「事業再構築補助金」は主に中小企業を対象とした補助金で、2024年9月現在まで12回の公募が行われています。
しかし直近の第12回では、有識者からの「コロナ禍対策としての役割は終わりつつある」「審査の厳格化やデータ収集の仕組みづくりが必須」といった指摘を受け、制度が大きく見直されました。今後の動向も見逃せません。
この記事では、事業再構築補助金の基礎知識として、制度の概要や申請の流れ、補助対象となるための要件をわかりやすく解説。最後に、活用をおすすめしたいその他の補助金も紹介します。
目次
事業再構築補助金とは
まずは、事業再構築補助金が具体的にどんな制度なのかをおさらいしておきましょう。
制度の概要
事業再構築補助金は、ウィズコロナ・ポストコロナの環境変化に対応すべく新分野への進出や事業転換などを図る中小企業や小規模事業者などを支援するために作られた制度です。
管轄は経済産業省(中小企業庁)で、コロナ禍の令和3年3月から公募が行われています。
事業転換などに要した費用の一部が助成されるものであり、返済は不要です。ただし、実際に補助金が振り込まれるのは、交付決定後に費用を支払い、対象経費となるかどうかの審査に通った後です。
自力で申請できる?
補助金の申請に関しては、「専門家に依頼すれば費用がかかる」「自力でなんとかしたい」と思う人もいるでしょう。実際のところ、交付を受けるには専門家のサポートが必須です。
というのも要件の1つに、提出する事業計画を金融機関か認定支援機関に確認してもらうことがあります。また、専門家のサポートなしで交付要領のすべてを理解し、ミスなく書類を揃えて手続きするのはかなり困難です。専門家のサポートがあっても、採択率は低いのが現状です。
ただし事業再構築補助金は、事業主本人が事業計画を作成し、応募・交付申請なども自身で行う必要があります。専門家に任せきりにはできません。
認定支援機関とは…
正式には「認定経営革新等支援機関」といいます。税務や金融、企業財務の専門知識や支援実績が一定レベル以上あると見なされた専門家を指します。
中小企業庁に申請し、認定を受けた税理士や弁護士、中小企業診断士、商工会などが名を連ねています。
第12回公募における見直し
令和5年秋に行われた有識者による制度検証で、次の3点が指摘されました。
- 新型コロナ対策としての役割は終わりつつあるので、その部分は廃止もしくは抜本的に見直すべき
- 申請書等の精査、四半期ごとのモニタリングなどの仕組みが確立されない限り、新規採択はいったん停止すべき
- 審査の厳格化、データ収集の厳格化について引き続き十分な検討が必要
このため第12回公募では、新型コロナ対策として設けていた枠や特例は廃止し、ポストコロナへの対応やいまだコロナ債務を抱える事業者への支援を強化しています。
また、採択時の類似・重複案件排除の強化や、事業化段階での四半期報告のルール化なども行われています。
第12回は実施されたものの、今後も制度の見直しや廃止の可能性があります。
補助の大まかな流れ
まずは補助対象となる事業計画書(3~5年)を作成し、審査を受けます。審査により交付候補者として採択されたら交付申請を行い、交付が決定したら、補助対象となる設備投資など(補助事業)を行います。
補助事業の実施後、事業実績報告書を提出、検査により補助額が確定します。
補助金が支払われた後、事業計画にもとづく事業を実施。その間は毎年、事業化状況報告書を提出する必要があります。流れについては、後の章でも改めて説明します。
公募回と公募締切
公募は期間を区切って行われていますが、不定期です。直近では、第12回公募が令和6年4月23日~7月26日の期間で行われました。
補助金交付候補者の採択の発表は、令和6年10月下旬~11月上旬ごろに行われます。
次回の公募については未定です。最新情報は事業再構築補助金の公式サイトからの情報を待つしかありません。
事業再構築補助金の種類(枠と類型)
事業再構築補助金には、補助対象によって異なる複数の枠と事業類型があります。第12回公募は、次の3つの枠、5つの事業類型があります。
枠・事業類型 | 補助対象 | |
---|---|---|
成長分野 進出枠 | 通常類型 | ・ポストコロナに対応し、成長分野への大胆な事業再構築を図る事業者 ・国内市場の縮小などの課題に直面する業種・業態の事業者 |
GX進出類型 | ポストコロナに対応した、グリーン成長戦略14分野の課題解決に取り組む事業者 | |
コロナ回復加速化枠 | 通常類型 | 今もコロナ禍の影響を受け、債務の借り換えや事業再生への取り組みを行う事業者 |
最低賃金類型 | 地域別最低賃金の引き上げに大きく影響を受ける事業者 | |
サプライチェーン強靭化枠 | ポストコロナに対応した、国内サプライチェーンの強化に取り組む事業者 |
上記は、第11回までの枠組みとは異なり、ポストコロナへの対応といまだコロナ禍から脱却できない事業者への支援が重点化されています。今後の回でも変更となる可能性があるので、必ず最新情報を確認してください。
補助の要件と対象経費
事業再構築補助金の補助を受けるには、要件をすべて満たさねばなりません。「事業再構築」と見なされる事業の定義と、補助対象者の主な要件、対象となる経費の要件を見ていきましょう。
「事業再構築」の定義
事業再構築補助金を受けるには、次のいずれかの「事業再構築」に当てはまる事業計画を立てる必要があります。
事業再構築の種類 | 概要 |
---|---|
新市場進出 | 新分野への展開、業態の転換 新たな製品・サービスで新たな市場に進出 |
事業転換 | 主として行う事業を別の事業に変える |
業種転換 | 主として属する業種を別の業種にする |
事業再編 | 組織の合併や分割等により、新市場進出か事業転換、業種転換のいずれかを行う |
国内回帰(※) | 海外製造する製品について、最新かつ優れた生産能力を持つ拠点を国内に整備する |
地域サプライチェーン維持・強靭化(※) | 地域のサプライチェーンで必要不可欠かつ供給不足(可能性含む)の製品について、最新かつ優れた生産能力を持つ拠点を国内に整備する |
表内※印は、サプライチェーン強靱化枠への申請が対象です。
事業再構築補助金の基本要件
上項の内容を踏まえ、いずれの枠についても、次の3点をすべて満たすことが必須の要件です。
- A)上項の「事業再構築」の定義に当てはまる事業であること
- B)金融機関や認定支援機関とともに事業計画を作成し、確認を受けること
- C)補助事業の終了後3~5年で次のいずれかを達成すること
- 付加価値額の年平均成長率を3~5%以上増加
- 従業員1人あたりの付加価値額の年平均成長率を3~5%以上増加
増加させる成長率の値は、事業類型により異なります。さらに、枠ごとに異なる要件も満たす必要があります。
たとえば「成長分野進出枠(通常類型)」では、基本要件のCの年平均成長率の増加は4%以上が必要です。
また、「取り組む事業の市場規模が過去~今後のいずれか10年間に10%以上拡大する業種・業態に属していること」、「もしくは逆に10%以上縮小する業種・業態に属していること」などの要件があります。
補助対象となる経費
新事業の展開や事業転換など、取り組みに要した費用の一部が補助対象となります。ただし、申請する事業に必要とした費用であることを明確にしなければなりません。
サプライチェーン強靭化枠を除き、対象となる経費は次のようなものです。
- 建物費(建物の建設・改修などにかかった費用)
- 機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入・リースなど)
- 技術導入費(知的財産権導入にかかる経費)
- 外注費(商品開発に関する設計・加工など)、専門家経費
- 広告宣伝・販売促進費
- 研修費(教育訓練、講座の受講など)
専門家経費には、事業計画書の作成時に支払った費用は含まれません。
サプライチェーン強靭化枠では、上記のうち「建物費」と「機械装置・システム構築費」のみが対象です。
また、全枠共通で次のような費用は対象外となっています。
・人件費、旅費 ・不動産・株式 ・車両・PCなどの購入費 ・フランチャイズ加盟料 ・消耗品費、光熱水費、通信費 など |
公募の流れとスケジュール
事業再構築補助金の申請は、次のような流れで進めます。申請の受け付けは電子申請システムのみで行われます。
- 1)自社の課題の把握
- 2)公募要領の確認
- 3)取り組む事業の検討
- 4)GビズIDの取得
- 5)事業計画書の作成、公募申請
- 6)交付候補者の決定(採択)
- 7)交付申請→交付決定
- 8)設備投資等の実行
- 9)実績報告書の提出
- 10)確定検査→補助額の決定
- 11)補助金の請求→補助金の支払い
- 12)事業計画にもとづいて新規事業を実施
- 13)事業化状況報告、知的財産等報告
補助金は、まず事業計画書を提出し、交付の候補者として採択されなくてはなりません。ちなみに直近の第12回公募での採択率は26.5%であり、簡単でないことがわかります。
採択されるのに必要なのは、優れた事業計画を策定することです。優れた事業計画とは、自社の課題を解決できる事業、かつ補助金の交付に値する事業について練った、具体的かつ現実的な計画です。
また、採択されても「候補者」となったにすぎず、交付が確約されたわけではありません。
その後、交付の申請・決定を受けて設備投資などを実施、実績報告書を提出して補助額が決定されます。対象外の経費があった、報告の締め切りを過ぎてしまった、といった場合、一部あるいはすべてが補助の対象外となります。
要件を満たすことも必須ですが、決められた手続きを順に踏むこと、締切を厳守することも必須です。
事業再構築補助金の申請で注意すべきこと
冒頭で述べたように、事業再構築補助金の制度は審査が厳格化されています。そのため、少なくとも次の点には注意が必要です。
事前着手届出制度は原則として廃止
10・11回公募では、事務局に事前着手届を出して認められれば、交付決定前でも購入契約や発注が認められる措置が取られました。
しかし12回公募では、事前の購入契約や発注分は原則補助対象外となりました。ただし経過措置として、コロナ回復加速化枠またはサプライチェーン強靭化枠に申請する場合のみ、一定の条件下で可能となります。
次回以降は事前着手届出制度が完全に廃止されることが決定しています。
補助対象外の事業がある
次のいずれかに当てはまるような事業は補助の対象となりません。もし採択されたとしても、交付審査などで発覚すれば採択は取り消されます。
- 企画のみを行い、実施の大半を他社に外注・委託する
- グループ企業がすでに実施中など、容易に実現可能である
- 不動産賃貸・駐車場経営、資産運用的事業など、実質的な労働を伴わない
- 会員制ビジネスであり、会員の募集・入会が公に行われていない
- 建築・購入した施設などを事業に使うことなく第三者に長期間賃貸させる
- 新たに取り組む事業が1次産業(農林水産業)である
- 従業員を解雇するなどして付加価値要件を達成させる
- 同一事業者による複数の申請、または他社と同一・類似の事業である
- 他の補助金・助成金など、国や公的制度からの二重受給となる
この他、風営法や暴対法に規定する一部の事業なども対象外です。
また、虚偽の申告や法に違反する事業や、公序良俗に反するような事業、消費者保護の観点からふさわしくない事業も対象外です。制度の趣旨に沿わないと見なされた場合も補助は受けられません。
中小企業におすすめのその他の補助金
事業再構築補助金以外にも、事業に活用できる補助金は複数あります。ただし公募期間が限られているため、公式サイト等で最新情報を確認してください。
ここでは主な補助金4つを紹介します。
ものづくり補助金
ものづくり助成金は、これまでにない革新的な商品やサービスを開発したり、生産プロセスを改善したりする中小企業を支援する補助金です。設備投資の一部が補助されます。
補助金を受けるための基本要件は、設備投資により付加価値額と給与総額を増加させること、事業場内最低賃金の引き上げを行うことです。
補助内容は申請枠・類型や従業員人数により異なります。たとえば「省力化(オーダーメイド)枠」の場合、補助率は2分の1もしくは3分の2、補助の上限は最大1億円(従業員100人以上、大幅な賃上げ実施の場合)です。
IT導入補助金
IT導入補助金は、自社の課題解決のためにソフトウェアやクラウドサービスなどの「ITツール」を導入した企業を対象とする補助金です。導入・設定に要した費用が一定限度内で助成されます。
導入するITツールは、事前に補助金事務局に登録されたものに限ります。また、申請にはIT導入支援事業者となっている企業による協力が必須です。
補助内容は申請枠・類型により異なります。2024年度の補助率は最大で2分の1、補助上限は最大450万円です。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、自社の経営を持続させるための販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する補助金です。
補助対象となるのは、従業員数20人以下の製造業や宿泊・娯楽業、従業員数5人以下の商業・サービス業に該当する小規模事業者です。
補助内容は申請枠・類型により異なります。創業枠では補助率が3分の2、補助の上限は200万円です。
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、人材不足に悩む中小企業が、省力化につながるロボットや機器、システムなどを導入することを対象とした補助金です。
導入する製品は登録されたリストから選ぶ必要があり、販売事業者と共同で労働生産性の向上を目指すことも要件となっています。
補助率は2分の1、補助の上限は従業員数や賃上げの達成状況により異なり、最大で1500万円(従業員21名以上、給与総額と事業内最低賃金の引き上げで目標を達成した場合)です。
補助金の申請もBricks&UKにおまかせ
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症による打撃からの回復を目指して新分野への進出や、事業・業種・業態の転換、事業再編などに挑む中小企業を支援する制度です。
これまで12回にわたり公募されてきましたが、コロナ禍の収束による有識者からの指摘を受け、この補助金の役割も変わろうとしています。今後の応募を考える場合は、公式サイトなどからの情報を常に確認しましょう。
最新情報をキャッチし、補助金を有効活用するには、専門家と連携するのが一番の方法です。
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監修者からのコメント 事業再構築補助金は、当時コロナの影響で本業を続けることが難しくなった方のために、コロナ禍でも続けられる違う分野に進出する支援を行って事業を継続してもらうために始まりました。
現在はコロナの影響も少なくなり、補助金自体のあり方が問われている状況です。
事業再構築補助金は数多くある補助金の中でも難しい補助金です。
申請をお考えの方は、弊社のような認定支援機関へ一度ご相談ください。