高齢化社会が進む中、従来の定年年齢を超えても活躍できる人材をどう活かすかが国の大きな課題となっています。
そのため、政府は定年年齢の引き上げ、定年の定めの廃止といった高齢者の雇用改善に向けた取り組みを推奨。実施する事業者に対して支給しているのが「65歳超雇用推進助成金」です。
受給には、雇用継続などの制度の導入などの要件を満たし、決められた期間内に申請する必要があります。制度の導入前に計画書を作成し認定を受ける必要があるほか、導入する制度の内容や就業規則への明記の仕方など、注意すべき点もいくつがあります。
この記事では65歳超雇用推進助成金について、2022年度の改正点や支給対象となる主な要件、申請時の注意点を解説します。
目次
65歳超雇用推進助成金とは
冒頭で触れた通り、65歳超雇用推進助成金とは、高齢者の雇用の促進を目的とし、65歳以上への定年の引き上げや高齢者の雇用管理制度を整備するなど、高齢者の雇用環境を改善する制度の実施を行う事業者に対して助成を行うものです。
令和3年度における65歳超雇用推進助成金は、高齢者の雇用環境の改善が進む流れの後押しもあってか、申請多数により9月中に新規申請の受付が終了しました。
令和4年度についても、制度の一部改正が行われ申請の受付が始まっています。早めの準備をおすすめします。
65歳超雇用推進助成金は、次の3つのコースで構成されています。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
それぞれどういうコースなのか、大まかに説明していきます。
65歳超継続雇用促進コース
このコースは、65歳を超えた従業員の継続雇用についての制度を導入し、特定の要件を満たした場合に助成金が支給されるコースです。
次の4つのうちいずれかを制度化した上で実施、かつ制度化の際に経費がかかった場合にのみ支給対象となります。
- 65歳以上への定年の引き上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
65歳以上への定年の引き上げや66歳以上の継続雇用制度については、自社の現在の制度の設定年齢を上回る必要があります。
このコースについては、後の章で詳しく説明します。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高齢者の雇用を推進するための環境整備について、就業規則または労働協約に定めた上で次の取り組みを行った場合に支給されるコースです。
- 雇用管理整備計画の作成
- 高齢者雇用管理整備に向けた取り組みの実施
高齢者の雇用管理の整備には、能力開発や評価、賃金体系といった制度の導入または見直し、健康診断制度の導入などが挙げられます。
まずはその雇用管理整備について計画を作成し、あらかじめ認定を受ける必要があります。
認定後はその計画に基づき、期間内に高齢者雇用管理の整備をしなくてはなりません。
高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用契約労働者を、無期雇用契約に転換させた場合に支給されるコースです。
必要な取り組みは次の2つです。
- 無期雇用転換計画の作成
- 無期雇用転換措置の実施
まずは「無期雇用転換計画」を作成し認定を受けた後、期間内に有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する必要があります。計画書には転換の実施期間を明記しなくてはなりません。
また、平成25年4月以降の有期雇用契約で、その期間が通算5年以内の人の転換に限ります。
65歳超継続雇用促進コースに注目してみよう
65歳超雇用推進助成金の3つのコースの中でも、多くの企業で活用されているのが継続雇用推進のコースです。
令和4年の改正を踏まえた65歳超継続雇用促進コースについて、支給対象となる取り組みや支給額、注意点を見ていきましょう。
受給に必要となる取り組みとは
コースの紹介部分でも触れましたが、65歳超継続雇用促進コースの要件の1つとして、令和4年4月1日以降に次の4つの制度のうちいずれか1つ以上を実施する必要があります。
- 65歳以上の定年引き上げ
- 定年の定めの廃止
- 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
他社による継続雇用制度とは、定年を迎えた人を親会社や子会社など異なる事業主の元で引き続き雇用する契約を結ぶことです。その制度の導入のために引き受け先の企業が就業規則の改正などを行い、経費の全額を自社が負担した場合に助成金の対象となります。
実施する取り組みは、制度として労働協約または就業規則に明記もしておかなくてはなりません。
取り組みの実施におけるポイントと注意点
助成金を受けるには、要件を満たすために次のようなポイントを押さえておく必要があります。
- 高年齢者雇用等推進者の選定が必要である
- 取り組み前の定年・継続雇用年齢は70歳未満でなくてはならない
- 60歳以上かつ1年以上継続雇用の被保険者が1人以上いる必要がある
- 取り組みの対象者が少ないと支給金額も少なくなる
申請日前日の時点で、上の項で伝えた1つ以上の取り組みだけでなく、実際に取り組みを主導する担当者となる「高年齢者雇用等推進者」を選任していなくてはなりません。
そしてどの取り組みを行うにしても、実施前の定年または継続雇用年齢が70歳未満でなければ支給対象とならないことにも注意が必要です。
70歳未満の雇用確保制度を導入し、令和2年度末までに支給申請を行い受給済みの事業主が70歳以上の雇用確保制度を新たに導入した場合は、令和3年4月以降の助成額から受給済み分を差し引いた金額が支給されます。
また、対象となる労働者は雇用保険の被保険者に限られ、支給申請日の前日において1年以上継続雇用されている人が1人以上いなくてはなりません。
対象者が1名でも申請は可能ですが、対象者が少ないと支給される金額も少なく、要した経費を補うには不十分となるおそれもあります。
65歳超継続雇用促進コースの支給額
助成金の支給額は、実施する取り組みや対象となる従業員の人数によって異なります。対象者は、雇用保険の被保険者に限ります。
具体的な支給額を見ていきましょう。
定年年齢の引き上げの場合
対象者数 | 65歳以上への引き上げ | 66~69歳への引き上げ | 70歳以上 | ||
---|---|---|---|---|---|
引き上げ幅5歳未満 | 引き上げ幅5歳以上 | ||||
1~3人 | 15万円 | 20万円 | 30万円 | 30万円 | |
4~6人 | 20万円 | 25万円 | 50万円 | 50万円 | |
7~9人 | 25万円 | 30万円 | 85万円 | 85万円 | |
10人以上 | 30万円 | 35万円 | 105万円 | 105万円 |
70歳以上への引き上げは、旧制度の定年が70歳未満の場合に限ります。
定年の定めの廃止の場合
対象者数 | 支給額 |
---|---|
1~3人 | 40万円 |
4~6人 | 80万円 |
7~9人 | 120万円 |
10人以上 | 160万円 |
定年の廃止は、旧制度の定年年齢が70歳未満の場合に限ります。
66歳以上の継続雇用制度の導入の場合
対象者数 | 66~69歳までの継続 | 70歳以上までの継続 |
1~3人 | 15万円 | 30万円 |
---|---|---|
4~6人 | 25万円 | 50万円 |
7~9人 | 40万円 | 80万円 |
10人以上 | 60万円 | 100万円 |
70歳以上までの継続雇用は、旧制度の定年や継続雇用の年齢が70歳未満の場合に限ります。
他社による継続雇用制度の導入の場合
他社による継続雇用制度を設ける場合は、次のうちいずれか低い方の額が支給されます。
- 他社の就業規則などの改正に自社が払った経費の2分の1
- 下表の上限額
他社による継続雇用の年齢 | 66~69歳 | 70歳未満から70歳以上 |
支給の上限額 | 10万円 | 15万円 |
就業規則などの改正にかかる経費とは、社会保険労務士への委託料などとして要した費用です。先に触れた通り全額を自社で負担することが条件であり、他社に一部でも負担させた場合は支給対象となりません。
【2022年度版】助成金申請で必要な就業規則のポイントとは
65歳超雇用推進助成金の受給には、制度を明文化する就業規則の整備にも注意を払う必要があります。この章では、就業規則に焦点を当てて解説します。
就業規則の整備においては、次の2点が重要なポイントです。
- 就業規則は取り組み実施前の整備が必要
- 就業規則の整備は社会保険労務士への依頼がベスト
- 内容は最新の「高齢者雇用継続安定法」の遵守が必須
それぞれ詳しく見ていきましょう。
就業規則等の整備は取り組み実施前に行う
65歳超雇用推進助成金の申請に必要な取り組みは、まず就業規則などで制度化し、それに基づいて実施するという順に行うことが大切です。
高齢従業員の雇用契約の延長などを実施する前に、まずは社会保険労務士やコンサルタントに相談・依頼しましょう。
助成金の申請には、相談などに要した報酬などの全額を経費として負担している必要があります。
就業規則の整備は社労士への依頼がベスト
ここでさらに注意すべきなのは、就業規則の作成・整備を有償で行うことは社会保険労務士の独占業務だということです。弁護士や一部の行政書士への相談でも支給対象とはなりますが、知識や最新情報といった面で最も盤石なのは社会保険労務士でしょう。
また、労働協約の場合はコンサルタントへの依頼も支給対象となります。ただし過去に同様の業務実績があり、事業の実態が確認できる人(あるいは法人)に限られます。
最近は無資格者などによる助成金の不正受給が相次いでおり、問題視されています。依頼先の選定も慎重に行ってください。
最新の「高齢者雇用継続安定法」に則った就業規則
整備・制定する就業規則の内容は、最新の「高齢者雇用継続安定法」を遵守したものである必要があります。
具体的には、定年制度の廃止など取り組み実施日の6カ月前の日から支給申請日の前日までの期間中ずっと、高年齢者雇用安定法第8条または第9条第1項の規定を満たしている必要があります。これは実際の運用状況ではなく、就業規則に記載の文言や日付で確認されます。
そのため、高齢者雇用安定法の8条または9条の1項と異なる制度内容となっている場合は、就業規則を変更し、取り組みの実施までに6カ月は間を空けなくてはなりません。
高年齢者雇用安定法第8条とは、定年の年齢を60歳以上とするものです。
第9条第1項は、65歳までの雇用を確保するために定年の引き上げ等の措置を講じる義務を課すものです。
【こんな場合も不支給となるので注意!】
なお、法令に基づく適切な高年齢者就業確保措置について、必要に応じて厚生労働大臣からの指導を受けることがあります。
それでも状況の改善が見られない場合には、法に基づき是正に向けた計画作成の勧告を受けることもあります(高年齢者雇用安定法 第10条3第2項)。
この勧告を受けた場合も、この助成金の支給対象からは外れます。勧告後に是正をしたとしても不支給となるので注意が必要です。
助成金の申請時に気を付けたいこと
2022年度版の65歳超雇用推進助成金の申請手続きには、次のような点にも注意してください。
申請先は労働局・ハローワークではない
雇用関連の助成金では、多くが管轄の労働局・ハローワークが申請窓口となっています。しかしこの助成金の窓口は労働局やハローワークではないので注意が必要です。
申請は、各都道府県にある(独)高齢・障害・求職者支援機構の各都道府県支部に行います。
支部は、各地の職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)などに設置されています。
申請受付期間について
申請には、各コースで異なる支給申請期間が定められています。たとえば65歳超継続雇用促進コースの場合、制度の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日までに申請しなくてはなりません。
この場合、土日祝と12月29日から翌年1月3日までの期間は除いて5日以内となるので注意してください。
特に郵送による申請の場合は、書類等が各支部へ申請期間内に到着するように手配する必要があります。
早めの申請がおすすめ
助成金は、国の予算によって実施されています。そのため、各月あるいは四半期ごとの予算上限を超える見込みとなった時点で、申請を締め切られる場合があります。
冒頭でも触れたように、昨年令和3年度は9月24日で締め切りとなりました。その発表は1週間ほど前に行われています。
特にこの65歳超雇用推進助成金の申請先は労働局ではなく、労働局よりも書類不備などについての対応が厳しいのが特徴です。書類に不備があった場合なども想定し、早めの申請がおすすめです。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
65歳超雇用推進助成金は、定年の引き上げや定年制の廃止など、高齢者が従来の定年年齢を超えても引き続き働ける制度の実施を後押しする助成金です。
申請には、まず計画を立てて認定を受け、それに基づき専門家などに依頼して各種の制度を整えるなど、順序立てて事を運ぶ必要があります。
この助成金のカギを握るのは、整備する就業規則の内容です。そのため、依頼する専門家は就業規則作成のプロである社会保険労務士を選ぶことをおすすめします。
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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
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監修者からのコメント 令和3年度は多数の申請のため早々に新規受付停止となっておりましたが、令和4年度も継続されることとなりました。 昨年より支給金額は下がりましたが、取組み対象となる従業員数は少人数からでも申請しやすくなっております。 助成金を活用した定年等の引き上げを検討される場合は、就業規則の見直しから助成金申請までBricks&UKにお気軽にお問い合わせください。