雇用調整助成金の基礎知識および手続きの注意点

2021.03.11

助成金について疑問をもつ事業主

新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本経済は大きな打撃を受け、多くの企業が売上を減少させ、労働者が職を失っています。

そのため企業が雇用を維持するための公的助成制度である雇用調整助成金にも特例措置が設けられ、助成の内容が大幅に拡充されました。

その一方で制度内容や申請手続の複雑さが増し、申請に際して多くの書類が必要になるなどの問題点や課題も顕著になっています。

ここでは、制度内容の紹介とともに、課題の解決策をお伝えしていきましょう。

雇用調整助成金とは

助成金の安心イメージ

雇用調整助成金は、業況の悪化により事業主が休業手当を支給して従業員を休ませた場合などに、国が費用の一部を助成する制度です。

雇用調整助成金の概要

日本では企業が正社員を解雇することは難しく、たとえ業況が悪化しても簡単には解雇できません。しかし不況の時期に雇用を維持し続ければ企業の業績がさらに悪化するため、多くの企業が残業の規制や配置転換などによって雇用調整を行います。

その際、従業員の同意を得て協定を結び、働く意思と能力がある人を休業させたり、スキルアップのために教育訓練を行ったり、さらに他の事業所に出向させたりして雇用を維持する事業主に対しては、国から経済的支援として助成金が支給される制度があります。これが雇用調整助成金です。

助成金の額は企業の規模などに応じて決められ、賃金の一定割合が支給されます。

雇用調整助成金の特例措置

助成金の特例措置イメージ

新型コロナウイルスによるパンデミックで、多くの企業の売上げが減少しました。その対策の一環として雇用調整助成金についても助成率や1人あたりの日額助成金の引き上げ売上高減少率の緩和申請手続の簡素化など多くの特例措置が設けられています。

特例措置の主な内容は次のとおりです。

  • 売上高などの低下率による要件を10%から5%に緩和
  • 労働者に支給する休業手当に対する助成率を引き上げ

助成率は、大企業は67%、中小企業は80%となっています。

  • 企業が賃金の6割超の休業手当を支給する場合、大企業には超過分の75%、中小企業には100%を支給

この際の助成上限額は、労働者1人1日あたり1万5千円に引き上げられています。ただし解雇などを行っていない場合に限ります。

支給される日数は1年間で100日分、3年で150日分が上限となっていますが、2020年4月1日~12月31日の緊急対応期間中に行った休業などに対しては、この限度日数とは別枠で支給されます。これらの特例措置は4月1日に遡って適用されます。

特例措置の対象者や内容の手厚さは、リーマンショックの時を上回る、前例のない規模となっています。

緊急雇用安定助成金について

雇用調整助成金の対象となるパートスタッフ

雇用調整助成金は雇用保険を利用した雇用安定事業であり、助成の対象になる労働者は、正規・非正規を問わず雇用保険の加入者であることが前提です。

ただし飲食業など雇用保険に加入していないアルバイトやパート従業員が多数を占める事業所や、雇用保険の適用対象になっていない事業主が労働者を解雇せず雇用維持に努めた場合などには、助成の対象になります。

アルバイトやパート従業員を休業させ、その休業期間中に休業手当を支払っている場合には、緊急雇用安定助成金の支給を受けられる可能性があります。

また、正社員とアルバイト・パート従業員が混在する雇用保険適用事業者については、アルバイト・パート従業員への休業手当は緊急雇用安定助成金で助成されます。雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金は、同時申請が可能です。

雇用調整助成金のメリットとデメリット

助成金のメリットデメリット

経済的に困窮した事業主の助けとなる助成金ですが、誰もがいつでも受給できるものではありません。ここではメリットとともに注意点も知っておきましょう。

雇用調整助成金のメリット

雇用調整助成金のメリット

雇用調整助成金で得られる最も大きなメリットは、金銭的な支援が受けられることです。

しかしそれだけでなく、解雇せず雇用を維持しようと努力することで従業員の自社への忠誠心や満足度の向上、ひいては将来的な企業の発展につながる可能性があります。

従業員に教育訓練を受けさせる場合は、助成金が受けられるほか、従業員が自身の知識や技能を向上させられれば、本人のみならず会社にとっても大きな利益となります。

雇用調整助成金のデメリット

雇用調整助成金のデメリット

雇用調整助成金の支給対象は、雇用保険の適用事業所と被保険者と定められています。そのため、たとえば同じ事業所で働く労働者であっても、雇用保険の被保険者以外は支給の対象者になりません

企業が休業する場合には、当然ながら被保険者以外の従業員も休業します。労働契約が成立していれば休業手当の支払い義務はありますが、助成金の支給対象には原則としてならないのです(コロナ特例措置では、被保険者以外が休業する場合には緊急雇用安定助成金が支給されます)。

さらに、経営者が助成金に依存して、経営努力を怠るというるモラルハザードが起こりやすくなるおそれもあります。

雇用調整助成金の受給の要件と留意事項

支給要件のチェックリスト

事業主の要件

新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の特例措置は、次の5つの条件に該当するすべての業種の事業主を対象としています。

  • 雇用保険の適用事業主であり、雇用保険の被保険者を1人以上雇用している
  • 新型コロナウイルスの影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
  • 最近1カ月間の売上高または生産量などが、前年同月比で5%以上減少している
  • 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている
  • 受給に必要な書類を整備・保管し、労働局などから求められた際は調査に応じる

売上高や生産量といった生産指標については、最近1カ月の売上高の減少率の要件が10%以上から5%以上に緩和された上、すべての業種が対象となりました。

労働者の要件

雇用調整助成金の支給申請対象となるのは、雇用保険の被保険者である労働者が次のいずれかに該当したときです。ただし、解雇予告が行われた人や事業主からの退職勧奨に応じた人、日雇労働者は対象にはなりません。

  • 働く意思と能力があるのに、休業を命じられた
  • 休業せず、スキルアップのための教育訓練を受ける
  • 他の事業所への出向を命じられた

こうした場合に事業主から支払われる休業手当などが、雇用調整助成金による助成対象になります。

休業/休業手当の要件

労働者に休業手当を支払うのは事業主です。事業主が従業員に休業手当を支払った後に、国からその一部が助成金として支給されます。

助成金の対象になる休業の要件は次の通りです。

  • 労使協定に基づいて実施される
  • 事業主が指定した対象期間内(1年間)に実施される
  • 休業の実施日数が労働日数の1/40以上(大企業の場合は1/30以上)である
  • 休業手当の額が平均賃金の6割以上である
  • 所定労働日の所定労働時間内に実施される

終日の休業以外に、勤務体制やシフトの変更などによる1時間以上の短時間休業も支給対象として認められます。

助成金が不支給となる要件

助成金不支給となるケース

次の項目に当てはまる事業主は、助成金の支給対象となりません。

  • 既に倒産している事業者
  • 不正受給を行った後、名前の公表に応じない事業者
  • 暴力団やその関係者が営む事業者
  • 破壊活動防止法で規定された団体に関係する事業者

また、過去に助成金の不正受給を行ってから一定期間(3年または5年)を経ていない事業者などは、これまでは支給対象外でしたが、所定の条件を満たせば申請できるようになりました。

その他の留意事項

パンデミックに関する特例措置では、緊急事態宣言による緊急対応や労働者の雇用維持を最優先する観点から新たな要件が追加され、従来とは異なる次のような特例対応を行っています。

  • 性風俗関連特殊営業について

性風俗関連特殊営業(いわゆるソープランドなど)を営んだり受託したりする事業主は、助成の対象外となっていました。しかし緊急対応期間内については対象となります。

  • 過去の受給歴について

過去に雇用調整助成金を受給したことがある事業主は、前回の支給対象期間の満了日から1年以内は助成対象になりません。しかし新型コロナウイルスの特例措置では、こうした事業主も助成の対象です。

  • 保険料未納、法令違反など

過去に労働保険料の未納があった事業主、労働関係法令違反の不支給要件に該当した事業主でも、新型コロナウイルスの特例措置では条件付きで助成対象になります。

  • 事業所設置が1年未満の場合について

事業所を設置して1年未満の事業主は、支給の基準となる生産指標を前年同期と比較できないため、通常は助成の対象となりません。

しかし新型コロナウイルスに関する今回の特例措置では、事業所設置後1年未満の事業主についても助成の対象とされます。

その際の生産指標は、1カ月~1年前の間のいずれかの月の売上高などと比較します。

雇用調整助成金の申請の流れ

助成金申請の手続き

雇用調整助成金の申請は、労働局またはハローワークで受け付けています。持参できない場合は郵送で申請することも可能です。主な手続の流れを見ておきましょう。

(1)休業計画と労使協定の締結

新型コロナウイルスによる休業イメージ

助成金の受給申請には、まず休業計画を作成し、労使間で協定書を結ぶことが必要です。休業計画では休業の期間、対象者、休業手当の支給率(60%以上)などを労使で話し合い、協定書を作成します。

手続の簡素化により、労働者の代表を選ぶ際に添付する委任状が不要になりました。

(2)休業の実施

休業等実施計画(変更)届を作成し、休業計画と労使協定書に沿って休業を実施します。事業主は休業中の労働者に休業手当を支払います。

これまでは具体的な休業計画届を提出する必要がありましたが、今回の簡素化措置で、提出は不要になっています。

(3)支給申請

申請に必要な書類は企業規模(従業員数)によって異なります。従業員数20人以下の小規模事業所は、申請書類が簡略化されています。

①従業員数20人以下の小規模事業所の場合

  • 支給申請書類(3種類)

・支給申請書
・休業実績一覧表
・支給要件確認申立書

  • 添付書類

・比較した月の売上などがわかる書類
(売上簿、レジの月次集計、収入簿等/休業の前年同月の2カ月分あるいは同年前月分/初回のみ)

・休業させた日や時間がわかる書類
(タイムカード、出勤簿、シフト表など)

・休業手当や賃金の額がわかる書類
(給与明細の写しや控え、賃金台帳など)

・役員名簿
(役員等がいる場合のみ/生年月日が入っているもの)

役員名簿は、事業主以外に役員がいない場合や個人事業主の場合は不要です。

②従業員数20人超の事業所の場合

  • 支給申請書類

(2回目以降は上の4種類)
・支給申請書
・助成額算定所
・支給要件確認申立書
・休業実績一覧表
・雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書(初回のみ)
・事業所の状況に関する書類(初回のみ)
・休業協定書(初回のみ、ただし失効した場合は改めて提出が必要)

  • 添付書類

・比較した月の売上などがわかる書類
(既存の売上簿、営業収入簿、会計システムの帳票等/休業の前年同月の2カ月分あるいは同年前月分/初回のみ)

・休業協定書
労使間で休業に関して交わした協定書

・事業所の規模を確認する書類
事業所が中小企業に該当するか否かを確認する書類

・労働者名簿と役員名簿

・ 休業させた日や時間がわかる書類
(タイムカード、出勤簿、シフト表など)

・休業手当や賃金の額がわかる書類
(給与明細の写しや控え、賃金台帳など)

(4)審査・支給決定

申請された書類は労働局で審査された後、不備がなければ概ね1カ月程度で支給決定が行われ、所定の金額が事業主の口座に振り込まれます。

手続きに関する留意点

雇用調整助成金の申請手続は、簡素化が図られているとはいえ、制度自体が複雑です。

申請前に事業所内で行わなければならない労使協定の締結手続や関係書類の作成は簡単ではありませんし、専門的な知識も必要です。

特に中小企業では、人事労務関連に詳しい社員がいないことも多く、事業主自身がこういった作業を行うのは相当な時間と労力とが必要になってしまいます。

そんなときは、助成金に詳しい外部の専門家のサポートやアドバイスを受けることも視野に入れてみてください。

雇用調整助成金申請時の注意点

助成金申請で注意しておくべきこと

厳しい状況でも事業を継続して雇用を維持しようとする企業にとって、雇用調整助成金はとても有効な制度です。しかし申請には注意しておくべきこともあります。

申請期限

申請期限は、支給対象期間の最終日の翌日から起算して2カ月以内です。

郵送でも提出できますが、申請期限までに到達していなければならないので発送日などに注意が必要です。

必要書類

要件の拡充に伴って、助成金の申請手続や申請書類も簡素化が図られました。

それでもなお、売上高の証明書や労働者の出勤簿、賃金台帳・給与明細など、必要な書類は数多くあります。

もともと社会保険労務士を利用していない小規模な事業所では、労働基準法で定められた賃金台帳や就業規則などを整備していないケースも少なくないのが実情です。

申請手続のため、こうした書類を慌てて作成すると、たとえば就業規則では休日と定められている日にタイムカード上では労働者全員が出勤しているというような不整合が起きる可能性もあります。

労働局での審査

申請された書類は、労働局などで審査されます。しかしもともと制度内容が複雑な上、緊急事態で特例措置がたびたび追加されたことから、審査にも時間を要しています。

書類の不備があると、申請は差し戻されます。そうなると実際に助成金を受け取るまでにはかなりの時間がかかるでしょう。

事業主は休業手当を労働者に先払いしているので、助成金の支給が遅れると資金繰りに影響する場合もあります。

なお、手続に不備がなくても申請から支給までには1カ月程度が必要です。

最新情報の入手

政府や自治体は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対する各種支援制度を、状況にあわせて随時拡充・延長しています。そのため、雇用調整助成金をはじめとする各種助成制度の受給申請を行うには、常に最新の情報を入手する必要があります。

要件の緩和を知らず、受け取れるべき助成金を申請しなかった、といった事態は避けたいものです。

不正受給

制度を悪用して助成金を詐取したり、不正に受給しようとしたりする事例が増えています。

たとえば提出書類に虚偽記載をする、休暇中の労働者を休業と偽るなどして雇用調整助成金を不正に受給した場合、事業所名が公表されるなどの処分が科されます。

以上の点から、助成金の申請には日頃から適切な労務管理を行い、最新の要件を確認しなければなりません。でないと助成金の支給が遅れるのはもちろんですが、最悪の場合は書類の偽造による不正受給を疑われるなどして不支給となるリスクもあるのです。

そのため、独力で手続きを行うのではなく、助成金の申請に詳しい社会保険労務士にアウトソーシングすることをおすすめします。

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雇用調整助成金は、事業の縮小を余儀なくされても雇用を維持しようと努力する事業主の方を助成する国の制度です。

経済的困窮を極めた事業主にとって救いとなるものではありますが、内容がやや複雑で、事前に手続きが必要なものもあります。提出する書類は当然ながら労働基準法を遵守したものであることが条件ですが、まずはそこから準備しなければならない企業もあるでしょう。

このような課題を解決するには、雇用調整助成金に詳しい社会保険労務士への依頼がおすすめです。経験豊富なBricks&UKの社労士に、ぜひ一度ご相談ください。

監修者からのコメント 雇用調整助成金の特例措置が設けられてからまもなく1年が経とうとしています。特例措置は令和3年4月末まで実施が決定しています。 緊急事態宣言が全国で解除された月の翌々月移行の対応については、雇用情勢等を総合的に考慮して改めて判断するとされており、今後の動向に目が離せません。

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