【令和5年度改正情報】キャリアアップ助成金正社員化コース

2023.08.31

令和5年度改正のキャリアアップ助成金

正社員と非正規社員との間で待遇に不合理な格差を設けることは禁止されており、政府は企業に非正規雇用の待遇の改善や正社員化を推奨しています。とは言え、企業側にとって非正規での雇用には人件費の削減という大きなメリットもあり、待遇改善と言っても簡単ではありません。

そこで多くの企業が活用しているのが、キャリアアップ助成金の正社員化コースです。

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の雇用の安定や待遇の改善に取り組んだ場合に企業が受け取れる助成金です。5つのコースが設けられており、コースや対象労働者の数などによっては、支給額が1000万円を超えることも。

この記事では、このキャリアアップ助成金について、令和5年度の改正内容をわかりやすく解説します。

キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金の対象者

キャリアアップ助成金は、文字通り労働者のキャリアアップを目的とした助成金で、その対象は非正規雇用のみです。複数のコースが用意されていますが、主に活用されているのは次の5コースです。

  1. 正社員化コース
  2. 賃金規定等改定コース
  3. 賃金規定等共通化コース
  4. 賞与・退職金制度導入コース
  5. 短時間労働者労働時間延長コース

要件や支給額を大まかに確認しておきましょう。

1.正社員化コース

キャリアップ助成金正社員コースの対象者

パートやアルバイト、契約社員や派遣社員といった非正規雇用の従業員を、正規雇用に転換した場合に助成が受けられるコースです。

雇用形態を変えるだけではなく、賃金を3%増額することも必要です。また、正社員として6カ月の雇用実績がなければ申請できません。

申請には、まずキャリアアップ管理者を定め、3年以上5年以内のキャリアアップ計画を策定。計画書をあらかじめ労働局に提出した後に実施する必要があります。

転換前の雇用形態により、支給額は次のように異なります。

転換内容 支給額(1人あたり)
有期雇用契約→正社員 中小企業:57万円    
大企業   :42万7500円
無期雇用契約→正社員 中小企業:28万5000円
大企業 :21万3750円

1年度につき、1事業所あたり20名が支給の上限です。

また、派遣労働者を直接雇用した場合には28万5000円、対象者がひとり親家庭の親なら9万5000円(大企業は4万7500円)など、取り組みに応じた加算もあります。

さらに、対象者に所定の訓練を終了させることにより、正社員化コースと人材開発支援助成金とを併用することも可能です。

2.賃金規定等改定コース

キャリアップ助成金の対象となる賃金規定の改定

有期雇用労働者等に適用される賃金規定を改定し、基本給を3%以上増額させたうえ、その規定を実際に適用した場合に助成されるコースです。

支給申請は、改定後の賃金の支払いを6カ月間継続した後に可能となります。

賃金の引き上げ率により、次の通り支給されます。

賃金引き上げ率 支給額(1人あたり)
3%以上5%未満 中小企業:5万円      
大企業 :3万3000円
5%以上 中小企業:6万5000円
大企業 :4万3000円

1年度内の1事業所あたりの支給上限は100名です。

また、職務評価を取り入れた賃金規定の増額改定がなされている場合には、1事業所あたり20万円(大企業の場合は15万円)の加算が受けられます。

ただし、基本給については増額改定する一方、諸手当の額を下げたような場合は待遇改善とは言えず、支給対象とはなりません。

通常は、賃金改定となると、原則として同じ雇用形態の従業員全員が対象となるものです。しかし、職種別など合理的な理由がある場合のみ、一部の従業員のみを対象とすることも認められます。

3.賃金規定等共通化コース

キャリアップ助成金の賃金規定等共通化コース

自社で雇用するすべての有期契約労働者等に関する賃金規定を、正規雇用労働者と共通の職務に応じて新たに作成し、実際に6カ月以上適用した場合に対象となるコースです。

賃金の区分(等級)について、正規・非正規とも3区分以上を設定し、そのうち2区分以上が正規・非正規に共通する職務に対するものであり、かつ正規雇用の賃金を時給換算した場合と同等以上の額である必要があります。

規定した内容は、運用上だけでなく就業規則や労働協約に定めることも必須です。

支給額は次のとおりです。

企業規模 支給額(1事業所あたり)
中小企業 60万円
大企業 45万円

支給は1事業所につき1回のみです。

4.賞与・退職金制度導入コース

キャリアアップ助成金の賞与・退職金制度導入コース

すべての有期雇用労働者等が対象となる賞与や退職金の制度を新たに設け、支給または積み立てを実施した場合に対象となるコースです。

具体的には、次のような要件があります。

  • 賞与・退職金制度のいずれか、あるいは両方を設けること
  • 上記の規定を就業規則や労働協約に記載すること
  • 賞与については、6カ月分相当として5万円以上を支給すること
  • 退職金については、月3,000円以上を6カ月分、または6カ月分相当として1万8000円以上積み立てること
  • 上記の初回支給または積み立て後、制度が6カ月以上継続運用されていること
  • 基本給や手当を減額していないこと

支給額は、制度の導入実績により次のいずれかの額となります。

導入した制度 支給額(1事業所あたり)
賞与または退職金制度のいずれか 中小企業:40万円
大企業 :30万円
賞与および退職金制度の両方 中小企業:56万8000円
大企業 :42万6000円

ただし、過去に「旧諸手当制度共通化コース(令和2年度)」や「旧諸手当制度等共通化コース(令和3年度)」の助成金 を受給している場合は、このコースを受給できません(健康診断制度のみについて受給した場合を除く)。

5.短時間労働者労働時間延長コース

キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長コース

有期雇用労働者等のうち社会保険の適用外の人に対し、所定労働時間を増やして新たに社会保険の被保険者とした場合に対象となるコースです。

支給の申請は、所定労働時間を延長した賃金で6カ月間の支払いを終えた後に可能となります。

延長した労働時間によって、支給額には次の3パターンがあります。また、3時間未満の延長については、手取り収入が減ることのないよう、時間延長に応じた基本給の増額も行う必要があります。

週所定労働時間
(および基本給)
支給額(1人あたり)
①3時間以上の延長 中小企業:23万7000円
大企業 :17万8000円
②2時間以上3時間未満の延長
(6%以上の増額)
中小企業:11万7000円
大企業 : 8万8000円
③1時間以上2時間未満の延長
(10%以上の増額)
中小企業:5万8000円
大企業 :4万3000円

1年度あたりの上限人数は、①~③を合わせて1事業所あたり45人です。

上記①の支給額は、令和6年9月30日まで増額された金額となっています。②と③については、令和6年9月30日までの暫定措置です。

キャリアアップ助成金 正社員化コースの令和5年度改正情報

キャリアアップ助成金の令和5年改正情報

キャリアアップ助成金の正社員化コースは、制度内容が毎年度のように改正させています。令和5年度は主に次の4つについて改正されました。

生産性要件による加算の廃止

キャリアアップ助成金の生産性要件廃止

令和4年度までは、助成金の受給に必要な取り組みに加え、売上など生産性を向上させることによって助成額の加算が受けられました。

しかしこの生産性要件による加算制度は、令和4年3月31日をもって廃止されました。

加算がないことはデメリットとなりますが、生産性要件にかかる書類を用意するなどの手間もなくなりました。

生産性要件はこのコースに限らず、対象となっていたすべての助成金で廃止されています。

加算対象訓練の追加

キャリアアップ助成金の対象訓練の追加

正社員コースは、人材開発支援助成金との併用が可能なことは前述の通りです。特定の訓練を受けさせ、その修了後に正社員化した場合には、助成金の加算が受けられます。

加算対象となるのは、人材開発支援助成金の次のいずれかのコースの対象となっている訓練です。

  • 人材育成支援コース
  • 人への投資促進コース
  • 事業展開等リスキリング支援コース

人材育成支援コースは、過去の「特別育成訓練コース」と「特定訓練コース」、「一般訓練コース」が統廃合されたものです。

ちなみに、訓練による加算額は次のとおりです。

対象となる取り組み 支給額(1人あたり)
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化 有期雇用から転換:9万5000円
無期雇用から転換:4万7500円
上記のうち、自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練修了後に正社員化 有期雇用から転換:11万円   
無期雇用から転換:5万5000円

訓練の修了が要件の1つとなっているため、訓練中に正社員化した場合は対象とならないことに注意が必要です。

人材開発支援助成金との計画書の一本化

人材開発支援助成金とキャリアップ助成金の計画書の一本化

令和4年度まで、人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金の支給を受けるには、それぞれについて計画書を作成・提出する必要がありました。

令和5年度は、人材開発支援助成金について作成・提出する「訓練実施計画書」に次の2点を記載することで、人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金(正社員化コース)の計画書を1つにまとめることができます。

  • キャリアアップ管理者の氏名
  • 訓練修了後、正社員に転換する旨とその予定時期(年・月)

この場合、訓練実施計画書の届出日より5年以内がキャリアアップ計画期間となります。

有期実習型訓練修了者の適用規則について

キャリアアップ助成金の令和5年度からの改定点

人材開発支援助成金の人材育成支援コースによる有期実習型訓練を修了した有期雇用労働者について、適用される就業規則についての要件が追加されました。

令和5年10月1日以降に正社員への転換をする場合には、転換前に当人に対し「賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」、つまり基本給の額や計算方法が契約社員やパート社員用に別途設けられた賃金規定等を適用している必要があります。

また、その規定を転換前に6カ月以上、雇い入れから6カ月未満の場合は雇い入れから転換日までの間すべてにおいて適用していなくてはなりません。

キャリアアップ助成金の正社員化コースが注目される理由

「キャリアアップ助成金 正社員化コース」は、多くの企業で注目され活用されています。その理由は大きく3つ挙げられます。

1年度を通じ1000万円以上の受給も可能

キャリアアップ助成金の受給額

正社員コースの魅力の1つが、支給額の高さです。

中小企業が有期雇用の非正規労働者を正社員化した場合、1人につき57万円の受給が可能です。申請の上限が20名なので、単純計算して×20名=1140万円の受給も可能だということ。

さらに各種の加算もあるため、支給要件さえ満たせばそれ以上の額となる可能性も大いにあります。

上限以内であれば人数が多いほど助成額は高くなるため、まとまった人数の待遇改善を行うなら助成金申請は必須と言えます。

支給対象人数は最大20名

キャリアアップ助成金の支給対象人数

支給対象人数の多さも、注目される理由です。年度当たりの上限人数は20名ですが、これは事業所ごとの数字です。

事業所とは、事業を行う場所や経営組織ごとの単位。つまり経営や経理などが別個になっている営業所や工場などがある場合は、それぞれが1つの事業所です。

そのため、例えば5つの事業所があればそれぞれで20名、会社全体で100名までが支給対象になり得るということです。

人材開発支援助成金との組み合わせで助成額UP

人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金の併給

正社員コースは、前の章でも伝えた通り「人材開発支援助成金」と組み合わせて活用できることも大きな特徴です。

有期雇用労働者に対し人材開発支援助成金の対象となる訓練を行った後に正社員への転換をした場合、正社員コースの助成金1人あたり57万円に加え、9万5000円もしくは11万円(訓練内容による)の加算が受けられます。

従業員のスキルが上がれば、生産性の向上も期待できます。労使どちらにも大きなメリットがあるので、利用しない手はありません。

キャリアアップ助成金申請時の注意点

助成金は、補助金と異なり支給要件さえ満たせば受給ができます。しかし、その支給要件が多くかつ細かいので注意が必要。申請したのに不支給となってしまうケースも少なくありません。

キャリアアップ助成金については、次の3点を必ず押さえておきましょう。

事前の計画書提出は必須

キャリアアップ助成金の計画書提出

キャリアアップ助成金は、いきなり雇用を転換して申請しても受給できません。あらかじめ、管轄の労働局にキャリアアップ計画書を提出する必要があります。計画書の内容によっては、策定のやり直しが必要となることも。余裕をもって準備を進めていきましょう。

キャリアアップ計画書には、次の内容を記載します。

  • 計画期間(3年以上5年以内)
  • 対象者
  • 目標
  • 目標を達成するために講じる措置
  • キャリアアップ計画全体の流れ

計画書の提出後、事業所の名称や所在地など、あるいはキャリアアップ計画を変更する場合は、「キャリアアップ計画変更届」を提出しなくてはなりません。

ただし、人材開発支援助成金も申請する場合には、前述の通り計画書の一本化が可能です。

就業規則の届出義務を遵守

就業規則の届け出義務も遵守

1つの事業所に10名以上の労働者がいる場合、就業規則の作成は事業主の義務となっています。対象となる事業所で未届の場合は、支給申請日よりも前に必ず管轄の労働基準監督署に届け出てください。

また、助成金の受給には、就業規則に各コースの支給要件となっている制度の新設や改正が必須です。特に以下の項目については、もれなく整備しておきましょう。

  • 賃金の額や計算方法(賃金規定での整備も可)
  • 正社員への転換方法(手続き、要件、時期など)
  • 契約期間に係る規定(有期雇用労働者の場合)
  • 賞与や退職金に係る規定
  • 昇給に関する規定

たとえば、有期雇用について契約期間を記載していないと、正社員への転換が「無期雇用からの転換」と見なされ、受給額が低くなる可能性があります。

なお就業規則は、事業所ごとに作成しなければなりません。

規則や資料には合法性と整合性を

規則や資料には合法性と整合性を

助成金の支給は、法令の遵守が前提です。次のような帳票類の記載に法令違反がないこと、各書類を照合しても矛盾がないことを確認してください。

  • 就業規則
  • 雇用契約書
  • 出勤簿
  • 給与明細もしくは賃金台帳

例えば就業規則や雇用契約書について、労働法に違反するような規定や条件での契約があってはなりません。

雇用契約書に記載の条件と賃金台帳の支払い額が違う場合や、出勤簿の出勤日数で計算した給与額と給与明細、賃金台帳が違っているようなケースも、助成金は不支給となり得ます。

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

「キャリアアップ助成金 正社員化コース」は、非正規雇用の従業員の待遇改善で受け取れる助成金です。優秀な従業員に長く活躍してもらうことは、自社の発展につながりますが、費用もかかるもの。正社員コースは受給額が高いので、ぜひ活用したい助成金の1つです。

しかし、助成金の申請には、計画書の策定や就業規則の整備など、細かな準備が必要です。事業の合間に行うには制度内容も煩雑なため、専門家の手を借りるのが最善策と言えるでしょう。

当サイトを運営する「社会保険労務士法人Bricks&UK」には、助成金の申請実績が豊富にあります。各社に応じた就業規則の整備や申請可能な助成金の選択も適切に行うことができますので、ぜひお気軽にご相談ください。

監修者からのコメント キャリアアップ助成金の申請をチェックしている際に多い間違いTOP3が、 ①雇用契約書と就業規則の内容の不一致、②賃金3%UPの計算誤り、③就業規則の規定自体の誤りです。 ①は就業規則の内容をよく確認せずに雇用契約書を作成しているパターンです。給与額以外にも、勤務時間や定年の規定は合っているか等、確認しましょう。 ②は3%UPに含めることのできる手当、できない手当を確認せずに計算に含めてしまっているパターンです。 ③は特に令和4年10月のキャリアアップ助成金改正の反映ができていないパターンです。「賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分」の就業規則は転換の半年前から適用される必要がありますので、注意が必要です。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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