障害者を雇用することは、一定以上の従業員を抱える企業の義務となっています。とはいえ、障害者を受け入れるためには、人や施設などの環境を整える必要があり、費用もかかります。
そこで活用したいのが、各種の助成金です。障害者を雇用したり、雇用維持のために環境を整備したりすることで、助成金を受け取ることができます。
この記事では、令和6年の執筆時点で活用できる障害者雇用関連の助成金を目的別に紹介します。制度はひんぱんに改正されているため、最新情報を確認しておきましょう。
目次
障害者雇用助成金とは
障害のある人も、「収入を得るため」「自分の能力を発揮するため」など、さまざまな理由で働きたいと思うのは当然のことです。しかし、受け入れる企業にも一定の負担が伴うことから、就職が難しいという現実は否定できません。
そこで国は、障害者を雇用する企業や、障害者の雇用を維持し、労働環境の改善を図る企業への助成金を設けています。
障害者雇用と障害者雇用助成金
令和6年4月から、障害者に対する民間企業の法定雇用率が2.5%に引き上げられました。
これにより、40人以上の従業員がいる企業は、1人以上の障害者を雇う義務があります。
さらに令和8年7月からは「2.7%」、従業員37.5人以上の企業に義務付けられることが決まっています。
障害者の法定雇用率とは
障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用率制度」により、従業員を雇う事業主には、一定割合以上の障害者を雇うことが義務付けられています。この割合が「法定雇用率」です。
常時100人超の従業員を雇いつつ法定雇用率を満たさない企業からは、「障害者雇用納付金」が徴収されます。
その納付金を財源として、法定雇用率を達成かつ従業員100人超の企業には「調整金」が、それ以下の企業で、雇用する障害者が一定数を超える場合には「報奨金」が支給されます。
また、この記事で紹介するような各種の助成金制度も運営されています。
障害者を雇用するメリット
障害者を雇うことは企業の義務ではありますが、雇用の創出・維持で社会に貢献できるだけでなく、次のようなメリットもあります。
- 企業の魅力アップや事業の発展につながる
- 人手不足の解消や業務の効率化が図れる
- 助成金の支給対象となる
障害者が加わることで、組織の多様性が豊かになり、企業の成長が促されます。従業員の働きやすさや離職防止につながるだけでなく、優秀な人材の確保もしやすくなります。
また、多様な視点があれば、新商品の開発やサービスの改善など、事業の発展にもつながります。受け入れに際し業務体制を見直せば、無駄やブラックボックス化の解消もできるでしょう。
助成金の支給要件を満たせば申請ができるので、環境の整備にかかる出費も、負担が大きく抑えられます。
対象となる「障害者」の範囲
障害者雇用率制度では、次のような人を雇用率の算定対象としています。
- 身体障害者手帳を持っている人
- 療育手帳を持っている人
- 精神障害者保健福祉手帳を持っている人
しかし、障害者雇用促進法では、手帳の有無でなく、身体・知的および精神障害(発達障害含む)により、長期にわたり仕事が大きく制限される人を障害者と定義しています。
助成金の中にも、障害者手帳を持たない発達障害や難病の人を対象とするものがあります。
障害者雇用に関する助成金を受けるには、対象者をハローワークなどの紹介により雇い入れる必要があります。そのため、対象の障害者であるかどうかは紹介を受ける時点で確認可能です。
障害者雇用助成金の種類
障害者雇用の助成金には、目的に応じた3つの種類があります。
- 障害者を新たに雇用した場合の助成金
- 障害者のキャリア形成に取り組んだ場合の助成金
- 障害者の雇用環境を整備した場合の助成金
次の章から、目的別に現在ある障害者雇用助成金の概要・対象労働者・受給額などを見ていきます。
ちなみに、障害者の能力開発を事業として行う場合の運営費や施設設置費を対象とした「障害者能力開発助成金」の制度もあります。この記事では割愛します。
障害者を新たに雇い入れた場合の助成金
障害者の新規雇用については、2つの助成金で4つのコースがあります。
助成金の名称 | コース名 |
---|---|
特定求職者雇用開発助成金 | 特定就職困難者コース |
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース | |
トライアル雇用助成金 | 障害者トライアルコース |
障害者短時間トライアルコース |
それぞれのコース内容を順に説明します。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、一定の条件に当てはまる求職者を雇用した場合に支給を受けられる助成金です。5つのコースがありますが、障害者雇用に関連するのは次の2つです。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
以前は初回雇用コースもありましたが、廃止されました。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースでは、一般的に就職が困難とされる人を、ハローワーク等の紹介を通じて雇い、継続雇用することで支給が受けられます。
障害者のほか、高齢者や母子家庭の母などの雇用も対象ですが、この記事では障害者についての助成内容のみ紹介します。
対象労働者 | 支給額 | 支給対象期ごとの支給額 | |
---|---|---|---|
短時間労働者 | 重度障害者等を含む身体・知的障害者・精神障害者 | 80万円 (30万円) | 20万円×4期 (15万円×2期) |
短時間労働者以外 | 重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円 (50万円) | 30万円×4期 (25万円×2期) |
重度障害者等 | 240万円 (100万円) | 40万円×6期 (33万円×3期※) |
助成金は、上記支給額を一括でなく6カ月で区切った「支給対象期」ごとに受け取ります。支給対象期ごとの支給額は、支給対象期に支払った賃金額が上限です。
「短時間労働者」とは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の人をいいます。
「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者と、45歳以上の身体・知的・精神障害者をいいます。
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
このコースは、障害者手帳を持たない発達障害の人や難病患者、かつ満65歳未満の人をハローワーク等の紹介で雇い入れ、継続雇用する場合に対象となるものです。
発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害など、「発達障害者支援法第2条」に規定されているものです。
難病については、関節リウマチやパーキンソン病など、約370の疾病が対象とされています。
支給額は次のとおりです。カッコ内は大企業への支給額です。
対象労働者 | 支給額 | 支給対象期ごとの支給額 |
---|---|---|
短時間労働者 | 80万円 (30万円) | 20万円×4期 (15万円×2期) |
短時間労働者以外 | 120万円 (50万円) | 30万円×4期 (25万円×2期) |
※カッコ内は大企業への支給額
上記支給額を、6カ月の支給対象期ごとに受け取ります。中小企業の場合は4期、つまり2年間が支給期間です。
ただし、実労働時間が所定労働時間より著しく短い場合や、週の賃金が「最低賃金×30時間」を下回る場合、支給額は上記より減額・あるいは不支給となる可能性があります。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金は、対象者をハローワーク等の紹介で受け入れ、試験的に一定期間雇用することで受けられる助成金です。複数のコースがありますが、障害者のトライアル雇用では次のいずれかが対象となります。
- 障害者トライアルコース
- 障害者短時間トライアルコース
障害者トライアルコースの対象と支給額
このコースで対象となるのは、重度の身体・知的障害者と精神障害者のほか、次のいずれかに当てはまる障害者です。
- 未経験の職種への就職を希望する人
- 2年以内に離職あるいは転職を2回以上繰り返している人
- 6カ月超の離職期間がある人
トライアル雇用期間は、精神障害者以外の場合は原則3カ月、精神障害者の場合は原則6カ月です。
精神障害者以外でテレワークの場合は最長6カ月まで、精神障害者の場合は最長12カ月まで延長も可能ですが、支給額は変わりません(延長分は支給なし)。
支給額は次のとおりです。
対象労働者 | 支給額 |
---|---|
精神障害者以外の障害者 | 最大12万円 (月額最大4万円×3カ月) |
精神障害者 | 最大36万円 (月額最大8万円×3カ月、 その後4万円×3カ月) |
障害者短時間トライアルコースの対象と支給額
このコースで対象となるのは、精神障害者または発達障害者です。
雇用時の週の所定外労働時間を週10時間以上20時間未満とし、3~12カ月のトライアル期間内に週20時間以上の就労を目指すことが必要です。
支給額は次のとおりです。
対象労働者 | 支給額 |
---|---|
精神障害者または発達障害者 | 最大48万円 (月額最大4万円×12カ月) |
障害者のキャリア形成に取り組んだ場合の助成金
有期雇用など非正規雇用契約の障害者を正規雇用に変換した場合には、以下の助成金の対象となります。
助成金名 | コース名 |
---|---|
キャリアアップ助成金 | 障害者正社員化コース |
支給の対象や支給額について見ていきましょう。
キャリアアップ助成金 障害者正社員化コースの支給対象
雇用している障害者について、次のいずれかに雇用契約を転換した場合が対象です。ただし、それまで正社員とは異なる就業規則による賃金(またはその計算方法)で6カ月以上継続雇用していた人に限ります。
- 有期雇用から正規雇用(多様な正社員を含む)への転換
- 有期雇用から無期雇用への転換
- 無期雇用から正規雇用への転換
「正規雇用」とは、正社員としての就業規則を適用し、賞与か退職金制度を適用、昇給のある雇用形態をいいます。
「多様な正社員」とは、勤務地や職務を限定した正社員や、短時間正社員などを指します。従前よりも安定した雇用形態にすることが必要です。
障害者正社員化コースの支給額
支給額は、障害の程度や転換の内容によって次のように異なります。金額は1人あたりの支給額です。
対象者 | 転換内容 | 支給総額 | 支給対象期ごとの支給額 |
---|---|---|---|
重度身体障害者 重度知的障害者 精神障害者 | 有期→正規 | 120万円 (90万円) | 60万円×2期 (45万円×2期) |
有期→無期 | 60万円 (45万円) | 30万円×2期 (22.5万円×2期) | |
無期→正規 | |||
上記以外の身体・知的障害者 発達障害者 難病患者 高次脳機能障害者 | 有期→正規 | 90万円 (67.5万円) | 45万円×2期 (33.5万円※×2期) |
有期→無期 | 45万円 (33万円) | 22.5万円×2期 (16.5万円×2期) |
支給対象期間は、企業規模を問わず1年です。6カ月を1期として2回支給されます。ただし支給額は、支給対象期ごとの賃金総額が上限です。
正社員への転換後に試用期間を設けた場合は「有期→正規」でなく「無期→正規」の転換と見なされ、支給額が少なくなるので注意が必要です。
障害者の雇用環境を整備した場合の助成金
障害者のための施設を整備する、介助者を配置するなど環境の整備を行った場合には、前述の「障害者雇用納付金」を活用した次のような制度が活用できます。
青字の助成金名をクリック/タップすると、該当説明箇所に移動します。
いずれも、労働局やハローワークに支給申請するのではなく、「(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構」に申請します。
それぞれの助成金の概要を見ていきましょう。
障害者作業施設設置等助成金
この助成金は、障害者を雇い入れる、または継続雇用する場合に、当人の作業を容易にするための施設や設備の改造などを行うことで、その費用の一部が助成されるものです。
対象となる障害者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者のいずれかです。特定短時間労働者は重度の身体・知的障害者に限ります。
助成は、施設の設置や整備の方法によって次の2種類があります。
助成金の種類 | 作業施設等の設置・設備方法 |
---|---|
第1種作業施設設置等助成金 | 建築等や購入によって行う |
第2種作業施設設置等助成金 | 賃貸によって行う |
ただし、必要最低限の設備が支給対象であり、過度な設備は対象外となる可能性があります。
第1種の対象費用と支給額
この助成金は、自社が所有する「作業施設」と玄関や車いす用トイレなどの「付帯施設」、拡大読書器や音声文字化アプリなどの「作業設備」の設置または整備・導入に必要な費用を対象としています。
支給額は、それぞれの施設設置にかかった費用の「3分の2」の金額です。
ただし、支給限度額は障害者1人につき450万円、作業設備は1人につき150万円などの上限があります。
第2種の対象費用と支給額
この助成金の支給対象となる費用は、「作業施設」と「付帯施設」、「作業設備」にかかる1カ月分の賃借料です。敷金・礼金・保証金といった類のものは対象外です。
支給額は、支給対象費用(賃借料や面積などから算出)に「3分の2」をかけた額です。
ただし、支給限度額は障害者1人につき月13万円まで。作業設備については1人につき月5万円までなどの上限があります。支給期間は3年間です。
障害者福祉施設設置等助成金
この助成金は、すでに雇用している身体・知的・精神障害者について、事業主所有の保健室や休憩室、食堂といった福祉施設を設置・整備する場合に支給されるものです。支給額は、支給対象となる費用の「3分の1」の金額です。
支給の限度額は対象障害者1人につき225万円、重度障害者等を除く短時間労働者の場合はその半額です。また、同一事業所につき1年度あたり最大2,250万円が上限です。
ただし、助成対象となるのは障害特性に配慮した部分に限り、施設の全体ではありません。また、特定短時間労働者(週10時間以上20時間未満)については、重度の身体・知的障害者のみが対象です。
障害者介助等助成金
この助成金は、障害者を雇い入れる、または継続雇用している場合に、各人の障害に応じて介助者や手話通訳者を設置する、職場復帰に必要な環境整備を行うなどした費用について、その一部を助成するものです。
目的によって、次のように複数の助成金が用意されています。
助成金の種類 | 助成対象となる措置等 |
---|---|
職場介助者の配置又は委嘱助成金 | 重度視覚障害者、重度四肢機能障害者のための措置 |
職場介助者の配置又は委嘱の継続措置に係る助成金 | 上記の支給期間の終了後の継続措置 |
職場介助者の配置又は委嘱の中高年齢等措置に係る助成金 | 加齢変化で就労がより難しくなった場合の措置 |
手話通訳・要約筆記等担当者の配置又は委嘱助成金 | 聴覚障害者のための措置 |
手話通訳・要約筆記等担当者の配置又は委嘱の継続措置に係る助成金 | 上記の支給期間終了後の継続 |
手話通訳・要約筆記等担当者の配置又は委嘱の中高年齢等措置に係る助成金 | 加齢変化で就労がより難しくなった場合の措置 |
職場支援員の配置又は委嘱助成金 | 障害者の業務に必要な指導やサポートを行うための措置 |
職場支援員の配置又は委嘱の中高年齢等措置に係る助成金 | 加齢変化で就労がより難しくなった場合の措置 |
職場復帰支援助成金 | 病気や事故による中途障害で休職した従業員の職場復帰に必要な措置 |
対象となる障害者の範囲や支給金額の算出方法などは、各助成金で異なります。
たとえば「職場介助者の委嘱」を行った場合、支給額は「職場介助者の委嘱に要した費用×助成率『4分の3』」です。ただし、1回につき1万円、年150万円が上限です。
職場適応援助者助成金
この助成金は、障害者が職場に適応しやすいよう、「訪問型」あるいは「企業型」の職場適応援助者(ジョブ・コーチ)を活用した場合に、要した費用の一部が助成されるものです。
対象となるのは、次のいずれかに該当する人です。
・身体障害者 ・知的障害者 ・精神障害者
・発達障害者 ・難病患者 ・高次脳機能障害
・その他援助が必要だと認められた人
短時間労働者の場合は、重度の身体・知的障害者もしくは精神障害者に限ります。
訪問型を利用した場合の支給額
外部のジョブ・コーチが訪問して支援を行う場合、次の助成が受けられます。
1日の支援時間 | 支給額(1回あたり) |
---|---|
4時間以上の日 (精神障害者は3時間以上) | 1万8000円 |
4時間未満の日 (精神障害者は3時間未満) | 9,000円 |
ただし、1日あたり3万6000円まで。助成対象期間は、1年8カ月(精神障害者は2年8カ月)が限度です。
企業在籍型の場合の支給額
ジョブ・コーチ養成研修を受けた自社の従業員が社内の障害者をサポートする場合、支給額は次のとおりです。
支援対象者 | 労働時間 | 1人あたりの支給額 |
---|---|---|
精神障害者 | 下記以外 | 月額12万円 (9万円) |
短時間労働者 | 月額6万円 (5万円) | |
精神障害者以外 | 下記以外 | 月額8万円 (6万円) |
短時間労働者 | 月額4万円 (3万円) |
また、職場適応援助者の活用については、加齢が原因で職場適応が困難となった障害者の支援を対象とした助成金もあります。
重度障害者等通勤対策助成金
この助成金は、重度の身体・知的・精神障害者または、通勤が困難な身体障害者を雇い入れる、または継続雇用するにあたり、通勤しやすくするための措置を行った場合に支給されます。
目的別に、次のような複数の制度が設けられています。
助成金の種類 | 助成対象となる措置等 |
---|---|
重度障害者等用住宅の 賃借助成金 | 重度障害者等のため、特別な構造や設備のある住宅を賃借 |
指導員の配置助成金 | 重度障害者等が5人以上入居する住宅への指導員の配置 |
住宅手当の支払助成金 | 重度障害者等が自己負担で家を借りている場合に、通常の限度額を超えた住宅手当を支給 |
通勤用バスの購入助成金 | 通勤する5人以上の重度障害者等のため、通勤用バスを購入 |
通勤用バス運転従事者の 委嘱助成金 | 通勤する5人以上の重度障害者等のため、通勤用バスの運転手を委嘱 |
通勤援助者の委託助成金 | 重度障害者等の公共交通機関による通勤を容易にするため指導・援助を実施 |
駐車場の賃借助成金 | 自身が運転する車で通勤する必要がある重度障害者等のために駐車場を賃借 |
通勤用自動車の購入助成金 | 自身が運転する車で通勤する必要がある重度障害者等のために通勤用自動車を購入 |
支給金額は、「支給対象費用×助成率」で計算。支給対象費用の計算方法や助成率は、制度により異なります。
たとえば、重度障害者等用住宅の賃借助成金の場合、支給額は「基準面積の住宅の賃借料×助成率「4分の3」」です。ただし、世帯用で月10万円、単身用で月6万円が限度、支給期間は10年間です。
ただし、雇用して6カ月が経過している場合は、通勤困難な事態はすでに解消されているものと見なされ、原則として支給の対象とはなりません。
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
重度の障害を持つ人を多数雇用し、施設などを整備した場合に受けられるのがこの助成金です。
支給額が高額となる可能性がありますが、支給には対象者や対象設備の審査に加え、経営基盤や雇用条件についても審査が行われます。
支給対象となる事業主の要件
この助成金の主な要件は次のとおりです。
- 重度の身体障害者、知的障害者または精神障害者を10人以上雇用すること
- その数は全従業員数の10分の2以上であること
- その障害者を、継続かつ安定して雇用していること
- 雇用する障害者のための作業施設や管理施設・福祉施設の設置、必要な機器の導入を行うこと
- 管理施設や福祉施設は、作業施設とあわせて設置されるものであること
福祉施設に該当するのは、自社所有の保健室や食堂、訓練施設や社宅などです。設備では、施設に不可欠な設備や備品(償却資産となるもの)、車などが対象となります。
支給対象となる費用と支給額
この助成金には、支給対象となる費用が大きく分けて2種類あります。
- 施設や設備の設置・整備にかかる「設置助成金」
- 上記費用を借り入れた場合の利息にかかる「利息支払助成金」
設置助成金の支給額は、支給対象費用(建築等の単価や面積から算出)の3分の2の額で、上限は5000万円です。
第3セクター方式による重度障害者雇用企業などの場合は、助成率が4分の3、上限が1億円となる特例もあります。
利息支払助成金の支給額は、施設の設置・整備に使った借入金の残高に、貸付利率と借入期間をかけた額です。ただし、借入の翌月から5年間(利息が付く期間)が支給の対象です。
障害者雇用助成金の申請に関する注意点
障害者雇用に関する助成金を申請する際は、次の点に注意が必要です。
- 障害によって実雇用率の人数のカウント方法が異なる
- 「不支給要件」に該当すれば助成対象外となる
- 支給要件・必要書類・手続きが各制度で異なる
- 法令や助成金制度がひんぱんに改正される
それぞれ説明します。
障害によって実雇用率の人数カウントが違う
障害者雇用の助成金を受けるには、法定雇用率を守らねばなりません。民間企業の法定雇用率は前述のとおり、令和6年度は「2.5%」、令和8年度からは「2.7%」です。
法定雇用率が2.5%の場合、従業員の40人に1人以上は障害者でなくてはならない計算です。
法定雇用障害者数= (常用の従業員数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率(2.5%) |
しかしこの計算に用いる人数は、単純に「1人=1」とカウントするものでないことに注意が必要です。
まず、労働時間が週20時間以下の人は障害の有無にかかわらずカウントしません。また、障害者については、障害の種類(程度)や労働時間で次のように設定されています。
障害等の区分 | 雇用形態 | 1人あたりのカウント |
---|---|---|
重度身体障害者 重度知的障害者 | 短時間労働者 | 1人 |
上記以外 | 2人 | |
上記以外の障害者 | 短時間労働者 | 0.5人 |
上記以外 | 1人 |
たとえば、重度でない障害かつ短時間勤務の人を2人雇っている場合、実雇用率の計算では2人で「1人」としてカウントされます。
従業員が80人いる場合、法定雇用率が2.5%だと2人の障害者を雇う必要があり、「1人」では足りません。
不支給要件に該当すれば対象外となる
助成金には、支給要件のほか「不支給要件」もあるので注意が必要です。障害者雇用についていくら要件を満たしても、1つの不支給要件に該当すれば受給できません。
不支給要件とは、たとえば労働保険料(雇用保険・労災保険)の未納や、性風俗・暴力団等との関連、過去3年以内の不正受給など。いずれかの事実があれば、助成金の支給は対象外となります。
助成金が支給された後に不支給要件への該当が発覚した場合は、助成金の返還などが必要です。
支給要件・必要書類・手続きが各制度で異なる
障害者雇用の助成金には、上記のとおり数多くの制度があります。対象となる障害者などの支給要件や、提出が必要な書類などは、各助成金によって異なります。
要件を満たさない場合や、書類に不備がある場合は受給できないため、各制度の支給要綱を事前にしっかりと確認する必要があります。
特に障害者雇用の助成金では、厚労省主管で労働局に申請するものと、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構」主管で同機構に申請するものとがあるので注意が必要です。
法令や助成金制度はひんぱんに改正される
障害者雇用にかかる法定雇用率は、社会情勢等の変化に伴い改定されています。障害者雇用の法律、労働関連の法令についても、不定期に改正が行われています。
さらに、助成金の制度についても、年度ごとのほか、年度の途中で改正されることが少なくありません。
常に最新の情報をチェックして、申請時に不備とならないよう気を付ける必要があります。
助成金の申請は社会保険労務士に委託しよう
最新の法令や支給要件の確認から始まり、申請までに多くの手間と時間を要する障害者雇用の助成金。
そこでおすすめしたいのが、助成金申請の専門家である社会保険労務士(社労士)への委託です。
助成金申請で社労士に委託できること
社労士には、助成金の申請にあたり次のようなことが任せられます。
- 最新の法令・支給要件の確認
- 就業規則等が法令や支給要件を満たすかどうかの確認
- 必要な計画の策定や取り組みへのサポート
- 支給申請書の作成・提出や申請先機関とのやり取り
委託の前に、ヒアリングによって状況などに合った助成金の提案などをすることも可能です。
ただし、助成金申請を業務の範囲外としている社会保険労務士も存在します。
助成金申請に社会保険労務士を利用するメリット
社労士に委託する第一のメリットは、申請にかかる多くの手間や時間を省けることです。書類への捺印や資料などの用意は必要ですが、煩雑な書類の作成は託せます。
支給要件や法令に関する最新情報を把握した上での適正なサポートが受けられるため、効率の良い申請手続き、スムーズな受給が可能になります。
ただし、社労士に委託すれば受給が約束されるわけではないこと、すべての社労士が助成金の申請に長けているわけではないことに注意が必要です。
障害者雇用助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
障害者の雇用に際し、受け入れのためのコストが気になるのであれば、助成金を活用しましょう。自社でどの助成金が活用できるか知りたい、手間を省いて効率よく受給したいということであれば、社会保険労務士への相談・活用をおすすめします。
社労士を活用すれば、制度によって違う細かな支給要件や必要書類の収集に頭を悩ませることなく、適正かつ効率よく申請できます。
当サイトを運営する社会保険労務士事務所「Bricks&UK」では、書類作成や手続きの代行はもちろん、状況に合った助成金のご提案や、支給要件に則した就業規則の整備なども行っています。まずはご相談から、お気軽にお問い合わせください。
就業規則を無料で診断します
労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント 障害者雇用に関する助成金はその目的に応じてそれぞれ用意されており、幅広く活用することができます。
しかしながら、要件が複雑であったり、申請先が異なる場合もあり、注意が必要です。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。