【休業期間の有効活用】雇用調整助成金の教育訓練制度について

2021.04.07

2023.04.25

助成金の対象となる教育訓練

雇用調整助成金は、不況などで従業員を休ませるなどした企業に対し、休業手当や賃金の一部を助成するために支給される助成金です。

「必要書類が多い」「申請が大変」などの声も聞かれハードルが高い印象の助成金申請ですが、コロナ禍において手続きが簡素化され、支給対象も広がっています。

中でも使い勝手が良くなったのが「教育訓練制度」です。先行き不透明でも教育訓練制度を活用して、従業員のレベルアップや新たな技術の習得を図り、ピンチをチャンスに変える企業は増えています。

この記事では、雇用調整助成金の受給額や教育訓練制度のメリット、特例措置による申請方法などをわかりやすく紹介します。

雇用調整助成金の教育訓練について

雇用調整助成金の対象となる教育訓練の例

雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者を一時的に休業・出向させたり、教育訓練を行ったりして雇用維持を図った場合に適用となる助成金です。申請に基づき、事業主が労働者に支払った休業手当等の一部が助成されます。

新型コロナウイルス感染症による雇用調整助成金の特例措置は、2021年12月末まで延長されています(令和3年10月21日現在)。この時期に普段できなかった研修等に従業員が取り組むことは、後の事業展開にも役立つ可能性が高いです。

しかも雇用調整助成金の内容は大幅に拡充され、手続きの簡素化も講じられていますので、おすすめの助成金です。

雇用調整助成金の最大のメリットは、従業員の雇用が維持できることです。相応の事情があるとはいえ、直ちに解雇等の人員整理に走ることは、企業活力の維持という点から見ても、以下のとおりデメリットは少なくありません。

人員整理のデメリット

  • 労使間の信頼関係の崩壊、企業活力の低下、経営の非効率化
  • 労働者の勤労意欲や士気の低下
  • 景気回復後の人材確保難、採用・訓練の費用負担の増加

不況下で会社がどういった措置を講じるのかには、従業員も注目しています。企業活動を維持して将来の発展につなげていく上でも、慎重な対応が求められます。

助成の対象となる教育訓練とは

助成金の対象となるもののチェックをする人

対象となる教育訓練の要件

雇用調整助成金の受給には、要件を満たす必要があります。

まずは雇用調整助成金および教育訓練の従来の要件から紹介します。コロナ禍による特例措置については次の章で解説していきます。

雇用調整助成金の対象となる事業主の要件

1)雇用保険の適用事業所の事業主である

売上高または生産量などの事業活動を示す指標について、最近3カ月の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少している

2)雇用保険の被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超え、かつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していない

3)実施する雇用調整が一定の基準を満たすものである

4)過去に雇用調整助成金の受給実績がある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えている

上記の4項目を満たした上で、実施する教育訓練についてはさらに次のような要件も満たす必要があります。

  • 労使間の協定により、所定労働日の全1日にわたって実施されるものであること

(事業所の従業員全員について一斉に1時間以上実施されるものであっても可)

  • 教育訓練の内容は、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであり、当該受講日において業務に就かないものであること

雇用調整助成金の支給対象となる「教育訓練」は、職業に関する知識、技能または技術を習得させ向上させることを目的とする教育、訓練、講習などをいいます。

しかし助成金の対象となる訓練や、守らねばならない所定労働時間などの条件があります。続いて、助成金の対象となる教育訓練や対象とならない教育訓練、具体的な受給額などについて紹介します。

助成金の対象となる教育訓練、ならない教育訓練

助成金の受給対象と対象外

教育訓練と一口にいっても、さまざまな種類のものがあります。対象となるものとならないものがあるので注意が必要です。

まず助成金の対象となるのは、雇用保険に加入している人(被保険者)のみです。

また支給対象となる教育訓練は、所定の労働日の時間内に全日就業せず、職業のための知識習得やスキルアップを目的として行われるものです。ただし、法令で義務づけられたものや規定などに基づいて通常実施されるものについては対象外です。

従来の制度では、次のような教育訓練は雇用調整助成金の対象外です。

  • 職業に関する知識、技能または技術の習得または向上を目的としないもの

たとえば、意識改革研修やモラル向上研修、寺社での座禅等は対象となりません。

  • 職業または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの

これは、接遇・マナー講習やパワハラ・セクハラ研修、メンタルヘルス研修といったもののことです。

  • 趣味・教養を身につけることを目的とするもの

日常会話程度の語学の習得だけを目的とした講習や、話し方教室などが該当します。

  • 実施目的が訓練に直接関連しない内容のもの

講演会や研究発表会、学会等などが当てはまります。

  • 通常の事業活動として遂行されることが適切なもの

たとえば自社の商品知識を習得するための研修やQCサークルなどは、通常実施されるものと見なされます。

  • その企業において通常のカリキュラムに位置付けられているもの
  • 法令で義務付けられているもの
  • 教育訓練科目、職種等の内容に関する知識または技能、実務経験、経歴を有する指導員または講師(資格の有無は問わず)により行われないもの
  • 講師が不在のまま自習(ビデオ等の視聴を含む)を行うもの
  • 転職や再就職の準備のためのもの
  • 過去に行った教育訓練を、同一の労働者に実施するもの
  • 海外で行われるもの
  • 外国人技能実習生を対象として行うもの

助成金の受給額

助成金の受給イメージ

雇用調整助成金では、休業・教育訓練の場合、その初日から1年の間で最大100日分、3年の間に最大150日分が受給できます。

出向の場合は、最長1年の出向期間中について受給が可能です。また、教育訓練を実施した場合には、助成金額が上乗せされます。

休業・教育訓練の場合の助成額

休業または教育訓練を実施した場合の助成額は、休業を実施した場合の休業手当、または教育訓練を実施した場合の賃金に相当する額に、助成率(中小企業:3分の2、大企業:2分の1をかけた額です。ただし1日1人あたり8,370円が上限です(令和2年8月1日現在)。

教育訓練の場合の加算額

教育訓練を実施した場合は、さらに1人1日当たり1,200円が加算されます。

新型コロナウイルス感染症による要件緩和

助成金の要件緩和で喜ぶ女性

雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症にともなう特例措置

新型コロナウイルスの影響に伴う特例の拡充により、教育訓練の要件が緩和されています。

助成率や加算額も上乗せされ、受給側のメリットは大きくなっています。

助成率

中小企業:3分の2 → 5分の4

大企業:2分の1 → 3分の2

ただし休業時と同様、日額15,000円が上限です。

加算額

教育訓練による加算は、1,200円だったところ 次のように拡充されました。

中小企業:2,400円(1日)

大企業:1,800円(1日)

解雇等を行っていない中小企業が教育訓練を行った場合、1人1日あたり最大15,000円の助成に加え、2,400円の加算があり、最大で17,400円の受給が可能です。

また、雇用保険被保険者ではない学生アルバイトや、労働時間が週20時間未満の労働者も「緊急雇用安定助成金」として助成金を支給することができるようになりました。さらに、対象となる教育訓練の範囲も広がっています。

対象となる教育訓練の範囲の拡充

社内での教育訓練の様子

新型ウイルスの影響に伴う要件緩和では。本来の雇用調整助成金では対象外となる、次のようなの教育訓練も支給対象となっています。

  • 自宅などで行う学習形態の訓練

片方向、双方向の受講いずれも対象です。

  • 職業、職務の種類を問わず、職業人として共通して必要なもの

接遇・マナー研修や、パワハラ・セクハラ研修、メンタルヘルス研修といったものも、特例措置では対象となりました。

  • 繰り返しの教育訓練が必要なものについて、過去に行った教育訓練を同一の労働者に実施する訓練

ただしこの場合、同一の対象期間での再訓練は認められません。

  • その企業において通常の教育カリキュラムに位置づけられている訓練
  • 自社の職員が指導員となり行う訓練

認められる教育訓練の範囲が、かなり広がっていることがわかります。

教育訓練の実施時間の変更

従来は教育訓練を実施する日の就労はできませんでしたが、特例による拡充で、半日のみの訓練(3時間~1日の所定労働時間未満の教育訓練)や半日の就業も可能になりました。

たとえば、タクシー運転手や宿泊業の従業員に対する業務上必要な教養の範囲を超える英会話研修や、新入社員に自宅でインターネットを活用する形で実施する新人研修でも、助成金の対象となり得ます。

雇用調整助成金(教育訓練)の申請の流れ

助成金の申請をしようとする人

雇用調整助成金の申請にあたっては、手続きの複雑さや申請書類の煩雑さなどが問題となっていました。

しかし、コロナ禍での緊急対応期間中の特例として「計画届」の提出が不要になっています。

ただし教育訓練を申請するには、実施主体(事業主、研修講師など)、対象者、科目、カリキュラムやその期間を確認できる書類が必要です。教育訓練の実施後には、各受講者の受講を証明する書類(受講者レポートなど)を提出します。

主な受給要件やおおまかな申請の流れを見てみましょう。

雇用調整助成金(教育訓練)の主な受給要件

教育訓練助成金の受給要件

新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置では、以下の条件を満たす全ての業種の事業主を対象としています。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
  • 最近1カ月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している
  • 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている

特例措置では、このように売上高や生産量の比較対象月についても、柔軟な対応をしています。

雇用調整助成金(教育訓練)の申請の簡単な流れ

助成金支給の流れを教える人

雇用調整助成金の申請は、次のような流れで行います。

  • 1)休業計画の立案、労使協定の締結

休業等の具体的な内容を検討し、労使間で休業等に関する協定を結びます。

  • 2)休業等の実施

計画にもとづき、休業や教育訓練等を行います。

  • 3)支給申請

休業等の実績に基づき、支給申請の手続きをします。支給対象期間ごとに申請。申請期限は支給対象期間の末日の翌日から2カ月以内です。

  • 4)労働局による審査

支給申請の内容について、労働局で審査が行われます。

  • 5)支給決定

審査に通り支給額が決まると、指定の口座に振り込まれます。

雇用調整助成金(教育訓練)申請に必要な書類

雇用調整助成金申請に必要な書類の準備

雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)の休業等(休業・教育訓練)に関する申請には、次のような書類の提出が必要です。

必要書類は、小規模事業主とそれ以外の場合とで異なります。

小規模事業主の場合

  • 雇用調整助成金支給申請書
  • 休業実績一覧表
  • 支給要件確認申立書(雇用調整助成金)
  • 【初回申請のみ提出】比較した月の売上などがわかる書類(写)

(売上簿やレジの月次集計、収入簿など)

  • 休業させた日や時間がわかる書類(写)

(出勤簿やシフト表、タイムカードなど)

  • 休業手当や賃金の額がわかる書類(写)

(給与明細の写しや控え、賃金台帳など)

  • 役員名簿(役員等がいる場合)

役員名簿は生年月日が入ったものが必要です。

小規模事業主以外

  • 【初回申請のみ提出】雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書

売上簿や収入簿、レジの月次集計等(写)の添付が必須です。

  • 支給要件確認申立書(雇用調整助成金)
  • 休業・教育訓練実績一覧表
  • 雇用調整助成金助成額算定書
  • 雇用調整助成金(休業等)支給申請書
  • 休業協定書(写)

【初回申請のみ提出】事業所の規模を確認する書類(写)

  • 労働・休日の実績に関する書類(写)

休業させた日や時間がわかる書類(出勤簿、シフト表、タイムカード等)を提出します。

  • 休業手当・賃金の実績に関する書類(写)

休業手当や賃金の額がわかる書類、賃金台帳、給与明細などを提出する必要があります。

助成金申請時の留意点

助成金申請のポイントを解説する人

雇用調整助成金の申請手続は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークで受け付けています。

助成金を活用すべく教育訓練を行う企業なども増えていますが、虚偽の支給申請を行うなどの不正も一部で発生しています。

このため都道府県労働局では、不正受給が特に重大または悪質であると見なしたものについて、ホームページ上で事業主の名称や代表者の氏名、不正の内容などを公表しています。

また助成金の内容は今後も変更する可能性があります。常に最新の情報をキャッチいておくことが大切です。

教育訓練を行うメリット

教育訓練のメリット

雇用調整金助成金における教育訓練を通じて、従業員に様々な技能を習得させることは、景気回復後の事業展開にも役立てることができます。

具体的なメリットには次のようなことが挙げられます。

  • ①労使の協調的・信頼的関係が増し、景気回復後の経営・生産・販売・研究開発などの効率性が高まる
  • ②労働者の勤労意欲・士気の向上が見込める
  • ③労働者の職業上の能力もプラスされ、生産調整に伴う円滑な配置転換や、景気回復後の事業展開にも役立つ

新型コロナウイルス感染症の影響により、売上減など厳しい状況に直面している企業は少なくありません。

しかし大変な時期だからこそ、普段はなかなか実施できない教育訓練の時間に充てることができる、とも言えます。

その一助となる雇用調整助成金にはこれまで、「申請しても時間がかかる」「書類が多くてハードルが高い」といった問題がありました。ところがコロナ禍の特例措置により申請の要件は緩和され、対象となる訓練の範囲も広がるなどしています。

国の制度を活用し、将来のビジネスチャンスにつなげましょう。

まとめ

雇用調整助成金申請の専門家

2021年3月23日時点で「雇用調整助成金」の累計支給申請件数は300万件を超え、企業による申請件数も増え続けています。

しかし雇用調整助成金(教育訓練)等の申請に際しては、都道府県の労働局やハローワークへの必要書類の提出や受給のための複雑な手続きが必要です。

助成金の申請は、専門家である社労士に依頼するのがおすすめですが、どこの社労士事務所でも同じではありません。助成金の申請実績が豊富な社労士事務所に相談することをおすすめします。

監修者からのコメント 当社Bricks&UKでは、高い実績を誇る社会保険労務士が、助成金の申請から受給までサポートいたします。 雇用調整助成金(教育訓練)の申請も数多く行っております。 教育訓練をお考えの際は、ぜひご相談ください。

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