キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規雇用から正社員への転換など、従業員のキャリアアップ・処遇改善を図る企業を助成対象としたコースです。
令和5年度11月、多くの企業で活用されているこの助成金について、制度の一部改正がありました。助成金額のアップや、正社員への転換制度を初めて導入した企業への加算などが注目ポイントです。
この記事では、キャリアアップ助成金について、令和5年度の改正点を中心に解説します。申請には注意点もあるのでぜひ参考にしてください。
目次
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、従業員のキャリアアップに向けた取り組みを行った事業主を支援する助成金です。正社員化コース以外にも複数のコースがあります。
キャリアアップ管理者を選任し、3年以上5年以内のキャリアアップ計画を立てて取り組みます。コースによっては、事前に計画書を労働局に提出し、認定を受ける必要があります。
また、取り組みは就業規則や労働協約などに基づき実施し、新設や変更も就業規則等に規定しておく必要があります。
まずは、各コースの大まかな内容を見ておきましょう。
正社員化コース
正社員化コースは文字どおり、有期雇用の労働者や短時間労働者、派遣労働者を正社員化すると助成金が受けられるコースです。
次のすべてに該当する場合に支給対象となります。
- 非正規雇用契約で6カ月以上になる従業員を
- 正規雇用契約に転換し
- 正社員として6カ月以上継続して雇用し
- 6カ月分の賃金を支給した
正社員への転換は、制度を就業規則に規定した上で行う必要があります。また、正社員としての賃金の額は、転換前より3%以上増えていなくてはなりません。
支給内容は、正社員化した労働者1人あたりの助成額のほか、勤務地や職務を限定した正社員、短時間正社員制度の導入による加算もあります。また、派遣からの直接雇用や、ひとり親家庭の親の転換にも助成金が加算されます。
正社員化コースの令和5年度の改正点や助成額などについて詳しくは、この後の章で紹介します。
賃金規定等改定コース
賃金規定等改定コースは、有期雇用や短時間など非正規雇用の労働者(すべてまたは一部)の基本給を、賃金規定等で3%以上増額改定した場合に支給対象となります。
増額改定前の賃金規定が3カ月以上運用されていることと、改定後の賃金規定を6カ月以上運用していることも必要です。
助成額は次のとおりです。
賃金の増額幅 | 助成額(1人あたり) | |
---|---|---|
中小企業 | 大企業 | |
3%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
5%以上 | 6.5万円 | 4.3万円 |
賃金規定の改定が職務評価に基づいて行われた場合には、「職務評価加算」として、中小企業に20万円、大企業に15万円が加算されます。
賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースでは、すべての非正規雇用労働者に対し、正規雇用労働者と共通の職務などに応じた賃金規定を新しく作り、適用した場合に支給を受けられます。
等級などの区分は非正規雇用と正規雇用それぞれに3区分以上を設け、そのうち2区を共通する区分としなくてはなりません。また、共通化した区分以上に対する等級については、非正規雇用の賃金の時間給も、正規雇用と同等以上でなくてはなりません。
申請には、改定後の賃金規定に基づき6カ月分の賃金を支給することが必要です。
助成額は次のとおりです。
企業規模 | 助成額(1事業所あたり) |
中小企業 | 60万円 |
大企業 | 45万円 |
支給は1回限りです。
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースは、非正規雇用のすべての労働者を対象とする賞与・退職金制度を新たに作り、支給または積み立てをした場合に助成が受けられるコースです。
設けた制度に基づいて、次のいずれかまたは両方に該当する必要があります。
- 賞与を6カ月分相当として5万円以上支給した
- 退職金を1万8千円以上積み立てた
(1カ月分相当として3千円以上×6カ月分、もしくは6カ月相当として1万8千円)
助成額は次のとおりです。
企業規模 | 助成額(1事業所あたり) | |
---|---|---|
賞与又は退職金のいずれかを導入 | 賞与と退職金を同時導入 | |
中小企業 | 40万円 | 56.8万円 |
大企業 | 30万円 | 42.6万円 |
すでに一部の非正規雇用労働者に対して賞与を支給している場合には、対象者を全員に変えたとしても支給の対象外です。ただし、それが就業規則に明記されておらず、新たに規定した場合には対象となります。退職金制度も同じです。
短時間労働者労働時間延長コース
※このコースは令和6年3月31日をもって廃止されました。
短時間労働者労働時間延長コースは、すでに雇用している非正規雇用労働者に対し、労働時間を延長して社会保険に加入させた場合に対象となるコースです。
週の所定労働時間を3時間以上、もしくは手取り収入が減らないように賃金を増額して労働時間を1時間以上3時間未満延長し、社会保険に加入させることが要件です。
延長時間により、助成額は次のように異なります。
延長時間 (賃金の増額) | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|
3時間以上 | 23.7万円 | 17.8万円 |
1時間以上2時間未満 (10%以上増額) | 5.8万円 | 4.3万円 |
2時間以上3時間未満 (6%以上増額) | 11.7万円 | 8.8万円 |
延長するまでの6カ月間、社会保険の適用要件に満たず、かつ過去2年以内に社会保険に加入していなかった労働者が対象です。
いずれも、1年度1事業所あたり45人が支給の上限です。
正社員化コース令和5年度の改正点
キャリアアップ助成金は、令和5年11月29日に改正されました。これから紹介する改正後の内容は、同11月29日以降に正社員への転換を行った場合に適用されます。
助成金受給額の大幅アップ
支給対象となる期間が、6カ月から12カ月に延長されました。2期制となり、助成額も大幅にアップされています。
企業規模 | 支給額 | |
---|---|---|
改正前 (1期6カ月) |
改正後 (2期12カ月) |
|
中小企業 | 57万円 | 80万円 (1期40万円×2) |
大企業 | 42.75万円 | 60万円 (1期30万円×2) |
ただし上記は、「有期雇用→正規雇用」に転換した場合の助成額です。「無期雇用→正規雇用」の場合、助成額は上記の半額になります。
また、それに伴い、支給申請時期も2回となります。1回目は正社員への転換から6カ月が経過した後、2回目は12カ月が経過した後です。
対象労働者の雇用期間の上限廃止
対象となる従業員が有期雇用契約であった期間について、改正前は「6カ月以上かつ3年以内」である必要がありました。
しかし、改正で上限がなくなり、「6カ月以上」という下限条件のみになっています。
ただし、有期雇用での雇用期間が通算5年を超えている場合、助成額は半額です。
正社員転換制度の新たな規定への加算
これまで正社員への転換制度がなく、新たに正社員転換制度を導入する場合には、助成金が加算されることになりました。
正社員転換制度を新たに規定して転換を行った場合には、次の金額が加算されます。
企業規模 | 加算額 |
中小企業 | 20万円 |
大企業 | 15万円 |
これにより、新たに正社員転換制度を設けて正社員に転換した場合、1人目の転換時に合計100万円(80万円+20万円/大企業は合計75万円)の助成が受けられます。
多様な正社員制度規定への加算額の増額
「多様な正社員」とは、勤務地限定や職務限定、短時間勤務の正社員をいいます。これらの正社員制度を新たに規定した場合には、助成金の加算が受けられるのは前述のとおりです。
今回の改正で、加算額が大幅に増額されました。
企業規模 | 助成金(1事業所あたり) | |
---|---|---|
改正前 | 改正後 | |
中小企業 | 9万5000円 | 40万円 |
大企業 | 7万1250円 | 30万円 |
これにより、多様な正社員に対する制度を新たに規定し、正社員への転換を行った場合には、合計120万円(80万円+40万円/大企業は合計90万円)の助成が受けられます。
キャリアアップ助成金受給を見据えた就業規則変更の注意点
キャリアアップ助成金の受給のカギとなるのが、就業規則の規定内容です。支給要件と照らし合わせ、必要に応じた規程の変更や追記、新設をしなくてはなりません。
必ず確認しておきたいのは、次のような項目です。
- 賞与・退職金制度の記載
- 昇給に関する記載
- 雇用期間に関する記載
- 非正規雇用労働者の定義
- 変更後の就業規則の適用時期の記載
現行の規定がどうなっているかによって、対処法も異なります。記載方によって助成金の支給対象外ともなり得るので、正確を期すため専門家に確認してもらうことをおすすめします。
キャリアアップ助成金 正社員化コース申請時の注意点
キャリアアップ助成金の正社員化コースは多くの企業に活用されていますが、申請には細心の注意も必要です。
特に注意すべき点について順に説明します。
改正が適用される労働者の条件
この記事で説明した令和5年度の改正は、11月29日以降に正社員転換をした労働者が対象となります。
それより前に転換した場合には、改正前の制度内容が適用されます。増額や加算などは対象外です。
第1期・第2期それぞれの申請期限
支給が2期にわたることとなったため、申請も2期に分けて行う必要があります。 各期の申請期間は次のとおりです。
- 第1期:正社員転換後の6カ月分の賃金支給日の翌日~2カ月間
- 第2期:その後の6カ月分(7~12カ月分)の賃金支給日の翌日~2カ月間
ただし、勤務日数が11日未満の月がある場合には、その月を除いた6カ月分となり、申請期間も後ろ倒しとなります。
この期間を1日でも過ぎると、不支給となります。また、期限ギリギリの申請では、書類の不備などがあった場合に間に合わない恐れがあるので注意が必要です。
第1期からの不利益変更は対象外
第2期の支給申請では、次の2点に注意する必要があります。
- 第1期の賃金と比べて減額されていないこと
- 第1期から労働条件に変更がないこと
転換した従業員に対し、不合理な取り扱いをしていないかどうかがポイントとなります。
第1期が申請期限切れとなった場合
第1期の申請を逃してしまった場合でも、第2期の申請は可能です。ただしその場合、第2期の申請書類とともに、第1期の申請書類も提出する必要があります。
そして審査の結果、第1期・第2期ともに支給要件を満たしていれば、第2期についてのみの受給が可能です。
第1期分は、たとえ要件を満たしていても、期間外なので不支給です。第1期分が要件を満たしていなければ、第2期分も不支給となります。
正社員転換の新規加算の条件と申請
正社員転換制度の新規導入については、新たな規定を整備し、その規定に基づいて令和5年11月29日以降に1回目(1人目)の転換をした時のみ、支給申請が可能です。
規定を整備した日というのは、規定したことを社内で周知した日です。客観的に日付がわかるよう、規定の施行後は速やかに労基署に届け出ましょう。
助成金の支給は、厚労省の年度予算内で行われます。要件を満たしていても、申請受付は予算がなくなり次第で打ち切りとなるため、早めの計画検討をおすすめします。
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改正された「キャリアアップ助成金 正社員コース」は、助成金額が大幅にアップするなど、ぜひとも活用したい内容となっています。しかし、申請には細かな要件があり、時間も手間も必要です。
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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
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監修者からのコメント キャリアアップ助成金は業種を問わず多くの企業で活用されています。 今回、初めて制度を導入して正社員転換を行った場合には、加算措置も用意されました。 初めての申請を考えている企業様、うちの会社でも申請できるか要件を知りたいなど、些細なご質問でも結構です。 お気軽にお問い合わせください。