※「特別育成訓練コース」は令和5年4月、「人材育成支援コース」に統合されました。
統合後のコース内容については、こちら↓の記事で解説しています。
社員の育成に積極的に取り組む事業主への支援を行う「人材開発支援助成金」。従業員の能力開発やスキルアップのための訓練を実施した事業主に対し、助成金が支給されます。
複数のコースがありますが、中でも有期雇用契約の労働者を対象とするのが「特別育成訓練コース」です。パートやアルバイトなど、正社員経験の少ない労働者に対し、正規雇用転換や処遇改善を行うべく訓練を実施する場合に対象となります。
この記事では、人材開発支援助成金の特別育成訓練コースについて詳しく見ていきましょう。
目次
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、人材育成のための訓練に取り組む事業主を支援する助成金です。社内の職業能力開発計画を立て、その計画に沿って社員に職業訓練を行った場合に助成金が受けられます。
訓練内容や対象者などによって異なる、8つのコースがあります。
コース名 | 対象となる訓練など |
---|---|
特定訓練コース | 厚労省の認定職業訓練(10時間以上)やOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練 |
一般訓練コース | 職務に関連する20時間以上のOFF-JT訓練 (上記特定訓練以外) |
教育訓練休暇等付与コース | 事業外の教育訓練を対象とした有休制度(3年間に5日以上)を導入 +従業員による制度の利用 |
特別育成訓練コース | 非正規雇用の正社員化や処遇改善を目的とした20時間以上のOFF-JT訓練 |
建設労働者認定訓練コース | 建設関連の認定職業訓練または指導員訓練 |
建設労働者技能実習コース | 建設に関するキャリアに応じた技能講習や検定試験の事前講習 |
建設労働者技能実習コース | 障害者の職業能力開発訓練用の施設などの設置、運営 |
人への投資促進コース | 高度デジタル人材の育成、従業員の自発的訓練や長期(30日以上)の教育訓練休暇制度の導入、サブスクリプション型訓練の実施など |
「人への投資促進コース」は、一般の声に基づき2022年4月に新設されたコースです。
人材不足が特に深刻な建設業については、2つのコースが用意されています。このほかの助成金にも、対象を建設業に特化したものがあります。
この記事では、「特別育成訓練コース」について解説します。
見直しされた特別育成訓練コース
人材開発助成金など助成金の制度内容は、社会情勢などに合わせて年度ごとに改定が行われています。令和4年度は特別育成訓練コースにも改定がありました。
まずは特別育成訓練コースの概要を見ておきましょう。
特別育成訓練コースとは
人材開発支援助成金の「特別育成訓練コース」では、訓練の対象となる従業員を正社員経験の少ないパートやアルバイトなど非正規雇用の労働者に限定しています。
有期雇用契約などから正社員への転換、または処遇改善を目的とした訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練にかかった経費や訓練期間中に支払った賃金の一部などに助成が受けられます。
対象となる訓練は「一般職業訓練」もしくは「有期実習型訓練」のいずれかで実施するものに限ります。それぞれ次のような訓練です。
一般職業訓練
一般職業訓練とは、OFF-JTであり、1コースあたり1年以内に実施、かつ訓練時間数が20時間以上の事業内訓練または事業外訓練をいいます。
事業内訓練とは、自社で企画から主催・運営を行う訓練で、専門的知識や技能を持つ社外の講師(部外講師)か自社従業員(部内講師)による訓練、もしくは事業主自らが運営する認定職業訓練のことです。
事業外訓練は、社外の教育訓練機関に委託し、受講料を支払う訓練です。
有期実習型訓練
有期実習型訓練とは、前項の一般職業訓練(OFF-JTによる事業外または事業内訓練)と、社内で資格保有者など適格な指導者が行うOJTとを組み合わせて行う職業訓練です。
訓練には期間や時間数、評価の実施などについての基準があり、管轄の労働局長が基準に適合していることを確認したものに限ります。
一部のみ、eラーニングやオンラインでのOJTが認められる場合もあります。
令和4年度の主な変更点
人材開発支援助成金全体や特別育成訓練コースの要件や提出書類について、令和4年度になってから複数回の見直しが行われています。改正された内容ごとに見ておきましょう。
助成対象となる訓練について
職業や職務の種類に関係なく、労働者として誰もが必要とされるマナーや接遇などの訓練については、以前は支給の対象外とされていました。
しかし令和4年度では、訓練時間数に占めるマナーなども、訓練時間の割合が半分未満であれば対象となります。
令和3年度まで存在した「中小企業等担い手育成訓練」については、政府による「中小企業等担い手育成支援事業」が終了したことにより対象訓練から外れています。
対象となる訓練施設について
対象となる訓練施設については、令和4年度に2度の改定が行われています。
事業主(個人・団体)の関係者が設置する訓練施設について、令和4年度の当初は、一部を要件から除外すると改定されました。具体的には、3親等内の親族が設置する施設や、従業員が設置する施設、グループ企業による対象者限定の施設や事業主による別法人の施設などです。
しかし令和4年9月の改正で、元の通り対象に含められることとなっています。
訓練講師について
事業内での訓練に社外から講師を招く場合の、講師の要件が追加されました。
それにより、講師は公共職業能力開発施設の指導員や職業訓練指導員免許の保有者、訓練分野での実務経験が10年以上の人などに限られています。
またこれに伴って、訓練計画の提出書類に「OFF-JT部外講師要件確認書」が加わりました。
計画届変更時の提出書類について
計画届の提出時に、訓練別の対象者一覧(所定様式あり)と訓練実施内容が確認できる資料(対象者に配布した訓練案内やカリキュラム表、テキストなど)が必要となりました。
また、「有期実習型訓練にかかる訓練カリキュラム」は様式が変更となり、「有期実習型訓練にかかる訓練計画予定表」は廃止されています。
支給申請時の提出書類について
支給申請の際の提出書類については、8月に「登記事項証明書」が不要になりました。その後、9月には同時双方向型訓練の通信訓練を受けたことの証明となるログや受講時の本人のスクリーンショットなどが不要となっています。
10月には、一般教育訓練等を実施した場合に必要だった「一般教育訓練等の経費負担に関する申立書」の提出が必要なくなりました。
OJTについて
OJTについては、有期実習型訓練の助成額が時間単位の計算から1訓練あたりの定額制に変更となりました。
また、OJT訓練指導者が指導する受講者の人数は3名までと制限されていましたが、令和4年度からその要件は撤廃されています。
このように、対象となる訓練や要件などが数カ月で変わることもあります。申請する際には必ず最新の情報を確認してください。
助成金額
特別育成訓練コースでは、OFF-JT分とOJT分で支給の内容が異なります。
OFF-JT分の支給額
一般職業訓練・有期実習型訓練とも、訓練中に支払った賃金に対する助成として次の額が支給されます。
助成区分 | 支給額 | |
---|---|---|
中小企業 | 大企業 | |
賃金助成 |
760円(960円) |
475円(600円) |
表内のカッコは、一定以上の売上アップなど生産性要件を満たした場合の助成額です。訓練開始の前年度から3年後の数値で判断され、割り増し分は差額を申請すれば支給されます。
ただし賃金助成には、1人1訓練あたり1200時間という上限が設けられています。
訓練に要した経費については、訓練後に対象者を正社員に転換したかどうかによって、経費に対し次の割合で支給されます。
訓練後の雇用契約 | 経費助成の支給割合 |
---|---|
正社員化した場合 | 70%(100%) |
非正規雇用を維持した場合 | 60%(75%) |
カッコ内は生産性要件を満たした場合の割合です。正社員化し、かつ生産性要件を満たせば、対象経費の100%が助成金でまかなえます。
経費助成にも限度が設けられています。訓練実施時間によって1人あたり15万円から最大50万円(大企業は10万円~30万円)の支給となります。
OJT分の支給額
有期実習型訓練のOJT分については、1人1コースあたりの実施助成が受けられます。
助成区分 | 支給額 | |
---|---|---|
中小企業 | 大企業 | |
実施助成 | 10万円(9万円) | 13万円(12万円) |
カッコ内は生産性要件を満たした場合の金額です。
助成の種類に関わらず、1事業所あたりの支給限度額は1年度あたり1000万円までとなっています。
また、同一事業主が同一従業員に対して行う訓練は原則として1年度につき1回のみが対象です。同一の従業員に対し、同一年度に一般職業訓練と有期実習型訓練の両方を行うことはできません。
特別育成訓練コースの申請時の流れ
特別育成訓練コースの申請は、実施する訓練が一般職業訓練か有期実習型訓練かによって異なります。有期実習型訓練の場合は、訓練対象者を新たに雇うかすでに雇っているかによっても異なります。
項目の青字をタップ(クリック)すると、説明部分に移動します。
【一般職業訓練の場合】
【有期実習型訓練(基本型)の場合】
有期実習型訓練では、キャリアコンサルタントによる面接が行われます。すでに雇用している従業員を対象とする場合(キャリアアップ型)は、上記の1と2の順序が逆となります。
訓練計画届の作成・提出
助成金を受けるには、訓練を計画的に行う必要があります。訓練計画届を作成し、添付書類とともに訓練開始日の1カ月前までに管轄の労働局に提出します。
提出した計画内容を変更するときは、「訓練実施計画変更届」を提出しなくてはなりません。計画変更届は、変更前または変更後の訓練実施日のどちらか早い方の前日が期日となります。
病気など突発的でやむを得ない事情での変更は、変更後の訓練実施7日以内の提出も認められます。
キャリアコンサルタントによる面接
有期実習型訓練の場合は、訓練を行う前に受講者がジョブ・カード作成アドバイザーあるいはキャリアコンサルタントによる面接を受ける必要があります。ここで訓練の必要性が判断されます。
キャリアコンサルティングのタイミングは、訓練対象者を新たに雇い入れる場合(基本形)は、訓練計画届を提出した後です。
すでに雇用している場合(キャリアアップ型)は、訓練計画届の提出前に面接を受けさせる流れです。
訓練の実施
計画に沿って訓練を実施します。訓練は、訓練計画届の提出日から6カ月以内に開始する必要があります。
訓練に要した費用は、支給申請をするまでに支払いを終えているものだけが支給対象となります。そのためクレジットカードなど後払いは特に注意が必要です。
計画届の提出後、訓練内容に変更がある場合には計画変更届を提出しなくてはなりません。計画変更について詳しくは、次の章で解説します。
訓練の終了・支給申請書の提出
訓練が終了したら、終了日翌日から2カ月以内に支給申請書と添付書類を管轄の労働局に提出します。
訓練内容によって若干異なりますが、主に次のような書類が必要です。
・人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)支給申請書(様式第5号)
・支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
・支払方法・受取人住所届
・特別育成訓練コース内訳(様式第5号(別添様式1))
・賃金助成および実施助成の内訳(同別添様式2)
・経費助成の内訳(同別添様式3-1)
・OFF-JT実施状況報告書(同別添様式4-1)
・OJT実施状況報告書およびOJT訓練日誌(同別添様式4-2,4-3)
eラーニングや通信制の訓練の場合は、その実施状況がわかる書類が必要です。
このほかに必要となるのは、訓練実施期間中の対象労働者やOFF-JTの社内講師、OJT訓練指導者の出勤状況や出退勤時刻、所定労働日などが確認できる出勤簿や雇用契約書といった書類など。
賃金台帳など、訓練期間中の賃金支払いが証明できる書類、訓練経費を負担したことがわかる振込通知書や総勘定元帳なども提出しなくてはなりません。
生産性要件を満たし、その割増部分について受給するには、改めて支給申請を行う必要があります。
申請期限は、訓練開始の前年度から3年度後にあたる会計年度の末日翌日より5カ月以内です。
支給決定
審査を経て、支給が決定されます。もちろん、書類に不備があったり、要件を満たしていなかったりすれば、不支給の決定が下されることもあります。
特別育成訓練コースの申請時のポイント
人材開発支援助成金の特別育成訓練コースの申請をする際は、次のようなポイントを押さえておきましょう。
訓練内容の変更には計画変更届が必須
助成金を受けるには、事前に認定を受けた計画届に沿った訓練を行う必要があります。
そのため、計画届の承認後、次の項目について変更がある場合には、計画変更届(様式第3-1号あるいは3-2号)を提出しなくてはなりません。
・訓練の内容(対象とする職務や訓練科目など)
・訓練の実施予定日時・実施期間・総訓練時間数
・訓練の実施場所・実施方法
・OFF-JTの訓練講師(事業内訓練のみ)やOJTの訓練指導者
・OFF-JTを実施する教育訓練機関
・訓練コースの名称
・受講予定人数の増加
・訓練修了後の正規雇用転換などについての基準
特に、令和4年4月からは訓練日時や訓練場所の変更にも届出が必要となっているので注意が必要です。
変更届の提出期限は原則として、訓練実施日(実施日を変更する場合は当初の計画時と変更時のいずれか早い方)の前日です。
変更届を出さずに支給申請した場合、変更した部分については支給の対象外となるので注意が必要です。
有期実習型訓練は手続きの流れに注意
有期実習型訓練を行う場合は、訓練の実施前にジョブ・カード作成アドバイザー等による面接が必要です。手続きは、訓練対象者を新たに雇う「基本型」と、すでにいる従業員を対象とする「キャリアアップ型」とで異なります。
そのため、基本型とキャリアアップ型の両方の対象者がいる場合には、訓練計画届を別々に作成しなくてはなりません。
また、キャリアコンサルティングは、基本型は訓練計画届の提出後に行うのに対し、キャリアアップ型は訓練計画届の提出前に行うことにも注意が必要です。
OJT訓練日誌はPC入力も可能に
有期実習型訓練を行った際に必要な提出書類のうち、「OJTに係る訓練日誌」については、以前は訓練の受講者本人が手書きで記入する必要がありました。しかし現在はPC入力も可能となっています。
ただし、入力はあくまで受講者本人がしなくてはならず、他者のコピー&ペーストなど本人の記入だと確認できない場合には不支給となる可能性もあるので注意してください。
助成金の申請はBricks&UKにおまかせ
人材開発支援助成金の特別育成訓練コースは、令和4年度に入り、助成対象となる訓練施設の要件が緩和されたり、提出書類が簡素化されたりと細かな改定が続いています。
助成金の申請は、必要書類が足りなかったり、要点を満たさなかったりすれば受給できません。最新の制度内容を常に把握している必要があります。
そのため、人材開発支援助成金の特別育成訓練コースの申請には、専門家の手を借りるのが最善の方法です。不正受給の疑いをかけられないためにも、実績のある社会保険労務士に依頼してください。
当サイトを運営する社会保険労務士事務所Bricks&UKでは、雇用に関する数多くの助成金申請の実績があり、多くのクライアントのお役に立っております。ぜひお気軽にご相談ください。
就業規則を無料で診断します
労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント 特別育成訓練コースの訓練日誌について、OJTとOFF-JTで書き方が異なるのでご注意ください。 具体的には、OJTの訓練日誌は受講者本人が記入(PC入力も可)となっているのに対して、OFF-JTの訓練日誌は訓練担当者が記入(PC入力も可)となっています。 また、記載内容があらかじめ計画届に添付して提出しているカリキュラムと異なる場合には、訓練をしたと認められず、その分の受講時間が削られてしまいます。 記載するときにはカリキュラムとのずれがないかを確認のうえ記載を行ってください。 訓練日誌の書き方についてもご相談をお受けしております。 お気軽にお問い合わせください。