労働者が離職するとき、その事由は大きく「自己都合」と「会社都合」とに分けられます。雇用関連の助成金などを申請しようとする場合、意思に反して離職を余儀なくされた「会社都合退職」の労働者が数年以内にいると、受給ができない恐れがあります。
この記事では、雇用関連の助成金と会社都合退職の関係、助成金活用のポイント、不正受給への注意などを解説します。
目次
会社都合退職があると助成金がもらえない
雇用関連の各種助成金には、それぞれ受給要件が設けられています。中でも特に注意しておきたいのは、会社都合の退職者を出すと助成金がもらえない制度が多いことです。
雇用関連助成金は、雇用の安定や労働者の処遇改善を促すために設けられた制度です。会社都合で辞める人を出すことはその趣旨に反するため、支給対象外となるのです。
たとえば、雇用関連助成金の1つ「キャリアアップ助成金(正社員コース)」では、次のように定められています。
転換日の前日から起算して、6カ月前の日から1年を経過するまでの間に、(転換を実施した事業所で)雇用保険被保険者を会社都合退職させた事業主には支給しない。
ほとんどの雇用関連助成金で同様の要件を設けているため、会社都合退職には注意しておくべきです。
ただし、例外的に会社都合退職があっても受給できる助成金があります。たとえば雇用調整助成金です。
雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業の縮小を余儀なくされた会社を支援する制度です。事業縮小にはいわゆるリストラを伴うことも多く、厳しく制限すると制度自体が成り立たなくなってしまいます。
そのため雇用調整助成金は、会社都合での退職者を出していたとしても支給申請が可能です。ただし助成率は下がります。
会社都合退職とは
退職には会社都合退職と自己都合退職があることはよく知られていますが、ここで改めて違いを確認しておきましょう。
自己都合退職との違い
労働者の意思で退職する場合は「自己都合退職」です。一般的な退職の多くは自己都合退職に該当します。結婚や出産のため、親の介護のため、より良い待遇を求めて転職するためなどの理由で離職するのは、すべて自己都合退職にあたります。
従業員の自己都合による退職は、助成金の申請に何ら影響はありません。気を付けるべきは会社都合退職です。
会社都合退職に該当するもの
会社都合退職とは、労働者が意思に反して退職を余儀なくされることです。主に倒産やリストラ、退職勧奨による退職が当てはまります。
そういった会社都合での離職は、多くの助成金で不支給要件となっている「解雇等」に該当します。雇用関連の助成金では、会社都合退職を1人でも出せば受給できなくなるケースがほとんどです。
「特定受給資格者」にも注意
会社都合退職を考えるにあたっては、「特定受給資格」についても知っておくべきです。
特定受給資格とは、再就職先を見つける準備が不十分な状態で離職した人に対して、通常よりも手厚い失業保険を給付するものです。倒産・リストラ・退職勧奨による解雇は、労働者が再就職先を見つけているかどうかに関係なく離職となるため、特定受給資格者とみなされます。
また、自己都合退職に思える場合でも、特定受給資格者に該当するケースが多いので注意が必要です。たとえば次のような場合です。
- セクハラやパワハラなどの嫌がらせ行為があった
- 事業所の移転によって通勤不可能になった
- 雇用時の契約と大きく異なる労働条件だった
- 従業員が長時間の残業を強いられる環境だった
これらの場合、形としては労働者の申し出によって離職しているため自己都合退職にも思えます。しかし、離職に至った原因が会社側にあると見なされれば、特定受給資格者に該当するのです。
社内では「自己都合退職」として処理していても、退職した当人がハローワークなどで「実は辞めさせられたに近い状況だった」などと訴えることもあります。
特定受給資格者を出した会社も、雇用関連助成金の受給に支障をきたす恐れがあります。たとえばキャリアアップ助成金(正社員コース)では、次のように規定されています。
転換日の前日から起算して、6カ月前の日から1年を経過するまでの間に、転換を実施した事業所で6%超の特定受給資格者を出した事業主には支給しない
「6%超」かどうかは、離職後に特定受給資格が決定した離職者の人数を、転換日の被保険者数で割って計算します。
会社都合退職があっても助成金を受給するには
会社都合退職者を出したために助成金が受給できない場合は、次の方法で受給できる状況づくりをしていく必要があります。
支給申請のタイミングをずらす
「会社都合退職者を出すと助成金が受給できない」といっても、対象者を1回出すとこの先ずっとできない、というわけではありません。取り組みや支給申請のタイミングをずらして一定の時期を過ぎれば、申請できるようになります。
雇用関連の助成金の多くは、計画の提出日や措置の実施日を基準として、6カ月前~支給申請日に会社都合での退職者を出した場合には受給できません。
会社都合退職者を出している会社は、助成金の活用を一時的に見合わせて、不支給要件に該当する期間が過ぎた後に取り組むとよいでしょう。
労働環境を整備する
労働環境に問題があると、退職に至った経緯に関係なく会社都合退職の扱いになります。特に気をつけたいのは時間外労働のです。
離職前の6カ月間における時間外労働時間が次のいずれかに当てはまる場合には、離職は会社都合であると見なされます。
- 3カ月連続して45時間超
- 1カ月間で100時間超
- 2~6カ月平均で月80時間超
このような会社では、時間外労働を削減しなければ雇用関連の助成金の利用は不可能です。普段から労働環境の整備・改善は欠かません。
不正受給は絶対にダメ!
会社都合での退職者を出したにもかかわらず、助成金を受給するために退職理由を当人の自己都合に変更することは絶対に避けてください。そのような行為は不正受給に該当し、厳しいペナルティが科せられます。
会社都合退職を自己都合退職として処理することは、退職理由の改ざんにほかなりません。当該の従業員に対し、自己都合退職として処理することを伝えるかどうかは問題ではありません。
退職理由が会社都合かどうかは、失業手当の受給にかかわってきます。そのため、前述のように離職者が退職後にハローワークに退職理由について異議を申し立てることも考えられます。
双方の言い分を聞くなどした結果、会社都合であると見なされれば、解雇等を不支給要件とする助成金を受けることはできません。
不正受給が発覚すると、次のようなペナルティが科せられます。
- 受給額以上の金額の返還
- 事業所名・事業主名などの公表
- 以後5年間にわたる助成金の不支給
金銭的デメリットだけでなく、ブランディングや信頼性の面でも大きなダメージとなり、今後しばらくの資金繰りにも助成金を当てにすることはできなくなります。不正受給は絶対にやめましょう。
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雇用関連助成金を受給するには、会社都合退職を避けることが大切です。一部の例外を除き、会社都合退職を出せば助成金を受給できなくなります。なるべく退職者を出さずに済む方法を模索してみましょう。あわせて、不正受給にも気をつけたいものです。
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監修者からのコメント 景気の悪化などやむを得ない事情により解雇するケースもあるかと思います。 しかしながら、退職する社員から、失業給付を有利に受給するために会社都合にして欲しいと依頼を受けて、会社都合にすることは不正受給に当たりますので、そのような依頼には応じないでください。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。