建設業では、若手人材の確保や育成が大きな課題となっています。
国交省によれば、平成29年の時点で建設技能者の約4分の1が60歳以上であり、29歳以下は全体の約10%にとどまっている状況。早く手を打たなければ建設現場に大きな支障が出ることも避けられないでしょう。
とはいえ、若手人材を確保するのも育てるのも簡単ではなく、費用も捻出しなくてはなりません。そんな時に利用したいのが、厚生労働省による各種の助成金です。
この記事では、数ある助成金のうち建設業におすすめの助成金をピックアップして解説します。ぜひ活用の参考にしてください。
目次
建設業に助成金をおすすめする理由
厚生労働省は、雇用に関する課題解決に取り組む事業主に対し、さまざまな助成金制度を設けています。中でも建設業の人材不足は国としても大きな課題の1つ。活用できる助成金がいくつも用意されています。
建設業こそ助成金を活用するべき3つの理由を説明します。
建設業の雇用状況が深刻
冒頭でも触れましたが、建設業では人材不足が深刻化しています。特に高齢化と若手人材の不足がすぐにでも解決したい大きな課題であることは言うまでもないでしょう。
建設業に携わる人の数自体も、平成9年をピークに減少し続けています。平成9年には685万人だったのが、令和2年には492万人と、約7割まで減っているのです(国土交通省「最近の建設業を巡る状況について(報告)/令和3年」)。
中でも、現場作業を行う建設技能者の数が平成9年の455万人から令和2年には318万人と、大きく減っています。約3割が55歳以上と高齢化も進み、技術の継承も危ぶまれています。
建設キャリアアップシステムの活用
建設業の若手人材不足の一因と考えられているのが、建設業界に対する世間のマイナスイメージ。古い慣習が根付いている、労働条件が悪い、働きに見合った給料がもらえない、といった不満から辞めていく若者も多く、新たに建設業への就職を考えるには難しい状況となっています。
それを解消すべく作られたのが、建設キャリアアップシステム(CCUS)です。技能者一人ひとりの能力やキャリアパスをデータとして蓄積し、適切な評価や処遇が得られるようにすることを目的としています。
事業主にとっても、システムの導入により技能者の就業状況や入職希望者の経歴などを確認できる、現場の入退場管理が簡単になるなどのメリットがあります。
助成金の活用メリットは大きい
人材を確保するには、若者が求人に応募したくなる職場環境や処遇を用意する必要があります。それには当然、賃金アップ等による支出の増加もあるでしょう。前述の建設キャリアアップシステムを利用するにも、登録料などの利用料金がかかります。
厚労省が設ける助成金制度は、従業員の処遇改善や能力開発などを行った事業主に、要した費用の一部あるいは全額を助成するものです。
処遇改善をすれば、従業員の会社への満足度が高まり、仕事へのモチベーションアップも期待できます。他社より条件が良ければ、求人への応募者の増加も期待できます。それに要した出費が助成金で一部でも戻ってくるとなれば、使わない手はありません。
建設業で活用できる主な助成金一覧
建設業で実際に利用できる助成金にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。
助成金制度名 | 助成の対象 |
---|---|
人材確保等支援助成金 | ・労働環境の向上を図った事業主や事業主団体 |
人材開発支援助成金 | ・従業員に対し、職業訓練などを実施した事業主 |
トライアル雇用助成金 (一般トライアルコース) |
・就職困難な求職者に対し、トライアル雇用を実施した事業主 |
職場環境改善計画助成金 (建築現場コース) |
・ストレスチェックの集団分析結果を踏まえ、専門家の指導を受けて職場環境改善計画を作成・実施した元方事業者 |
それぞれ具体的に紹介していきます。
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金は、従業員にとって魅力のある職場環境をつくるため、労働条件の改善などを行った事業主や事業協同組合を助成の対象としています。
人材確保等支援助成金には複数のコースがありますが、そのうち次の3コースは建設業に対象を絞っています。
- 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
- 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
- 建設キャリアアップシステム等普及促進コース(新設)
それぞれのコースについて見ていきましょう。
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
このコースは、建設分野において魅力ある職場づくりの取り組みを行い、若年齢者や女性の労働者の確保・定着を図った建設事業主あるいは建設事業主団体が対象です。
魅力ある職場づくりの取り組みには、現場の見学会やインターンシップ、教育訓練や研修、表彰の制度を取り入れることなどが挙げられます。
助成額は、取り組みにかかった費用に対し、中小建設事業主には支給対象経費の5分の3、大企業には20分の9の金額です。生産性要件を満たした場合には割り増しがあります。上限は200万円です。
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)では、2種類の助成を行っています。1つは、東日本大震災の被災三県(岩手・宮城・福島)で工事現場に作業員宿舎などの施設を借りた場合の助成です。
もう1つは、建設工事現場に女性専用の更衣室やトイレ、シャワー室といった施設を整備した場合の助成です。
被災三県での作業員施設の整備には支給対象経費の3分の2の額を支給、女性作業員専用の施設の整備には対象経費の5分の3の額が支給されます。女性専用の施設の場合、生産性向上の要件を満たせば割増も受けられます。
建設キャリアアップシステム等普及促進コース(新設)
建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、建設労働者の入職状況やキャリアなどをデータ化するものです。適正な能力評価などにより、処遇の改善や業界の魅力の向上、業者の施工能力の見える化を図るために作られました。
建設事業主団体が、その構成企業に対して次のような取り組みを行った場合に助成を受けられるもので、令和4年に新設されています。
助成対象事業 | 具体的な取り組み内容 |
---|---|
CCUS等登録促進事業 | ・構成員の事業者登録料、技能者登録料、レベル判定手数料、見える化評価手数料の全部または一部を補助 |
CCUS等登録手続支援事業 | ・事業者登録や技能者登録などの申請手続きを支援 |
就業履歴蓄積促進事業 | ・カードリーダーなどの各種機器やアプリなどソフトウェアの導入を促進 |
助成を受けられるのは、建設事業主団体が実際に負担した対象経費の一部です。中小建設事業主団体には支給対象経費の3分の2、それ以外の団体には2分の1が助成金として支給されます。1事業年度につき、団体の規模によって1000万円~3000万円という上限もあります。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員に対し職業能力開発のために計画的な職業訓練を行う事業主や事業主団体を対象とする制度です。教育訓練の実施にかかる経費の助成(経費助成)と訓練期間中の賃金の一部の助成(賃金助成)が受けられます。
建設業に特化した2コース
人材開発支援助成金は、訓練内容などに応じて8つのコースが設けられています。
中でも「建設労働者認定訓練コース」と「建設労働者技能実習コース」の2つのコースは、建設労働者に特化したものです。コースによって助成の対象は次のように異なります。
コース名(助成の区分) | 対象となる取り組み・主な要件 |
---|---|
建設労働者認定訓練コース (経費助成) |
・建設関連の認定職業訓練または指導員訓練を実施すること ・広域団体認定訓練助成金または認定訓練助成事業費補助金の交付を受けること |
建設労働者認定訓練コース (賃金助成) |
・建設労働者に認定訓練を受講させ、期間中も有給(通常の賃金以上の額)とすること ・人材開発支援助成金の特定コース・一般コース・特別育成訓練コースのいずれかの支給が決定していること |
建設労働者技能実習コース (経費助成/賃金助成) |
・建設労働者に所定労働時間内に技能実習を受講させ、期間中も有給(通常の賃金以上の額)とすること |
助成の内容
助成される額は、雇用保険の被保険者数が20人以下かどうかで異なります。被保険者数が会社全体で20人以下の場合、経費助成として支給対象費用の4分の3の額を支給。対象者が女性の場合は、5分の3が支給されます。
賃金助成の額は、1日あたり8,550円(建設キャリアアップシステム技能者情報登録者の場合は9,405円)です。
21人以上の場合はさらに、対象者の年齢によって助成の割合が異なります。経費助成では、35歳未満の従業員については支給対象費用の10分の7、35歳以上については20分の9の額が支給されます。賃金助成は、1日あたり7,600円(建設キャリアアップシステム技能者情報登録者の場合は8,360円)です。
建設キャリアアップシステム技能者情報登録者の場合と、生産性要件を満たした場合には助成の割増が受けられます。
また、中小建設事業主以外の建設事業主が女性を対象に技能実習を行った場合には、経費助成として支給対象費用の5分の3が支給されます。
いずれも、1つの技能実習につき1人あたり10万円が上限です。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金は、一般的に就職が困難な労働者を試験的に雇い入れた場合に受給できる助成金です。対象者によって異なる複数のコースがありますが、ここでは建設業に特化した「若年・女性労働者トライアルコース」を紹介します。
若年・女性労働者トライアルコースは、現場作業に従事する35歳未満の人や女性のトライアル雇用を実施した場合に対象となります。ただし、次のいずれかのコースの支給決定を受けることが条件です。
- 一般トライアルコース
- 障害者トライアルコース
- 新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース
- 新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
助成の限度額は、若者あるいは女性の建設労働者1人につき1カ月あたり最大4万円。金額は就労日数とコース内容により異なります。支給期間は最長3カ月です。
職場環境改善計画助成金(建設現場コース)
職場環境改善計画助成金の建設現場コースでは、建設業の元方事業者(1つの現場の仕事の一部を請負人に委託している業者)を対象としています。また、常時50人以上が働く建設現場であることも要件の1つとなっています。
従業員のストレスチェックの集団分析後に専門家の指導を受けて職場環境改善計画を作成・実施した場合に、専門家に支払った指導料の助成が受けられます。
助成額は実際に負担した指導費用の額ですが、1つの建設現場につき10万円という上限があります。
複数の建設現場の責任者であっても、申請できるのは年に1現場のみとなります。1度申請した現場では、再度の申請はできません。
建設業の助成金が活用できるケースとは
建設業で利用できる助成金はいくつもあります。とはいえ、自社にどの助成金が使えるのかがわからない、という声も多く聞かれます。ここでは、人材開発支援助成金の建設労働者技能実習コースの受給事例を見てみましょう。
想定ケース
人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)は、建設作業に携わる従業員に対し、各個人のキャリアに応じた技能実習を実施することで助成金が受けられます。
申請事業者 | 従業員数20名の中小建設事業主 |
受講対象者 | 自社で雇用している建設技能者 (雇用保険被保険者) |
受講対象人数 | 3人 |
受講内容 | 内容:床上操作式クレーン運転技能講習 (労働安全衛生法に基づく技能講習) 講習実施者:雇用保険法に定める指定教育訓練実施者 |
受講期間 | 3日間 |
受講費用 | 1人31,000円×3人分 =93,000円 ※会社が全額を負担 |
受講期間中の賃金支払 | あり (通常どおり勤務したものとして支給) |
建設キャリアアップシステム技能者情報登録の有無 | 3人とも登録済み |
費用の全額を会社が負担し、賃金も通常以上の額を支払うことがこの助成金の要件です。一部でも従業員本人から徴収した場合には対象とならないので注意してください。
上記ケースの受給額
上記の事例で受けられる助成金は次のとおりです。
合計受給額 | 154,395円 |
助成区分 | 計算方法・金額 |
経費助成 | 93,000円 × 3/4 =69,750円 |
賃金助成 | 9,405円×3日間 × 3人 =84,645円 |
雇用保険被保険者となっている従業員の数が20人以下のため、受講費用の4分の3の額が経費助成として受けられます。また、建設キャリアアップシステム技能者情報登録が済んでいることで、賃金助成が割増となっています。
この例では外部の訓練機関が実施する講習を受けていますが、指導員を呼ぶなどして自社で実習を実施する場合(業務とは別で行うものに限る)にも、同様の助成が受けられます。
助成金の申請方法
人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)の申請は、次のような順に行います。
- 1)計画届の提出
- 2)実習の実施
- 3)支給申請書の提出
計画届を提出後、実習日や内容、実習を行う機関や場所を変更する場合には、事前に計画の変更届を提出しなくてはなりません。
生産性要件を満たし、割増額を受給するには、訓練開始から3年後の会計年度末日から5カ月以内に改めて支給申請書と所定の添付書類を提出する必要があります。
支給申請の必要書類
計画を届け出る際には、次のような書類が必要です。
・人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース経費助成・賃金助成)支給申請書(建技様式第3号)
・受講者名および人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース経費助成・賃金助成)の助成金支給申請内訳書(建技様式第3号別紙1)
・労働保険料概算・増加概算・確定保険料申告書または労働保険料等納入通知書
・所要費用の領収書
・賃金台帳
・就業規則、雇用契約書、休日カレンダーなど(受講者の所定労働日や時間がわかる書類)
・出勤簿、「時間外手当、割増賃金等支払い証明書(建技様式第3号別紙4)など実習期間中の出席状況がわかる書類)
・実施日ごとの科目時間数がわかるカリキュラム
・中小建設事業主または建設事業主であることが確認できる書類
その他、訓練実施機関や訓練内容によって異なる必要書類もあります。
建設業関連の助成金申請のポイント
建設業の事業主や団体を支援すべく用意されている助成金ですが、細かい要件があり、必要書類も多種にわたって複雑なことから、申請には手続きは簡単ではありません。また、さまざまな条件によって支給額が異なるケースがあることにも注意が必要です。
最後に主なポイントを押さえておきましょう。
助成対象者をしっかりと確認
助成の対象者は、助成金の種類やコースによって異なります。一口に「建設事業主」と言っても、従業員のいないいわゆる「1人親方」や、同居の親族のみを使用して建設事業を行う場合には対象外です。
また、人材確保等支援助成金の建設キャリアアップシステム等普及促進コースは、「建設事業主団体」のみが申請可能です。
さらに、助成金によっては「建設事業の雇用保険料率が適用される建設事業主」と「一般の事業や農林水産業などの雇用保険料率を適用する建設事業主」が区別されており、対象となる労働者の人数などに制限があるケースもあります。
労働者に関しても、コースによって細かな要件があり、年齢や雇入れ期間に制限がある場合も。どのコースが誰を助成の対象としているのか、しっかりと確認してください。
建設キャリアアップシステムに登録を
国は、建設業のイメージアップによる人材不足の解消や正当な評価制度による離職の抑制を図るため、建設キャリアアップシステム(CCCS)の登録を推進しています。
そのため、たとえば上の章で紹介した人材開発支援助成金では、建設キャリアアップシステムへの登録によって通常より多くの助成金が受け取れるようになっています。
自社の施工能力を見える化し、売上アップを図るためにも、ぜひこの機会に建設キャリアアップシステムの導入を考えてみてください。
申請書の提出期限は厳守する
助成金の申請には期限があり、1日でも遅れると受付してもらえません。
そのため、計画届の提出が必要な助成金は計画の段階から、各段階での申請締め切りのスケジュールを事前に確認し、計画的に進めていきましょう。
提出期限ギリギリに申請し、書類に不備があった場合には間に合わなくなってしまうことも。必要書類の把握も簡単ではないので、余裕を持って準備をしてください。
書類の保管期限にも気を付ける
助成金の申請は、書類を提出し、助成金が支給されれば終わり、ではありません。提出した書類は、支給決定から5年間の保存義務があります。
支給後にも調査が入ることがあり、その場合には調査に協力することも助成金支給の要件の1つとなっているのです。
助成金を不正受給するケースが多く見つかっていることから、審査も厳しくなっています。書類の破棄などで必要な確認が取れない場合など、意図しなくても不正受給と見なされるおそれもあるので注意が必要です。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
人材確保と育成が課題となっている建設業界では、特に若者や女性の入職者の増加や職場定着率の向上などが大きな課題です。
それには処遇や職場環境の整備・改善が必須です。費用がかかるから無理だと諦めている事業主の方も多いかもしれませんが、そんなときにはぜひ助成金の活用を検討してみてください。
助成金を活用すれば、職場環境を整えて求職者の関心や従業員の満足度を高められる可能性があります。要した費用も、一部でも助成されれば助かるものです。
とはいえ助成金の申請には、数多くの複雑な要件や多様な必要書類といったハードルもあります。計画的に進める必要もあるので、自社ですべて行おうとせず、専門家の手を借りることをおすすめします。
当サイトを運営する社会保険労務士法人Bricks&UKでは、これまでも数多くの助成金申請をお手伝いしてきました。助成金申請の要件にもなっている就業規則の整備や労務管理についても豊富な実績を誇ります。お気軽にご相談ください。
就業規則を無料で診断します
労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント キャリアアップシステムを導入する事業所も増えてきているなど 建設業界全体で雇用環境改善により労働者不足を解消しようとする動きがみられます。 設備投資や技能実習受講など取り組みにかかる費用に対して助成金を使用できますので、ぜひご活用ください。 助成金申請には、法律で定められた労働者名簿や就業規則といった書類の提出が必要となる場合がございます。 書類作成や申請サポートについてもご相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。