【新設】ものづくり補助金の活用術:産業連携人材確保等支援コースを解説

2024.01.24

産業雇用安定助成金の産業連携人材確保等支援コース

コロナ禍は落ち着きを見せたものの、景気や社会の変化などで事業にマイナスの影響を受けている企業は多いものです。

政府は、そんな中でも生産性の向上を目指して取り組む企業に対する支援として、産業雇用安定助成金に新たな「産業連携人材確保等支援コース」を設けました。

このコースの大きな特徴は、「ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠)」の交付決定が支給の前提であること。ものづくり補助金では補助対象とならない人材確保の費用が、産業雇用安定助成金の対象となっています。

今回は、産業雇用安定助成金に新設された「産業連携人材確保等支援コース」について解説します。

産業雇用安定助成金とは

産業雇用安定助成金とは

産業雇用安定助成金は、社会情勢など経済上の外的要因により事業の一時的な縮小などを余儀なくされた企業に対し、雇用維持に取り組むことを支援する制度です。

もともとは新型コロナウイルス感染症の蔓延により創設されました。状況の変化に伴い制度は改変されており、令和6年1月現在、あるのは次の3つのコースです。

  • 在籍型出向でスキルアップを図る「スキルアップ支援コース」
  • 事業再構築補助金の交付決定者が対象の「事業再構築支援コース」
  • 生産性向上に必要な人材を雇う「産業連携人材確保等支援コース」

事業再構築支援コースは令和5年4月、産業連携人材確保等支援コースは令和5年11月末に新設されたコースです。

まずはスキルアップ支援コースと事業再構築支援コースについておさらいしておきましょう。

スキルアップ支援コース

スキルアップ支援コースの受給の主な要件は、在籍型出向により従業員のスキルアップを図ること、復帰後の賃金を出向前より5%以上アップさせることです。

助成率は中小企業で3分の2、大企業は2分の1で、「出向中の賃金のうち出向元が負担する額」と「出向前の賃金の2分の1」のいずれか低い方に助成率をかけた額が支給されます。

助成期間は最長で1年間で、上限額は1日当たり8,490円、1事業所1年度あたり1,000万円です。

事業再構築支援コース

事業再構築支援コースの受給の主な要件は、事業再構築補助金の交付決定を受けていることと、再構築に必要な人材を新たに雇用することです。

助成額は、中小企業で1人あたり280万円、中小企業以外は1人200万円。2期に分けて支給されます。

助成期間は1年間で、支給限度は5名までです。

雇用維持支援コースは廃止

産業雇用安定助成金は、もともと雇用維持支援コースから始まりました。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方を支援する制度です。

しかしこのコースは、令和5年10月31日で廃止されています。

産業連携人材確保等支援コースについて

産業連携人材確保等支援コースについて

では、新設された「産業連携人材確保等支援コース」について詳しく見ていきましょう。

コースの概要と背景

産業連携人材確保等支援コースは、産業構造の変化や景気の変動など、外的かつ経済的な要因により、一時的に事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を対象とした助成金制度です。

令和5年11月に可決された政府の補正予算により、経済対策の柱の1つである「地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する」の実現に向けて創設されました。

受給の主な要件と助成金額

対象となる事業主の主な要件は、第17次「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(以下「ものづくり補助金」)の「製品・サービス高付加価値化枠」で事業計画書を申請し、交付決定を受けていることです。

生産性向上を図り、新たな専門的人材を雇い入れることで助成金が給付されます。

助成金額は、中小企業の場合、労働者1人につき250万円。1期と2期に分け、6カ月ごとに125万円ずつ支給されます。助成対象期間は1年で、1事業主あたり5人が上限です。

対象となる労働者の詳しい要件

雇い入れる労働者は、雇用保険の一般被保険者あるいは高年齢被保険者であり、契約は無期雇用でなくてはならず、パート従業員も対象となりません。また、ものづくり補助金の補助事業実施期間の初日から末日までに雇い入れる必要があります。

また、ものづくり補助金の交付決定を受けた事業に関する、次のいずれかの職務に就く場合のみが対象です。

  • 専門的な知識や技術が必要な企画・立案、指導(教育訓練など)の業務
  • 部下の指揮監督を行う、係長相当職以上の役職者

さらに、年間350万円以上の賃金が支払われる必要があります。この「賃金」とは、毎月決まって支払われる基本給などのことです。時間外手当や休日手当などは含みません。

業績の指標や雇用量に関する要件

産業連携人材確保等支援コースの受給には、業績の指標や雇用量についても次のような要件があります。

  • 生産量や販売量、売上高などが前年同期に比べて10%以上減少していること
  • 派遣労働者数による雇用量の指標が前年同期に比べて10%を超え、かつ4名以上減少していないこと

いずれも、比較対象となるのは「ものづくり補助金の事業計画書の申請月の前々々月から前月の3カ月間」と「前年同期」です。

たとえば令和5年3月にものづくり補助金を申請する場合、令和4年12月から令和5年1月の3カ月間と、令和3年12月から令和4年1月の3カ月間とを比較します。

産業連携人材確保等支援コースの具体的な手順と流れ

産業雇用安定助成金の申請の流れ

産業連携人材支援コースの申請は、ものづくり補助金の申請から行う必要があります。手順の流れや期限などに注意が必要です。

受給までの大まかな流れ

受給には、次のような段階を踏む必要があります。

  1. ものづくり補助金の手続きをする
    1. ものづくり補助金の事業計画書の申請
    2. 審査を受ける
    3. 交付申請をする
    4. 交付決定を受ける
  2. (補助事業実施期間内)対象となる人材を雇い入れる
    1. 雇用保険に加入させ、指定の職務につける
    2. 6カ月分の賃金を支払う
  3. 産業連携人材確保等支援コースの支給申請をする
    1. 第1期の支給申請をする
    2. 審査を受ける
    3. 支給(または不支給)の決定
    4. 助成金の受給

第2期も、第1期と同じく6カ月分の賃金支払い後に申請します。

支給申請が可能な期間と期限

支給申請は、6カ月の支給対象期ごとに行います。申請が可能な期間は、それぞれの支給対象期の末日の翌日から2カ月以内です。

支給対象期は、次の表の起算日から6カ月間です。

賃金締切日との関係 支給対象期の起算日
賃金締切日がある場合 雇い入れ直後の賃金締切日翌日
賃金締切日がない場合 雇い入れ日
賃金締切日に雇い入れた場合 雇い入れ日の翌日
賃金締切日翌日に雇い入れた場合 雇い入れ日

たとえば賃金締切日が15日で、10/1に対象者を雇い入れた場合、10/16~4/15の6カ月間が第1期の支給対象期となります。支給申請は4/16~6/15の2カ月以内にする必要があります。

支給申請の方法と必要書類

支給申請は、必要書類を揃えて都道府県の労働局かハローワークに提出します。

提出方法は、各所の助成金窓口に持参するか、郵送するかの二択です。オンラインでの申請はできません。

支給申請時に必要な書類は、支給申請書類(様式第1号~第5号)のほか、ものづくり補助金の交付決定を受けたとわかる書類、雇用契約書や賃金台帳、出勤簿などです。

産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)各様式ダウンロード|厚生労働省

申請時のポイントと注意点

助成金申請のポイントと注意点

産業連携人材確保等支援コースの申請には、確実に押さえるべきポイントや注意点があります。要件をすべて満たさないと受給はできないので気を付けてください。

ものづくり補助金の交付決定が必須

「産業連携人材確保等支援コース」助成金の申請には、第17次ものづくり補助金の補助事業者であることが必須です。つまり令和5年11月29日以降にものづくり補助金の事業計画書の申請を行い、交付決定を受けていなくてはなりません。

対象労働者の雇用は、補助事業の実施期間中に行わねばならず、過去(第16次以前)に補助金を受けていても対象とはなりません。

また、ものづくり補助金の申請時に提出する事業計画書には、「実施体制」の欄があります。この中に、人材確保に関する事項が記載されていることも必須です。

記載がない場合は、産業連携人材確保等支援コースの申請の前にものづくり補助金の計画変更届を提出、その承認後に雇い入れをすれば支給対象となります。

対象者の雇い入れは補助金の交付決定後

労働者を雇い入れるのは、ものづくり補助金の交付決定後、かつ補助事業の実施期間内でなくてはなりません。

雇用契約書の日付が交付決定より前だと、助成金の支給は対象外となります。本採用前にアルバイトや派遣社員として働いてもらい、補助事業開始後に正社員として採用する、といった方法も認められません。

ちなみに、かつて雇用したことがある人も対象外です。

賃金の要件を下回ると受給済でも要返還

助成金は6カ月ごとを支給対象期として2回支給されます。賃金の支払いについては1期あたり175万円以上ないと、その期は支給対象外です。

1期分の支給後、2期目の申請時に1年間の賃金が350万円未満となることが発覚した場合は、2期目が不支給となるほか、1期分も返還しなくてはなりません

しかし、月に無給となる日が10日以上ある場合には、賃金額が350万円未満でも、その月を除いた支給額を算定して支給される可能性があります。ただし、事業主の責めに帰すべき理由による場合は除きます。

対象労働者の離職も支給額の返還が必要

支給対象期の途中で対象者が離職した場合には、支給対象外となります。第1期分の受給後に離職した場合、受給額を返還しなくてはなりません。日頃から、離職を防ぐ管理体制を作っておきましょう。

また離職については、対象労働者の雇い入れ6カ月前~支給申請日の間に会社都合の離職者を出すことでも支給対象外となります。

ちなみに、当人の故意や過失が原因の解雇や死亡などによる離職については、離職日の前月までの期間については支給を受けることも可能です。

助成金の申請ならBricks&UKにおまかせ

産業雇用安定助成金の産業連携人材確保等支援コースは、ものづくり補助金が交付決定されたらぜひ活用したい助成金です。

とはいえ、補助金の申請だけでも時間や手間がかかるもの。産業連携人材確保等支援コースも、申請には雇用の時期や人材の要件など、留意すべき事項がたくさんあります。

そこでおすすめしたいのが、助成金申請のプロである社会保険労務士への依頼です。申請手続きの負担軽減と受給の可能性アップの両方が可能になります。

当サイトを運営するBricks&UKグループは、社会保険労務士事務所だけでなく税理士法人や司法書士事務所も擁しています。

助成金については社会保険労務士事務所Bricks&UK、ものづくり補助金については、認定支援機関である税理士法人Bricks&UKがお手伝い可能です。ぜひ一度お問い合わせください。

監修者からのコメント 産業連携人材確保等支援コースが新たに創設されたことにより、設備投資については経済産業省のものづくり補助金で支援を受け、人材の雇入れについては産業連携人材確保等支援コースで支援を受けることができるようになります。 ものづくり補助金 第17次公募の製品・サービス高付加価値枠に申請することをお考えの事業者様は、ぜひ助成金申請を併せて検討することをオススメします。 補助金申請は税理士法人にて申請サポートもできます。ご検討の事業主様はお気軽にお問い合わせください。

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労働基準法等の法律は頻繁に改正が行われており、その都度就業規則を見直し、必要に応じて変更が必要となります。就業規則は、単に助成金の受給のためではなく、思わぬ人事労務トラブルを引き起こさないようにするためにも大変重要となります。

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