
従業員の処遇改善などで受給できる「キャリアアップ助成金」の中でも多くの企業が利用する「正社員化コース」。厚労省によると、年間で10万人以上が正社員化されているといいます。
2025年(令和7年)度も制度は継続されていますが、支給対象区分の変更や支給額の引き下げなど、前年度からの変更点もあります。
助成金は、要件を満たせば受給できるものの、不正受給の増加などにより審査も厳格化しています。申請するなら、最新の支給要領をしっかりと理解して、確実な準備を進めていきましょう。

キャリアアップ助成金「正社員化コース」とは
まずはキャリアアップ助成金と正社員化コースについて、制度の基本的な内容を押さえておきましょう。
助成金の目的と対象者

キャリアアップ助成金の目的は、有期雇用の契約社員やパート、アルバイトなど、非正規労働者の社内でのキャリアアップ促進です。
支給の対象は、非正規雇用の労働者を正社員に転換したり、その処遇改善に取り組んだりした事業主です。対象とした従業員や取り組みの内容によって異なる複数のコースがあり、2025年度は6つのコースが設定されています。
この記事で紹介する「正社員化コース」は、文字どおり非正規雇用の労働者を正社員に転換することが必要です。
「正社員化コース」受給の主な要件

正社員化コースの受給には、主に次の3つを行う必要があります。
- ①キャリアアップ計画書を作り、労基署に届け出る
- ②正社員への転換制度を就業規則に規定する
- ③正社員への転換と3%以上の賃金アップを実施する
「正社員化コース」申請の流れ
正社員化コースの申請は、次のように進めます。
- 1)キャリアアップ計画の作成、労働局への提出
(取り組みの前日までに提出) - 2)就業規則等の改定(規定がない場合)
- 3)就業規則等にもとづき正社員化を実施
- 4)正社員化後6カ月分の賃金の支払い
(転換前より3%以上増額) - 5)労働局への支給申請
(6カ月の賃金支払日から2カ月以内) - 6)労働局による審査、支給または不支給の決定
キャリアアップ計画の提出や支給申請は、窓口への書類持参または郵送、電子申請のいずれかを選ぶことができます。
2025年度の正社員化コースの変更点

では、2025年度の正社員化コースについて、2024年度からの変更点を見ていきましょう。
- 「キャリアアップ計画書」の「認定」が不要に
- 「重点支援対象者」の区分設置と支給額の引き下げ
- 新卒1年未満は対象から除外
- 加算措置は5パターンから2パターンに変更
それぞれ説明します。
「キャリアアップ計画書」の「認定」が不要に
これまで、キャリアアップ助成金を申請するには、あらかじめ取り組みのイメージを大まかに記載した「キャリアアップ計画」を作成し、管轄の労働局に提出し、労働局長の認定を受ける必要がありました。
しかし2025年度のキャリアアップ助成金では、計画書の作成・提出は必要なものの、「認定」を受ける必要がなくなりました。
これは正社員化コースに限らず、キャリアアップ助成金の全コース共通の変更点です。
「重点支援対象者」と支給額の引き下げ
正社員化コースの最も大きな変更は、「重点支援対象者」という対象者の区分ができたことと、支給額の引き下げです。
「重点支援対象者」以外の支給額は、2024年度に比べ2分の1となっています。
転換対象 | 企業規模 | 有期→正規 | 無期雇用→正規 |
---|---|---|---|
重点支援対象者 | 中小企業 | 80万円 (40万円×2期) | 40万円 (20万円×2期) |
大企業 | 60万円 (30万円×2期) | 30万円 (15万円×2期) | |
上記以外 | 中小企業 | 40万円 (40万円×1期) | 20万円 (20万円×1期) |
大企業 | 30万円 (30万円×1期) | 15万円 (15万円×1期) |
申請手続きの面でいうと、1期分の額は昨年度と同じです。
しかし重点支援対象者は2期目の申請が可能、それ以外は1期分の申請しかできない形となりました。
「重点支援対象者」とは
「重点支援対象者」に該当するのは、次のA~Cのいずれかに当てはまる人です。
- A)雇い入れから3年以上の有期雇用労働者
- B)雇い入れから3年未満で、次のいずれにも該当する有期雇用労働者
- 1)過去5年間に正社員だった期間が1年以下
- 2)過去1年間に正社員として雇用されていない
- C)「人材開発支援助成金」の特定の訓練修了者、派遣労働者、母子家庭の母等
「C」の対象者は、2024年度は助成金の加算対象となっていました。2025年度は、実質的に加算分が減額された形となっています。
新卒1年未満は対象から除外

従業員が「新規学卒者」の場合は、雇い入れた日から1年を超えていなければ対象となりません。
ここでいう「新規学卒者」は、学校や専門学校、職業訓練校などを新たに卒業しようとする人や、卒業年度の3月31日までに内定をもらった人を指します。
令和7年4月1日付の雇い入れなら、令和8年3月31日までは支給対象外です。
ただし、たとえば3月中に卒業したものの就職先が決まらず、4月2日以降に就職先が決まり、5月に就職したような場合には、支給対象となり得ます。
対象者に新規学卒者を含む場合は、卒業年月日や職歴がないことを確認するための応募書類や、本人署名入りの申立書などが必要となります。
加算措置は2パターンに変更
2024年度は、前述の「重点支援対象者」に当たる人を正社員化した場合に助成金が加算されました。しかし、2025年度は重点支援対象者としてそれ以外の人より手厚い助成となり、加算措置はなくなっています。
そのため、2024年度にあった加算制度5つのうち次の2つだけが、加算額もそのままで継続されています。
加算対象 | 加算額 |
---|---|
1)正社員転換制度を新たに規定した上で、正社員に転換 | 20万円 (大企業15万円) |
2)「勤務地限定正社員」「職務限定正社員」「短時間正社員」のいずれか1つ以上の制度を新たに規定した上で、そのいずれかに転換 | 40万円 (大企業30万円) |

正社員化コースの申請時に注意すべき7つのこと

正社員化コースは多くの企業で活用されていますが、不正受給の増加などから審査は年々厳しくなっています。次の7点には特に注意が必要です。
- 正社員として賞与か退職金、かつ昇給の適用が必須
- 正社員と異なる就業規則での給与支給が6カ月以上必要
- 労働法の遵守が前提
- 就業規則の整備が必須
- 計画変更は変更届が必須
- 支給申請の期限は厳守
- 悪徳業者や不正受給に注意
それぞれ解説します。
賞与か退職金、かつ昇給の適用が必須
正社員化コースでは、転換する「正規雇用労働者」について次の2つが定義付けされています。この2つを満たさなければ、正社員への転換と見なされず、支給も受けられないので注意が必要です。
- 同一の事業所内の正規雇用労働者と同じ就業規則が適用されること
- 転換時点で賞与または退職金の制度、かつ昇給が適用されること
賞与については、決算賞与など業績によって支払う可能性があっても、原則として不支給であれば対象外です。雇用契約書についても、就業規則に沿っているか、賞与・昇給についての記載があるかが審査のポイントとなるので注意してください。
昇給については、客観的な基準にもとづく規定がある場合に限り、賃金据え置きや減額などの可能性があっても対象となり得ます。
賞与または退職金制度を就業規則に規定する際の注意点については、こちらの記事で解説しています。
「正社員と異なる区分の就業規則」での給与支給が6カ月以上必要

正社員への転換前に、「契約社員給与規定」や「パートタイマー賃金規定」など、賃金の額や計算方法が正社員とは異なる規定を設け、それに基づく賃金を6カ月以上支給されていることが必要です。
就業規則が一体となっていても、その中に雇用形態別の規定があれば問題ありません。
しかしたとえば、就業規則に「雇用契約書で個別に定める」などとして、正社員との違いが明記されていない場合は対象外です。また、その6カ月の支払いを終えた後でなければ支給申請できません。
労働法の遵守が前提
正社員化コース、キャリアアップ助成金に限らず、助成金の受給には労働法を遵守していることが大前提です。
違法な長時間労働や残業代の未払い、有休や産休・育休の拒否、解雇予告なしの解雇などがある場合には、その他の要件をすべて満たしていても助成金は受けられません。
雇用契約書の内容や出勤簿、賃金台帳なども審査の対象となるため、日頃から労務管理を適正に行うことが必要です。
就業規則等の整備が必須

正社員化コースには、「就業規則等にもとづいて行うこと」「就業規則等に規定していること」「就業規則等に新たに規定すること」を要件とする取り組みが複数あります。
たとえば、前述の「正社員と異なる区分の就業規則での給与支給」については、実際の賃金が正規・非正規で異なっていても、金額や計算方法の違いが就業規則等に明記されていなければ対象となりません。
そのため、就業規則や労働協約などもあらかじめ整備した上で、必要な項目については、内容はもちろん、変更・追加の時期にも注意する必要があります。
また、就業規則等は「事業所単位(同じ場所の本社や工場、店舗を1つと考える)」でなく「事業場単位(同じ場所でも本社と工場、店舗はそれぞれ別)」で整備している必要もあります。
計画変更には変更届が必須
提出したキャリアアップ計画の内容に変更がある場合には、計画の変更届を労働局に提出しなくてはなりません。変更届は、正社員化の前日までに受理してもらう必要があります。
変更届を出さずに、たとえばキャリアアップ管理者の変更や対象労働者の追加などがあった場合、支給の対象外となる恐れがあります。
2025年度はキャリアアップ計画の認定が不要となりましたが、変更届は変わらず必要です。
支給申請の期限は厳守

キャリアアップ助成金には、コースごとに異なる申請期間が設けられており、期間を過ぎた申請は一切不可なことにも注意が必要です。
正社員化コースでは、非正規から正社員への転換後、正社員として6か月分の給与支給日の翌日から2カ月以内が第1期の支給申請期間です。
たとえば4/1に正社員化し、6カ月分の給与を9/30に締め、10/15に支払ったとします。その場合、支払った翌日の10/16から12/15までの間に申請しなくてはなりません。
重点支援対象者の第2期の申請は、正社員化後12カ月分の給与支給日から2カ月以内に申請する必要があります。
悪徳業者や不正受給に注意

厚労省によれば、キャリアアップ助成金では例年200件ほどの不正受給が発覚しているといいます。
不正受給が発覚すると、故意でなくても事業主名が公表され、助成金の返還のほか、延滞金・違約金を支払わねばなりません。悪質と見なされれば刑事告発の可能性もあります。
たとえば就業規則を要件に合うよう急きょ書き換えたものの、他の助成金申請時に提出した内容と違ったことから不正が発覚、といったケースも。事業主の知らないところで、社員や代理人が資料を改ざんした事例もあります。
また、「必ず受給できる」「申請はカンタン」などといい、要件を満たさないと知りながら申請させ、高額な報酬を得る悪徳業者も存在します。
助成金を申請する際は、信頼できる社労士などの専門家に依頼することをおすすめします。

正社員化コースの申請もBricks&UKにおまかせ

2025年度のキャリアアップ助成金正社員化コースは、支給額が減らされたりしているものの、有用な助成金であることには変わりありません。
ただし、要件を満たすには就業規則の整備や支給要件の把握など、しておくべき準備がたくさんあります。ミスなく申請するには、専門家のサポートが必須と言えるでしょう。
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監修者からのコメント キャリアアップ助成金(正社員化コース)が令和7年4月から変更になりました。
新たに「重点支援対象者」が設けられ、該当する場合は助成額が昨年同様となり、それ以外は減額されています。
ですが、キャリアアップ助成金は、業種を問わず多くの企業で活用されている助成金です。「うちの会社でも申請できるか要件を知りたい」など、些細なご質問でも結構ですので、当社Bricks&UKまでぜひ一度ご相談ください。