助成金や補助金に多くの企業から注目が集まっています。助成金は返済不要の資金で受給できる確率も高いので、活用しない手はありません。
しかし、実際に申請しようと思っても種類が多く、「自社に適した助成金がわからない」「支給要件が複雑で難しい」といった理由で断念する企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、中小企業に最適な助成金を知りたい事業主の方向けに、助成金を活用するメリットや、活用のタイミング、令和3年度におすすめの助成金について解説していきます。
目次
助成金とは?
助成金は、国が企業などを支援するために給付するお金のことです。支給には満たさねばならない要件があり、支給可否を決める審査もあります。
ここで紹介するのは、従業員の雇用に関連する助成金で、厚生労働省が管轄するものです。
似たような性質のものに補助金がありますが、これは主に経済産業省による事業者への支援として支給されるものをいいます。
助成金を活用するメリット
助成金を活用するメリットは主に5つあります。詳しく見ていきましょう。
1、助成金は返済不要
助成金の財源は企業が納める雇用保険料であり、返済義務はありません。国の施策を実現するために支給されるもので、公募期間も限定されていないため、1年中利用可能です。
助成金を受ければ、開業や経営に必要な資金を一部とはいえ確保できます。一方で金融機関の融資を受けた場合、返済義務があるうえ、金利も考慮する必要があるでしょう。自己資金や借入資金だけで事業を進めるのには、リスクが伴います。
助成金制度の利用は経営戦略の一つです。上手く活用していけば、企業経営に大きなメリットをもたらすでしょう。
2、要件を満たせば、受給できる確率が高い
助成金は、受給要件さえ満たせば高い確率で受給できます。
経済産業省が管掌する補助金の場合は、審査によって選抜されるため、事業者間の競争に陥りやすくなります。対して、助成金は要件を満たし、必要書類を揃えていれば支給されるものです。他社の申請状況に左右されることもありません。
助成金の受給要件は、社会情勢によって変更される場合があります。事前に計画書を提出したり、社内規則を変更する必要があったりと準備内容も変わってくるため、事前に最新情報をしっかりと確認しておきましょう。
3、助成金の申請を通して職場環境が改善できる
助成金の申請に向けた活動を行うことで、働きやすい環境や、採用に有利な制度の構築に繋がります。助成金は従業員の雇用や労働環境、待遇などの改善実施を条件に支給されるからです。
たとえば離職率の高さが課題となっている企業の場合、新たな人事評価制度や研修制度を導入し、離職率の低下を目指します。目標が達成されれば助成金が支給されるうえ、生産性向上や、従業員のモチベーションアップも期待できるのです。
また、助成金に関する知識を得るなかで、労働法の理解も深まります。トラブルを予防しつつ、規定の整備や労務時間管理などを行うことで、労働者にとって魅力的な環境が提供でき、より優良な企業に発展できる可能性が高まります。
4、自社の社会的信用の向上が期待できる
助成金を利用することで、結果的に自社の社会的信用の向上が期待できます。
というのも、助成金を受給するには、国や地方団体が定める基準をクリアしなければなりません。つまり、通過すれば国の認可を受けた企業として信用性が増すのです。
雇用を守ろうとする姿勢は、従業員など社内をはじめ、取引先や金融機関などの外部からも信頼度が向上する可能性も大いに期待できます。
特に、近年は働き方改革が推進され、企業の労働環境に厳しい目が向けられています。環境改善に積極的な会社であることを内外にアピールできれば、公的融資やリースも受けやすくなるでしょう。
5、助成金は使い道が自由
使い道が限られず自由であることも、助成金の大きなメリットです。
助成金は、企業の収入の一部として自由に利用できます。会社の運転資金や設備投資、借入金の返済、給与の支払いなど何に使用してもかまいません。人材育成や人事評価制度の整備、繁忙期後の慰労会など、会社をより良くするのに役立てるのも良いでしょう。
補助金の場合、交付決定後も計画書通りに事業を行っているか、経費の内容を報告する義務があります。しかし、助成金は支給されたあとの報告義務がないため、過度な負担になることもありません。
助成金を活用できるタイミング
企業経営において、助成金を活用できるタイミングは多々あります。ここでは、タイミングごとに利用しやすい助成金の概要と活用事例を紹介します。
人を採用するとき
採用時点では、その人材が活躍してくれるかどうかが未知数です。自社の負担を減らしつつ採用のミスマッチを防ぐなら、以下の2種類を活用しましょう。
- キャリアアップ助成金
非正規雇用の労働者の、社内でのキャリアアップを促進する制度です。正社員に転換する「正社員化コース」の要件を満たした場合、最大57万円が支給されます。
- 東京都正規雇用等転換安定化支援助成金
東京労働局管内に事業所があり、労働者が「キャリアアップ助成金」の「正社員化コース」の支給対象となった場合に20万円が支給される制度です。
<活用例>
採用時点では契約社員やアルバイトとして雇用する。半年間育成に励みつつ、活躍が期待できると思った時点で正社員へ転換。
キャリアアップ助成金を申請して57万円、あわせて正規雇用転換安定化支援助成金を申請すれば20万円が受給できる。
人材育成のために教育訓練を行うとき
人材育成にはさまざまなコストがかかります。次の助成金を活用すれば、社員の専門的知識や技術の修得、働く意欲の向上を図りつつ、教育コストを削減することができます。
- 人材開発支援助成金 (一般訓練コース)
正社員に教育訓練を実施した事業主に対し、研修に必要な費用や研修中の給与が補助される制度です。賃金には1時間あたり380円、経費には最大7~20万円が助成されます。
<活用例>
新卒社員を採用後、年度の初めに「訓練実施計画書」を提出。計画に沿って教育訓練を行い、すべて終了したら助成金を申請する。
このような形で毎年新卒社員の訓練を実施することで、能力を開発しつつ、賃金の一部と経費の一部を受給できる。
職場環境(健康診断、人事評価制度等)の整備を行うとき
魅力ある職場づくりのために、職場環境の整備は欠かせません。新規制度を導入する際は、以下の助成金の活用も視野に入れて行うと効果的です。
- 人材確保等支援助成金 (雇用管理制度助成コース)
※追記:このコースは令和4年3月をもって受付が休止されています。
会社の労働環境の向上を図るため、研修制度や健康づくり制度などを導入し、離職率の低下を実現した場合に助成される制度です。57万円が支給されます。
- 人材確保等支援助成金 (人事評価改善等助成コース)
※追記:このコースも令和4年3月をもって受付が休止されています。
人事評価制度を導入し、従業員の生産性向上や2%以上の賃金アップ、離職率の低下を実現した場合に助成される制度です。80万円が支給されます。
<活用事例>
従業員の定着率が悪く、新規採用にも影響が出て困っていたA社。そこで一人一人のレベルに応じた階層別の教育・研修制度の導入を行った。
従業員の会社への帰属意識が高まった結果、離職率の低下に繋がった。人材確保等支援助成金を申請し、57万円を受給できた。
法改正に合わせた動きをするとき
法規制が変更されると、新たに対処すべき問題が発生します。以下のような助成金を活用し、法に合わせた魅力的な環境づくりを行っていきましょう。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
【2021年10月14日追記】2021年度の当コースの交付申請受付は、10月15日で終了することが決まりました。
重要なお知らせ|厚生労働省
2020年4月1日から中小企業に課された時間外労働の上限規制に対し、労働時間の削減や有給休暇の取得促進に向けて取り組んだ場合に助成される制度です。成果目標の達成状況に応じて、25万~100万円が支給されます。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
「障害者雇用促進法」により、すべての事業主に一定人数の障害者雇用が義務付けられました。
そこで活用したいのが、ハローワークから紹介された障害者等の就職困難者を継続雇用した場合に助成される制度です。労働時間と障害の程度により、80万~240万円が支給されます。
<活用事例>
これまで月80時間を超える時間外労働が発生しており、従業員の生産性低下が問題になっていたB社。
時間外労働の上限規制に合わせて、「時間外労働時間を月60時間以下におさえる」ことを目標として設定。事業実施期間中に目標を達成した結果、100万円を受給できた。
創業、起業するとき
多くの起業家にとって、資金調達は難しいものです。新規事業を行うにしても、設備投資などの初期費用や人件費などが新たに発生します。
次のような助成金の活用で負担が減れば、成長のチャンスも生まれます。
中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)
※追記:このコースは令和4年3月をもって廃止されました
40歳以上の中高年齢者が起業し、事業運営のために従業員の募集や採用、教育訓練を行った際にかかる費用の一部が支給される制度です。
起業者が40~59歳の場合、最大150万円が助成されます。
- 創業助成金
東京都で創業予定または創業後5年未満の中小企業のうち、要件を満たした場合に、賃借料・広告費・人件費などが支給される制度です。最大300万円が助成されます。
<活用事例>
会社の一員として働いていたが、新しいサービスを思いつき起業を決意したCさん。創業から1年後に収支がプラスになったが、資金不足で従業員を増やせない事態に陥った。
創業助成金を申請したところ支給され、求人広告費や新規採用の人件費に充てることができた。
中小企業が活用できるおすすめの助成金【2021年版】
次に挙げる5種類の助成金は、特に多くの中小企業で申請されているものです。受給要件や受給金額について、詳しく解説します。
1、キャリアアップ助成金
非正規雇用の労働者(契約社員、派遣社員、アルバイト、パートなど)が企業内でキャリアアップできるような取り組みを行った企業に対し支給される助成金です。
「賃金規定等改定コース」や「諸手当制度共通化コース」など、7種類のコースに分けられます。従業員の働きやすさの改善や、キャリアアップを目指したモチベーション向上を目的としています。
ここでは、正規雇用労働者への転換を助成する「正社員化コース」の要件を見ていきましょう。
受給要件(正社員化コース)
正社員や無期契約労働者へ転換した際に、転換前の6カ月と転換後の6カ月の賃金(賞与は含めない)を比較して、3%以上増額していること。
従来は賞与も含めて5%以上の増額でしたが、令和3年4月1日以降は変更となりました。
受給金額(正社員化コース)
労働者の転換種別によって、受給額は次のように異なります。
転換の種別 | 受給額 |
有期契約労働者から正社員 | 57万円 |
有期契約労働者から無期契約労働者 | 28万5000円 |
無期契約労働者から正社員 | 28万5000円 |
ただし支給申請ができる上限人数が決まっています。1年度1事業所あたり20人が申請の上限です。
2、特定求職者雇用開発助成金
既卒者や中退者、65歳以上の高年齢者、障害者など、厚生労働省が掲げる条件に合った人材を、ハローワーク等の紹介を通じて雇う場合に支給される助成金です。「生涯現役コース」「障害者初回雇用コース」など7種類のコースがあり、それぞれ対象とする人材の条件が異なります。
ここでは、高年齢者や障害者などの就職困難者を対象とした「特定就職困難者コース」の要件を見ていきましょう。
受給要件(特定就職困難者コース)
このコースの助成を受けるには、次の2つに当てはまる必要があります。
- 対象となる労働者を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者の紹介により雇い入れること
- 雇用保険一般被保険者として雇い入れ、対象労働者が65歳以上に達するまで、2年以上継続して雇用することが確実と認められること
受給金額(特定就職困難者コース)
受給額は、労働時間や対象となる労働者の区分により異なります。
- 労働時間が週30時間以上の場合
対象者 | 支給額 |
高年齢者・母子家庭の母等 | 60万円(1年間) |
身体・知的障害者 | 120万円(2年間) |
重度障害者 | 240万円(3年間) |
表のカッコ内は、助成対象期間です。
- 労働時間が週20時間以上30時間未満の場合
対象者 | 支給額 |
高年齢者・母子家庭の母等 | 40万円(1年間) |
身体・知的障害者(重度障害者を含む) | 80万円(2年間) |
3、トライアル雇用助成金
社会経験が乏しく、技術や知識が不足している人材を、ハローワークなどを通して試験的に雇用した場合に支給される助成金です。就職が困難な求職者を試行雇用することで、適性や能力を見極め、常用雇用への移行のきっかけとすることを目的としています。
「障害者トライアルコース」など、5種類のコースがあります。
受給要件(一般トライアルコース)
受給には、次の1~5の条件を満たす必要があります。
- 1)対象労働者が学校や企業に属していない/自営業ではない
- 2)対象労働者が次の項目のいずれかに該当する
・紹介日の2年以内に、2回以上離職・転職を繰り返している
・紹介日前に離職期間が1年を超えている
・妊娠/出産/育児を理由に離職し、紹介日前に離職期間が1年を超えている
・ニートやフリーターで55歳未満である
・特別の配慮が必要である(生活保護受給者、母子家庭の母、父子家庭の父、日雇労働者等)
- 3)ハローワーク等の求人で、紹介により雇い入れること
- 4)原則3カ月のトライアル雇用をすること
- 5)1週間の所定労働時間が、通常の労働者と同程度であること
ここでいう「紹介日」とは、ハローワークまたは職業紹介事業者で職業紹介を行った日を指します。
受給金額(一般トライアルコース)
一般トライアルコースでは、対象労働者1人あたり4万円が最長3カ月間助成されます。
ただし対象者が母子家庭の母親、もしくは父子家庭の父親の場合は、1人につき5万円です。
4、人材確保等支援助成金
雇用環境を整備し、従業員の離職率低下を防ぐための取り組みを行った際に支給される助成金です。「介護福祉機器助成コース」やなどのコースがあります。
ここでは、評価・処遇制度、研修制度、メンター制度などを導入して雇用環境の改善を行った際に助成される「雇用管理制度助成コース」の要件を見ていきましょう。
※追記:このコースは令和4年3月をもって受付休止となっています。
受給要件(雇用管理制度助成コース)
人材確保等支援助成金の受給には、次の3点を満たす必要があります。
- 1)雇用管理制度を整備する計画を作成し、カ勝野労働省の認定を受ける
- 2)計画にもとづき、期間内に制度を導入・実施する
- 3)計画終了から1年経過するまでに、離職率を目標値まで低下させる
「雇用管理制度」には、評価・処遇制度や研修制度、健康づくり制度、メンター制度などが該当します。
受給金額(雇用管理制度助成コース)
雇用管理制度助成コースの支給額は57万円です。生産性要件を満たせば、受給額は72万円に増額されます。
5、人材開発支援助成金
労働者が職務に関連した専門的な知識や技術を修得できるように、職業訓練を実施した事業主に支給される助成金です。
訓練にかかった経費や、期間中に支払った賃金の一部が助成されます。
労働者が効率的にキャリアを形成することで、企業の生産性向上へ繋げるのが目的です。「一般訓練コース」や「特別育成訓練コース」など、7種類のコースがあります。
ここでは、職業能力開発促進センターなどが定める特定の訓練を受けた場合に支給される「特定訓練コース」の要件を見ていきましょう。
受給要件(特定訓練コース)
特定訓練コースには訓練の種別によって詳細な受給要件は異なります。
たとえば労働生産性向上訓練を行う場合には、次の3つに該当する必要があります。
- Off-JTの訓練であること
- 実訓練時間が10時間以上であること
- 労働者が、職業能力開発促進センターで実施する訓練や、厚生労働大臣が指定した専門実践教育訓練などを受けていること
受給金額(特定訓練コース)
賃金助成 | 経費助成 | OJT実施助成 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
通常 | 生産性要件を満たす場合 | 通常 | 生産性要件を満たす場合 | 通常 | 生産性要件を満たす場合 | |
Off-JT | 760円 | 960円 | 45% | 60% | – | – |
OJT | – | – | – | – | 665円 | 840円 |
上表の賃金助成とOJT実施助成は、1人1時間当たりの支給額を表示しています。
「生産性要件を満たす場合」とは、訓練開始日が属する会計年度の前年度の生産性と、その3年後の会計年度の生産性を比べて6%以上伸びていることです。その場合、支給額が増えますが、その分の支給申請を追加で行う必要があります。
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監修者からのコメント 多くの企業で活用が進んでいる「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」の賃金アップ要件が令和3年4月から変更になりました。 賃金アップ要件が5%から3%になります。ただし賞与は含めないこととなりましたので、注意が必要です。