雇用調整助成金は、事業縮小の危機にもかかわらず雇用を維持する事業主を助成する制度です。
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令・延長に伴って、雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症に関する特例措置にも制度の見直しや改正などが行われています。
この記事では、雇用調整助成金を申請する際のポイントについて、最新の特例措置や申請時の注意点など詳しくお伝えします。
【最新】雇用調整助成金の特例措置
令和2年4月1日から令和3年6月30日までの期間について最新の情報を、ポイントごとに見ていきましょう。
1.特例措置の令和3年6月末までの延長決定
雇用調整助成金の新型コロナウイルス感染症による特例措置の期限は、令和3年4月30日から令和3年6月30日まで延長されました。
これは緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令期間が延長された影響によるものです。
2.助成率の拡充、上限額の引き上げ
休業を行った場合の雇用調整助成金の助成率と1日あたりの助成の上限額が拡充・引き上げられ、下表のようになりました。
判定基礎期間の初日 | ~令和3年4月末 | 令和3年5月・6月 | |||
解雇等の有無 | あり | なし | あり | なし | |
中小企業 | 助成率 | 5分の4 | 10分の10 | 5分の4 | 10分の9※1 |
上限額 | 15,000円 | 13,500円 | |||
大企業※2 | 助成率 | 3分の2 | 4分の3 | 3分の2 | 4分の3 |
上限額 | 15,000円 | 13,500円 |
ただし令和3年5月・6月の期間については、売上などが一定割合以上減少した場合には「業況特例」が、まん延防止等重点措置などの対象区域となった場合には「地域特例」が適用となります。
これについては次の章「12」の項で詳しく説明します。
※1 中小企業の場合、業況特例または地域特例の対象かつ解雇等を行っていない事業主への助成率は10分の10です。また1日あたりの上限額は解雇あり・なしともに15,000円となります。
※2 大企業に関しては、令和3年1月8日~4月末までと5月・6月で業況特例または地域特例に該当する場合には、解雇等があれば4分の5の助成率、解雇等なしの場合には10分の10の助成率で、上限額は15,000円となります。
3.生産指標(売上等)の比較要件の緩和
雇用調整助成金の受給には、生産指標(売上や生産量、販売量など)が従前よりも減少したことが要件となっています。
生産指標を比較対象月(前年同月または前々年同月又は前年同月から前月までのいずれかの1カ月)の値と比較要件が緩和され、「3か月で10%以上の減少」から「1か月で5%以上の減少」となりました。
4.支給限度日数の緩和
支給限度日数も緩和され、新型コロナ特例前の限度日数「1年100日、3年150日」に、令和3年6月末までの対象期間中の受給日数が加算できるようになりました。
5.計画届が不要
以前は支給要件として休業等についての計画届の事前提出が必要でしたが、要件が緩和され、令和2年5月19日から計画届の提出が不要になっています。
6.雇用保険未加入者も対象
雇用調整助成金の対象となる労働者には、「雇用保険の被保険者であること」と、「6か月以上の被保険者期間があること」が条件でした。
しかし被保険者期間についての要件が撤廃され、入社半年以内の従業員なども対象となるようになりました。
また、雇用保険未加入者は「緊急雇用安定助成金」の対象となり、休業について同様の助成が受けられるようになりました。
7.短時間休業の要件緩和
短時間の休業については、事業所内の全員が一斉に休業した場合にのみ対象となっていました。
しかし部門や職種、役職や勤務体制、シフトなどにより実施される1時間以上の短時間休業も支給対象となりました。
8.休業規模要件の緩和
休業等を行った延べ日数が所定労働の延べ日数に対してどのくらいの割合を示すか、という休業規模要件についても緩和されました。
判定基礎期間における対象労働者の休業延べ日数が、中小企業では20分の1だったのが40分の1以上に、大企業では15分の1だったのが30分の1以上となりました。
9.残業相殺の停止
雇用調整助成金の支給対象となる休業等と時間外労働等の時間を相殺して支給することを「残業相殺」と言います。
この残業相殺も、当面停止する取り扱いとなりました。
10.教育訓練助成率の拡充、加算額の引き上げ
教育訓練を行う際の助成についても、休業時と同様に拡充・引き上げされました。助成率については次のとおりです。
判定基礎期間の初日 | ~令和3年4月末 | 令和3年5月・6月 | |||
解雇等の有無 | あり | なし | あり | なし | |
中小企業 | 助成率 | 5分の4 | 10分の10 | 5分の4 | 10分の9 |
大企業 | 助成率 | 3分の2 | 4分の3 | 3分の2 | 4分の3 |
ただし令和3年5月1日~6月30日(※)で業況特例または地域特例に該当する場合は、企業規模を問わず「解雇等なし」の助成率は10分の10、「解雇等あり」は5分の4の助成率となります。
※大企業においては令和3年1月8日~6月30日
教育訓練実施による加算額も引き上げられ、中小企業は2,400円、大企業は1,800円となっています。
11.出向期間要件の拡充
緊急対応期間中(令和2年4月1日~令和3年6月30日)に開始した出向については、出向期間の要件が「3カ月以上1年以内」から「1カ月以上1年以内」と拡充されました。
12.令和3年5・6月に適用される業況特例と地域特例の内容
令和3年5月1日~6月30日の期間は、特に業況が厳しい事業主に関しては「業況特例」として、助成率を5分の4(解雇等なしの場合は10分の10)、1人1日当たりの上限額が15,000円となります。
業況特例の対象区域は全国で、企業規模を問いません。
「特に業況が厳しい」とは、休業等の初日を含む月からさかのぼって3カ月間の平均の生産指標が、前年または前々年同期比で30%以上減少していることをいいます。
また、「地域特例」として、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令された地域において営業時間の短縮や上限人数の制限などに協力する飲食店やイベント開催を行う事業主に対しても「業況特例」と同じ助成の拡充が行われます。
雇用調整助成金の申請のポイント
雇用調整助成金は、受給が比較的しやすい助成金です。しかし申請する際に気をつけるべきポイントもあります。主な4つの確認ポイントについて解説します。
書類は最新のものか
雇用調整助成金の申請に必要な書類の様式は、事業所の規模などにより細かく分けられています。
様式は最新のものを使用しないと、特例措置等で拡充された助成を受けることができません。特例措置の適用を受けるには、追加で申請などを行う必要性が出てきます。
新型コロナウイルス感染症の特例措置に関しては、改正により様式が変わったりしています。必ず最新の様式で準備をしましょう。
厚生労働省の雇用調整助成金に関するページやガイドブックなどで、自社の申請内容に合った様式を確認することができます。様式のダウンロードも可能です。
雇用調整助成金の様式ダウンロードページ|厚生労働省
必要書類がすべてそろっているか、記入間違いはないか
助成金の申請手続きをする前に、申請に必要な書類がすべて揃っているか、書類に記入間違いがないかをしっかりとチェックしましょう。
申請様式に記入もれがあったり添付書類が足りなかったりすると、申請を受け付けてもらえません。記入間違いや間違った添付書類で助成金を受給してしまった場合、ケアレスミスでも不正受給と見なされるおそれもあります。
不正受給とされた場合には、事業主名などを公表されることもあります。自社の信頼を失うなど大きなリスクが伴うので注意してください。
休業手当の計算は間違っていないか
支給申請書類の中で特に間違えやすいのが、助成額の算定根拠となる休業手当の計算です。
雇用調整助成金の助成額は、休業期間中に従業員に支払った休業手当の何割かになります。休業手当の計算が間違っていると、助成金の額も正しく算出されません。
また、支払った休業手当の金額が労働基準法の規定(平均賃金の6割以上)に違反していた場合には、雇用調整助成金の支給も受けられないので注意が必要です。
提出する書類同士の整合性が取れているか、法令違反の内容がないか
提出する書類同士の整合性が取れているかどうかも、申請する前にチェックする必要があります。
たとえば休業手当の金額や休業の実施内容について、事前の取り決めと実態が異なっていないかなどが審査でチェックされます。「休業協定書」と「休業実績一覧表」や「雇用調整助成金 助成額算定書」、「支給申請書」など、各書類で矛盾や相違がないかをチェックしましょう。
また、申請に関することだけでなく、残業代の未払いなど法令違反があると見なされれば受給はできません。
提出書類に関する注意点
申請書類を提出する際にも注意しておきたいことがあります。提出に関する主な注意点は4つです。
1.申請書類は期限内に、事業所の住所を管轄する労働局またはハローワークに提出
雇用調整助成金の申請は、申請期限までに事業所の住所を管轄する都道府県労働局またはハローワークに行います。
提出の方法には、「窓口への持参」「郵送での申請」「オンライン受付システムでのWeb申請」の3種類があります。
2.郵送で提出する場合は、必ず簡易書留など配達の記録が残る方法で
前述のとおり、雇用調整助成金の申請は郵送でも可能です。
申請書類を郵送する場合には、郵便事故などを避けるために配達の記録が残る方法を利用してください。
配達の記録を残す方法には、特定記録郵便、一般書留、簡易書留、配達証明、交付記録郵便などがあります。
配達記録が残るものはWeb上で追跡確認をすることもできるので、先方にいつ配達されたかもわかります。
3.申請期限は「支給対象期間」の最終日の翌日から起算して2か月以内。申請期限必着
雇用調整助成金の申請期限は、「支給対象期間(判定基礎期間)」の最終日の翌日から起算して2か月以内です。
申請期限を過ぎると受け付けてもらえないので注意しましょう。
たとえば、支給対象期間(判定基礎期間)が3月1日~3月31日の場合、4月1日~5月31日までが申請期限となります。
なお、休業等が複数月にわたっている場合は、まとめて申請することも可能です。その場合には、まとめた支給対象期間の最終日から2カ月以内というのが申請期限となります。
たとえば、1月1日~3月31日まで継続して休業した場合、1月分を先に申請するなら3月末までに行う必要があります。
しかし、3か月をまとめて申請する場合には、4月1日~5月31日までが申請期間となるので、5月に申請しても間に合います。
また、申請期限日が土日や祝日で労働局やハローワークが閉まっている場合には、休日明けの開庁日が期限となります(行政機関の休日に関する法律)。
4.提出した書類は支給決定から5年間の保存義務あり
申請時に提出した支給申請書や添付書類の写しなどは、助成金の支給が決定してから5年間の保存義務があります。
雇用調整助成金の支給後にも、不正受給がなかったかなどについて実地調査がランダムに行われています。その調査に協力するために、申請書類の保存義務が課せられているのです。
助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
雇用調整助成金の制度は、経済的に困窮する事業主を支援するために作られたものです。社会や経済の情勢に合わせて、随時改正等が行われています。
この記事では最新の特例措置の内容を紹介していますが、内容は今後も変更されるでしょう。
最新の情報で申請手続きを行わないと、申請のやり直しが必要だったり不支給となったりする恐れがあります。また、休業等についての計画書の提出は要件緩和で不要となりましたが、計画の策定自体は必要であるなど、守るべき事項もたくさんあるのが申請でネックとなるところです。
雇用調整助成金の申請手続きを適正にスムーズに行うには、経験豊富な社会保険労務士に依頼するのがおすすめです。当社Bricks&Ukにぜひご相談ください。