雇用調整助成金の支給額と支給要件を社労士がわかりやすく解説

2021.03.25

2023.04.25

助成金について解説する女性

新型コロナウイルス感染症の影響により、やむを得ず休業や従業員の解雇といった対応をする企業や飲食店などが続出しています。

政府はこのような事業縮小に伴うリストラを防ぐため、従来からある雇用調整助成金を特例措置として拡充することによって、企業の雇用維持を促しています。

特例措置では、雇用調整助成金の助成率や上限が大きく引き上げられています。ほとんど負担なく休業できる可能性もあるので、ぜひ活用したいものです。

しかし、雇用調整助成金の仕組みや支給申請手続きは難しく、特例措置によってさらに混乱してしまうことも。そこでこの記事では、雇用調整助成金の基本的な仕組みと特例措置の内容についてわかりやすく解説していきます。

雇用調整助成金とは

経済の急激な悪化で、企業や店舗が通常どおりの業務を続けられなくなることがあります。

そうなると企業は、経費を削減して資金繰りのショートを防ぎ、厳しい時期を耐え抜かなくてはなりません。経費の中でも、特に削減の対象となりやすいのが従業員の賃金です。事業縮小に伴ってリストラを行う会社も多いのが現状です。

しかし雇用の維持の観点では、リストラはなるべく避けたいもの。日本経済の中核を担う中小企業でリストラが多発すれば雇用は崩壊しますし、大企業のリストラも多数の失業者を生み出します。

そのため国(厚生労働省)は、雇用の維持を目的として、休業手当や教育訓練費などの一部を助成する「雇用調整助成金」を実施しています。

特例措置の概要

長引く新型コロナウイルス感染症の影響により、休業に踏み切る会社が続出しました。

休業手当の支給さえ難しい中小企業も多く、また国の要請を受けて休業する会社も多かったことから、特例措置として雇用調整助成金の条件緩和や助成率アップなどが随時行われています。

特例措置と通常時の比較

雇用調整助成金の支給要件について、平常時と特例措置実施後の主な内容を比較してみましょう。

なお特例措置は大企業にも適用されますが、この記事では中小企業の情報のみをまとめています。

支給要件の比較

要件項目 平常時 特例措置
生産性指標 直近3カ月間の売上高や生産量が前年同期比で10%以上減少 直近1カ月間の売上高や生産量が前年同月比で5%以上減少
対象労働者 雇用保険の被保険者(雇用期間6カ月未満は除く)のみ 雇用保険被保険者以外の従業員、雇用期間6カ月未満の従業員も支給対象(緊急雇用安定助成金として)
助成額(率) 休業手当の3分の2 休業手当の5分の4(解雇等を行わず雇用を維持した場合は10分の10)
支給上限日額 8,370円 15,000円
教育訓練実施時の加算額 1,200円/1人1日 2,400円/1人1日
支給限度日数 1年間で100日分、3年で150日分 緊急対応期間中に実施した休業は、支給限度日数とは別枠で利用可能

緊急対応期間とは、令和2年4月1日から緊急事態宣言が解除された月の翌月末までのことを言います。

このように、特例措置によって複数の面で助成金が利用しやすくなっていることがわかります。

雇用調整助成金の支給要件

助成金の支給要件

では雇用調整助成金の支給要件について、もう少し詳しく見ていきましょう。

対象となる事業主

平常時の雇用調整助成金では、さまざまな理由による経済的な事情で、事業活動を縮小せざるを得なくなった事業主を対象として助成金を支給しています。

一方、新型コロナウイルスに伴う特例措置は、あくまでも「新型コロナウイルスの影響で」事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が対象です。たとえば次のような事情が当てはまります。

  • 不要不急の外出を控える人が増え、客足が遠のいて売上が減少した
  • 自治体からの営業自粛要請を受けて休業し、売上が激減した
  • 自治体の要請で販売先が休業し、自社の売上も減少した

もっとも、現在はほとんどの企業が新型コロナウイルス感染症の悪影響を受けている状況でしょう。

ただし特例措置では、最近1カ月間(休業を開始した月、あるいはその前月または前々月)の売上高や生産量が、前年同月比で5%以上減少している事業主を対象としています。

前年同月での比較ができない場合は、2年前の同月、前年同月~休業月前月までの間の適当な1カ月との比較も可能です。

とはいえ休業に踏み切るのは売上高や生産量が5%以上下落した場合が多く、特に厳しい要件というわけではありません。

支給対象となる期間および日数

通常、雇用調整助成金では、1年間を「支給対象期間」とし、期間内に休業した日数について助成金を支給しています。

支給対象日数は1年間で100日分、3年で150日分が上限です。

雇用調整助成金の支給要件でわかりにくいのが、「100日『分』」「150日『分』」という考え方です。雇用調整助成金の支給日数は、「休業の延べ日数」を「対象労働者」の人数で割った日数としています。たとえば、次のような計算です。

対象労働者が20人の事業所で、うち10人に対して30日間の休業を実施した
→300人日(休業させた10人×30日間の休業)÷事業所全体の対象労働者20人=支給日数15日分

この例の場合、1年間の受給可能日数は残り85日分、3年の受給可能日数は残り135日分です。

もっとも、緊急対応期間中に実施された休業は支給日数としてカウントされないため、特例措置以前に支給日数を使い切っている会社でも利用可能であり、「~日分」の計算も不要です。

現時点では、特例措置の対象期間を令和3年6月30日までとしています。この期間中であれば支給日数の上限を考えずに休業できますが、その後はやはり「~日分」という少しややこしい計算をしながら、支給日数を見ていく必要があります。

支給対象となる休業/教育訓練

雇用調整助成金といえば、休業を対象に助成金を支給するイメージがあるかもしれませんが、休業以外に教育訓練や出向も支給対象としています。

この記事では、特に休業と教育訓練について紹介していきます。平常時と特例措置後の要件をまとめました。

休業についての比較

項目 平常時 特例措置
支給対象となる休業・短時間休業 休業:所定労働日数の全1日にわたるもの

短時間休業:所定労働時間内で、労働者全員が一斉に1時間以上を休業するもの
休業:所定労働日数の全1日にわたるもの

短時間休業:所定労働時間内における部署・部門・職種・役職・担当・勤務体制・シフトなどにより1時間以上行われるもの
休業規模要件 休業の延べ日数が対象労働者の所定労働日数の20分の1以上 休業の延べ日数が対象労働者の所定労働日数の40分の1以上

特に注目なのは、短時間休業に関する要件の緩和です。これによって次のような場合も対象となります。

・稼働率の落ちた製造ラインのみ短時間休業を実施
・売上の落ちている店舗のみ短時間休業を実施
・システムの保守にあたる従業員以外に短時間休業を実施

教育訓練についての比較

項目 平常時 特例措置
教育訓練の内容 ・事業所内訓練または事業所外訓練を、対象労働者の所定労働時間の全日または半日にわたり実施

・半日の場合、訓練日の就労は不可

・講師が不在の場合は対象外、自宅等での実施は不支給
・事業所内訓練または事業所外訓練を、対象労働者の所定労働時間の全日または半日にわたり実施

・半日の場合、訓練日にも就労可能(半日訓練、半日就労など)

・感染拡大防止の観点から、自宅等で行う教育訓練も支給対象
休業規模要件
(教育訓練の延べ日数)
対象労働者の所定労働日数の20分の1以上 対象労働者の所定労働日数の40分の1以上

特例措置により、教育訓練では自宅でインターネットを用いて受講する場合にも支給が可能となっています。

雇用調整助成金の支給額

助成金の支給額

雇用調整助成金の支給額は、休業と教育訓練でそれぞれ異なります。平常時と特例措置後の支給額を具体例で見ていきましょう。

休業に対する支給額

項目 平常時 特例措置
上乗せなし 上乗せあり
休業日数(a) 25日
対象労働者数(b) 10人
休業手当支給日額(c) 10,000円
助成率(d) 3分の2 5分の4 10分の10
助成額上限(日額) 8,370円 15,000円
助成金支給総額(a×b×c×d)

166万6667円

200万円 250万円

休業手当総額(a×b×c)

250万円
実質負担額(助成金支給額 – 休業手当) 83万3333円 50万円 0円

特例措置では、従業員の解雇等をしなかった場合に上乗せがあります。

上表の休業手当支給額は、休業以前3カ月間の平均賃金額(賃金総額90万円、暦日数90日間と仮定した場合)の100%の休業手当を支払った場合の金額です。

休業手当の支払い率は、法律で義務付けられている60%以上を特例措置の対象としています。そのため、60%でも問題はないのですが、解雇等をしなければ助成金の実質負担は10分の10。つまり60%でも100%でも実質的な負担はゼロとなります。そのため特例措置を受けられる期間中は100%の休業手当の支給がおすすめです。

教育訓練の場合の比較

教育訓練の助成金支給額についても、平常時と特例措置、上乗せありなしの3パターンで計算してみましょう。

なお、下表は月額賃金30万円、月間所定労働日数22日と仮定し、自治体が実施する無料の教育訓練プログラムを例として計算します。

項目 平常時 特例措置
上乗せなし 上乗せあり
研修内容 機械加工研修(16時間)
実施日数(a) 2日間(8時間×2日)
対象労働者数(b) 10人
賃金支払日額(c) 13,636円
助成率(d) 3分の2 5分の4 10分の10
助成上限日額 8,370円 15,000円
教育訓練実施による加算日額(e) 1,200円 2,400円
助成金支給総額(f) (a)×(b)×(8,370円※+1,200円)=
19万1400円
(a)×(b)×{(c×d)+e}=
26万6176円
(a)×(b)×{(c×d)+e}=
32万0720円
教育訓練費用(g) (a)×(b)×(c)
=27万2720円
実質負担額(g-f) 8万1320円 6,544円 -4万8000円(この額が手元に残る)

表の※印については、賃金支払額に助成率3分の2をかけると9,091円となり、助成額の上限8,370円を超えるため、限度額で計算しています。

教育訓練を実施することで、1人当たり最大2,400円/日の加算が受けられます。この表では無料の教育訓練プログラムを例としているため、「特例措置・上乗せあり」のケースでは48,000円が手元に残る計算です。

有料の教育訓練を受けた場合には、このプラス部分によって負担の軽減が見込めます。eラーニングなど教育訓練の対象も緩和されているため、積極的に利用するのがおすすめです。

雇用調整助成金の申請の流れ

助成金申請の手続きをする人

では雇用調整助成金の申請の流れや手続きについて確認していきましょう。

従来の申請手続きの流れ

平常時には、雇用調整助成金の手続きは次のような流れで行われます。

1、休業、教育訓練、出向など、雇用調整の具体的な内容を計画する
2、労使協定の締結・・・労使間での協定を結び、書面にする
3、計画届の提出・・・雇用調整をまとめ、計画届として提出する
4、雇用調整の実施・・・計画届に基づいて雇用調整を実施する
5、雇用調整の実施・・・計画届に基づいて雇用調整を実施する
6、労働局における審査・・・支給申請の内容を労働局で審査し、支給の可否を決定する
7、支給額の振込・・・支給決定額が振り込まれる


しかし現在は、特例措置によって手続きが簡素化され、計画届の提出が不要となっています。特例措置期間中に休業を実施する場合は、次の流れで手続きをします。

  • 1、休業計画・・・休業の期間、日数、休業手当支払い率などを計画する
  • 2、労使協定の締結・・・休業について労使間の協定を書面にて行う
  • 3、休業の実施・・・計画と協定に基づいて休業を実施し、従業員に休業手当を支給する
  • 4、支給申請・・・休業の実績に基づき支給申請を行う
  • 5、労働局における審査・・・支給申請の内容を労働局で審査し、支給の可否を決定する
  • 6、助成金の振込・・・支給が決定すれば、指定口座に振り込まれる

計画届には複数の書類を添付する必要があるほか、不備があれば再提出しなければなりません。すぐにでも雇用調整助成金を利用したい企業にとって厄介なものでした。

計画届が不要になっただけでも、手続きの負担は軽くなりました。

しかしそれでもなお、手続きは簡単とは言えません。むしろ、計画届の内容にチェックが入らなくなったことで、計画がずさんになり支給要件を満たさない危険性もあるので注意が必要です。

助成金支給申請の手続きと必要書類

雇用調整計画をしっかりと立て、問題なく実施していたとしても、申請手続きでつまずくケースは少なくありません。支給申請期間内には複数の書類を揃えて申請する必要があります。

手続きや提出書類についても特例措置で簡略化されているとはいえ、慣れない人にはハードルが高いでしょう。

休業と教育訓練の支給申請手続きと必要書類は次のようになっています。

項目 休業の場合 教育訓練の場合
申請内容 休業等支給申請書に必要書類を添付し、都道府県労働局またはハローワークに提出
必要書類 ・(休業等)支給申請書(共通様式)

・助成額算定書(共通様式)

・休業・教育訓練実績一覧表及び所定外労働等の実施状況に関する申出書
(共通様式)

・支給要件確認申立書
(共通様式)

・休業協定書

・事業所の規模を確認する書類

・労働・休日及び休業・教育訓練の実績に関する書類
(出勤簿・タイムカード・賃金台帳など)
先書類に加え、以下の書類が必要。

【共通】
・各受講者の受講を証明する書類
(受講者本人作成のレポートなど)

【事業所内訓練の場合】
・教育訓練の計画内容が確認できる書類
(対象者、科目、カリキュラム、講師、期間など)
・指導員や講師が確認できる書類

【事業所外訓練の場合】
・教育訓練の計画内容が確認できる書類
(実施主体、対象者、科目、カリキュラム、期間など)
・受講料の支払いを証明する書類
・支給申請合意書(訓練実施者によるもの)

申請期限 支給対象期間の末日の翌日から2カ月以内

締切日を1日でも過ぎると、支給申請は受け付けてもらえません。申請期間は2カ月以内と限られています。的確に申請を行うには、専門家である社会保険労務士などの力を借りるのも一つの方法です。

雇用調整助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

助成金について相談する人

雇用調整助成金の特例措置について、通常時との比較などを交えて解説しました。

助成金の制度は今後も、短期間のうちに変更が繰り返されていくものと思われます。新型コロナウイルス感染症の影響が収まれば打ち切り、感染拡大がさらに長期化すればさらに拡充といった変更も考えられます。

最新の情報を常に把握し、正確に理解して申請を行うことは簡単ではなく、事業の運営に注力したい事業主の方には大きな負担となるでしょう。

当社Bricks&UKでは、優秀な社会保険労務士が雇用調整助成金にかかる計画から申請までトータル的にサポートしています。雇用調整助成金の利用をお考えの際は、ぜひご相談ください。

監修者からのコメント 新型コロナウイルス感染症による特例措置により、中小企業の助成率は解雇がなければ10/10に引上げられています。 上限額以下の休業手当の支払いであれば、全額国の負担となります。 従業員の雇用を守るためにも、この制度を積極的に活用していただきたいと思います。 ご不明な点がございましたら、Bricks&UKまでお問い合わせください。

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