
男性労働者から「育児休業を取りたい」と申し出があった場合、すぐにOKを出せる企業はどれくらいあるでしょうか。
2021年新卒者のうち、「男性は役職や職種にかかわらず、育休をもっと取得すべき」と考える人は78.3%にのぼります。さらに男女ともに「男性も育休を取れる会社」を魅力的だと考える傾向にあります。もはや、男性育休制度の整備は人事採用にも影響する要素となっているのです。
そこで活用したいのが、男性の育休制度の整備に役立つ両立支援助成金です。この記事では、働き方改革を進め、採用率や定着率のアップも期待できる両立支援等助成金について解説します。
目次
両立支援等助成金とは?9つのコースを解説

両立支援等助成金には、次の9つのコースがあります。
- 1.出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
- 2.介護離職防止支援コース
- 3.育児休業等支援コース
- 4.再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
- 5.女性活躍加速化コース
- 6.事業所内保育施設コース
- 7.新型コロナウイルス感染症小学校休業等対応コース
- 8.新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース
- 9.不妊治療両立支援コース(2021年度より)
9つものコースがある理由は、各企業がそれぞれの課題や取り組みに適した支援を受けやすいよう、分野別に制度を設けているためです。
支援コースごとの詳しい内容を見ていきましょう。
1.出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

出生時両立支援コースは、男性労働者の育児休業や育児休業目的休暇の取得を支援するためのコースです。
育児休業は、性別に関係なく取得できる労働者の権利として法律に定められています。しかし、男性労働者が周囲に気兼ねなく「育児休業を取りたい」と意思表示できる会社はまだ少数です。
そのため、国からの支援として男性労働者に育児休業・育児目的休暇を取得させた事業主に助成金を支給するのが、出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)です。
助成金の概要は次のようなものです。
- 男性労働者が育児休業等を取得しやすい職場風土作りを事前に行うことが必要
- 育児休業に係る支給は1年度につき10人まで可能
- 育児目的休暇にかかる支給は1事業主1回限り
- 育児休業の取得を個別に支援した場合、支給金額に加算がされる
助成額は、次のようになっています。
男性育休取得者 | 中小企業 | 中小企業以外 | |||
育児休業 | 1人目 | 57万円(72万円) | 28.5万円(36万円) | ||
---|---|---|---|---|---|
個別支援加算 | 10万円 (12万円) |
個別支援加算 | 5万円 (6万円) |
||
2人目以降 | 5日以上の育休 | 14.25万円 (18万円) |
14日以上の育休 | 14.25万円 (18万円) |
|
14日以上の育休 | 23.75万円 (30万円) |
1カ月以上の育休 | 23.75万円 (30万円) |
||
1カ月以上の育休 | 33.25万円 (42万円) |
2カ月以上の育休 | 33.25万円 (42万円) |
||
個別支援加算 | 5万円 (6万円) |
個別支援加算 | 2.5万円 (3万円) |
||
育児目的 休暇 |
1事業主1回限り | 28.5万円(36万円) | 14.25万円(18万円) |
表のカッコ内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。
2.介護離職防止支援コース

労働者に介護休業・介護休暇を取得させた事業主に対して助成金を支給するのが、介護離職防止支援コースです。
高齢化の影響で、介護のために仕事を辞めざるを得ない働き盛りの会社員が増加しています。
しかし、施設の手配が済むまでの期間、時短勤務や短期間の休業さえできれば、退職せずに済むという労働者も多いのです。
介護を理由に、業務に精通した社員が急に退職してしまうのは企業にとっても痛手です。適切な仕組みづくりで貴重な戦力を引き続き雇用する方が、企業にとっても本人にとっても望ましいあり方でしょう。
このコースでは中小企業を対象に、次の4つのケースで助成金が支給されます。
- 1.休業取得時:介護支援プランを作成し、プランに基づき介護休業を取得させた場合
- 2.職場復帰時:(1)で介護休業を取得した労働者を職場復帰させた場合
- 3.介護両立支援制度:介護支援プランを作成し、プランに基づき介護のための短時間勤務制度や介護休暇制度などを利用させた場合
- 4.新型コロナウイルス感染症対応特例:新型コロナウイルス感染症への対応として家族を介護するために特別な有給休暇を取得させた場合
それぞれの場合に、日数と回数に関する制限があります。助成金の支給額とともに見ておきましょう。
支給額 | 支給人数/回数 | |
休業取得時 | 28.5万円(36万円) | 1年度5人まで |
職場復帰時 | 28.5万円(36万円) | 1年度5人まで |
介護両立支援制度 | 28.5万円(36万円) | 1年度5人まで |
新型コロナウイルス感染症対応特例 | (1)休暇取得日数が合計5日以上10日未満:20万円 | (1)(2)合わせて 1事業主5人まで |
(2)休暇取得日数が合計10日以上:35万円 |
表のカッコ内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。
3.育児休業等支援コース

国は、労働者に育児休業や子の看護休暇を取得させたり、育児休業者の代替要員を確保したりする中小企業の事業主に対して、助成金を支給する制度を設けました。これが育児休業等支援コースです。
子育て期間中の会社員に対しては、法律で育児休業や子の看護休暇が定められています。
しかし、特に中小企業には休業期間中の代替要員がいないケースも多く、「妊娠したら退職してほしい」「子供の病気で休むなら辞めてほしい」といった不当な退職勧奨がいまだに行われている職場も珍しくありません。
こういった状況打破すべく設けられたのがこの制度です。
次の項目に該当する場合に、助成金が支給されます。
- 1.育休取得時 :育休復帰支援プランを作成し、プランに基づき育児休業を取得させた場合
- 2.職場復帰時 :1で育児休業を取得した労働者を職場復帰させた場合(条件を満たせば職場支援加算あり)
- 3.代替要員確保時:育休取得者の代替要員を確保した場合(条件を満たせば有期雇用労働者加算あり)
- 4.職場復帰後支援:法律を上回る子の看護休暇制度または保育サービス費用補助制度(ベビーシッター費用補助など)を導入し、育休復帰後の労働者に利用させた場合
支給額や人数・回数の制限は次のようになっています。
支給額 | 支給人数/回数 | |||
---|---|---|---|---|
育休取得時 | 28.5万円(36万円) | 1事業主2回まで (無期雇用者・有期雇用者各1回) |
||
職場復帰時 | 28.5万円(36万円) | 1事業主2回まで (無期雇用者・有期雇用者各1回) |
||
職場支援加算:19万円(24万円) | ||||
代替要員確保時 | 47.5万円(60万円) | 1年度のべ10人、5年間 (くるみん認定事業主は2025年度までのべ50人) |
||
有期雇用労働者加算:9.5万円(12万円) | ||||
職場復帰後支援 | 子の看護休暇 | 制度導入時 | 28.5万円(36万円) | 1事業主1回 |
制度利用時 | 1,000円(1,200円) ×時間 |
1事業主5人まで(1年度200時間(240時間)まで) | ||
保育サービス費用補助 | 制度導入時 | 28.5万円(36万円) | 1事業主1回 | |
制度利用時 | 事業主負担額の3分の2 | 1事業主5人まで (1年度20万円(24万円)まで) |
表のカッコ内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。
特筆すべきは、パートや契約社員などの有期雇用労働者に育児休業を取得させ代替要員を確保した場合、助成金額の加算があることです。
かつては育休が取得しづらく退職を余儀なくされることも多かった有期雇用労働者。しかし今ではパート労働者が主戦力となっている企業も少なくありません。この制度をぜひ活用してください。
4.再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
再雇用者評価処遇コースについては、残念ながら2020年度限りで廃止となりました。
5.女性活躍加速化コース

中小企業において、女性社員の活用に二の足を踏むケースはいまだ少なくありません。女性は出産や育児でキャリアが中断しやすく、戦力にしづらいと考える経営者の方もいます。
しかし、消費者の半数は女性であり、女性が企業の意思決定に関与することで業績が向上した企業も多数存在します。
また、国や自治体の公共調達において女性社員の登用度合いに応じて加点がつくなど、女性社員の活用は企業にとって好影響を与える要素となっています。
この流れを支援するため、国は女性社員の活用に取り組み、数値目標を達成した中小企業に助成金を支給しています。これが女性活躍加速化コースです。
このコースは、常時雇用する労働者が300人以下の中小企業が対象です。
支給には、次に挙げる分野での数値目標と取り組み目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表が求められます。
- 女性の積極採用に関する目標
- 女性の積極登用・評価・昇進に関する目標
- 女性の配置・育成・教育訓練に関する目標
- 多様なキャリアコースに関する目標
また、3年以内の数値目標の達成も助成金の支給条件です。助成額は次のとおりです。
助成額 | 47.5万円(60万円) |
---|
生産性要件を満たした場合は、支給額が60万円に増えます。
2022年4月からは、女性活躍推進法の改正によって、101人以上の労働者を雇用するすべての事業主に対して一般事業主行動計画の策定等が義務化されます。
この行動計画の策定に助成金を利用することで、費用負担を軽くできる可能性が高いです。
6.事業所内保育施設コース
事業所内保育施設コースは、従業員の子を預かる保育施設を設置・運営するための支援策です。しかしこのコースは残念ながら2016年で新規受付を停止しています。
一方、内閣府で2016年より「企業主導型保育事業費補助金」が支給されています。事業所内保育施設を考えているならこちらの制度の検討もおすすめです。
参考:内閣府「企業主導型保育事業等」https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/links/index.html
7.新型コロナウイルス感染症小学校休業等対応コース

新型コロナウイルス感染症の影響で、小学校などが臨時休業になる事態は、今後も起こり得ます。
2020年度までの助成金の内容は、保護者である労働者に有給の休暇を取得させた企業に対し、休暇中に支払った賃金相当額の全額を、1日当たり15,000円を上限に補填するものでした。
2021年度からは、小学校等の臨時休業等により子どもの世話をする労働者のために、特別休暇制度と両立支援制度(ベビーシッターやテレワーク、フレックスタイム制等)を導入し、実際に労働者に特別休暇を取得させた事業主に対し、以下の助成金が支給される制度となります。
1人あたりの支給額 | 支給上限 |
5万円 |
1企業10人まで |
8.新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース

新型コロナウイルス感染症は、妊娠中の女性には大きなリスクとなります。というのも、妊娠中は母体の血流や内臓の状態が通常とは異なるうえ、お腹の赤ちゃんのために病気の治療に使える薬が制限されているからです。
このコースは、妊娠中の女性労働者に対して感染症を避けるための特例措置の制度を整備し、周知を行った事業主が、実際に休暇を取得させた場合に、以下の助成金が支給される制度です。
1人あたりの支給額 | 支給上限 |
一律28.5万円 | 1事業主あたり5人まで |
2020年度までは休暇付与日数が「合計5日以上」という条件でしたが、2021年度からは「合計20日以上」に変更されました。なお、現在のところ制度整備や休暇付与の期間は2022年1月31日までとなっています。
9.不妊治療両立支援コース(2021年度より)

2021年度から新たに創設されたコースです。
不妊治療のために利用可能な休暇制度や、時短勤務やテレワークなどの両立支援制度を利用しやすい環境整備に取り組み、実際に労働者に制度を利用させた事業主に対し、助成金が支給される制度です。
支給の要件は大きく2つあります。また、長期の休暇を取得させた場合には、加算が受けられます。
①環境整備、休暇の取得等
次のいずれも満たした場合に、助成金支給の対象となります。
・不妊治療と仕事の両立を支援する「両立支援担当者」を選任し、社内ニーズの把握や労働者の相談への対応、利用可能な制度の周知を行う
・両立支援担当者が労働者の相談に応じて「不妊治療支援プラン」を策定し、プランに基づいて休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)以上取得・利用させる
②長期休暇の加算
不妊治療のための休暇を連続20日以上取得させ、その後、取得前の職務・職制上の地位と同じか相当の地位に復帰させ、さらに3カ月以上継続勤務させた場合に、加算が受けられます。
ただし1事業主につき5人までという制限もあります。
支給額は次のとおりです。
項目 | 支給額 |
環境整備、休暇の取得等 | 28.5万円(36万円) |
---|---|
長期休暇の加算 | 28.5万円(36万円) |
表のカッコ内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。

両立支援等助成金の共通要件

助成金を受けるには、一定の要件を満たしている必要があります。この要件は各助成金・補助金ごとに異なっています。両立支援等助成金の共通要件について見ていきましょう。
「中小企業」の範囲
両立支援等助成金は、中小企業のみが対象になっているコースや、中小企業と中小企業以外で支給額が異なるコースがあるので注意が必要です。
両立支援等助成金における中小企業の範囲は、業種別に決められており、下記の表の「資本金の額・出資の総額」または「常時雇用する労働者の数」により判定します。
ここで規定されている「常時雇用する労働者」は、正社員だけでなく2か⽉を超えて雇用されているフルタイムのパート・契約社員を含んだ数です。
業種名 | 資本金の額または出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
「女性活躍加速化コース」は、業種に関わりなく常時雇用する労働者300人以下の企業が対象です。
事業主の要件
両立支援等助成金を受給するには、事業主が次の要件を満たす必要があります。
- 従業員が雇用保険に加入している会社の事業主であること
- 必要な書類等を整備・保管し、支給のための審査や実地調査に協力すること
- 締切を守って申請を行うこと
両立支援等助成金は、厚生労働省の助成金です。そのため、従業員に雇用保険の被保険者がいる事業所が助成の対象になります。
つまり、雇用保険の適用とならない短時間パートだけの企業や、そもそも従業員に対して雇用保険の手続きをしていない企業は助成金を受けられません。
また、申請内容に間違いがないか管轄の労働局が審査や実地調査を行う場合があります。助成金を受ける事業主は、その審査や調査に協力しなければなりません。
生産性要件
両立支援等助成金では、一定以上の生産性の向上があった場合に助成金の割増支給が受けられます。
これは、助成金を利用して付加価値を高めた企業に対するインセンティブといえるでしょう。生産性要件は、次に示す1と2の両方に該当することで満たされます。
- 1)助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、以下のどちらかに該当する
・3年前に比べて6%以上の増加
・3年前に比べて1%以上~6%未満の増加で、金融機関から一定の「事業性評価」を得ている - 1の算定対象となった期間について、雇用保険被保険者の従業員を事業主都合によって解雇・退職勧奨していない
生産性は「付加価値(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数」の計算式で算出されます。詳しい計算シートは厚生労働省のホームページで公開されています。
参考:労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます|厚生労働省
不支給要件

両立支援等助成金は、税金や労働保険料を財源としています。そのため、助成金は適正に支給されなくてはなりません。
次の項目に当てはまる事業主に対しては、助成金は支給されないので注意してください。
- 平成31年4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定または支給決定の取り消しを受け、その不支給決定⽇または支給決定取消⽇から5年を経過していない
- 平成31年3⽉31⽇以前に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定または支給決定の取り消しを受け、その不支給決定⽇または支給決定取消⽇から3年を経過していない
- 過去に不正受給を行い、それによる請求金を納付していない(時効が完成している場合および申請日までに納付を行った場合を除く)
- 平成31年4⽉1⽇以降に申請した雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる
- 支給申請⽇の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない(支給申請⽇の翌⽇から起算して2カ⽉以内に納付した事業主を除く)
- 支給申請⽇の前⽇から起算して1年前の⽇から支給申請⽇の前⽇までの間に、労働関係法令の違反があった
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業をおこなっている、またはこれら営業の一部を受託している
- 事業主または事業主の役員等に、暴力団との関わりがある
- 事業主または事業主の役員らが、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った、またはその恐れのある団体に属している
- 支給申請⽇または支給決定⽇の時点で倒産している
- 不正受給の発覚時に都道府県労働局等が実施する、事業主名および役員名(不正に関与した役員に限る)等の公表について、あらかじめ承諾していない
1つでも当てはまれば、助成金は受給できません。
受給額の入金(入金時期や経理処理方法等)

助成金を申請すると、申請後どのくらい待てば手元に入金があるのか、入金の経理処理をどうすればいいのか、その2点を見ていきましょう。
助成金の入金時期
助成金は申請から審査を経て「支給決定通知書」が届くまでにおよそ3~4カ月、「支給決定通知書」が届いてからは1か月ほどで入金となります。混み合っている時期は支給決定までに半年ほどかかる場合もあります。
注意したいのが、両立支援等助成金は、各コースにおいて条件をすべて達成した後に申請が可能になるという点です。
たとえば出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)であれば、事前に研修等の「職場風土づくり」を行い、実際に男性労働者が育児休業を開始して14⽇以上(中小企業は5⽇以上)経過した後に助成金の申請が可能になります。
つまり、取り組みを始めた当初は必要経費が企業の持ち出しになるのです。
助成金の経理処理
両立支援等助成金は、営業外収益にあたるため通常は「雑収入」として扱います。
税法上は不課税取引となり、消費税の対象にはなりません。
子育て男性労働者を支援!両立支援等助成金(出生時両立支援コース)を活用しましょう

積水ハウス株式会社の調査によると、男性の育休制度が充実している会社は、社会的にも評価の高い企業として認められているといいます。
- 男性の育休取得が進んでいる企業のイメージ
・企業イメージが良くなる…89.9%
・生産性が高い企業だと思う…83.7%
・就職したい(自分の子どもに就職してほしい)…86.7%
(積水ハウス株式会社「イクメン白書2020」より
国からの支援がある今こそ、男性育休制度の整備に助成金の活用をおすすめします。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)とは

両立支援等助成金(出生時両立支援コース)は、男性労働者に育児休業・育児目的休暇を取得させた事業主に支給される助成金です。
このコースで注意したいのは、助成金を受けるため、事前に社内で男性の育児休業等の取得に向けた「職場風土づくり」の取り組みを行う必要がある点です。
具体的には、管理職や男性労働者に対して研修を行うことや、育児休業取得者の業務をカバーした社員に対する手当制度をつくることなどが求められます。
また、育児休業の期間も連続14⽇以上(中小企業は連続5⽇以上)と定められています。
このため、単に育休の名目で2~3日の有給休暇を取得させたような場合は、助成金の支給対象にはなりません。
さらに次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」の策定・届け出も行う必要があります。
これは、育休を取得する男性労働者が最初の1人だけで終わることを防ぎ、男性の育児休業が企業風土として定着することを狙う措置だと考えられます。
職場風土づくりや一般事業主行動計画の策定といった業務は、総務・人事の社内リソースを圧迫する恐れもあります。そんな時は、社会保険労務士などの専門家を活用するのが効率的です。
対象となる事業主

両立支援等助成金の支給対象となるには、次の3つの条件があります。
- 従業員が雇用保険に加入している会社の事業主である
- 必要な書類等を整備・保管し、支給のための審査や実地調査に協力する
- 締切を守って申請を行う
また、出生時両立支援コースには、次のような支給要件も定められています。
出生時両立支援コースの支給要件

出生時両立支援コースでは、男性労働者が取得するのが育児休業なのか育児目的休暇なのかにょって、支給要件が少し異なります。
育児休業 | 育児目的休暇 |
---|---|
― | 育児目的休暇制度を新たに導入した |
男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土づくりを実施 | 男性労働者が育児目的休暇を取りやすい職場風土づくりを実施 |
男性労働者が、連続14⽇以上の育児休業を取得した(中小企業においては連続5⽇以上) | 男性労働者が、合計8⽇以上の育児目的休暇を取得した(中小企業においては合計5⽇以上) |
育児休業制度などを労働協約または就業規則に定めている | |
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、労働局に届け出ている | |
対象の男性労働者を、育児休業または育児目的休暇の取得⽇から支給申請⽇まで、雇用保険被保険者として継続して雇用している |
支給要件のうち、育児休業・育児目的休暇を取得しやすい「職場風土づくり」は助成金の申請前から行っている必要があります。
また、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・届出・公表も、助成金の申請前に完了しなければなりません。
出生時両立支援コースの支給額

出生時両立支援コースの支給金額は、中小企業と中小企業以外のいわゆる中堅・大企業とで異なります。
男性育休制度の創設や代替要員の確保等により負担の大きい中小企業に対し、助成内容もより手厚くなっています。
育児休業 | 男性の育休取得者 | 中小企業 | 中小企業以外 | ||
---|---|---|---|---|---|
1人目 | 57万円(72万円) | 28.5万円(36万円) | |||
個別支援加算 | 10万円 (12万円) |
個別支援加算 | 5万円 (6万円) |
||
2人目以降 | 5日以上の育休 | 14.25万円 (18万円) |
14日以上の育休 | 14.25万円 (18万円) |
|
14日以上の育休 | 23.75万円 (30万円) |
1か月以上の育休 | 23.75万円 (30万円) |
||
1か月以上の育休 | 33.25万円 (42万円) |
2か月以上の育休 | 33.25万円 (42万円) |
||
個別支援加算 | 5万円 (6万円) |
個別支援加算 | 2.5万円 (3万円) |
||
育児目的休業 | 1事業主1回限り | 28.5万円(36万円) | 14.25万円(18万円) |
表のカッコ内の金額は、生産性要件を満たした場合の支給額です。
また、配偶者が妊娠した男性労働者に対して、育児休業の取得を個別に後押しする取組を行った事業主には、最大で12万円の個別支援加算が支給されます。
出生時両立支援コース 申請の流れ

出生時両立支援コースでは、男性労働者が育児休業を開始する前日までに「職場風土づくり」を行っておく必要があります。
そのうえで、下表の期限内に申請事業主の本社等を管轄する労働局に申請書類を提出します。
育児休業 | 男性の育休取得者 | 中小企業 | 中小企業以外 | ||
1人目 | 育児休業開始⽇から起算して5⽇を 経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | 育児休業開始⽇から起算して14⽇を 経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | |||
2人目以降 | 5日以上の育休 | 育児休業開始⽇から5⽇が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | 14日以上の育休 | 育休休業開始⽇から14⽇が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | |
14日以上の育休 | 育休休業開始⽇から14⽇が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | 1カ月以上の育休 | 育休休業開始⽇から2カ⽉が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | ||
1カ月以上の育休 | 育休休業開始⽇から1か⽉が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | 2カ月以上の育休 | 育休休業開始⽇から2カ⽉が経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | ||
育児目的 休暇 |
1事業主1回限り | 出生前6週間から出生後8週間の間に取得した育児目的休暇の合計につき | |||
5⽇を経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 | 8⽇を経過する⽇の翌⽇から2カ⽉以内 |
申請に必要な書類は、育児休業と育児目的休暇とで若干異なります。
育児休業 | 育児目的休暇 | |
1 | 両立支援等助成金支給申請書【出】様式第1号①② | 両立支援等助成金支給申請書 【出】様式第2号①② |
2 | 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号) | |
3 | 労働協約、就業規則、労使協定 | |
4 |
育児休業を取得しやすい「職場風土作り」の内容および実施⽇がわかる書類 |
|
5 | 対象の男性労働者の育児休業申出書 | |
6 | 対象の男性労働者の出勤簿またはタイムカードおよび賃金台帳 | |
7 | 勤務シフト表、企業カレンダー、労働条件通知書、就業規則 など | |
8 | ⺟子手帳(子の出生を証明する部分)、子の健康保険証、住⺠票 など | |
9 | 次世代法に基づく一般事業主行動計画策定届 | |
10 | 支払方法・受取人住所届および支払口座が確認できる通帳等の写し (初めて雇用関係助成金を申請する事業主) |
|
11 | 提出を省略する書類についての確認書 【出】様式第3号 (同時申請または過去に申請を行ったことのある事業主) |
|
2人目以降の申請の際、内容に変更がなければ上記3・4と9の提出を省略可 | 育児休業と同時に申請する場合や、過去に育児休業にかかる申請をしており内容に変更がなければ、上記3.(育児目的休暇制度部分は除く)および9の提出を省略可 | |
個別支援加算を申請する場合 | ー | |
12 | 両立支援等助成金支給申請書【出】様式第1号③ | |
13 | 育児休業中や休業後の待遇や労働条件などを対象の男性労働者および上司に示した際のメールや書面 など | |
14 | 企業組織図 |
両立支援等助成金の申請なら社会保険労務士を利用

両立支援等助成金の申請は、通常業務と並行して取り組むには負担が大きい仕事です。特に中小企業では助成金の申請ノウハウが乏しいことも少なくありません。
そんな時は、専門の社会保険労務士に助成金申請をバックアップしてもらうことも考えましょう。
助成金の申請には専門的知識が必要
助成金の申請では、支給要件の確認や事前の就業規則の整備など、専門的な知識が必要になります。
また、助成金の説明自体も耳慣れない専門用語が多用されているため、中には助成金の「支給申請の手引き」を読んだだけで「これは無理だ!」と思う人もいるくらいです。
要するに、事業主本人や総務・人事の担当者だけで必要書類をすべて準備するには手間も時間もかかり、本来の業務を圧迫する可能性が高くなってしまうのです。このような事態を避けるためにも、助成金の申請業務は社会保険労務士に任せるのが効率的です。
無自覚に不正受給となる危険性がある

助成金は私たちの税金をもとにした公金です。そのため、不正受給とならないように細かく支給要件が決められています。
しかし、支給要件が細かいということは、本来支給対象とはならない事業主が誤って申請したり、必要な条件を満たさないまま申請したりして、知らないうちに不正受給になってしまう場合もあり得るということです。
平成31年4月から雇用関係助成金の不正受給が厳罰化され、助成金を不正に受給してしまった企業は、会社名や代表者名が労働局のホームページに公表されます。
加えて支給済の助成金の返却に加えて違約金も発生し、今後5年間の助成金の申請資格を失う措置が取られます。
このような事態を防ぐためにも、専門的な知識を持った社会保険労務士のサポートが欠かせません。
労働関連の法令を遵守しなければならない
両立支援等助成金の申請では、コースによって次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画や、女性活躍推進法に基づく行動計画を策定する必要があります。
それだけにとどまらず、育児休業や介護休業の制度を労働協約または就業規則に定める必要があります。
これらはもちろん社内で作ることもできますが、法律に基づいた内容を記載する必要があり、難易度の高い業務になります。
さらに、社内研修や個別の働きかけにおいて、正しい知識で説明できる人材が社内にいるかという問題もあります。
このような時は、外部の専門家に就業規則の作成や社内研修などを任せることで、手間と時間を節約できるでしょう。
まとめ

両立支援等助成金は、企業が労働者の多様な働き方を後押しするために役立つ施策です。
育児休業や介護休業、女性の積極登用など、両立支援等助成金が利用できるコースは多岐にわたっています。いずれも労働者のワーク・ライフ・バランスの向上に役立ち、採用率や定着率の向上にもつながる制度です。
しかし一度仕組みを作ってノウハウを獲得すればそれが「前例」となり、制度を利用する人も2人目、3人目と増えていくでしょう。
「はじめの一歩」を踏み出すため、社会保険労務士に依頼してはいかがでしょうか。
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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
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