【雇用調整助成金】不正受給したらどうなる?

2021.05.12

2023.04.24

助成金の不正受給イメージ

新型コロナウイルスの影響で休業や予約キャンセルなどを受け、厳しい状況にある多くの事業主に利用されているのが「雇用調整助成金」です。

しかしコロナ禍に対する特例措置で申請が簡単になったこともあり、不正受給が増え、事業主が逮捕されるようなケースも出てきました。

この記事では、助成金を不正受給したときのペナルティについて解説します。

雇用調整助成金とは

【重要】※令和5年4月追記

本文記載内容は、執筆当時の内容です。
「雇用調整助成金」のコロナによる特例措置は、令和5年3月31日をもって終了となりました。


変更となった令和5年4月以降の支給要件等については、こちらの記事で解説しています。

雇用調整助成金とは何かを解説する女性

「雇用調整助成金」とは、業績が悪くなった企業が従業員を休ませるなどしたときに、国が休業手当などの一部を助成する制度です。

企業側の事情で従業員を休ませた場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。

しかし資金繰りが悪化すればそれすら難しく、従業員を解雇することになってしまいます。休業になっても雇用を維持し、資金繰りに困る事業主を救済するのが、この助成金です。

2020年より、新型コロナウイルスの特例として助成の上限額が上がり、手続きも簡単になりました。

通常は1日1人上限8,370円の助成のところ、特例では上限が15,000円です。また、通常は提出が必要な「休業等計画届」が不要になっています。


このところ、申請数は爆発的に増えました。令和2年4月の申請件数は約5,000件でしたが、5月が約11万件、6月が約24万件と増加し、令和3年3月までの約1年間には300万件を超える申請がありました。一方で、不正受給も増えています。

NHKによると、未遂も含めた不正受給は全国で58件以上、2億6724万円にも上ります(2020年4月中旬現在)。

雇用調整助成金の不正受給とは?不正受給が発覚する理由

不正受給とは、申請書類を改ざんしたり、嘘の報告をしたりして助成金を受け取ることです。

金額を受け取っていなくても、審査等の段階で不正が発覚し不支給となれば「不正受給」と同じように見なされます。

不正受給とは

助成金不正受給のイメージ

不正受給とはどんなものをいうのか、ここでは主なケースについて見ていきましょう。

実際は出勤した日も休業したことにする

1つめの例は、単純に休んでいないのに休んだと偽るケースです。例えば次のようなものが挙げられます。

・急に仕事が入り、休業予定だった従業員を働かせたが、そのまま休業したものとして申請した

・受注が回復し、休業させていた従業員を仕事に復帰させたが、休業を続けたと偽って申請した

有給休暇の取得を休業とする

休業させたのではなく授業員が自ら有給休暇を取ったのに、休業させたと偽るケースもあります。

・仕事がなくなり業績が悪化したことから従業員に有給休暇の消化をすすめ、それを休業と偽り助成金を申請した


有給休暇はもちろんのこと、無給の欠勤でも休業させたことにはならないので、不正な申請と見なされます。

雇用実態がない従業員を休業させたことにする

中には、架空の名前で申請書類を作成するケースもあります。

・従業員ではない架空の人物の出勤簿と賃金台帳を作成し、申請した


「不正受給」といっても、助成金が実際に支給されたかどうかに関わらず、虚偽の内容で申請をした時点で不正受給とみなされます。

また、故意でない場合、つまりわざとではなく助成金制度をよく理解していないだけでも、場合によっては処分の対象となるおそれがあるので注意が必要です。

不正はどのように発覚する?

不正の発覚にも、さまざまなケースがあります。

労働局の審査官や監査官による抜き打ち調査

抜き打ち検査

労働局は抜き打ちで事業者を訪問し、勤務簿や賃金台帳などをチェックします。

調査の対象は事業主だけでなく従業員にも及び、電話でのヒアリングや郵送でのアンケート調査をされることがあります。

コロナ禍で不正受給が多発したため、労働局では現在、調査を強化中です。

主導したコンサルタント経由での発覚

不正受給の発覚で落ち込む人

助成金の不正受給や詐欺には、コンサルタントを名乗る人物が主導して行うケースも見られます。

その自称コンサルタントが1つの申請案件で逮捕されれば、余罪が疑われ、それまで関わった会社が明らかになります。いわゆる芋づる式の不正発覚です。

従業員による通報

従業員による不正受給の通報

助成金請求の手続きをしていることを知った従業員が、「不正をしているのではないか」と疑い、労働局に相談することがあります。

ハローワークでは不正受給の情報提供を呼び掛けており、電話やメールの窓口を設けています。情報提供者の名前は事業主に知らされません。

家族などからの通報

不正受給者の家族による通報

不正をしている事業主が家族にそのことについて話し、家族が労働局に通報したケースも。

また、従業員の雇用実態がないのにハローワークから書類が届き、不審に思った家族が事業主を説得したケースもあります。

自主返還

不正受給を反省して自主返還の相談をする人たち

不正と知りつつ助成金を受け取っていた事業者が、自ら労働局や捜査機関に「誤って申請した」と返金を申し出たケースもあります。

不正受給者摘発のニュースなどを見て事の重大さに気づき不安や罪悪感にさいなまれたり、労働局の調査が来てどうしたらよいかわからなくなったりして、自ら受給したお金の返還を申し出るのです。

前述のように、不正受給したタイミングで詐欺罪は成立します。返金しても罪に問われる可能性はありますが、自首すれば減刑対象となり得ます。

不正受給が発覚したらどうなるか

平成31年4月から、不正受給は厳罰化されました。発覚すれば、事業主には次のようなペナルティが科せられます。

助成金の返還

返還する助成金の金額計算イメージ

助成金の受給後に発覚した場合は、不正に受給した助成金の全額だけでなく、①~③の合計金額を返金しなくてはなりません。

①不正受給により返還を求められた額

②不受給の翌日から納付の日まで、年5%の割合で算定した延滞金

③不正受給により返還を求められた額の20%に相当する額

たとえば不正に受け取った100万円の助成金を1年後に返還する場合、次のように計算します。

①100万円+②(100万円の5%=5万円)+③(100万円の20%=20万円)=125万円


以前は申請した事業主だけが返還請求の対象でしたが、現在は不正受給にかかわった社会保険労務士や代理人なども連帯債務者として返還請求されます。

さらに、不正受給が判明した時点で他に申請している助成金があればそれも不支給決定となるほか、今後の助成金申請の審査にも影響が出ます。

事業主名などの公表

不正を公表された事業主

重大又は悪質な案件だと認められた場合には、各都道府県労働局および厚生労働省の公式webサイトで、次のような情報が公開されます。

  • 事業主の名前と代表者の氏名
  • 事業所の名称と所在地
  • 事業の概要
  • 不正受給した助成金の名称や金額など
  • 不正の内容
  • 不正に関与した代理人や社会保険労務士などの名称や所在地など

会社の役員などが不正にかかわっていた場合には、その名前なども公表されます。

また労働局のサイトのみならず、新聞やテレビ、インターネットニュースで報道されることもあります。

助成金を不正に受け取ったとして事業所名が公開されれば、取引先や金融機関などにも不正受給の事実を知られます。

モラルやコンプライアンス軽視のレッテルが貼られ、企業のイメージや信頼性が大幅にダウンしてしまいます。

商号を変更したり代表者を交代したりしても、社会的信用の回復には時間がかかります。不正の発覚で業績悪化に歯止めがかからず、倒産した例もあります。

5年間の助成金支給停止

不正受給による支給停止イメージ

不正受給を一度でも行うと、以後5年間は雇用保険料を財源とするすべての助成金、つまりハローワークで扱うほぼすべての助成金は受給不可となります。

また、不正受給に関わった役員がほかの企業の役員でもある場合、その企業も5年間は助成金の受給はできません。

逮捕・有罪判決の可能性

助成金の不正受給による裁判のイメージ

労働局の調査で特に悪質だと判断された場合には、詐欺や脅迫、収賄罪として刑事告発されることもあります。

刑事告発されると「事件」として扱われ、不正受給を決意した経営者、不正と知りつつ申請した従業員など、関係者すべてに逮捕の可能性が生じます。

逮捕は、事前に知らされることもありますが、突然のこともあります。いきなり会社内を捜索され証拠を差し押さえられたり、捜査官があらわれて逮捕されたりします。

厚生労働省がパンフレットで明らかにしている不正受給の例では、実際には行っていない教育訓練を行ったと偽り緊急雇用安定助成金を不正に受け取ったとして、詐欺の有罪判決が下っています。

その例では、370万円の不正受給を行った事業主が詐欺罪で1年6カ月(執行猶予3年)の有罪判決を受けました。

悪質業者に注意!わからないことは専門家に相談を

助成金申請をそそのかす悪徳業者

「他の会社も同じようなことをしている」「申請する会社は多いから見つからないだろう」「社内で口裏を合わせておけば大丈夫」と、安易に助成金を申請するのは絶対にやめましょう。

不正受給で一時的に資金が増えたとしても、それによって社会的信用を失うなどリスクの方がはるかに大きく、取り戻すのは容易ではありません。

また、最近では悪質業者の勧誘にのってしまい、知らず知らずのうちに不正受給となってしまうケースもあります。そういった業者や人物は、困っている事業主に「助成金は簡単に受給できる」「よりたくさん助成金を受けられる方法を知っている」といった誘い文句で近づき、不正受給に巻き込みます。

悪質業者の業態は、経営コンサルタントや教育研修事業を装う業者、ネット関連業者が多いようです。また、普段から取引のある業者が「実はコンサル業もやっている」と近づいてくる場合もあります。

「経営コンサルタント」は、医師や弁護士、社会保険労務士のような国家資格ではありません。誰でも名乗れる名称であり、専門的な知識をもっているとは限りません。公的機関を連想させるような団体名を使っていることもあるので、名称のイメージだけで信用しないようにしてください。

雇用関係の助成金申請代行の正規の専門家は、国家資格を有する社会保険労務士です。それ以外の業者に任せると詐欺や悪徳商法に巻き込まれる可能性があります。助成金申請に不安な点や不明なことがある場合は、社会保険労務士に相談することをおすすめします。

雇用調整助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

信頼と安心のイメージ

長引くコロナ禍で、雇用調整助成金の不正受給が増え、労働局も監視を強化しています。「見つからないだろう」「簡単に通るだろう」という安易な考えは通用しないので注意が必要です。

不正受給が発覚すると、返還に延滞料などが加算され金銭的な損失となるだけでなく、社会的信用を失うという致命的なリスクが伴います。目先の利益に飛びついてしまうのはたいへん危険です。

自身に不正受給の自覚がなくても、巻き込まれてしまう可能性があるため、受給の申請には正規の専門家である社会保険労務士に依頼するのが賢明で確実な方法です。

当社Bricks&UKには豊富な実績をもつ社会保険労務士がたくさんおり、助成金の正しい知識にもとづいて適正な受給手続きを行います。ぜひお気軽にご相談ください。

監修者からのコメント 助成金の不正受給は詐欺行為として刑事告発される可能性があります。 不正と知っていて申請することは絶対にダメですが、不正とは知らずに不正なまま申請してしまうこともあり得ます。 少しでも不安なことがありましたら、遠慮なくご相談ください。

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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。

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