景気の急激な悪化などによる経済的な事情により事業活動の縮小を余儀なくされ、やむなく休業する際に活用できるのが「雇用調整助成金」です。従業員を休業させ、休業手当を支給した場合に助成が受けられます。
ただし雇用調整助成金を受給するには、休業する前に労使間で休業協定を締結し、休業協定書を作成する必要があります。
この記事では、休業協定書の基礎知識や作成のポイント、注意点を解説します。
目次
雇用調整助成金の申請に必要な様式と手続きの流れ
まず、雇用調整助成金の申請には、書類に決まった様式を使う必要があります。申請するのが小規模事業主なのか大企業なのか、休業実施日が一定の期間内にあるかどうかなど、ケースによって使う様式が異なるので注意してください。
また、申請書類の様式が異なるだけでなく、それぞれのケースで必要となる添付書類(事実を確認するための資料)も異なります。それぞれの助成金の最新の要件を必ず確認し、必要な書類を揃えましょう。
揃えた書類は、労働局の窓口へ持参するほか、郵送やオンラインでの申請も可能です。
申請期限を過ぎると受け付けてもらえないので注意してください。特に郵送は期限までの必着です。
雇用調整助成金の申請に必要な休業協定書とは
休業協定とは、休業の条件を労使間の協議によって決めることです。これを文書化したものを「休業協定書」と呼びます。休業協定では主に、休業期間や休業の対象者、休業手当の支給率などについて話し合います。
休業をして雇用調整助成金を申請する場合には、この休業協定書を申請書とともに提出する必要があります。
また、休業に伴って教育訓練を実施した場合には、助成金額の加算が受けられます。その際は提出書類として「教育訓練協定書」も必要です。
教育訓練協定書は、教育訓練の時期、教育訓練の対象者、教育訓練の内容、賃金の支払い基準などを定め、文書化したものです。
休業期間中に教育訓練の実施を予定しているならば、教育訓練協定書もしっかり作成しましょう。
休業協定書の作成方法
ここでは、休業協定書の作成方法について、実際の流れに沿って順に解説していきます。
- 1)労働者代表の選定
- 2)休業協定書の記載事項を決定
- 3)労働者代表と協定を締結
1)労働者代表を選任する
休業協定は、労使間で結ぶものです。このため、経営陣との協議にあたる代表者を労働者の中から選ぶ必要があります。事業所が複数ある場合には、事業所単位で代表者を選任します。
労働者代表の選任方法
労働者代表の選任方法は、36協定等の選任方法と同じです。一般的には、投票や挙手などにより労働者の過半数の支持を受けた候補者が代表となります。
具体的には、全従業員に対して労働者代表の選出を告知し、自薦あるいは他薦によって候補者を決定した後、候補者の数によって次のように決定します。
候補者の数 | 決め方 |
複数 |
労働者全員による投票にて選出 |
1人 | 労働者全員に回覧で知らせ、過半数の承認を得て選出 |
候補者が複数いる場合、小規模事業所であれば挙手での選出も可能です。
労働者代表選任時のポイント
選任の際には、公正かつ民主的な方法を用いる必要があります。当然ながら、会社側が代表者を推薦する、推薦の際に圧力をかけるなどの行為は認められません。
また、立場的に強い権限を持つ人、たとえば工場長や部長などの実質的な「管理監督者」も従業員代表にはできません。
さらに、選出方法を明確にして根拠となる記録を残しておくこと、選出されたことを理由に当該労働者に不利益となる扱いをしてはならないことにも留意する必要があります。
2)休業協定書に定めるべき事項を決める
休業協定書に定めるべき事項は、以下の4つです。
休業の予定時期(始期・終期)、およびその間の休業日数など
まず、休業の実施を予定している期間と、その期間中の休業日数を定める必要があります。
労働者ごとに休業日や休業時間が異なる場合には、労働者別に考えるのではなく、1人でも休業予定とされていれば休業予定日と考えます。
休業の時間数
休業時間は、原則として1日の所定労働時間(またはそれに対応する始業時刻と終業時刻)とします。短時間休業を実施する場合には、1日当たり何時間の休業を実施するかを明記します。
工場や部署などによって対応が異なり、休業時間数が複数にわたる場合には、別紙にまとめることも可能です。
さらに、労働者1人あたりの時間数、全労働者の延べ時間数の予定がある場合には、その旨を付け加えておきます。
休業の対象となる労働者の範囲と人数
休業を実施する工場や部門によって異なる場合には、それぞれの工場・部門で何人の休業を実施するかを記載します。休業対象の労働者数が確定していれば確定人数、未確定であればおよその数で問題ありません。
休業手当の額の算定基準
労働基準法の規定により、休業期間中の休業手当には平均賃金の6割以上の額を支払わなければなりません。したがって休業協定書には、休業手当の算定基準となる賃金およびその支払い率を明記します。
このとき、基本給だけではなく諸手当についても協議し、「基本給は〇%、基本給以外は〇%支給する」などの記載が必要です。
休業協定書の様式は各都道府県の労働省のサイトでダウンロードが可能です。
3)労働者代表と協定を締結する
原則として、休業協定は休業開始日より前の段階で締結するものです。
協議内容が確定し、休業協定書を作成したならば、事業主代表と労働者代表がそれぞれ記名・押印することで締結完了となります。
休業協定書作成時の注意点
休業協定書の作成には、いくつかの注意点があります。
休業期間・日数の設定
休業した日数分の助成金を確実に受給するためには、休業日が協定で設定した1年以内の休業期間と日数に収まっていることが重要です。
また、休業の延べ日数についての要件(休業規模要件)もあります。対象者の所定労働日数の、中小企業は20分の1、大企業は15分の1以上となった場合に支給対象となります。
休業協定書で定めた休業予定期間・日数を超過した場合、超過日数分の助成金は支給されません。
休業期間・日数を変更する場合
ただ、休業開始後に期間を延長することもあるでしょう。その場合には、次のような流れで手続きを行います。
- 1)休業予定期間を新たに設定し、協定を締結する
- 2)新たな休業予定期間を記載した休業協定書を作成する
- 3)雇用調整助成金の申請時に新たな休業協定書を提出する
もともとの制度では、休業前に計画書を作成・提出する必要があったため変更時にも計画変更届が必要でした。しかし新型コロナによる特例措置で計画届は不要となりました。
特例は令和5年3月31日をもって経過措置含め終了となりましたが、令和5年4月1日以降の休業等についても令和5年6月30日までの間は計画届の提出が不要となっています。
複数の事業所で休業する場合
複数の事業所(支店や営業所、工場など)で休業を実施する場合、事業所単位で休業協定を締結する必要があります。休業協定書は事業所ごとに作成し、提出するものとされています。
複数の事業所をひとまとめにした休業協定書は認められないので注意してください。
休業の開始時期
休業協定は、休業の実施前に締結するものです。従来の雇用調整助成金では、休業協定書は「休業開始の2週間前までに」休業等実施計画届と合わせて提出する必要があります。
労働者代表選任書と委任状の簡素化
休業協定書を提出する際には、次のような書面も添付します。
労働組合がある場合 | 組合員名簿など |
労働組合がない場合 | 労働者代表選任書、委任状 |
自社に労働組合がない場合、添付する労働者代表選任書や委任状には、従来は従業員の半数以上による記名・押印が必要です。
しかし休業開始後(すでに従業員が自宅待機になった後)に休業協定書を作成・提出する会社では、記名・押印を集めるのが難しく問題となっていました。
このため、これについても緩和措置が実施されています。休業実績一覧表に労働者代表の署名があれば、添付を省略できます。
休業手当の計算間違いに注意
休業期間中の休業手当は、平均賃金の6割以上とすることが労働基準法で義務付けられています。休業手当支給率が6割を下回る場合は法令違反なので、雇用調整助成金の受給もできません。
このような間違いがあると、休業手当を支給するばかりで助成金は受給できず、経営をますます圧迫してしまいます。
また、休業手当の支給額は助成金の受給額に直結します。計算ミスがあれば、本来受け取れるはずの金額を受け取れなくなってしまいます。休業手当の計算は正しく行いましょう。
雇用調整助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ
雇用調整助成金の申請には、休業協定書の作成が不可欠です。しかし初めて作成する場合は難しく感じられるかもしれません。
要件等を把握していないと、せっかく協定した内容が助成金の支給要件を満たすものでなかった、休業手当の支給額に間違いがあった、などの理由により、助成金が受給できなくなるケースもあります。
雇用調整助成金の受給に不安がある方は、助成金の専門家である社会保険労務士に依頼するのが確実です。
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監修者からのコメント 休業協定書は労使間で休業について協議した内容を記載し、双方で締結するものです。 事業主が一方的に作成したり、代表者の選任を事業主が指名した社員にすると、その協定書の効力は無効となります。 これは休業協定書以外の36協定や賃金控除協定などでも共通です。 ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。