~3のいずれかに該当する従業員です。
- 1)訓練開始前3カ月以内に雇い入れた人
- 2)認定申請前から短時間等労働者として勤務中で、訓練開始前の3カ月以内にフルタイム勤務に転換した人
- 3)認定の申請前にすでに雇用している短時間等労働者以外の人
上記「3」については、大学・大学院または短期大学と連携したOFF-JTを、訓練実施期間を通じて組み込んだ訓練を受ける場合に限ります。
実習併用職業訓練として認定されるには、OJTとOFF-JTを効果的に組み合わせた訓練である必要があります。
また、事前の大臣認定には、実施期間が6カ月以上2年以下であること、1年当たり850時間以上であること、キャリアコンサルティングを受けてジョブ・カードの交付を受けることといった要件もあります。
ちなみに、これらに該当しないOFF-JT訓練は、「一般訓練コース」での支給対象となる可能性があります。ただし助成額や助成率は特定訓練コースより低くなります。
令和4年度の主な変更点
人材開発支援助成金は、令和4年度になって一部の制度内容が改正されています。特定訓練コースに関する変更は次のとおりです。
対象訓練について
・ eラーニングや通信制による訓練が経費助成の対象に追加
・「グローバル人材育成訓練」は対象外となり、「特定分野認定実習併用職業訓練」は「認定実習併用職業訓練」に統合
・セルフ・キャリアドック制度導入への加算は終了、定期的なキャリアコンサルティング制度の就業規則への明記が要件に追加
対象経費について
・自社向け訓練コース等の開発を外部の教育訓練機関に委託した場合のコンサルタント料なども助成対象に追加
OJTを実施する場合
・OJTの助成額が時間制から1訓練あたりの定額制に変更
・OJTの訓練指導者が1日に指導する人数を3名までに制限
→4月の上記改定後、9月の改定で人数の制限がなくなりました
訓練対象者について
・若年人材育成訓練の対象者要件を「雇用契約締結5年以内」から「被保険者期間5年以内」に変更
・認定実習併用職業訓練の対象者要件を、雇用契約締結あるいは転換から訓練開始まで「2週間以内」から「3カ月以内」に変更
訓練施設について
・事業主・事業主団体の関係者が設置する施設などを除外
→4月の上記改定後、9月の改定で再び助成対象になっています
訓練講師について
・部外講師による事業内訓練の講師要件を新設
・訓練計画提出時に「OFF-JT部外講師要件確認書」の提出が必要に
提出書類について
・計画届時に必要だった「対象労働者の生年月日がわかる書類」が不要に
・申請の際の「登記事項証明書」が不要に
OJTの訓練指導者が1日に指導する人数や事業主の関係者による設置施設に関しては、4月の改定で制限された後、9月には見直されています。上記提出書類についても、8月と10月にそれぞれ省略が決められました。
このように、制度内容は随時改定が行われる可能性があります。申請には最新情報をキャッチすることが大切です。
ちなみに、前年度まで特定訓練コースの対象に含まれていたITSSレベル4・3の訓練への助成や、従業員の自発的な教育訓練の受講などは、新設された「人への投資促進コース」で助成対象となります。
特定訓練コースの助成金額
特定訓練コースの助成は、OFF-JTを行った場合の経費に対する助成と賃金に対する助成、OJTを行った場合の助成があります。OJTに関する助成は、雇用型訓練の認定実習併用職業訓練のみ該当します。
支給対象となる訓練種別 | 助成率・助成額 | |
---|---|---|
OFF-JT | OJT | |
経費助成 | <中小企業>45%(60%) <大企業> 30%(45%) |
― |
賃金助成 | <中小企業> 760円(960円) <大企業> 380円(480円) |
― |
OJT実施助成 | ― |
<中小企業> |
表のカッコ内の数字は、生産性要件を満たした場合の助成額です。
経費助成の限度額は、実施時間数により15~50万円(大企業は10万円~30万円)と異なります。賃金助成は1,200時間が限度ですが、認定職業訓練のみ1,600時間を限度としています。
また、訓練等の受講回数にも上限があり、1労働者につき3回までとなっています。これは事前の訓練実施計画に基づく回数です。1事業所が1年度内で受給できる助成の上限額は1000万円です。
上限額についても、計画の段階から把握しておく必要があります。
特定訓練コースの申請時の流れ
人材開発支援助成金の申請は、まず計画を作成するところから始まります。
順に見ていきましょう。
1)事業内職業能力開発計画の作成など
はじめに、次の2つを行います。
- 職業能力開発推進者の選任
- 事業内職業能力開発計画の策定
職業能力開発推進者とは、取り組みの推進リーダーとなる人のことです。社内の職業能力開発計画を作成・推進、従業員に対する相談・指導を行い、官公庁などとの連絡役も担います。
人事など関連部署の部長や課長といった役職者から選任します。
なお、訓練のうち「実習併用職業訓練」を行う場合は、訓練開始の2カ月前までに実習併用職業訓練に関する厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。窓口は、労働局またはハローワークです。
2)訓練実施計画届の提出
訓練開始日の1カ月前までに、訓練実施計画届とこれに付随する書類(事前確認書、年間職業能力開発計画、訓練別対象者一覧表/いずれも様式あり)を用意します。
また、添付書類として、訓練対象者が雇用保険の被保険者だとわかる雇用契約書の写し、OFF-JTの実施内容がわかる書類も必要です。その他、訓練形態や内容に応じた複数の書類を取り揃え、労働局に提出します。
提出した計画内容を変更する場合には、「訓練実施計画変更届」の提出が必要です。たとえば対象者が変更になったのに変更届を出していなければ、当該従業員への訓練は支給対象外となります。
3)訓練の実施等
計画に従って訓練を実施します。認定実習併用職業訓練の場合は厚労大臣の事前認定を受けた後、OJTとOFF-JTの組み合わせで実施。その他の訓練は事業内または事業外訓練のOFF-JTで行う必要があります。
訓練にかかった費用は、支給申請までに支払いを終えておかなければなりません。
4)支給申請書の提出
訓練が終わったら、終了日から2カ月以内に申請書類を管轄の労働局に提出します。
訓練種別にかかわらず必要となるのは、次の書類です。
- 人材開発支援助成金 支給申請書(訓練様式第5号)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 賃金助成・OJT実施助成の内訳(訓練様式第6号)
- 経費助成の内訳(訓練様式第7-1号)
- OFF-JT実施状況報告書(訓練様式第8-1号)
- 支払方法・受取人住所届と口座番号がわかる通帳の写し等
様式があるものは、厚労省の公式ページからダウンロード可能です。
また、次のような書類の添付も必要です。
必要書類 | 添付目的 |
---|---|
経費の領収書(および総勘定元帳または現金出納帳、振込通知書など) | 訓練にかかる費用を支給申請日までにすべて負担していることの確認 |
賃金台帳または給与明細書など | 訓練実施中に賃金が支払われていることの確認 |
就業規則や賃金規定、休日カレンダーやシフト表など | 訓練期間中の所定労働日・労働時間の確認 |
出勤簿、タイムカードなど | 訓練期間中の対象者の出勤状況・出退勤時刻の確認 |
その他にも、「事業内訓練で部外講師に支払った謝礼金の振込通知書」や「教材の目次などの写し」、事業外訓練の場合の「訓練実施業者による支給申請承諾書」など、状況や訓練内容によってさまざまな書類が必要となります。
特定訓練コースの申請時のポイント
人材開発支援助成金の特定訓練コースの申請には、注意すべきポイントもいくつかあります。ここでは主な3つをお伝えします。
「実習併用職業訓練」には事前の大臣認定が必要
特定訓練コースのうち、実習併用職業訓練に限っては、労働局に計画届を提出する前に厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。
計画届の提出は1カ月前まで、大臣認定の申請は訓練開始日の2カ月前までです。期日までに必ず行うよう準備を進めていきましょう。
ただし、厚生労働大臣による認定は助成金の認定ではありません。大臣認定をされても支給要件を満たなければ不支給となります。
特定訓練コースの助成対象に該当するかしっかり確認
特定訓練コースでは、職務に必要かつ効果的な4種類の訓練が助成の対象となります。
しかしそれぞれの訓練によって対象となる訓練内容や従業員について複数の要件があります。
例えば若年人財育成訓練は、35歳未満でも雇用保険被保険者となって5年以上経つ人は対象外です。訓練時間には10時間以上など決まりがありますが、訓練内容がマナー講習など職務に直結しないものは時間数に数えられません。
自社が行う訓練が支給の対象となるか、訓練に参加する従業員が助成の対象となるかどうか、しっかりと確認する必要があります。
支給申請にかかるあらゆる期限を厳守する
助成金申請には、まず訓練開始日の1カ月前までに訓練実施計画届を管轄の労働局に提出します。訓練が終了したら、2カ月以内に支給申請を行います。
生産性を満たした場合には助成金の割り増しが受けられますが、一度に申請はできません。訓練を開始した会計年度の前年度から3年度後の年度末の翌日から5カ月以内に、割り増し助成分のみを別で申請する必要があります。
申請期限は厳守とされています。提出書類に不備があった場合などにも備え、余裕を持って準備を進めていきましょう。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
人材開発支援助成金の特定訓練コースは、従業員に必要な訓練を実施することで企業の総合力アップが期待でき、助成が受けられる人気の助成金です。
中でも特定訓練コースは、業務に直結する訓練が対象で、それ以外の訓練が対象である一般訓練コースよりも手厚い助成が受けられます。
とはいえ、申請には計画の作成から始める必要があり、訓練ごとに異なる要件や必要書類があるため、専門的な情報・知識がなければ難しいことも。そこでお役に立つのが、助成金の専門家である社会保険労務士です。
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監修者からのコメント 特定訓練コースの中の若年人材育成訓練は活用しやすいのでおすすめです。 事業外訓練で単発のものは訓練時間が20時間に到達しないものも多いなかで、若年人材育成訓練であれば10時間の訓練で助成金の対象になります。 もちろん受講者が若年人材でなければなりませんが、若い社員に効果的な訓練を受けさせたいと考えている企業は多いのではないでしょうか。 弊社では計画届の作成から支給申請までサポートいたします。 ぜひお気軽にお問い合わせください。