従業員にスキルを身につけさせたい事業主の方に活用をおすすめしたいのが、厚生労働省による「人材開発支援助成金」の制度です。以前は「キャリア形成促進助成金」という制度でしたが、名称・内容ともに変更されています。
ちなみにこの助成金と、非正規雇用を正規雇用にするなどで受けられる「キャリアアップ助成金」とは異なります。キャリアアップ助成金についてはこちらの記事で紹介しています。
人材開発支援助成金には、従業員の職業能力を開発するための取り組み内容に応じてさまざまなメニューがあります。そのため、申請には自社に適した助成金を選ぶことが必要です。
この記事では、助成金制度の内容や受け取れる額について大まかに紹介していきます。
目次
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)とは
冒頭でも述べたように、もともと「キャリア形成促進助成金」として存在していた助成金制度が、平成29年度から「人材開発支援助成金」にリニューアルされ、制度内容についても再編や廃止・統合が行われました。
助成金の目的
この助成金の目的は、事業主が従業員に段階を踏んだ総合的な職業能力開発を行うことによって、従業員の効果的なキャリア形成を促進することです。
従業員はもちろん、自社にもメリットのある制度と言えるでしょう。少ない支出で従業員のスキルアップを行えるため、うまく活用することで競争力のアップにも役立ちます。
旧制度からの変更点
旧制度からは名前が変わっただけにとどまらず、7種類のコースに再編されました。
旧制度にあった「一般型訓練コース」は「一般訓練コース」に変更されています。
「重点訓練コース」と「雇用型訓練コース」は、人材開発支援助成金の「得点訓練コース」に組み込まれました。
助成の項目は複数ある
この助成金には、目的や取り組みなどに応じて、コースによっても異なる次の3種類の助成があります。
助成の種類 | 対象となるもの |
経費助成 | 部外の講師への謝金や手当、施設や設備の借上費など |
賃金助成 | 賃金を支払った場合の助成額 |
OJT助成 | OJTの場合に適用 |
では、7つのコースそれぞれの支給額について、コースごとに解説していきます。
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)の支給額
この章では各コースでいくら受け取れるのかについて見ていきましょう。助成の額や割合については、中小企業以外が対象となる制度についても中小企業の場合に絞って紹介していきます。
特定訓練コース
特定訓練コースは、従業員が専門的な知識や技術を習得できるよう、10時間以上の特定の職業訓練などを行った場合に助成されます。
内容に応じて3種類の助成が用意されています。
助成の種類 | 支給率・支給額 | 備考 |
経費助成 | 45%(15%) | OFF-JT限定 |
賃金助成 | 760円(200円) | OFF-JT限定 |
OJT実施助成 | 665円(175円) | OJT限定。雇用型訓練のみ |
支給額は1人1時間あたりの金額です。カッコ内は生産性要件を満たした場合の金額です。
生産性要件
原則として、支給申請を行う会計年度の生産性が3年前に比べて6%以上アップしていること
OJT(On-the-Job Training)とは日常業務を通じて行う社員教育のこと。OFF-JT(Off-the-Job Training)とは、通常業務とは離れて行う研修などの教育訓練のことです。
次のいずれかに該当する場合は、OFF-JTの経費助成率が60%にアップします。
- 「特定分野認定実習併用職業訓練」の助成対象事業主
- 「セルフ・キャリアドック制度」導入企業
「特定分野認定実習併用職業訓練」とは、製造業や建設業、IT通信業などの実践的で高度な訓練が必要な分野で、15歳以上45歳未満の従業員に対して指定の訓練を受けさせるものです。
「セルフ・キャリアドック制度」とは、ジョブカードを活用したキャリアコンサルタントによるコンサルティングを、従業員に定期的に受けさせる制度です。
助成の上限額や上限時間は次のように定められています。
助成の種類 | 上限額・上限時間 |
経費助成 | 1人1年間あたり ・10時間以上100時間未満:15万円 ・100時間以上200時間未満:30万円 ・200時間以上:50万円 |
賃金助成 | 1人1訓練あたり1200時間 ただし認定職業訓練・専門実践教育訓練は1600時間 |
OJT実施助成 | 1人1訓練あたり680時間 |
また、1事業所が1年度に受給できる助成額にも上限があります。特定訓練コースで申請する場合、他のコースとあわせて1000万円までが助成の対象です。
一般訓練コース
このコースでは、20時間以上のOFF-JTのみが対象となります。生産性要件を満たすと、表のカッコ内に記された金額または割合の金額を後日受け取れます。
助成の種類 | 支給率・支給額 |
経費助成 | 30%(15%) |
賃金助成 | 1人1時間あたり380円(100円) |
賃金助成の上限時間は、特定訓練コースの場合と同じく1人1訓練あたり1200時間です。一方で、経費助成の上限額(1人1年間あたり)は特定訓練コースよりも低く、次のように設定されています。
- 20時間以上100時間未満:7万円
- 100時間以上200時間未満:15万円
- 200時間以上:20万円
また、一般訓練コースのみで申請する場合は、1年度の助成額は特定訓練コースを含む場合の1000万円の半額となる500万円が限度です。
上記のとおり金額の差が大きいため、可能ならば特定訓練コースの受給もあわせて検討することをおすすめします。
特別育成訓練コース
特別育成訓練コースは、非正規雇用契約の従業員の処遇改善のための訓練が対象です。当人に支払った賃金と、訓練に要した経費の助成が受けられます。
賃金助成の額は、中小企業の場合1人1時間あたり760円です。生産性要件を満たすと、後日1人1時間あたり200円の割増助成を申請できます。
しかしOJTは対象外となる訓練も多いので注意が必要です。上限時間も、訓練種別によって異なります。
訓練名 | OFF-JT分(上限時間) | OJT分(上限時間) |
一般職業訓練 | 対象(1200時間) | 対象外 |
中長期的キャリア形成訓練 | 対象(1600時間) | 対象外 |
有期実習型訓練 | 対象(1200時間) | 対象(680時間) |
中小企業等担い手育成訓練 | 対象(1200時間) | 対象(1020時間) |
経費に対する助成は、OFF-JT分のみが対象です。下表の額と実費のどちらか低いほうが助成されます。
訓練名 | 助成額 |
一般職業訓練、有期実習型訓練 | ・20時間以上100時間未満:10万円 ・100時間以上200時間未満:20万円 ・200時間以上:30万円 |
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中長期キャリア形成訓練 | ・20時間以上100時間未満:15万円 ・100時間以上200時間未満:30万円 200時間以上:50万円 |
この表で示しているのは、中小企業に対する助成内容です。
制度の適用を受けるためには、OFF-JTとOJTの区別を明らかにしなくてはいけません 。OFF-JTであれば業務とははっきり分けるなどの対応が求められます。
教育訓練休暇付与コース
このコースは、従業員に対し社外の職業訓練などを受けるための休暇を与えた場合に利用できる助成金です。支給対象となる制度には、休暇の期間によって「教育訓練休暇制度」と「長期教育訓練休暇制度」の2種類があります。
教育訓練休暇制度を実施した場合は、「制度導入・実施助成」として30万円が受け取れます。生産性要件を満たす場合は、受給額が36万円にアップします。
一方で長期教育訓練休暇制度の場合には、賃金に対する助成と経費に対する助成があります。
助成の種類 | 助成額 |
賃金助成 | 1人1日あたり6,000円 |
経費助成 | 20万円 |
賃金助成は最大150日分が上限で、被保険者数が100人未満の企業では1人が支給対象の上限です。
生産性要件を満たすと、表の金額に加えて、助成された額の20%相当分も後日申請できます。合計で賃金助成は7,200円、経費助成は24万円となります。
従業員に休暇を与えてスキルアップをさせつつ費用の助成も受けられ、自社・従業員ともに大きなメリットがあります。
建設労働者認定訓練コース
このコースは、名称のとおり建設事業者を対象とした助成金です。政府の指定訓練のうち、建設に関する訓練を従業員に行った場合に助成が受けられます。
助成の種類 | 支給額や支給率 |
---|---|
経費助成 | 対象経費の6分の1にあたる額 |
賃金助成 | 1人1日あたり3,800円 |
支給の上限は年間で1000万円です。
生産性要件を満たすと、賃金助成の割増分として後日1日1人あたり1,000円を申請できます。
建設労働者技能実習コース
このコースは、建設作業員である従業員に指定の内容の技能実習を行った場合に対象となり、経費助成と賃金助成の両方が受けられます。
雇用保険被保険者数 | 経費助成率 | 1日あたりの賃金助成 |
20人以下 | 75% | 8,550円(9,405円) |
---|---|---|
21人以上 | 35歳未満:70% 35歳以上:45% |
7,600円(8,360円) |
経費助成率は、支給対象費用に対して助成される割合です。
表のカッコ内の金額は、対象者が建設キャリアアップシステム技能者情報登録者の場合に適用されます。
生産性要件を満たす場合は、経費助成は15%相当分、賃金助成は被保険者数20人以下の場合は2,000円、20人以上の場合は1,750円(いずれも1人1日あたり)を割増分として後日申請できます。
1つの技能研修における上限は、経費助成が1人あたり10万円、賃金助成が20日分までです。1年度における支給額の合計は、500万円が上限とされています。
障害者職業能力開発コース
このコースは、障害者の職業能力を開発・向上させるべく教育訓練を行ったり、継続的な訓練のための施設を新たに設置・整備する事業主を対象とする助成金です。
助成には、「訓練科目ごとの施設や設備の設置・整備などにかかる費用への助成」と、「職業能力開発訓練の運営費への助成」の2種類があります。
施設や設備を設置・整備、更新した場合は、かかった費用の75%が助成されます。ただし下表のように上限があります。
助成の対象となる措置 | 上限額 |
施設・設備の設置や整備(初めて助成金の対象となる場合) | 5000万円 |
---|---|
施設・設備の更新の場合 | 1000万円 |
たとえば、訓練施設の一部の構造を強化するために工事を行う場合は「整備」、老朽化のため建て替える場合は「更新」に該当します。
一方で運営費は、訓練の対象者によって下表のように75%または80%の助成が受けられます。
訓練対象労働者 | 助成額の計算方法 |
重度障害者等 | 1人あたりの運営費×80%(月額17万円まで)×訓練時間の8割以上受講した人の数 |
---|---|
上記以外 | 1人あたりの運営費×75%(月額16万円まで)×訓練時間の8割以上受講した人の数 |
訓練を受けた時間が8割に満たない受講者にかかる運営費は、受講した時間に応じて算出します。
また、訓練を行った重度障害者等が就職をした場合には、1人あたり10万円が事業主に助成されます。
運営費には、職員の給与や実習経費、土地建物の賃借料などが含まれます。
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)のメリット・デメリット
人材開発支援助成金のメリット
人材開発支援助成金には、従業員のスキルアップで競争力の強化や当人のモチベーションアップ、キャリア形成にプラスとなるだけでなく、かかった経費や賃金負担が軽減されるというメリットがあります。
7つのコースのうち2コースが、人材不足が深刻な建設業界を対象としたものです。建設業界では特に、優秀な従業員の確保・維持は大きな課題でしょう。
訓練にかかる費用を一部でもまかなえるのは自社にとってもメリットですし、有給でスキルアップができることは従業員にとっても大きなモチベーションとなり、自社への貢献度が高まることも期待できます。
人材開発支援助成金のデメリット
一方で、受給には申請のための手続きを踏まねばならず、コースによっては事前の計画作成などに手間がかかることが助成金申請のデメリットです。
そのうえ支給には細かな審査があり、入金までに時間を要すことも。場合によっては不支給とされてしまうこともあるのです。
手続き上のデメリットがあるとはいえ、人材開発支援助成金にはそれを超えるメリットがあります。手続きは社会保険労務士への代行依頼も可能なので、ぜひ利用を検討してみましょう。
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)を申請する流れ
人材開発支援助成金の受給は、大まかに「事前準備→訓練などの実施→申請→受給」のフローで行います。
たとえば一般訓練コースであれば、次のように進めます。
- 1)開発推進者を選び、訓練計画を立てる
- 2)訓練開始1カ月前までに計画を労働局に提出する
- 3)訓練を実施する
- 4)訓練終了後2カ月以内に申請書を労働局に提出する
- 5)支給審査が行われ、問題がなければ支給決定の通知が届く
具体的な必要事項や提出書類はコースによって異なります。まずは自社にあったコースを選ぶことからはじめましょう。
人材確保等支援助成金について、各コースのより詳しい情報などはこちらの記事で解説しています。
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人材開発支援助成金の種類は、多種多様です。自社に適した制度を選び、申請しなければなりません。対象者や対象となる取り組みなど受給の要件は変更となることも多いので、最新の制度内容を確認することも必要です。
申請時にはさまざまな書類が必要ですし、記入項目も多岐にわたります。そのため、スムーズに申請手続きを行うには経験豊富な社会保険労務士に相談することをおすすめします。
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監修者からのコメント 特別育成訓練コースは、非正規雇用労働者に対する訓練の経費や賃金助成が受けられますが、訓練後に正社員に転換した場合はキャリアアップ助成金の正社員化コースと併用することができます。業務経験が乏しい非正規雇用労働者を採用する場合に、おすすめしたい助成金です。 お気軽にご相談ください。
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