特定求職者雇用開発助成金は、高齢の人や障害者、就職氷河期世代や生活保護の受給者など、就職が困難とされる人を雇用した場合に受け取れる助成金です。
人件費の一部を助成し、就職困難者の雇用を後押しすることが目的のため、他の助成金に比べ支給額が大きいのが特徴です。
令和5年度の改正により、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース、成長分野等人材確保・育成コース)にも変更がありました。この記事では、その改正情報を中心に解説します。
目次
特定求職者雇用開発助成金とは
特定求職者雇用開発助成金は、就職困難者をハローワークなどの紹介により雇用した事業者に対し、支払った賃金の一部として助成金を支給するものです。
対象となる労働者の種別に応じて5つのコースに分かれています。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
- 就職氷河期世代安定雇用実現コース
- 生活保護受給者等雇用開発コース
- 成長分野等人材確保・育成コース
まずは、各コースの支給要件、支給額などについて簡単に見ておきましょう。
1.特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、一般に就職が難しいとされる高齢者や障害者、ひとり親家庭の親といった人をハローワーク等からの紹介で雇用した事業者に、助成金を支給するコースです。
対象となる労働者によって、支給額や支給期間が次のように異なります。
対象労働者 | 支給額(1人あたり) | |
---|---|---|
短時間労働者以外 | 母子家庭の母等、 高年齢者 (60歳以上) など |
中小企業:60万円 (30万円 × 2期) 大企業:50万円 (25万円 × 2期) |
重度障害者等を除く 身体・知的障害者 |
中小企業:120万円 (30万円 × 4期) 大企業:50万円 (25万円 × 2期) |
|
重度障害者、 45歳以上の障害者、精神障害者 |
中小企業:240万円 (40万円 × 6期) 大企業:100万円 (33万円※ × 3期) ※第3期は34万円 |
|
短時間労働者 | 母子家庭の母等、 高年齢者 (60歳以上) など |
中小企業:40万円 (20万円 × 2期) 大企業:30万円 (15万円 × 2期) |
重度障害者等を含む |
中小企業:80万円 (20万円 × 4期) 大企業:30万円 (15万円 × 2期) |
「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいいます。「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者や精神障害者を指します。
このコースに限らず、特定求職者雇用開発助成金は1度に全額が支給されるのではなく、6カ月を1期(支給対象期間)として6カ月おきに支給されます。
2.発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースは、65歳未満で障害者手帳を持っていない発達障害者や難病患者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用した場合に助成されます。
支給額と支払方法は次のとおりです。
対象労働者 | 支給額(1人あたり) |
---|---|
短時間労働者以外 | 中小企業:120万円 (30万円 × 4期) 大企業 :50万円 (25万円 × 2期) |
短時間労働者 | 中小企業:80万円 (20万円 × 4期) 大企業 :30万円 (15万円 × 2期) |
このコースも、6カ月を1期(支給対象期間)として第1期・第2期~と6カ月おきに支給されます。
3.就職氷河期世代安定雇用実現コース
就職氷河期世代安定雇用実現コースでは、就職氷河期に正規雇用での就職機会を逃した人を、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により正社員として雇用した場合に助成金を受給できます。1968年4月2日~1988年4月1日生まれ、かつ安定した職業に就いていない人が対象です。
支給額と支払方法は以下のとおりです。
企業規模 | 支給額(1人あたり) |
---|---|
中小企業 | 60万円 (30万円 × 2期) |
大企業 | 50万円 (25万円 × 2期) |
対象となる労働者の要件が、令和5年度から変更になっています。詳しくは「特定求職者雇用開発助成金 令和5年度の改正情報」の章で説明します。
4.生活保護受給者等雇用開発コース
生活保護受給者等雇用開発コースでは、地方公共団体やハローワークによる通算3カ月超の支援を受けている生活保護受給者や生活困窮者を雇用した場合に、助成金が支給されます。
また、雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、当人が65歳以上になるまで、かつ2年以上継続して雇用することが必要です。
支給額と支払方法は次のとおりです。
対象労働者 | 支給額(1人あたり) |
---|---|
短時間労働者以外 | 中小企業:80万円 (30万円 × 2期) 大企業 :50万円 (25万円 × 2期) |
短時間労働者 | 中小企業:40万円 (20万円 × 2期) 大企業 :30万円 (15万円 × 2期) |
このコースも、企業規模などにかかわらず助成期間は1年間です。
5.成長分野等人材確保・育成コース
成長分野等人材確保・育成コースは、他のコースとは少し種類が異なるコースです。
ここまで紹介した各コースの対象者の雇い入れについて、各コースの支給要件を満たした上で、このコースの要件も満たした場合には、受給額が高くなります。
このコースについては、改めて次の章で詳しく紹介します。
助成額が増える 成長分野等人材確保・育成コース
令和4年12月、就職困難者を未経験の分野で雇用し、訓練実施後に賃金をアップさせた事業主に、既存コースの1.5倍の助成を行う「成長分野等人材確保・育成コース」が創設されました。
助成メニューは2つ
このコースには、「成長分野」での雇用と、未経験職種での「人材育成」という2つの助成メニューがあります。
助成メニュー | 大まかな要件 |
---|---|
成長分野 | 未経験かつ「成長分野」業種の専門的な業務での雇い入れ + 雇用管理の改善または職業訓練の実施 |
人材育成 | 未経験分野での雇い入れ + 人材開発支援助成金を活用した訓練の実施 + 賃金の引き上げ (3年以内に本採用時から5%以上) |
ここで言う「成長分野」とは、デジタル化やグリーン化、カーボンニュートラル化の関連業務に限定されます。対象となる業務については、要件が令和5年度からより具体的に設定されています。
対象となる労働者
「成長分野等人材確保・育成コース」の対象となるのは、各コースの対象となっている就職困難者です。
通常コース | 対象労働者の種別 |
---|---|
特定就職困難者コース | ・60歳以上 ・身体・知的障害者 ・母子家庭の母等 ・ウクライナ避難民 など |
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース | ・発達障害者 ・難治性疾患患者 |
就職氷河期世代安定雇用実現コース | ・就職氷河期世代でしばらく正社員の職に就いていない人 |
生活保護受給者等雇用開発コース | ・生活保護の受給者 ・生活困窮者 |
通常コースと同様、特定就職困難者コース以外は、採用時に65歳未満でなくてはなりません。就職氷河期世代とは、1968年4月2日~1988年4月1日生まれの人を指します。
これらの人を、正規雇用、無期雇用、自動更新の有期雇用のいずれかで採用する必要があります。ただし、就職氷河期世代安定雇用実現コースは、正規雇用に限ります。
人材育成の助成対象となる訓練
人材開発支援助成金を活用した次のいずれかの訓練の実施が必要です。
1)実訓練時間数が50時間以上の訓練
(e-ラーニングや通信制は50時間以上または3カ月以上)
2)50時間未満の次の訓練
・人材育成支援コース(有期実習型訓練)
・人への投資促進コース(高度デジタル人材等訓練
・事業展開等リスキリング支援コース
・特定訓練コース(労働生産性向上訓練、熟練技能育成、承継訓練)
・特別育成訓練コース(中長期的キャリア形成訓練、有期実習型訓練)
訓練は、6カ月ごとに分かれている支給対象期の、最後の支給対象期の末日までに始めなくてはなりません。
人材育成の助成対象となる賃金引き上げ
人材育成での助成を受けるには、対象者をハローワークなどからの紹介で採用した後、1回目の支給申請の前に「賃金引き上げ計画書」を提出しておく必要があります。
賃金引き上げについては、賃金引き上げ計画期間(最大3年)の間に、本採用時から5%以上の賃金アップがされていなくてはなりません。
この場合の賃金とは、賞与や時間外手当、交通費や住宅手当などを除いた「毎月決まって支払われる賃金」です。
最低賃金の引き上げに伴う昇給や、採用時の賃金を不合理に低くしていると見なされた場合は不支給となるおそれがあります。
成長分野・人材育成コースの支給額
支給額は成長分野・人材育成とも同額です。
対象労働者 | 支給額(1人あたり) | |
---|---|---|
短時間労働者以外 | 高年齢者 (60歳以上)、 母子家庭の母等、 就職氷河期世代、 生活保護受給者 など |
中小企業:90万円 (45万円 × 2期) 大企業 :75万円 (37.5万円 × 2期) |
身体・知的障害者、 発達障害者、 難治性疾患患者 |
中小企業:180万円 (45万円 × 4期) 大企業 :75万円 (37.5万円 × 2期) |
|
重度障害者等 | 中小企業:360万円 (60万円 × 6期) 大企業 :150万円 (50万円 × 3期) |
|
短時間労働者 | 高年齢者 (60歳以上)、 母子家庭の母等、 生活保護受給者 など |
中小企業:60万円 (30万円 × 2期) 大企業 :45万円 (22.5万円 × 2期) |
障害者、 発達障害者、 難治性疾患患者 |
中小企業:120万円 (30万円 × 4期) 大企業 :45万円 (22.5万円 × 2期) |
「短時間労働者」は、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満の人です。「重度障害者等」とは、重度の身体・知的障害者、45歳以上の身体・知的障害者や精神障害者を指します。
就職氷河期世代については、短時間労働者として雇い入れた場合は支給されません。
このコースの受給には、人材開発支援助成金の活用が必須です。ただし、人材開発支援助成金にも賃金助成(および経費助成)があり、助成対象が同じ部分は重複して受け取ることはできません。
特定求職者雇用開発助成金で賃金助成を受ける場合には、人材開発支援助成金の賃金助成は対象外となり、経費助成のみの支給となります。
支給申請の流れ
支給申請は、6カ月の支給対象期(第1期・第2期~)ごとに行います。成長分野と人材育成で申請の流れが異なります。それぞれ見ていきましょう。
成長分野の助成の場合
支給申請は、次のような流れで行います。
- ハローワーク等からの紹介
- 対象者の採用
- 第1期の支給申請
- 労働局による調査・確認
- 支給可否の決定
第2期以降も同様に、3~6の流れを繰り返します。成長分野の業務に従事していると認められなかった場合は、通常コースの助成額での支給となります。
人材育成の助成の場合
人材育成の場合は、人材開発支援助成金の申請も入るため流れがやや複雑です。
- ハローワーク等からの紹介
- 対象者の採用
- 賃金引き上げ計画書の作成
- 人材開発支援助成金の計画書の提出
- 訓練の実施
- 人材開発支援助成金の支給申請・決定
- 支給申請(第1期のみ賃金引き上げ計画書も提出)
- 支給審査、支給可否の決定
上記4~6は、人材開発助成金の支給にかかる手続きです。
特定求職者雇用開発助成金の申請は、各支給対象期の末日の翌日から2カ月以内に行います。その際、人材開発支援助成金の支給決定通知書もしくは支給申請書と、賃金引き上げ報告書を一緒に提出することで通常コースより高い助成金が支給されます。
特定求職者雇用開発助成金 令和5年度の改正情報
助成金の支給要件や支給額は、年度ごとあるいは年度の途中で改正されることも多いため、最新情報の把握が必須です。
ここでは、令和5年度の特定求職者雇用開発助成金の改正点を見ていきましょう。
特定就職困難者コースの改正情報
特定求職者雇用開発助成金には、令和4年度まで65歳以上の雇用を対象とした「生涯現役コース」がありましたが、令和5年4月からは廃止となりました。
令和5年4月からは、この特定就職困難者コースで65歳以上の雇用についても対象とされ、対象者の年齢が「60歳以上65歳未満」から「60歳以上」に変更されています。
また、令和4年5月30日から当面の間、ロシアの侵攻によるウクライナ避難民も対象者に追加されています。
ただし、対象となる避難民とは、日本に避難を余儀なくされたウクライナの住民で、出入国在留管理庁が発行するウクライナ避難民証明書を持っている人、かつ65歳未満に限られます。他の対象者と同様、ハローワーク等での紹介が必須です。
就職氷河期世代安定雇用実現コースの改正情報
このコースで対象となるのは、一定期間に生まれた人のうち、「過去5年間に正社員として働いた期間が通算1年以下であり、かつ過去1年間は正規雇用をされていない人」です。
令和5年度からは、次の条件も追加されました。
- 妊娠・出産または育児を理由に正規雇用の職を離職していないこと
つまり、就職氷河期にかかわらない自己都合理由で正社員の職を退職したケースは、このコースの対象からは外されたということです。
成長分野等人材確保・育成コースの改正情報
成長分野等人材確保・育成コースでも、令和5年度は次のとおり改正がありました。
対象となるコースと対象労働者の見直し
上の項でも説明しましたが、対象コースのうち「生涯現役コース」が廃止となりました。65歳以上の人は、「特定就職困難者コース」で支給対象となります。ちなみに、それ以外のコースでは65歳未満のみが対象です。
また、就職氷河期世代コースについても、正社員を妊娠・出産、育児により退職した人は対象外となりました。
特定求職者雇用開発助成金には、東日本大震災による被災離職者・求職者を対象とした「被災者雇用開発コース」もありました。しかしこのコースも、令和4年度で廃止となっています。
「成長分野」の対象分野と対象労働者の見直し
令和5年度からは、成長分野に直結する専門的な業務に、未経験で採用されることが必要です。
令和4年度 | 令和5年度 | |
---|---|---|
対象分野 | 生産工程や販売、運送などの業務 | 専門的職業に従事する人のみ 例:プログラマー、システムエンジニアなど |
対象労働者 | 経験の有無を問わない | 未経験者のみ |
以前はデジタル化・グリーン化といった成長分野の業種であれば、販売など直接的に関わりのない仕事に就く人や経験者も対象でした。範囲がかなり狭められています。
特定求職者雇用開発助成金の受給のための注意点
ここまでの解説でも、要件や手続きが複雑なことが伝わったかもしれません。この助成金の申請には、雇い入れ前の時点から、計画や社内規則の整備などを注意して進める必要があります。
最後に、特に把握しておくべき注意点を見ておきましょう。
雇い入れの方法に注意
特定求職者雇用開発助成金を申請するためには、対象となる労働者をハローワークや職業紹介事業者などからの紹介を受けて雇用することが前提です。
例えば自社のホームページに求人広告を出し、求職者から直接応募があった場合、その求職者が就職困難者に該当する人であっても助成金は支給されません。
また、ハローワークを利用した場合でも、窓口での照会を受けずオンラインの自主応募で直接雇い入れをした場合には助成の対象外です。
雇用の条件に注意
特定求職者雇用開発助成金のうち、「就職氷河期世代安定雇用実現コース」については、雇い入れる時点で正規雇用契約を結ぶことが支給の要件。契約社員やパートなどでの契約は対象外です。
その他のコースでは、正規雇用あるいは無期雇用(期間の定めなし)のほか、有期雇用(期間の定めあり)でも自動更新あるいは「本人が望む限り更新する」とした場合は対象となります。
有期雇用でも、更新に条件がある、例えば本人の成績や会社の経営状況などによって更新するかどうか決めるような場合には、対象になりません。
ただし、「有期雇用契約かつ更新条件あり」でハローワークから紹介を受けた場合でも、雇い入れ時の契約によっては助成対象となり得ます。
例えば面接など採用の過程で、自動更新の有期契約や正規雇用で採用することとなった場合には、助成対象となる場合があります。ハローワークや専門家である社会保険労務士に相談してみましょう。
勤務経験などがある人は対象外
この助成金は、安定した職に就けない人を未経験の業務で雇い入れた事業主を対象とするものです。そのため、過去に自社の業務に関係していた人物の採用では対象となりません。
具体的には、雇い入れの前日から過去3年間において、次の条件に当てはまる人は対象外です。
- 雇い入れようとする事業所との間で雇用、請負、委任の関係にあった人
- 出向、派遣、請負、委任の関係により対象となる事業所で就労したことのある人
- 雇い入れの前に訓練・実習などを通算3カ月間を超えて受けさせた人
従業員として働いていた場合はもちろん、委託業者などだった場合にも支給対象とはなりません。
ただし 、訓練・実習については、生活困窮者自立支援法や生活保護法に基づく事業の一環として行われるものであれば支給対象となります。
対象労働者の退職にも注意
支給対象期間中に対象労働者が退職となったケースにも注意が必要です。支給対象期の途中に対象者が自己都合の理由で退職した場合、当該支給対象期分の助成金は原則として支給されません。
そのため、雇い入れるだけでなく、その後も継続して勤務しやすい職場環境を整える必要があるでしょう。
ただし、対象労働者の故意や過失等、当人の責めに帰すべき理由による解雇など、やむを得ない事情がある場合は、退職日の前の月まで支払い対象となる可能性もあります。
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特定求職者雇用開発助成金は、就職困難者を雇い入れる事業主の経済的負担を軽減するために設けられた制度です。
多くの企業で活用されていますが、毎年のようにコースや要件などが改正されているため、助成金の申請には最新情報の把握が必須です。
また、通常コースの1.5倍の額が支給される成長分野等人材確保・育成コースでは、訓練を行う場合に人材開発支援助成金の手続きも必要となり、事務作業が煩雑になります。
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監修者からのコメント 特定求職者雇用開発助成金とは、就職が困難な労働者をハローワーク等の紹介により雇い入れ、 人材育成や職場定着に取り組む場合に申請できる助成金です。 ハローワーク紹介前に採用選考を開始している場合や、ハローワーク等を介さない場合は支給対象外となるため注意が必要です。 また特定就職困難者コースについて申請条件に該当している場合、キャリアアップ助成金の正社員化コースとの併給が可能です。 お気軽にBricks&UKまでご相談ください。