【雇用調整助成金】休業手当の計算方法を解説

2021.03.17

2023.04.25

雇用調整助成金の計算方法


新型コロナウイルス感染症の影響で経営状況が悪化する中、政府は支援対策として各種の補助金や助成金を準備しています。

しかし助成金制度の内容は複雑で、「助成金がいくら受け取れるのかわからない」という声も多く聞かれます。

そこでこの記事では、従業員の雇用維持を図る中小事業者に向けた「雇用調整助成金のコロナ特例措置」について、休業手当の計算方法に焦点を当てて解説していきます。

雇用調整助成金や休業手当とは何かから説明するので、ぜひ参考にしてください。

雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは何かを説明する人

雇用調整助成金とは、本来、景気の後退など「経済上の理由」により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を実施せざるを得ない事業主が、労使協定による休業等の実施により労働者の雇用を維持した場合に、休業手当の一部について助成される制度です。

ここでいう「休業等」とは、働く意思と能力がある従業員休業させたり、スキルアップのために教育訓練を行ったり、さらに他の事業所に出向させたりすることです。

今般、この雇用調整助成金のコロナ特例措置として、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主に対し、助成対象期間や助成額について支給要件を大幅に緩和する特例措置が設けられました。

雇用調整助成金の支給対象となる労働者は、雇用保険に加入している従業員なので、雇用保険未加入の学生アルバイトやパート従業員は支給対象外となります。ただし、学生アルバイトやパート従業員も、「緊急雇用安定助成金」で助成を受けることが可能です。

また、令和2年4月1日から緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末までの緊急対応期間内で、賃金締切期間を1日でも含む休業が雇用調整助成金のコロナ特例措置の対象となっています。

雇用調整助成金のコロナ特例措置の助成額は、従業員1人につき1日15,000円を上限額として、従業員に支払う休業手当等の最大10分の10が支給されます。

休業手当とは

休業手当について解説する人

雇用調整助成金は、事業主が従業員に対して支払った休業手当を助成するものです。

ここでは、雇用調整助成金のいう「休業手当」とは何かを確認しておきましょう。労災保険でいう「休業補償」との違いや、休業手当の支払いが必要なケースと不要なケース、緊急事態宣言下での休業手当の支払い義務などについても、順を追って解説していきます。

雇用調整助成金の休業手当とは

休業手当とは、企業側がやむを得ない事情により一斉休業を実施したり、一部の従業員を休業させたりした場合に、従業員に支払う手当のことです。労働基準法第26条では次のように定められています。

第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

雇用調整助成金は、事業主が支払った休業手当を助成するものなので、休業手当を支払っていない場合は対象外です。

また、休業手当の支払いをする前に助成金を受給することもできません。しかし休業手当支払い前であっても、資料が揃っていれば助成金の支給申請自体は可能です。

さらに、休業手当を支払ったとしても、法定の金額を下回る場合には雇用調整助成金の支給対象外となります。

休業手当と休業補償の違い

休業手当と似て非なるものに、「休業補償」があります。違いについてまとめました。

違いの解説
項目休業手当休業補償
対象となる休業 使用者の都合による休業業務が原因のケガや病気による休業
受給額平均賃金の60%以上給付基礎日数※の80%
支給者使用者労働基準監督署
受給期間休業期間中休業開始後4日目以降の休業期間中(3日目までは労働基準法による休業補償)
取り扱い賃金として労災保険
課税(所得税)の有無課税非課税
支給申請不要必要
※一部労務不能の場合、給付基礎日額から賃金を控除

こうして見ると、まったく異なる性質のものだとわかりますね。

休業補償は、業務災害によって働けなくなった従業員に対して労災保険から支給される給付金です。

休業手当の支払いが必要なケース、不要なケース

休業手当の要不要チェック

休業手当の支払いが必要かそうでないかについては、労働基準法上どのように規定されているのでしょうか。

労働基準法26条によれば、「使用者の責めに帰すべき事由」(使用者の帰責事由)による休業の場合、休業手当を支払う必要があるとされています。

つまり、休業をする理由について使用者に責任がなければ、休業手当の支払いは不要です。

休業手当の支払いが必要なケースと不要なケースをまとめました。

休業手当の支払いが必要 休業手当の支払いは不要
<使用者に帰責事由あり>
・企業の経営不振・業績悪化(親会社・関連会社の経営不振も含む)
・機械設備の不備・欠陥・故障
・従業員や資材の不足(調達見込みがある場合)
・その他使用者の故意・過失
・新型コロナウイルス感染疑いへの使用者による独自判断
<使用者に帰責事由なし>
・調達先の操業一次停止などによる資材不足で他に調達見込みがない
・自然災害による公共交通機関の不使用
・従業員の新型コロナウイルス感染
・「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく都道府県知事の要請による就業制限

支払いの要否は、労働契約によっても異なります。休業手当の支払いが必要なのは、雇用契約を結んでいる従業員に対してのみです。

雇用契約を締結していれば、短時間労働者やアルバイト・パート・有期雇用契約社員、日払い労働者、派遣社員など、雇用形態にかかわらず全従業員が休業手当の支給対象です。

雇用契約を締結していれば、短時間労働者やアルバイト・パート・有期雇用契約社員、日払い労働者、派遣社員など、雇用形態にかかわらず全従業員が休業手当の支給対象です。

緊急事態宣言下での休業手当の支払い義務について

緊急事態宣言下についてのケーススタディ

法律上では、前項のとおり使用者の帰責事由による休業の場合に休業手当の支払い義務が発生しま
す。

緊急事態宣言下での休業要請を受けての休業、入居施設全体の閉館に伴う休業、新型コロナウイルス感染症に感染した従業員の休業などは、使用者の帰責事由には該当しないため、原則として休業手当の支払い義務は発生しないものと解釈できます。

しかし緊急事態宣言下での休業手当の支払い義務については、厚生労働省の公式サイトでもケースバイケースの個別判断が必要として、労働基準監督署への問い合わせを推奨しています。

なお、新型コロナウイルス感染症およびそのまん延防止の措置の影響により、事業主の指示で休業等(時短営業による労働時間の短縮やシフト日数の減少を含む)をさせられた中小企業の労働者のうち、休業手当を受けられなかった労働者に対しては、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」が支給されます。

休業手当の計算方法

休業手当の計算方法

では、休業手当の具体的な金額や計算方法はどのように規定されているのでしょうか。

ここでは、休業手当や平均賃金の計算方法をケース別に解説します。

休業手当の計算式

休業手当は、休業した日数によってその金額が異なります。労働基準法第26条によれば、平均賃金の60%以上の手当を支払うこととされています。

これは、実際に休業した日数分の平均賃金の6割相当額以上の金額ということです。計算式は次のとおりです。

休業手当 = 1日分の平均賃金 × 休業日数 × 0.6

原則的な平均賃金の計算方法

平均賃金は、原則として平均賃金の算定すべき事由の発生日以前3カ月間に当該労働者に対して支払われた賃金総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額です。

平均賃金 = 算定事由発生日以前の3カ月間の賃金総額 ÷ 総日数(暦日数)

ここでいう休業手当の「算定すべき事由の発生日」とは、休業日のことを指します。2日間以上にわたる場合には最初の日となります。

また、「発生日以前3カ月間」とは、発生日を含まず、その前日からさかのぼって3カ月のことを言います。賃金締切日を設けている場合には、直前の賃金締切日からさかのぼった3カ月です。もし、賃金締切日当日に事由が発生した場合には、その前の賃金締切日からさかのぼって3カ月となります。 

入社して間もないなど、雇用開始から3カ月間の賃金計算期間がない場合には、入社から1カ月以上の期間があるかないかで取り扱いが異なります。1カ月以上経過している場合には、「賃金締切日」からさかのぼった期間、1カ月未満の期間の場合には「算定事由発生日」からさかのぼった期間で計算します。

なお、次の期間が含まれる場合には、その日数及び賃金額は、「発生日以前3カ月間」の期間や賃金総額から控除して算出します。

  • 業務上の負傷・疾病の療養のための休業期間
  • 産前産後や育児・介護の休業期間
  • 使用者の帰責事由による休業期間
  • 試用期間

さらに賃金総額には、名目にかかわらず、通勤手当など各種手当や年次有給休暇の賃金、未払い賃金など算定期間中に支払われる賃金のすべてが含まれます。ベースアップが確定している場合も算入し、6カ月通勤定期代も1カ月ごとの支払いに換算して算入します。

ただし次の賃金については、賃金総額から控除します。

  • 結婚手当、見舞金、退職金など臨時の賃金
  • 労働協約にない現物給与
  • 3カ月を超える期間(半年ごとや1年ごと)ごとに支払われる賞与

賞与については、四半期(3カ月)ごとの支払いの場合は賃金総額に算入されます。

時給・日給者の特例

計算方法が異なる時給制イメージ

賃金の全部または一部が日給制や時間給制、出来高制などの場合は、計算方法が異なります。

原則的な平均賃金の計算方法による金額と、特別な計算方法による平均賃金の最低保障金額とを比べて、上回るほうの金額を平均賃金とします。

平均賃金の算定すべき事由の発生日以前3カ月間に当該労働者に対して支払われた賃金総額を、その期間の総労働日数で割った金額の60%相当の金額が、平均賃金の最低保障金額です。

平均賃金の最低保障金額は次のように計算します。

平均賃金の最低保障金額 = 算定事由発生日以前の3カ月間の賃金総額 ÷ 総労働日数 × 0.6

総日数(暦日数)でなく総労働日数で割る、という点に注意しましょう。

一部のみ休業させる場合の計算方法

会社都合により、1日の所定労働時間の一部のみを休業させた場合の休業手当の計算方法は、「平均賃金の60%から一部労働の賃金を差し引いた金額」です。

たとえば、平均賃金が8,000円、1日の所定労働時間が8時間の人に5時間の休業をさせた場合、すでに働いた3時間分の賃金は1,000円×3時間=3,000円と計算します。

また、8,000円 × 60%=4,800円なので、4,800円-3,000円=1,800円が休業手当の額となります。

他方、同様のケースで、休業時間が3時間で、5時間は一部労働をしたという場合には、すでに働いた5時間分の賃金は1,000円 × 5時間=5,000円となり、平均賃金の60%の8,000円 × 60%=4,800円を超えているので、別途休業手当を支払う必要がありません。

そもそも休業手当は、労働者の最低生活の保障を目的としており、労働基準法26条に規定されている「平均賃金の60%」が最低基準であると解釈できます。この基準を超える支払いは、労使間の取り決めに委ねられることになるのです。

雇用調整助成金の申請には注意点もある

助成金申請の注意点

雇用調整助成金の申請時には、注意点がいくつかあります。

助成金に関する最新の情報をキャッチアップする

新型コロナウイルス感染症の影響による社会や経済の情勢は日々変化しています。それに伴い、コロナ特例措置の変更や追加など、各種助成金の支給要件もたびたび変更されている状況です。そのため、最新の助成金に関する情報をチェックして理解しておく必要があります。

複雑な制度内容や支給要件、必要書類を理解する

雇用調整助成金の制度内容は複雑です。支給要件や申請するために必要な書類の準備など、自社独自ですべて行うには、相応の知識も必要であり、準備も不可欠です。たとえば、雇用契約書、就業規則、給与明細、タイムカードが申請の内容と整合性が取れない場合には、支給されない可能性もあります。

不正受給に注意する

提出書類に誤った記載をしてしまったりすると、意図せず虚偽記載と見なされることがあります。また、資格のない人物などのアドバイスに従って申請した結果、不正受給と判断されてしまうケースも発生しています。

不正受給と見なされれば、事業所名の公表などの処分が科されるだけでなく、企業の社会的信用を失います。

しかしこういった注意点を踏まえて、企業独自で労働局やハローワークに申請作業を行うのは大変な時間と労力を要するでしょう。時間や労力のロスや不支給、不正受給といったリスクを避けるには、申請業務を専門家である社会保険労務士にアウトソーシングすることをおすすめします。

まとめ

社労士への相談イメージ

雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金)は、企業にとってありがたい制度ではありますが、内容は複雑です。申請以前に労使協定の締結などが必要だったり、書類の準備や作成にも手間や時間がかかったりします。

申請して支給されるまで1カ月程度かかりますが、不備があれば申請し直す必要がある上、必ず支給されるとも限りません。

助成金の申請手続きは、経験豊富な社会保険労務士に依頼することをおすすめします。

監修者からのコメント 休業手当の計算が複雑で助成金の申請を断念されていませんか? Bricks&UKでは、雇用調整助成金の申請実績が豊富な社会保険労務士が皆様をサポートいたします。 ぜひ一度ご相談ください。

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