少子高齢化が進む中、労働人口が減り、若手人材の確保が難しくなるこれからの時代には、高齢者の雇用や雇用維持も必須となります。
国は雇用制度を見直し、高齢者がより長く能力を発揮できる環境の整備を進めています。令和3年には、高年齢者雇用安定法の一部が改正されました。
このような状況でぜひ活用したいのが、この記事で紹介する、高齢者の雇用に関する厚生労働省の助成金です。
目次
【45歳以上の雇用】中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)は、処遇や評価、教育・訓練といった雇用管理制度を整備したうえで、中途採用率をアップさせた事業主が受けられる助成金です。
このコースには、年齢にかかわらず中途採用率を高めた場合の助成と、45歳以上の中途採用率を高めた場合の助成があります。45歳以上の中途採用率を上げた場合には、支給額がより高くなります。
主な支給要件
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)の支給を受けるには、採用計画を立てて対象となる労働者を雇い、中途採用の拡大を図る必要があります。
対象となる労働者の要件
このコースで助成対象となるのは、次のすべてを満たす人です。
- 助成金を申請する事業主に中途採用された人
- 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇用された人
- 期間の定めのない労働者(パートなどの短時間労働者を除く) として雇用された人
- 雇い入れの前日まで過去1年間、雇用・派遣、請負などの経済的関係がなかった人
- 雇い入れの前日まで過去1年間、親会社など申請者と関係のある事業主に雇用された事実がない人
45歳以上の中途採用率拡大で助成を受けるには、対象者の雇い入れ時の年齢が45歳以上であることも必須です。
中途採用計画の作成と労働局への提出
受給には、中途採用を行う前に次の内容を盛り込んだ「中途採用計画」を作成し、労働局に届け出ておかねばなりません。
- 中途採用者の雇用管理制度を整備すること
- 中途採用者と新卒者が同じ雇用管理制度を適用されること
- 中途採用の拡大に取り組む1年間の期間を定めること
雇用管理制度とは、契約期間や労働時間・休日、評価や処遇、福利厚生などを定めるものです。この場合は、募集や採用に関する制度を除きます。
中途採用率の拡大に取り組む期間は1年間で、この期間を中途採用計画期間と呼びます。
中途採用拡大に向けた取り組みの実施
中途採用計画期間中は、次のような取り組みを実施します。
- 中途採用計画期間中に、対象となる労働者を2人以上雇用すること
- 計画期間中の中途採用率を、期間前の3年間より20ポイント以上高めること
45歳以上についての助成を受ける場合には、次の2つも満たす必要があります。
- 45歳以上の中途採用率を期間前3年間より10ポイント以上上げること
- 45歳以上の対象労働者全員の賃金を、前職の賃金と比較して5%以上上昇させること
45歳以上の中途採用者の賃金については、雇い入れ前の事業所の賃金と、雇い入れ後に支払った6カ月間の月額を比較し、どの月も5%アップしている必要があります。
【生産性向上による助成は廃止】
以前は、中途採用の拡大を行い、さらに生産性を向上させた場合に増額や加算などの助成もありました。しかし、令和5年3月31日で廃止されています。
助成金の支給額
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)の支給額は、45歳以上を採用し要件を満たしたかどうかで次のように異なります。
助成の区分 | 主な支給要件 | 支給額 |
---|---|---|
中途採用率の拡大 | 中途採用率を20ポイント以上アップ | 50万円 |
45歳以上の中途採用率の拡大 | 上記に加え、 ・うち45歳以上について10ポイント以上アップ ・その45歳以上全員の賃金を前職より5%以上アップ |
100万円 |
助成金の申請方法
中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)の申請は、次のような流れで行います。
- 中途採用計画書の作成
- 計画書を労働局に提出(計画開始日の6カ月前から前日まで)
- 雇用管理制度の整備+対象者の雇い入れを実施
- 支給申請
対象者の雇い入れは、計画期間中に行われたものだけが対象です。期限は計画期間終了日の翌日から6カ月経過後の2カ月以内です。中途採用計画以前に行った雇用は対象とならないので注意しましょう。
計画が変更となった場合には、変更届の提出もしなくてはなりません。
支給申請は、申請期間中に管轄の労働局へ必要書類を提出して行います。支給申請書のほか、対象者の一覧や賃金台帳、出勤簿なども必要です。45歳以上の助成を受ける場合は、前職での賃金がわかる書類なども提出します。
【60歳・65歳以上の雇用】特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者や障害者など、一般的に就職が困難だと言われる人を雇用することで受けられる助成金です。
対象者別に複数のコースがありますが、この記事では、高齢者や障害者が対象となる「特定就職困難者コース」と「成長分野等人材確保・育成コース」を紹介します。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、60歳以上の高年齢者や障害者など、いわゆる「就職困難者」とされている人を雇い入れた場合に受けられる助成金です。
特定就職困難者コースの主な支給要件
対象となる労働者は次のような人です。
- 高年齢者(60歳以上65歳未満)
- 母子家庭の母等
- 障害者
「母子家庭の母等」には、父子家庭の父や中国残留邦人永住帰国者、認定駐留軍関係離職者(45歳以上)などが含まれます。また、ウクライナからの避難民も対象となります。
また、雇用にあたっては次のような条件もあります。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者による紹介で雇用すること
- 雇用保険の被保険者として2年以上継続して雇用すること
- 正規雇用、無期雇用、自動更新の有期雇用として採用すること
有期雇用の場合、当人が望む限り更新できる契約のみが対象であり、勤務成績によっては更新しないような場合は対象外です。
また、知り合いの紹介などで雇用した場合や、短期での雇い入れも対象外です。週の労働時間が20時間未満の人、雇用見込みが30日以下の人は雇用保険の対象外となり、助成金の対象からも外れます。
特定就職困難者コースの支給額
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、対象となる従業員や企業規模などによって助成期間や支給額が決められています。
対象者 | 支給額 | 支給方法 | |
短時間労働者以外 | ・高年齢者(60歳以上) ・母子家庭の母等 ・ウクライナ避難民など |
60万円 (50万円) |
30万円(25万円)×2期 |
---|---|---|---|
身体・知的障害者 | 120万円 (50万円) |
30万円×4期 (25万円×2期) |
|
重度障害者等 |
240万円 |
40万円×6期 (33万円×2期、34万円×1期) |
|
短時間労働者 | ・高年齢者(60歳以上) ・母子家庭の母等 ・ウクライナ避難民など |
40万円 (30万円) |
20万円(15万円)×2期 |
・重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円 (30万円) |
20万円×4期 (15万円×2期) |
表のカッコ内は、大企業の場合の助成額と期間です。助成金は半年ごとに支給されます。
「短時間労働者」とは、週の労働時間が20時間以上30時間未満の人を指します。「重度障害者等」には、重度障害者や45歳以上の障害者、精神障害者が該当します。
【労働時間に関する特例措置】
この助成金では、対象労働者の実労働時間が一定の基準を下回った場合には支給額が減額されることとなっていました。
しかし令和2年1月24日以降、新型コロナウイルスの影響で実労働時間が減少した場合に限り「実労働時間の減少理由に係る疎明書」を提出することで減額が行われない特例措置が実施されています。必要書類と一緒に忘れずに提出しましょう。
特定就職困難者コースの支給申請方法
支給申請の大まかな流れは、次のとおりです。
- ハローワーク等から紹介を受ける
- 対象となる労働者を雇い入れる
- 第1期の支給申請をする
- 労働局による調査・確認を受ける
- 支給・不支給の決定が下る
- 支給決定なら助成金が支給される
以降、支給申請期間ごとに3~6を繰り返します。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の対象となる労働者をハローワーク等の紹介で雇い入れると、管轄の労働局から申請書類等が送付されます(厚労省の公式サイトからのダウンロードも可能)。
支給申請は、支給対象期間ごとに、対象期間末日の翌日から2カ月以内に行わなくてはなりません。労働局またはハローワークへの持参・郵送のほか、オンライン申請も可能です。
このコース(特定就職困難者コース)の対象労働者に該当する人かつ未経験者を雇い入れ、訓練および賃金の引き上げを行った場合には、次項の「成長分野等人材確保・育成コース」に該当する可能性があります。
成長分野等人材確保・育成コース
成長分野等人材確保・育成コースは、特定求職者雇用開発助成金の中で就職困難者の雇用を対象とした4つのコースの助成金の支給額を、通常の1.5倍にするものです。
高年齢者に関しては、条項で紹介した特定就職困難者コースのみが該当します。
一般的に就職が困難とされている人について、次の3つを行った場合に助成が受けられます。
- 未経験職種での雇用
- 業務に必要な特定の訓練
- 賃金の引き上げ
支給要件を具体的に見ていきましょう。
成長分野等人材確保・育成コースの主な支給要件
高年齢者について成長分野等人材確保・育成コースの助成を受けるには、雇用に際し次のすべてを満たす必要があります。
- 60歳以上の人を新たに雇用すること
- 正規雇用、無期雇用、有期雇用(自動更新のみ)として採用すること
- ハローワーク等での紹介を受けること
- 未経験職種で採用すること
未経験かどうかは、ハローワーク等の紹介をもって要件を満たしたとされます。その際、経験1年未満であっても未経験と見なされます。
また、訓練と賃金引き上げについて次の要件があります。
- 実訓練時間数が50時間以上の訓練、または50時間未満の次のいずれかの訓練を実施すること
- 人材育成支援コース(有期実習型訓練)
- 人への投資促進コース (高度デジタル人材等訓練)
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 特定訓練コース(労働生産性向上訓練、熟練技能育成・承継訓練)
- 特別育成訓練コース(中長期的キャリア形成訓練、有期実習型訓練)
- 最大3年の計画期間内に、採用時より賃金を5%以上引き上げること
訓練をeラーニングや通信制で行う場合は、学習時間50時間以上または標準学習時間が3カ月以上必要です。
比較する賃金は、手当や年間賞与を含まない「毎月決まって支払われる賃金」です。
成長分野等人材確保・育成コースの支給額
このコースの支給額は次のとおりです(高年齢者雇用の対象分のみ)。
対象者 | 支給額 | 支給方法 | |
---|---|---|---|
短時間労働者以外 | ・高年齢者(60歳以上) ・母子家庭の母等 ・生活保護受給者等 |
90万円 (75万円) |
45万円(37.5万円)×2期 |
・身体・知的障害者 ・発達障害者 ・難治性疾患患者 |
180万円 (75万円) |
45万円×4期 (37.5万円×2期) |
|
・重度障害者 ・45歳以上の障害者 ・精神障害者 |
360万円 (150万円) |
60万円×6期 (50万円×3期) |
|
短時間労働者 | ・高年齢者(60歳以上) ・母子家庭の母等 ・生活保護受給者等 |
60万円 (45万円) |
30万円(22.5万円)×2期 |
・身体・知的障害者 ・発達障害者 ・難治性疾患患者 |
120万円 (45万円) |
30万円×4期 (22.5万円×2期) |
|
・重度障害者 ・45歳以上の障害者 ・精神障害者 |
120万円 (45万円) |
30万円×4期 (22.5万円×2期) |
成長分野等人材確保・育成コースの支給申請方法
成長分野等人材確保・育成コースの支給申請は、次のように進めます。
- ハローワーク等から紹介を受ける
- 対象となる労働者を採用する
- 賃金引き上げ計画書を作成する
- 訓練実施計画書を提出する
- 訓練を実施する
- 第1期の支給申請をする(3の計画書の提出も)
- 労働局による調査・確認を受ける
- 支給・不支給の決定が下る
- 支給決定なら助成金が支給される
第2以降、支給申請ごとに4~9を繰り返します。
成長分野等人材確保・育成コースの受給には、賃金引き上げ計画書を作成し、第1期の支給申請書とともに提出しなくてはなりません。
特定求職者雇用開発助成金と、人材開発支援助成金の賃金助成については、重複して受給することはできず、いずれか一方のみの支給となります。
【50歳以上、55歳以上、60歳以上】65歳超雇用推進助成金
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことを目指して作られた助成金です。次の3つのコースがあります。
コース | 助成の対象 |
---|---|
65歳超継続雇用促進コース | 定年の引き上げや定年制の廃止、継続雇用制度の導入などの実施 |
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高年齢者を対象にした雇用管理制度の整備に係る取り組みの実施 (例)職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入または改善 など |
高年齢者無期雇用転換コース | 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者の無期雇用への転換 |
それぞれのコースについて詳しく見ていきましょう。
65歳超継続雇用促進コース
65歳超継続雇用促進コースは、65歳以上となっても労働者が活躍できるように社内制度を見直した場合に助成が受けられます。
65歳超継続雇用促進コースの主な支給要件
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)を受給するには、次のA~Dの措置や制度の導入を行うことが必要です。
- (A)65歳以上への定年引き上げ
- (B)定年の定めの廃止
- (C)希望者全員を66歳以上も継続雇用する制度の導入
- (D)他社により継続雇用される制度の導入
上記のうち1つ以上を実施した上で、次の要件も満たす必要があります。
- 上記の制度について労働協約または就業規則に記載している
- 制度を整えるために費用がかかった
- 高年齢者雇用等促進者を選任した
- 支給申請日の前日の時点で、高年齢者雇用安定法に違反していない
- 支給申請日の前日において1年以上雇用されている、60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いる
「雇用保険被保険者」には、短期雇用特例や日雇い労働の被保険者は含まれません。期間の定めのない労働契約を結んでいる労働者、または定年後も継続雇用制度により引き続き雇用している人に限ります。
65歳超継続雇用促進コースの支給額
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)の支給額は、行った措置や対象となる被保険者の人数によって異なります。ただしいずれも、実施前の定年年齢や継続雇用年齢が70歳未満でなくては支給されません。
- (A)65歳以上への定年引き上げ
60歳以上の被保険者数 | 定年65歳 | 定年66~69歳 | 定年70歳以上 | |
---|---|---|---|---|
引き上げ 5歳未満 |
引き上げ 5歳以上 |
|||
1~3人 | 15万円 | 20万円 | 30万円 | 30万円 |
4~6人 | 20万円 | 25万円 | 50万円 | 50万円 |
7~9人 | 25万円 | 30万円 | 85万円 | 85万円 |
10人以上 | 30万円 | 35万円 | 105万円 | 105万円 |
66歳~69歳への定年引き上げについては、5歳以上の引き上げかどうかでも支給額が異なります。
- (B)定年の定めの廃止
60歳以上の被保険者数 | 支給額 |
---|---|
1~3人 | 40万円 |
4~6人 | 80万円 |
7~9人 | 120万円 |
10人以上 | 160万円 |
定年の引き上げと、次に紹介する継続雇用制度の設置の両方を行ったとしても、支給を受けられるのはいずれか高い方の額のみです。
- (C)希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
60歳以上の被保険者数 | 66歳~69歳 | 70歳以上 |
---|---|---|
1~3人 | 15万円 | 30万円 |
4~6人 | 25万円 | 50万円 |
7~9人 | 40万円 | 80万円 |
10人以上 | 60万円 | 100万円 |
- (D)他社による継続雇用制度の導入
他者による継続雇用制度の導入とは、定年や継続雇用制度の上限年齢を超えた労働者を関連企業など他社が引き続いて雇用するものです。
他の助成とは異なり、申請する事業主が継続雇用先の企業の就業規則等の改正にかかった費用を全額負担した場合に、負担した額の2分の1が支給されます。
また、上限額が次のとおり決められています。
継続雇用の上限年齢 | 66~69歳 | 70歳以上 |
---|---|---|
支給上限額 | 10万円 | 15万円 |
65歳超継続雇用促進コースの申請方法
この助成金の申請は、労働局ではなく(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部に行います。
定年の引き上げ等の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日までに、雇用保険適用事業所の所在する都道府県の支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)に必要書類を提出して申請を行います。
申請書類の様式は、同団体のウェブサイトからダウンロード可能です。
(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構|65歳超継続雇用促進コース 申請書類 様式ダウンロードページ
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースは、55歳以上を対象とした雇用管理制度の見直しや導入、健康診断の制度の導入などを行った事業主に対して支給されます。
主な支給要件と対象となる雇用管理措置
このコースの主な支給要件は次のとおりです。
- 55歳以上の雇用管理措置について「雇用管理整備計画書」を作成している
- 上記の計画書を(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出し認定を受ける
- 計画実施期間中に高年齢者雇用管理整備措置を実施する
- 実施の状況と計画終了日翌日から6カ月間の運用状況がわかる書類を整備する
- 雇用管理の整備に経費を要し、支給申請日までに支払済である
運用状況がわかる書類とは、制度の導入前後の労働協約または就業規則、賃金台帳や辞令、労働条件通知書などのことです。
支給の対象となる経費は、制度の導入・整備のため社会保険労務士や弁護士などに支払った委託費やコンサルタント料、そのほか必要となったシステムやソフトウェアなどの購入・レンタル費用などです。
雇用管理措置とは、55歳以上の高年齢者に対する次のいずれかの制度の導入または改善です。
① 職業能力を評価する仕組みや賃金・人事制度
② 短時間・隔日勤務など希望に応じた勤務ができる制度
③ 本人の負担軽減となる在宅勤務制度
④ 意欲と能力の発揮に必要な知識を付けるための研修制度
⑤ 専門職制度など、高年齢者に適切な役割を与えるための制度
⑥ 法定外の健康管理制度(胃がん検診や生活習慣病予防検診など)
これらを労働協約または就業規則に規定し、対象となる55歳以上の雇用保険被保険者1人以上に実施、適用することが必要です。
法定外の健康管理制度については、費用の半額以上を事業主が負担することが条件です。また、就業規則には導入した制度を実施するための条件や事業主の費用負担についても明記する必要があります。
また、高年齢者の雇用に関する次の事柄も守られていなければなりません。
- 支給申請日の前日までに、高齢者雇用安定法の違反などがないこと
- 支給申請日の前日の時点で1年以上雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者がいること
- 実施した措置により、上記のうち1人以上が雇用管理整備計画の終了日の翌日から6カ月以上継続して雇用されていること
「雇用保険被保険者」には、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者は含まれません。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの支給額
65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)では、専門家への委託費やシステム導入費用などを支給対象経費とし、支払った額に対して次の割合で支給されます。
中小企業への助成率 | 大企業への助成率 |
---|---|
60% | 45% |
支給対象となる経費は、初回に限り50万円とみなされます。2回目以降の申請では、50万円を上限とする経費の実費が支給対象経費として扱われます。
たとえば中小企業の場合、初回申請では実際に払った額が50万円未満でも50万円の60%、30万円が支給されます。2回目に30万円の経費で申請した場合は、30万円の60%で18万円の支給です。
高年齢者評価制度等雇用管理改善コースの申請方法
このコースの申請の流れは次のとおりです。計画の提出先・支給申請先はいずれも、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構です。
- 「雇用管理整備計画書」を計画開始3カ月前の日までに提出する
- 計画内容について認定を受ける
- 計画書に基づき、高齢者雇用管理措置を実施する
- 実施に要した経費の支払いを完了させる
- 支給申請期間中に支給申請をする
支給申請期間は、「計画期間が終了した日の翌日から数えて6カ月後となる日」の翌日から2カ月以内です。
雇用管理整備計画の申請書類は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のウェブサイトからダウンロードすることができます。
(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構|高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 申請書類様式ダウンロードページ
高年齢者無期雇用転換コース
高年齢者無期雇用転換コースの助成金は、50歳以上かつ定年年齢に満たない有期契約労働者を無期雇用に転換させた場合に支給されます。
高年齢者無期雇用転換コースの主な支給要件
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)の主な支給要件は次のとおりです。このコースも計画の提出先・支給申請先は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構です。
- 有期雇用契約から無期雇用への転換制度について労働協約や就業規則に規定があること
- 「無期雇用転換計画書」を提出し、認定を受けること
- 計画と上記規定に基づき、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換すること
- 上記の労働者を、転換後6か月以上継続して雇用し、賃金を支払うこと
無期雇用への転換日時点で64歳以上である場合や派遣労働者は対象となりません。無期雇用を前提に雇い入れた人や、過去3年以内に無期雇用契約で雇用したことのある人も対象外です。
制度を規定した就業規則等には、実施時期も明記する必要があります。また、平成25年4月以降の締結かつ期間が通算5年以内である有期雇用契約を無期雇用に転換するものに限ります。
また、他のコース同様、支給申請日の前日までに何らかの高年齢者雇用安定法に違反する事項があった場合には支給対象とはなりません。
なお、有期雇用での契約が通算5年を超えて繰り返された場合に、労働者からの申し出によって無期雇用労働者に転換できるという規定が労働契約法16条にありますが、これによる無期雇用への転換は当助成金の対象となりません。
高年齢者無期雇用転換コースの支給額
高年齢者無期雇用転換コースの支給額は、対象者1人につき48万円または38万円です。
中小企業への支給額 | 大企業への支給額 |
---|---|
48万円 | 38万円 |
ただし1支給申請年度において、1事業所あたり10人が限度です。
高年齢者無期雇用転換コースの申請方法
このコースの支給から受給までの流れは次のとおりです。計画の提出先・支給申請先はいずれも、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構です。
- 「無期雇用転換計画書」を計画開始3カ月前の日までに提出する
- 計画内容について認定を受ける
- 計画や規程に基づき、対象者の無期雇用への転換を実施する
- 転換後6カ月間、対象者に賃金を支払う
- 6カ月分の賃金の支払い後、申請期間中に支給申請をする
転換後6カ月分の賃金支払いの期間について、勤務日数が11日に満たない月は除いて数えます。その6カ月分の支給が終わった日の翌日から2カ月以内に、支給申請を行います。
無期雇用転換計画書の申請書類は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のウェブサイトからダウンロードすることができます。
(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構|高年齢者無期雇用転換コース 様式ダウンロードページ
高年齢者雇用などに関する助成金申請の注意点
助成金の申請については、共通して次の点にも注意してください。
支給対象となる事業主の要件に注意
令和5年6月より、雇用関係の助成金の支給要綱のうち、支給対象となる事業主について共通の変更がありました。
それまでは「雇用保険の被保険者がいる事業所の事業主であること」とされていた要件に、「支給申請日と支給決定日の時点の両方で雇用保険被保険者がいること」が追加されています。
支給申請の時点と支給決定の時点ともに雇用保険の被保険者となる人が退職などで不在となった場合には、他の要件にかかわらず対象外となります。
併給申請に注意
助成金や補助金といった制度は、国や都道府県などがそれぞれ設けており、目的が同じものも存在しています。
しかし、同じ取り組みや措置の実施に対しては、複数の助成金の受給が不可となるケースも多いので注意が必要です。
例えば「65歳超雇用推進助成金」では、同じ理由で国や地方公共団体の補助金などを受給している場合には対象外となる可能性があります。
そのため、該当する制度が複数ある場合は、どの制度で申請すべきか(要件や支給額など)を比較・検討するとよいでしょう。制度は複数あり、併給の可否も細かく決められているため、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
申請期限に注意
申請する助成金によって、申請期限の取り扱いが異なりますので注意が必要です。この記事で紹介した助成金の申請期限をまとめると次の通りです。
助成金 | 申請期限 |
---|---|
中途採用等支援助成金 (中途採用拡大コース) | 計画期間終了日の翌日から6カ月経過後の2カ月以内 |
特定求職者雇用開発助成金 | 支給対象期ごとに、各支給対象期の末日の翌日から2か月以内 |
65歳超雇用推進助成金 (65歳超継続雇用促進コース) | 定年引き上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4か月以内の各月月初から5開庁日まで |
65歳超雇用推進助成金 (高年齢者評価制度等雇用管理改善コース) | 計画期間終了日の翌日から6か月後の日の翌日~その2か月以内 |
65歳超雇用推進助成金 (高年齢者無期雇用転換コース) | 対象者に対して転換後賃金を6か月分支給した日の翌日から起算して2か月以内 |
申請期限を1日でも過ぎると不支給となります。書類の不備があった場合も、申請期限までに再提出しなくては支給されません。
70歳までの就業機会確保は企業の努力義務
上で紹介した助成金制度の背景には、令和3年4月に施行された高年齢者雇用安定法の改正もあります。今後ますます高齢者の雇用が進むことが予想される中で、今取るべき対応策について解説します。
令和3年4月に改正された高年齢者雇用安定法
令和3年4月に施行された改正高齢者雇用安定法は、社員が70歳になるまで安定した就業機会を確保するよう企業に求めるものです。
改正前の同法が65歳までの雇用機会を確保することを目指したものであるのに対し、改正法では対象年齢が70歳に引き上げられました。
改正法では、次の項目に当てはまる事業主に、高年齢者就業確保措置の努力義務が課せられました。
対象となる事業主
- 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
- 65歳までの継続雇用制度を導入している事業主
努力義務とされた措置
従業員が65歳となるまでの雇用確保(義務)に加え、次のいずれかに努めることが求められています。
- (1)70歳までの定年引き上げ
- (2)定年制の廃止
- (3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- (4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- (5)70歳まで継続的に次のような事業に従事できる制度の導入
- 事業主が自ら実施する社会貢献事業
- 事業主が委託・出資等する団体による社会貢献事業
法改正を受けて始めるべきこと
今回の法改正では、70歳までの就業確保措置は努力義務とされており、強制ではありません。しかし社会的にも自社のためにも、高年齢者の雇用について検討し、制度設計を進めておく必要があります。次の3ステップで進めていきましょう。
1)対象者の基準を決める
上記対象措置の(1)と(2)以外については、対象者を限定する基準を設けることができます。
ただしその場合には、労使間の協議の上、労働組合の過半数の同意を得ることなどが望ましいとされています。また、協議の上であっても、性別での限定や故意に高齢者を排除しようとする基準は認められません。
2)自社の現状把握と方針の決定
高年齢者雇用についての自社の現状を把握し、どの措置を導入するのかを検討しましょう。ただし会社が一方的に決めるのではなく、労使間で協議を行います。
現時点では対象となる労働者がいない場合でも、高年齢者が能力を十分に発揮できる雇用体制を整備しておくことが重要です。
3)具体的な検討と措置の実施
新たな制度などの導入に向けて、雇用する高年齢者に担ってもらう役割や評価方法、職務などを具体的に検討しましょう。
対象となる高年齢者以外の社員にも法や制度の趣旨を周知するなど、社員全体の理解を伴った体制作りを進めていくことが重要です。
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生涯現役社会の構築が不可欠となった今、高齢者が活躍できる、働きやすい環境を整えることは、人材不足のリスクを減らし、事業の安定にもつながる第一歩です。
助成金の受給には、支給要件を満たすことはもちろん、労働関連の諸法令に基づき準備を進めることが大切です。また、自社に適した制度を導入することも重要です。
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監修者からのコメント 65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、令和3年4月より、従来の60歳以上被保険者数の区分「1~2人」と「3~9人」を「10人未満」に統合し、70歳以上への定年引上げもしくは定年の廃止で120万円受給できるようになりました。 定年引上げを検討されている事業主様は、早めに申請されることをお勧めします。