【社労士監修】人材開発支援助成金とは?制度の基本について解説

2021.03.23

人材開発の教育訓練を受ける人

現在、助成金を活用する企業が増えています。政府が推進してきた働き方改革の影響で、雇用の拡大だけではなく、労働者のキャリアアップや処遇改善に関する助成金の拡充が進んでいるためです。

活用が比較的しやすく、効果も大きい助成金のひとつに、人材開発支援助成金があります。人材開発支援助成金とは、教育訓練の促進に取り組んだ企業を助成する制度です。

この人材開発支援助成金を活用すれば、負担を軽減しながら教育訓練に取り組むことができ、職場への定着率向上・生産性の向上などによって労働力の確保が期待できます。

人材開発支援助成金とは

助成金について解説する女性

人材開発支援助成金は、従業員に訓練を施し、専門的な知識や技能の向上を促した事業者を支援する制度です。

近年、企業の人材不足が問題となっています。人材不足を解消するためには、労働者人口を増やす、労働者一人あたりの生産性を向上するなどの方法があります。

人材開発支援助成金は、主に後者、すなわち労働者に教育・訓練を行って職場定着率の向上や生産性向上を促し、人材不足の解消につなげることを目的としています。

訓練の内容や対象者に応じて、7つのコースが設置されています。それぞれのコースの対象事業主は次のようなことを行った事業主です。

コース対象事業主
特定訓練コース/一般訓練コース専門知識・技能習得のために訓練を実施した事業主
特別育成訓練コース有期契約労働者に対し、正社員転換や処遇改善のために訓練を実施した事業主
教育訓練休暇付与コース教育訓練休暇制度を導入し、かつ休暇を付与した事業主
建設労働者認定訓練コース建設労働者に認定訓練を実施した建設事業主
建設労働者技能実習コース建設労働者に技能実習を実施した建設事業主
障害者職業能力開発コース障害者の職業能力開発訓練を実施した事業主、または障害者の職業能力開発訓練を実施するための施設・設備を設置・運営した事業主

特定訓練コースと一般訓練コースは、訓練内容や助成金額が異なります。詳しくは次の章で説明します。

人材開発支援助成金の各コースの詳細

教育訓練の様子

人材開発支援助成金は、コースごとにさまざまな点で違いがあります。ここからは、各コースを詳細にみていきましょう。

ここで紹介する助成額は、中小企業事業主を対象としたものです。

特定訓練コース

特定訓練コースでは、職務に関する専門的な知識と技能の習得を目的として、一般訓練コースよりも専門性の高い訓練を実施します。

たとえば、「特定分野認定実習併用職業訓練」では、特に建設業・製造業・情報通信業における専門的な内容の訓練を対象としています。

訓練方法は、「OFF-JTのみ」「OFF-JT+OJT」のいずれかによって実施します。OFF-JTとは「会社の業務とは区別して実施する訓練」、OJTとは「適切な指導者の指導のもと、会社の事業を通して実施する訓練」を意味します。

特定訓練コースの助成率と助成金額は、次のとおりです。

訓練種別経費助成賃金助成OJT実施助成
OFF-JT45%
(60%)
760円
(960円)
OJT665円
(840円)

表のカッコ内は、生産性要件を満たした場合の金額です。また助成の上限額は、1事業所1年度あたり1000万円(うち経費助成上限額は50万円)です。

なお、訓練内容によって訓練時間や対象労働者、対象経費などが異なるため、実施の際は厚生労働省による最新の資料で確認する必要があります。

一般訓練コース

一般訓練コースでは、職務に関する専門的な知識と技能の習得を目的として、特定訓練コースに該当しない訓練を、OFF-JTのみによって実施します。

一般訓練コースの助成率と助成金額は、次のとおりです。

経費助成30%(45%)
賃金助成380円(480円)/1人1時間

表のカッコ内は生産性要件を満たした場合の助成率および金額です。また、助成の上限額は1事業所1年度につき500万円、うち経費助成の上限は20万円です。

特別育成訓練コース

特別育成訓練コースは、有期契約労働者の正社員転換や処遇改善のために訓練を実施するコースです(他コースは有期契約労働者を除く)。

他のコースに比べて仕組みが複雑なため、ここでは大まかにまとめます。助成対象となる訓練には、次のものがあります。

  • 一般職業訓練

正社員転換や処遇改善を目的とする、OFF-JTによる一般的な訓練

  • 中長期的キャリア形成訓練

一般職業訓練のうち、専門実践教育訓練を含む訓練

  • 有期実習型訓練

正社員経験の少ない労働者を対象に、ジョブ・カードを用い、OFF-JTとOJTを組み合わせて行う訓練

  • 中小企業等担い手育成訓練

正社員経験が少ない労働者を対象に、支援団体と事業主が共同で計画し、OFF-JTとOJTを組み合わせて行う訓練

特別育成訓練コースの助成金額は、次のとおりです。

  経費助成 賃金助成 OJT実施助成
 

20時間以上100時間未満

100時間以上200時間未満

200時間以上

一般職業訓練

10万円 20万円 30万円

760円(960円)

有期実習型訓練

760円(960円)

中長期的キャリア形成訓練 15万円 30万円 50万円

中小企業等担い手育成訓練

760円<960円>

賃金助成は1人1時間あたりの金額です。表のカッコ内は生産性要件を満たした場合の金額です。助成上限額は1事業所1年度につき1000万円となっています。

こちらも、訓練によって対象労働者や実施方法が異なります。

教育訓練休暇付与コース

教育訓練休暇付与コースは、従業員が自発的に教育訓練を受ける機会を得やすくなるように、教育訓練休暇制度を導入・実施するコースです。

導入する教育訓練休暇制度には、次の2種類があります。

  • 数日間の教育訓練休暇を与える教育訓練休暇制度
  • 120日以上の教育訓練休暇を与える長期教育訓練休暇制度

これらの制度で付与する教育訓練休暇は、有給でなければなりません。助成金額は次のとおりです。

制度賃金助成経費助成
教育訓練休暇制度30万円
(36万円)
長期教育訓練休暇制度6,000円
(7,200円)
20万円
(24万円)

賃金助成は1人1日あたりの金額です。表のカッコ内は生産性要件を満たした場合の金額です。

支給対象となる日数の上限は最大150日、支給対象者数は雇用被保険者数が100人未満の企業は1人、100人以上の企業は2人が上限となっています。

他のコースと異なり、教育訓練休暇制度には賃金助成がないことに注意してください。

建設労働者認定訓練コース

建設労働者認定訓練コースは、上記4つとは異なる特殊なコースです。助成を受けられる事業主は、次のどちらも満たす事業主に限られます。

  • 中小建設事業主である
  • 都道府県から認定訓練助成事業費補助金または広域団体認定訓練助成金の交付を受けている

また、その名のとおり建設労働者に対する認定訓練の実施を対象としています。

このコースでは、認定訓練を実施することが要件となっています。認定訓練とは、次のいずれかに該当する訓練です。

  • 職業能力開発促進法第24条第1項に規定する認定職業訓練
  • 職業能力開発促進法第27条第1項に規定する指導員訓練のうち、特定の建設関連の訓練

建設労働者認定訓練コースの助成率と助成金額は、次のとおりです。

経費助成6分の1
賃金助成3,800円

生産性要件を満たした場合は、賃金助成額が4,800円となります。賃金助成は1人1日あたりの金額、助成上限額は1事業所1年度あたり1000万円です。

建設労働者技能実習コース

建設労働者技能実習コースも、中小企業事業主の建設労働者を対象とするコースです。建設事業主が労働者に技能実習を受けさせた場合に助成を受けられます。

ただし、受給スキームや要件が他のコースに比べて複雑で、資料の説明も分かりにくいのが難点です。したがって、社会保険労務士に相談しながら利用を検討するのがおすすめです。

建設労働者技能実習コースの助成率と助成金額は、次のとおりです。

雇用保険被保険者人数 経費助成 賃金助成
被保険者数20人以下 4分の3

7,600円(9,600円)

被保険者数21人以上 35歳未満

10分の7(20分の3)

6,650円(8,400円)
35歳以上 20分の9(20分の3)

表のカッコ内は生産性要件を満たした場合の助成率及び金額です。

経費助成の上限は、1つの技能実習につき1人あたり10万円です。賃金助成の上限は、1人につき20日分、1事業所1年度あたり500万円となっています。

障害者職業能力開発コース

障害者職業能力開発コースは、障害者の能力開発訓練を支援するコースです。対象労働者の規定は細かく、次のいずれかに該当し、かつハローワーク所長の認定を受けている障害者です。

  • 身体障害者
  • 知的障害者
  • 精神障害者
  • 発達障害者
  • 高次脳機能障害のある人
  • 難治性疾患のある人

上記の労働者を対象に次のような取り組みを行った場合に助成金が支給されます。

  • 障害者職業能力開発訓練事業の実施
  • 障害者職業能力開発訓練のための施設または設備の設置・整備・更新

障害者職業能力開発コースの助成率と助成金額は、次の通りです。

種別 助成率
障害者能力開発訓練 重度障害者が対象 1人あたりの運営費の5分の4
重度障害者以外を対象 1人あたりの運営費の4分の3
施設または設備の設置・整備・更新 4分の3

障害者職業能力開発訓練事業の助成上限額は、次のように決まっています。

訓練対象者助成上限額
重度障害者等月額17万円
重度障害者等以外月額16万円

施設や設備の設置、整備や更新を行った際の助成上限額は次のとおりです。

取り組み内容助成上限額
初めて助成金の対象となる訓練科目での設置・整備5000万円
過去に助成を受けた訓練科目ごとの更新1000万円

過去に助成を受けた場合の上限額は、複数回の場合は累積で1000万円が限度となります。

人材開発支援助成金におけるこれまでの改正点

助成金制度の改正

助成金制度は、毎年改正されるものです。これは、経済の状況が年度によって異なり、その時々の状況によって助成金制度も調整する必要があるためです。

改正内容には次のようなものがあります。

  • 制度・コースの統合・廃止
  • 制度・コースの新設
  • 支給要件の緩和
  • 助成額や助成上限額の変更
  • 制度・コース名の変更
  • 必要書類や様式の変更

比較的最近では、次のような改正がありました。

・コースに長期教育訓練休暇制度を導入
・一般訓練コース、特別育成訓練コース、教育訓練休暇コースの生産性要件に成果主義を適用
・一般訓練コース、特別育成訓練コースの対象訓練に、eラーニングを含む通信制の訓練を追加
・特別育成訓練コースの有期実習型訓練の訓練期間を2カ月以上6カ月以下に変更
・特別育成訓練コースの中長期的キャリア形成訓練に、特定一般教育訓練を追加
・特定訓練コースの雇用型訓練の申請書類に、OJT訓練担当者の出退勤時刻が分かる書類を追加
・各種書類様式で押印が不要に


このような改正が今後も行われることは間違いありませんので、申請にあたっては必ず最新情報を確認する必要があります。

人材開発支援助成金を活用するメリット・デメリット

助成金のメリット

人材開発支援助成金の活用には、メリットとデメリットの両面があります。メリットだけでなくデメリットも知っておきましょう。

人材開発助成金のメリット

人材開発支援助成金の最大のメリットは、国から助成金を受給することで、経費や賃金の負担を軽減させつつ人材育成ができることです。

また、助成上限額の枠が大きいことも魅力です。1年度あたり500万円や1,000万円といった枠が設定されています。中小企業の人材教育の規模を考えると、不足のない上限額が設定されています。

長期的な経営改善や成長のためには、人材育成が欠かせません。その費用を、一部とはいえ国が支援してくれるのですから、利用しない手はありません。

さらに、助成対象となる取り組みが多種にわたることもメリットと言えます。

助成対象となる教育訓練の中から、自社の課題解決や事業計画の推進に役立つものを選んで活用すれば、負担を軽減しつつ企業および従業員の双方が成長できます。

人材開発支援助成金のデメリット

デメリットは、受給への準備・申請手続きが複雑で難しいことです。

各コースの資料はなかなか複雑で、コースによっては難なく申請できるものではないこともあります。わかりにくいというだけではなく申請自体も煩雑で、かなりの手間がかかります。

人材開発支援助成金は、教育訓練が終了した後に支給申請を行い、審査を受け、問題がなければ支給されます。

人材開発支援助成金の活用にあたっては、訓練実施後に受給する助成金を織り込んだ上で、資金繰りを計画するのが一般的です。もし、申請がうまくいかずに助成金を受給できないとなれば、財務的な困難を招く危険も考えられます。

したがって、人材開発支援助成金を活用するには、訓練後に必ず助成金を受給できることが前提となります。社会保険労務士に依頼するなどして、スムーズに申請・受給できる状況を整えておくことが重要です。

人材開発支援助成金を受給するまでの流れと注意事項

助成金申請のステップ

最後に、人材開発支援助成金の受給の流れと、特に注意すべきことについて解説します。

人材開発支援助成金受給の流れ

一般訓練コースを例に、受給までの流れを見ていきましょう。

  • ①事前準備をする

職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定

  • ②訓練開始日から起算して1カ月前までに、訓練計画を都道府県労働局に提出する
  • ③計画に沿って訓練を実施する
  • ④訓練終了日の翌日から起算して2カ月以内に、支給申請書を都道府県労働局に提出する
  • ⑤都道府県労働局が支給審査を行い、事業主に支給・不支給を通知する
  • ⑥支給決定と判断されれば、助成金が支給される

この「事前準備→実施→申請→受給」の流れは、全コースに共通する基本的な流れです。

ただし細かい部分は異なるので注意が必要です。たとえば認定実習併用職業訓練を実施する場合には、事前準備として厚生労働大臣の認定を得る必要があり、事前準備も複雑になります。

必要書類もコースごとに異なるため、慎重に準備をしていかなくてはなりません。

人材開発支援助成金申請時の注意事項

正しい手順を踏んで申請しても、場合によっては受給できないこともあります。

まず、期限を守ることが大切です。助成金の手続きでは、訓練実施計画届などの資料の提出期限や、訓練実施後の支給申請期限などが定められています。

その中でも特に重要なのは、支給申請期限です。申請の期限に遅れると、支給申請を受け付けてさえもらえません。例外は認められないため、期限は守りましょう。

なお、人材開発支援助成金の支給申請期限は、全コース共通で「取り組み完了(訓練の完了、制度の導入・適用完了など)の翌日から2カ月以内」と定められています。

このほか、併給調整についても注意が必要です。併給調整とは、1つの取り組みが複数の助成金の対象になる場合の受給の可否です。コース等によって、複数の助成金を同時に受給できる場合と、いずれかしか受給できない場合とがあります。

併給できるものはしっかり併給するべきですし、併給ができないとしても最も条件の良い助成金を選んで利用していく必要があります。

人材開発支援助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

社労士と事業主の握手

人材不足が深刻となるであろうこれからの時代、企業には新規雇用だけではなく、人材育成によって労働力を確保していくことも求められています。

人材開発支援助成金を活用すれば、教育訓練のコスト負担を軽減できます。

しかし、専門知識がなければ、仕組みを正確に理解すること、スムーズに申請することはけっこう難しいものです。

人材開発支援助成金の活用にあたっては、専門家である社会保険労務士に依頼するのがおすすめです。

Bricks&UKでは、社会保険労務士がそれぞれの事業主様に合った最適な助成金を提案し、申請を代行するなどさまざまなサポートをしています。

人材開発支援助成金の申請についてご検討の際は、ぜひご相談ください。                                  

監修者からのコメント この助成金は事前に訓練計画を策定するところがポイントとなります。 どのように計画を立てれば良いのか、対象となる訓練がどのようなものかなど、初めて取り組まれる事業主様では判断に迷うケースもあるかと思います。 Bricks&UKでは、訓練計画の策定からサポートいたします。 ぜひお気軽にお問い合わせください。

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