【重要】※令和5年4月追記
本文記載内容は、執筆当時の内容です。
「雇用調整助成金」のコロナによる特例措置は、令和5年3月31日をもって終了となりました。
変更となった令和5年4月以降の支給要件等については、こちらの記事で解説しています。
雇用調整助成金の制度は、新型コロナウイルス感染症の影響にともない従来の制度を拡充し、特例措置として実施されています。
従業員をやむなく休業させた場合の経済的ダメージを支援するための助成金ですが、どのようなケースで支給されるのか、いまいちわかりにくい、という声も聞かれます。
雇用調整助成金の受給には、従業員の休業→休業手当の支払い→雇用調整助成金申請 という一連の流れが必要です。この記事では、この中の「休業手当の支払い」について解説していきます。
目次
休業手当とは
休業手当の定義
休業手当とは、使用者の責任による事由で従業員を休ませたときに支払う手当のことです。その額は労働基準法第26条で、平均賃金の6割以上と定められています。
対象は、正社員、パート、アルバイト、契約社員などすべての従業員です。
休業手当と休業補償の違い
「休業手当」と似たような言葉に「休業補償」があります。
休業手当とは、使用者都合で従業員を休ませたとき(労働者に働く意思と能力があるとき)に会社が支払うものです。
これに対し休業補償は、業務上の怪我や病気のために働けなくなったとき(労働者に働く能力がないとき)に労災保険から従業員に支払われるものです。会社が直接負担するものではありません。
ちなみに「傷病手当金」は、健康保険から支払われる病気やケガなどの際の所得補償の名称です。
休業手当の支払いが必要なケース、不要なケース
では休業手当の支払いが必要となる「使用者側に責任がある」とは具体的にどういうことなのか、休業手当の要・不要の例を見てみましょう。
休業手当の支払いが必要なケース
休業手当の支払いが必要なのは、次のような場合です。
- コロナ禍で売上が減少し経営不振におちいったために休業した
- コロナ禍で資材が入荷せず操業不能となったために従業員を休ませた
- 新型コロナウイルスへの感染が疑われる従業員を、企業の自主的な判断で休ませた
上の2つはいずれも使用者の責任かどうかの判断が難しいところですが、コロナ禍という特殊な事情もありそのような解釈をされるのが一般的となっています。
休業手当の支払いが不要なケース
休業手当の支払いが不要なのは、休業が不可抗力によるものだった場合です。
ここでいう「不可抗力」とは、次の2つの要件を満たす事故でなければならないとされています。
- 事業と関連のないところで発生した
- 使用者が最大の注意を尽くしてもなお避けられなかった
たとえば従業員が新型ウイルスに感染し、感染症法による就業制限で会社を休んだとしても、会社側に責任はないので休業手当の支払いは不要です。
ただし、就業制限が解除されてもなお出社を控えるよう指示するなどした場合には、休業手当の支払いが必要となる可能性もあります。
休業手当の支払いが不要なときの従業員への救済
使用者の責任の有無に関係なく、無給で休業した従業員の収入は当然ながら減ってしまいます。
会社から休業手当が支給されない場合には、厚生労働省が直接労働者に支払う休業支援金の制度が利用できます。
また、休業手当の支払いが不要であっても、使用者が善意で休業手当を支払うケースもあります。
その休業が経済的にやむを得ない事情によるものであれば、会社側は支払った手当の額に応じて雇用調整助成金を受け取れます。
緊急事態宣言下での休業手当の支払い義務について
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」などにもとづき、行政から協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させるときは「不可抗力」にあたり、休業手当の支払いは不要です。
しかし、それに対する必要な対策を取らないと休業手当の支払義務が生じるので、注意が必要です。
使用者側には、自宅勤務を許可する、一時的に業務をシフトするなど休業を避ける努力をする必要があります。
たとえば、自宅勤務が可能な業務なのに休ませる、別の業務ならできるのにさせないなどの場合には、不可抗力とは見なされず、休業手当の支払が必要となることもあるのです。
休業手当の計算方法
前述のとおり、法律上、事業主の責任による休業については、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があります。
では、休業手当のもとになる平均賃金の計算方法を見ていきましょう。平均賃金の計算は、通常の計算方法で算出するほか、日給などの場合には最低保障額も計算していずれか高い方を平均賃金と見なします。
まずは一般的な平均賃金の計算です。
平均賃金の計算方法
平均賃金は、原則として次の算式で求められます。
原則としての計算方法
休業を開始した日以前の3カ月間に支払われた賃金の総額 ÷ この3カ月間の総暦日数
賃金の総額には、通勤手当、精勤・皆勤手当、時間外手当などを含みます。賞与は、3カ月以上の間隔で支払われるものは除きます。また、臨時に支払った結婚手当、退職金、現物給与なども除きます。
このとき、就労中のケガや病気による休業、産前産後や育児・介護のための休業、会社側都合による休業の期間や試用期間は除外して計算します。
入社後3カ月に満たない場合は、入社後の期間とその期間中の賃金で計算します。
ちなみに、労働基準法では休業手当は「平均賃金の6割『以上』」と規定されており、「6割」とは最低限の数字です。
最低保証額の計算方法
給与の支払い形態が日給制や時間給制、出来高給制の場合には、例外的に最低保障額が定められています。最低保障額は次の算式で求めます。
(休業日以前3カ月間に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の労働日数) × 0.6
上記の原則的な計算式で出した金額よりこの最低保障の額の方が高ければ、最低保障額の方を平均賃金と見なします。
一般的な平均賃金による休業手当の計算例
次のような例で、実際に計算してみましょう。
業種 | 製造業 |
従業員数 | 1名 |
賃金締切日 | 毎月20日 |
休業を開始した日 | 7月10日 |
自宅勤務や他の仕事への転換などはできないものとします。
最近3カ月分の賃金は次のように仮定します。
・6月分(5/21~6/20)賃金:21万円
(基本給20万円、通勤手当1万円)
・5月分(4/21~5/20)賃金:23万円
(基本給20万円、通勤手当1万円、残業手当2万円)
・4月分(3/21~4/20)賃金:22万円
(基本給20万円、通勤手当1万円、残業手当1万円)
ではまず、1日の平均賃金を計算します。
平均賃金=(21万円 + 23万円 + 22万円)÷(31日 + 30日 + 31日)≒ 7,173円91銭
この平均賃金をもとに、休業手当を計算します。
6月21日~7月20日までの間、20日間の勤務予定だったところ7月10日より使用者都合で7日間休業させた(それまでの13日間は予定どおり勤務) という設定でした。
休業手当(1日あたり)= 7,173円91銭 × 0.6 ≒ 4,304円34銭
<休業7日間分>4,304円34銭 × 7日 = 30,130円38銭
円未満の端数は四捨五入のため、30,130円となります。
この手当は、休業していない13日間分の賃金とともに賃金支払期日に支払わなければなりません。
賃金の端数処理について
休業手当の算出にあたり、1時間あたりの賃金額および割増賃金額や1カ月の賃金総額に1円未満の端数が生じたときは四捨五入します。
最低保障額を平均賃金とする場合の休業手当の計算例
最低保障額が平均賃金と見なされる場合の計算例も見ておきましょう。
設定は次のとおりです。
職種 | 製造業 |
従業員数 | 1名 |
賃金締切日 | 毎月20日 |
休業を開始した日 | 7月10日 |
自宅勤務や他の仕事への転換などはできないものとします。
最近3カ月分の賃金は次のように仮定します。
・6月分(5/21~6/20、労働日数15日)賃金:12万円
・5月分(4/21~5/20、労働日数10日)賃金: 8万円
・4月分(3/21~4/20、労働日数5日)賃金:4万円
まずは原則の平均賃金を計算します。
(12万円 + 8万円 + 4万円) ÷ (31日 + 30日 + 31日) ≒ 2,608円69銭
最低保障額を計算します。
(12万円 + 8万円 + 4万円) ÷ (15日 + 10日 + 5日)× 0.6 = 4,800円
上の2つの結果を比べると、原則の平均賃金よりも最低保障額の方が高くなっています。そのためこの場合は平均賃金を最低保障額の4,800円と見なします。
この平均賃金をもとに、休業手当を計算します。
6月21日~7月20日までの間、15日間の勤務予定があったにもかかわらず、7月10日から使用者都合で5日間休業させた(それまでの10日間は予定どおり勤務) とします。
休業手当(1日あたり) = 4,800円 × 0.6 = 2,880円
<休業5日間分>2,880円 × 5日 = 14,400円
これも通常どおり勤務した他の10日間分の賃金とともに、賃金支払期日までに支払う必要があります。
特例措置により拡充された雇用調整助成金
雇用調整助成金の制度は、新型コロナウイルスの蔓延で特例措置が設けられています(コロナ特例)。その支給要件も、社会情勢などを考慮して緩和あるいは追加などが随時行われています。
たとえば短時間休業は、以前は事業所内の従業員すべてが一斉に休業した場合に限って助成の対象となっていました。しかしコロナ特例では、一部の部署のみやシフト別での休業(1時間以上)も対象となっています。
また、休業の延べ日数(所定労働日数 × 対象従業員の数)の割合についても、中小企業では20分の1必要だったものが40分の1で対象となるよう要件が緩和されています。
雇用調整助成金の支給申請の注意点
対象者で要件を満たしていれば受給確率の高い助成金ですが、手続きがわかりにくいとも言われています。
申請時には次のようなことに注意しましょう。
- 申請期限は必ず守ること
- 申請書類、添付資料は完璧に用意すること
- 雇用契約書、就業規則、給与明細、タイムカードの整合性がとれているか確認しておくこと
- 最新の追加・変更の情報をよく確認すること
申請期限がいつであるかの管理や、申請書類・関連書類の入念なチェックは欠かせません。
申請時に不備を指摘された場合には、修正して再提出する必要があります。特に最初の申請は不慣れなこともあり、必要なものが抜けることも多いので慎重に、時間と気持ちに余裕をもって準備しましょう。
また、通常時からの雇用・労務関連の書類の運用・管理にも注意が必要です。慣例で続いていた処理方法が不適切と見なされ、申請が不正扱いされることもあります。こうした審査は、助成金の受給後に入る可能性もあります。
そんなときに頼りになるのが、社会保険労務士(社労士)です。助成金申請業務の専門家として国に指定されている社労士は国家資格であり、雇用、労災、社会保険など労務全般に関するエキスパートなのです。
まとめ
社員をやむなく休業させ、休業手当を支払った事業主を助成する雇用調整助成金制度。この記事では、その対象となる休業手当について解説しました。
休業手当は、企業側の都合で従業員を休ませた場合に支払うべきとされているものです。新型ウイルス感染症の蔓延それ自体は事業主に責任が問われるものではありませんが、施すべき処置をしていなかった場合などには支払い義務が発生することもあるので注意が必要です。
休業手当は平均賃金の6割以上とされていますが、給与形態によっては最低保障額が適用されることもありますので注意してください。
休業手当の計算や雇用調整助成金の申請について不明な点があれば、専門家である社会保険労務士へのご相談をおすすめします。
就業規則を無料で診断します
労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。
こんな方は、まずは就業規則診断をすることをおすすめします
- 就業規則を作成してから数年たっている
- 人事労務トラブルのリスクを抱えている箇所を知りたい
- ダウンロードしたテンプレートをそのまま会社の就業規則にしている
監修者からのコメント 今回のコロナ禍において、初めて休業手当の計算をされた事業主様も多いと思います。 休業手当のもととなる平均賃金は、解雇予告手当やアルバイトの年次有給休暇の賃金を計算する際などにも使われます。 この機会に計算方法をマスターしておくと良いでしょう。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。