地方自治体独自の「雇用調整助成金上乗せ給付」を活用しよう!

2021.11.05

2023.04.24

地方自治体の助成金上乗せ給付

新型コロナウイルス感染症で事業縮小などの影響を受け休業等を余儀なくされた場合、雇用調整助成金などの支援が受けられることは広く知られています。利用している事業主の方も多いことでしょう。

しかし、助成金は必ずしも費用の全額をまかなえるものではなく、企業負担が残る場合も。また申請にはさまざまな提出書類の準備が必要なため、助成を受けるために新たな出費が生じるといった事態になっています。

そのため、一部の地方自治体では雇用調整助成金の支給申請をした事業主に対し、助成金の上乗せ、あるいは申請補助金の給付を実施。

この記事では、そういった各自治体による雇用調整助成金関連の上乗せ給付制度について解説していきます。

自治体による雇用調整助成金の上乗せ給付例

自治体による雇用調整助成金(雇調金)の上乗せ給付は、それぞれが独自に行っています。
ここでは、主な3つのタイプの支援制度について見ていきましょう。

社会保険労務士への依頼費用の補助(苫小牧市、新潟市、 さいたま市、広島市ほか)

社会保険労務士との打ち合わせ

1つ目は、雇用調整助成金の申請の際に社会保険労務士などに支払った手数料を補助する形の上乗せ給付です。

この助成は苫小牧市や新潟市、さいたま市や広島市などで実施。ただし上限金額が次のように設定されています。

自治体 上限額(1事業所あたり)
苫小牧市 30万円
新潟市 10万円
さいたま市 5万円
広島市 10万円

苫小牧市や新潟市、さいたま市では、雇用調整助成金もしくは緊急雇用安定助成金の支給決定を受けた事業者が対象です。

一方、広島市では雇用調整助成金や緊急雇用安定助成金のほか、新型コロナ感染症による小学校休業等対応助成金・支援金も対象となります。

対象となる事業主には、苫小牧や新潟では「中小企業等の事業主」、さいたまでは「常時雇用する労働者の数が20人以下」など企業規模に関する要件があったり、広島では市税を滞納していない、といった条件があったりします。

国の雇用調整助成金への上乗せ支給(宮城県、山形県、香川県、沖縄県ほか)

雇調金への上乗せ給付

2つ目は、雇用調整助成金などの支給決定を受けたものの、助成率が10分の10未満であった中小企業等の事業主に対し給付金を上乗せ支給するという制度です。

このタイプの上乗せ給付は、宮城県や山形県、香川県や沖縄県など、 県単位の各自治体で行われています。名称や支援の詳細内容は各県で大きく異なります。

制度名 支給内容
宮城県雇用維持交付金 支払った休業手当等と支給された助成金との差額の2分の1の額を助成

上限:日額15,000円
山形県雇用調整助成金(県単上乗せ) 国からの助成率が10分の9または5分の4の場合、対象経費の20分の1を支給

上限:対象経費の額
香川県緊急雇用維持支援金 国からの助成金の18分の1の額

上限:1事業所あたり 100万円
沖縄県雇用継続助成金 対象経費の8分の1~15分の1
助成率は企業規模や休業時期、解雇等の有無などにより異なる

上限:1事業所あたり100万円

このように、助成率が異なるだけでなく、基準も「助成された額」の場合もあれば、もともとの「対象(となる休業等に要した」経費」の場合もあり、上限額も異なります。

また、上記の例でいえば、宮城県の上乗せ支給では教育訓練によるものも助成対象となりますが、山形県や香川県、沖縄県では教育訓練の加算額は対象経費に入りません。

このように各県で細かく要件が異なるので、申請の際は必ず該当の県や市の情報を確認してください。

東京都新型コロナウイルス感染症対策雇用環境整備促進奨励金

東京都の上乗せ給付

東京都でも、独自の上乗せ給付を行っています。他の道府県とは異なり、休業手当の規定の整備や、テレワーク、特別休暇制度の導入など、非常時における職場環境の整備への取り組みに対して奨励金が支給されます。

対象となるのは、次のいずれかの助成金の支給が決定していて、都内に雇用保険適用事業所のある中小企業事業主です。

  • 雇用調整助成金
  • 緊急雇用安定助成金
  • 産業雇用安定助成金
  • 両立支援等助成金
    (新型コロナウイルス感染症小学校休業等対応コース)
  • 両立支援等助成金
    (介護離職防止支援コース(新型コロナ感染症対応特例))
  • 両立支援等助成金
    (育児休業等支援コース(新型コロナ感染症対応特例))
  • 新型コロナ感染症による小学校休業等対応助成金

そのほか、前述のように非常時における雇用環境の整備について計画書を作成し、取り組むことも必要です。支給金額は1事業所につき10万円で、支給は1回限りです。

上乗せ支援の対象となる事業主の主な要件

助成金上乗せ支給の対象となるポイント

雇用調整助成金の上乗せ給付は、上記のように各地の自治体によって支援の内容は異なっています。ただ、大まかに言えば共通している点もあるので見ておきましょう。

  • 中小企業や小規模事業主が主な対象
  • 事業所の所在地が管轄地域内
  • 雇用調整助成金などの支給が決定済みである

それぞれ説明していきます。

中小企業や小規模企業が主な対象である

助成金上乗せ制度の対象となる小規模事業主

上乗せ給付の制度には、まず、中小企業や小規模企業の事業主を対象とする自治体が多いという特徴があります。

これはやはり、新型コロナウイルス感染症でより大きな影響を受けているのが企業体力の弱い中小企業や小規模企業であることが大きな理由といえるでしょう。

地域によっては「従業員が20人以下」など限定されていたり、大企業が対象に含まれていたりするケースもあります。

事業所の所在地が管轄の地域内である

助成金上乗せ制度の管轄地域

都道府県が独自で行う上乗せ給付では、当然のことながらその地域内に事業所のある企業や個人事業主が対象となっています。

ただし、同じ市内に支店など複数の事業所がある場合には、1法人1申請と限定されている場合があるので注意してください。

また、県税や市税などの納付が滞っている場合などには対象外となる可能性が高いです。

雇用調整助成金などの支給決定を受けた

雇用調整助成金の支給決定

ほとんどの場合、上乗せ給付の対象となるのは雇用調整助成金の支給が決定となった事業主です。

申請に提出が必要な書類の中には、雇調金などの支給決定書が含まれています。支給額も、その額や対象経費に対しての一定率と定められています。

すでに支給が決定されていることによって、自治体から見れば当該事業主が助成金の要件をすでに満たしていると見なせる利点もあるでしょう。

新型コロナウイルスによる事業縮小などの影響があり、休業手当を支払うなどした事実や、法令に違反していない企業であるということは、助成金の支給決定時点ですでに確認されているはずです。そのため、自治体で改めて確認する必要がありません。

ただし、社会保険労務士に申請書類の作成を依頼し、その費用を助成するタイプの助成では、支給が決定していなくても申請できる場合があります。

その他の上乗せ給付金・奨励金の紹介

上乗せ給付のあるその他の自治体

雇用調整助成金の申請をしたかどうかにかかわらず、新型コロナウイルス感染症の影響による企業負担の軽減や雇用の維持・促進を図ろうと独自の給付金や奨励金制度を設けている自治体もあります。

ここでは、山形・岐阜・高知の各県の制度を紹介します。

山形県正社員雇用促進奨励金

山形の助成金上乗せ制度

山形県が実施する「山形県正社員雇用促進奨励金」では、2つの奨励金が設置されています。

新型コロナウイルスが原因で山形県外から県内に移住した人を支援する「移住者支援」と、離職を余儀なくされた人を正社員として雇用した事業主を支援する「離職者支援」です。

移住者支援

移住者支援金では、事業主には奨励金が、対象となる移住者には支援金が支給されます。

対象となる事業主は、令和3年2月~令和4年1月に移住者を正社員として雇用し、その雇用が1カ月以上継続していることが必要です。移住者には、令和2年9月11日以降に新型ウイルスが原因で県内に移住した人、などの要件があります。

上記をすべて満たす場合のみ対象となります。支給金額は企業規模や移住の状況により次表のように異なります。

事業者に対する支給額
企業規模 支給額
中小企業 1人につき30万円
大企業 1人につき10万円
移住者に対する支給額
移住区分 支給額
Uターン 20万円
Iターンなど 30万円

移住者に対しては、もともと山形県民だった人が地元に戻る「Uターン」より、都会や別の都道府県からの移住であるIターンへの支援が厚くなっています。

離職者支援

離職者支援は、新型ウイルスにより仕事を失った人を新たに雇用した事業主に奨励金が支給されます。

対象となる事業主の要件は、山形労働局管内の雇用保険適用事業所であること、令和3年2月~令和4年1月に対象労働者を正社員として雇用し、その雇用を1カ月以上継続させていることです。

労働者には、令和2年4月以降に新型ウイルスが原因で県内の事業所を解雇・雇い止めされた、過去6カ月に同事業所で働いたことがない、などの要件があります。

こちらは事業者にのみ、企業規模に応じて次の額が支給されます。

企業規模 支給額
中小企業など 30万円
大企業 10万円

従業員の自己都合退職や定年退職では対象となりません。申請には離職理由のわかる離職票(2)などを提出する必要があります。

岐阜県新型コロナウイルス感染症離職者雇用奨励金

岐阜県の助成金上乗せ制度

「岐阜県新型コロナウイルス感染症離職者雇用奨励金」は、 新型コロナウイルスによる失業者を雇用した中小事業主に対して支給されます。この奨励金は、令和3年10月8日より支給額など内容が拡充されています。

対象となる労働者は、県内に住所を置き、令和2年1月27日以降に新型ウイルスが原因で離職した人。その対象労働者を令和3年4月~令和3年11月の間に正規雇用し、その雇用が3カ月以上継続した場合に支給対象となります。

支給には、他にもハローワークからの紹介による雇用であることや県税の滞納がないこと、過去一定期間内に他の従業員や当人の解雇がないことなどが求められます。

支給額は、対象者1人あたり60万円。ただし1事業所あたり2名が上限です。対象者がいわゆる就職氷河期世代の場合は、支給額が90万円に増えます。

就職氷河期世代とは、昭和45年4月2日~昭和61年4月1日の生まれで、前職で非正規雇用だった人のことです。

高知県新型コロナウイルス感染症対策雇用維持臨時支援給付金

高知県の助成金上乗せ制度

高知県では、新型コロナウイルス感染症の影響による事業主の固定費の負担を軽減し、事業継続と雇用維持を図るため、固定費のうち人件費にかかる臨時の支援給付金を設けています。

対象となるのは県内に事業所があり納税義務のある中堅(資本金10億円未満、従業員数2000人以下)以下の法人あるいは個人事業主です。主な要件は、対象期間の年間売り上げの合計が前年又は前々年の同期比で15%(令和3年度8月~9月は30%)以上減少していることです。

対象期間に納付した社会保険料(事業主負担分)を算定基準とし、全従業員に占める県内の従業員数の割合や過去に受給した時短要請協力金の総額、売り上げ減少幅をもとに算出します。

これらの給付については、雇用調整助成金の申請や支給決定が前提ではないため、より細かな要件や提出書類が必要となります。

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新型コロナウイルスの蔓延の影響から、雇用調整助成金の支給決定件数は11月4日時点で501万件にものぼっています。

しかし助成は必ずしも要した費用の満額が支払われるわけではありません。そのため、各地方自治体が独自に雇用調整助成金の上乗せ給付や雇用関連の奨励金を設けています。

ここでは主なものを一部紹介しましたが、その中でも対象者や支給額など要件は多岐にわたります。他にも多くの自治体で類似の助成を行っているので、ご自身の事業所の所在地の自治体公式サイトを確認してみてください。

もちろん、上乗せ給付の申請にも、助成金の申請と同じように専門家の力が役立ちます。申請できる給付金を受け損ねた、申請期限が過ぎてしまった、ということがないよう、ぜひ雇用関連全般のプロである社会保険労務士にご相談ください。

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