雇用調整助成金は、景気の悪化など経済的な事情により事業を縮小せざるを得なくなった場合、従業員を解雇せず休業などで乗り切ろうとする事業主を支援する制度です。
新型コロナウイルスの蔓延により特例措置が設けられ、助成内容を随時変えて実施されてきたこの制度は、令和4年12月を持って通常の制度に戻り、経過措置も令和5年3月31日をもって終了となりました。パートやアルバイトなどを対象とする緊急雇用安定助成金も、令和5年3月31日をもって終了となっています。
この記事では、雇用調整助成金の主な支給要件や緊急雇用安定助成金の申請期限などについて、令和5年4月現在の最新情報をお伝えします。
目次
令和5年4月1日以降の休業等に関する支給要件
判定基礎期間の初日が令和5年4月1日以降となる場合、雇用調整助成金については以下のように変更となりました。
ちなみに「判定基礎期間」は、いわゆる「賃金締切期間」と同じです。休業等の事実内容を確認し、支給可否を判定するために区切る1カ月単位の期間をいいます。
生産性の指標は直近3カ月と前年同期での比較のみ
雇用調整助成金の要件の1つは、事業活動が縮小されたことです。縮小されたことを確認する基準となるのが、売上高など生産指標の比較です。
この生産性指標の確認・比較対象となるのが、「直近3カ月」と「前年同期」の比較のみとなっています。
創業して間もないなど、前年同期の生産性指標となるものがなければ、この助成金の対象とはなりません。
事業縮小の確認に雇用量に関する要件が追加
事業が縮小したことを確認するため、生産性の指標とは別に、雇用量に関する要件も満たす必要があります。
具体的には、休業等を実施した事業所に所属する雇用保険被保険者や勤務する派遣労働者数を、直近3カ月と前年同期で比較します。
前年同期より5%超かつ6名以上(中小企業の場合、10%超かつ4名以上)増加している場合は対象外となります。
令和5年6月30日まで計画届の提出は不要
コロナ前に実施されていたもともとの制度では、休業等の実施前に計画届と関連の添付書類を提出することが必要となっています。しかしコロナ特例で、計画届の提出が不要、という要件緩和がなされていました。
令和5年4月1日以降の休業等については、令和5年6月30日までの間の計画届の提出は不要となっています。
令和5年6月30日まで残業相殺はなし
コロナ前に実施されていたもともとの制度では、判定基礎期間中に残業があった場合、休業等の延べ日数から所定時間外労働日数を差し引きされることとなっています。
コロナ特例では、こちらも要件緩和で残業相殺は行われませんでした。
令和5年4月1日以降の休業等については、令和5年6月30日までの間、残業相殺は行われません。
助成額の算定方法に実費方式が追加
雇用調整助成金の支給額は、平均賃金額をもとに計算することとなっています(平均賃金方式)。
コロナ禍では、算定方法が緩和され、従業員規模20人以下のいわゆる小規模事業主のみ、実際に支払った休業手当の額から算定できるものとされていました(実費方式)。
令和5年4月1日以降は、企業規模を問わず実費方式での算出が可能となりました。算定方式は、判定基礎期間ごとに変更することもできます。
実費方式の助成金算定方法とは
実費方式では、次の1あるいは2のうち、いずれか少ない方の金額が助成額となります。
- 実際に支払った休業手当等の総額 × 助成率
- 雇用保険の基本手当日額の上限額 × 休業等のべ日数
1の助成率は大企業が2分の1、中小企業が3分の2です。2の基本手当日額の上限額は、令和5年4月1日現在は8,355円です。
教育訓練中以外なら業務も可能
休業でなく教育訓練を行う場合、教育訓練の実施時間外に通常業務につくことは不可、というのがもともとのルールでした。それがコロナ禍の要件緩和で、半日訓練・半日就業というのも可能となっていました。
令和5年4月1日以降も、訓練実施時間以外に業務につくことは可能です。ただし訓練は3時間以上でなくてはならず、訓練中に業務に関する電話対応など訓練以外のことをさせることはできません。
コロナ特例を受けていた場合のクーリング制度について
令和5年3月31日時点で対象期間が1年に達している場合(最初の休業等が令和4年4月1日以前)、最後の休業等実施日(判定基礎期間の末日)から1年を経過しないと通常の雇用調整助成金の申請ができません。
令和5年3月31日時点でコロナ特例の支給対象期間が1年に達していない場合は、令和5年4月1日以降も対象期間が1年に達するまでの間、通常の制度が利用できます。
ただし、判定基礎期間の初日が令和5年4月1日以降の休業について、生産性要件や雇用量要件を満たす必要があります。
緊急雇用安定助成金も令和5年3月31日で終了
雇用保険の被保険者とならない従業員の休業等を対象とした緊急雇用安定助成金も、令和5年3月31日までの休業等までを対象として、受付が終了されました。
緊急雇用安定助成金の申請期限
本来、緊急雇用安定助成金の申請期限は支給対象期間(連続する3カ月までの判定基礎期間)の末日の翌日から2カ月以内となっています。
令和5年3月31日を含む判定基礎期間については、申請期限が令和5年5月31日必着となるので注意してください。
最後に申請する判定基礎期間について
令和5年3月31日を含む判定基礎期間分の申請は、判定基礎期間の末日が一律で令和5年3月31日までとされ、打ち切りとなります。
令和5年4月1日以降も休業したという事実があっても、3月31日までの休業しか助成の対象にはなりません。
令和5年4月以降に雇用調整助成金を申請する際の注意点
コロナ特例がなくなり、経過措置期間が終了しても、従前の制度とまったく同じに戻るわけではありません。何がどう変わったのかは、最新情報を確認しましょう。
申請には、特に次の点を注意してください。
計画届の作成が必要なのは変わらない
令和5年4月1日以降の休業等については、令和5年6月30日までの間も計画届の提出は不要とされています。
ただし、計画届の作成は変わらず必要です。また、計画届とともに本来提出すべきとされる書類は、支給申請時に提出するため、どちらにしても準備が必要です。
対象となるのは計画的な取り組みのみ
前述のとおり、休業等については一斉休業でなく一部を対象とした短時間休業も対象となります。とはいえ、対象者や時間を特定しておくなど、計画的に実施する休業等のみが対象です。
突発的な休業や、遅刻・早退の事実を変えて休業とするようなものは助成対象とはなりません。
Bricks&UKで最新情報による正しく効率よい申請を
多くの企業で活用された雇用調整助成金。コロナ特例が終了し、経過措置も終わりましたが、引き続き申請を考える事業主の方も多いことでしょう。
この記事では、最新の情報をもとに主な変更点をお伝えしましたが、他にも細かな変更点や状況などにより異なるケースがある可能性もあります。
そのため、雇用調整助成金の申請には、助成金申請の専門家である社会保険労務士に相談し、自社に適した書類を揃えるなどして対応しましょう。当サイトを運営するBricks&UKも助成金申請の実績が豊富な社会保険労務士事務所です。ぜひお気軽にご相談ください。
貴社で活用できる助成金をカンタン診断しませんか?
助成金をもらえる資格があるのに活用していないのはもったいない!
返済不要で、しかも使い道は自由!種類によっては数百万単位の助成金もあります。
ぜひ一度、どんな助成金がいくらくらい受給可能かどうか、診断してみませんか?
過去の申請実績も参考になさってください。
監修者からのコメント 令和5年3月末時点で雇用調整助成金を1年以上受給してきた会社は、今後1年間は雇用調整助成金の活用はできなくなります。 また、1年未満の会社は4月以降は要件が変わる部分がありますので、最新情報をしっかりチェックして申請しましょう。 特に長らく不要とされてきた「計画届」は今後注意が必要です。 令和5年7月以降は、休業開始前日までに「計画届」および添付書類を労働局(ハローワーク)に提出しなければ、支給申請ができなくなります。 Bricks&UKでは引き続き雇用調整助成金の相談を承っております。 お気軽にお問い合わせください。